再度の執行猶予とは?条文や要件、獲得確率を解説
  • 再度の執行猶予ってなに?
  • 再度の執行猶予が規定されている条文、要件、獲得確率は?
  • 再度の執行猶予を獲得するにはなにをすべき?

この記事では、このような疑問を、刑事事件に強い弁護士が解消していきます。

なお、”執行猶予”についてより知識を深めたい方は、執行猶予とは|実刑との違いと執行猶予がつくための3つの条件を合わせ読むことをお勧めします。

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再度の執行猶予とは?

再度の執行猶予とは、判決時に執行猶予中の方が、判決で再び執行猶予を受けることをいいます

判決時に執行猶予中ということは、前の罪の刑の執行期間中に新たに罪を犯し、その罪でこれから判決を受けようとしているということです。

そのため、社会内更正は困難であるとして、新たな罪については実刑となる(前の罪の執行猶予については取り消される)のが通常ですが、それでもなお社会内更正の機会を設けたのが再度の執行猶予の制度ということになります。

このように、再度の執行猶予は、本来であれば実刑が相当であるものを執行猶予とするものですから、その要件は通常の執行猶予の要件に比べてかなり厳格となっています。

再度の執行猶予の要件は?

再度の執行猶予につき規定されている条文は、刑法第25条2項となります。この条文に、再度の執行猶予の要件が定められています。

刑法第25条(刑の全部の執行猶予)
1.次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる
(略)
2.前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも前項と同様とする。ただし、次条第1項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

上記条文を紐解くと、執行猶予の要件は次のとおりです。

  • ①今回の判決時に執行猶予中であること
  • ②今回の罪の判決で1年以下の懲役又は禁錮の言い渡しを受けること
  • ③情状に特に酌量すべきものがあること
  • ④前の罪の執行猶予で保護観察に付されていなかったこと

①今回の判決時に執行猶予中であること

前述のとおり、再度の執行猶予を受けるには、今回の判決時に執行猶予中であることが必要です。今回の判決時に執行猶予中でない場合は、再度の執行猶予ではなく最初の執行猶予の適用を受けます。

②今回の罪の判決で1年以下の懲役又は禁錮の言い渡しを受けること

まず、そもそも懲役又は禁錮の下限が1年を超える罪(※1)では再度の執行猶予を受けることができません。また、懲役又は禁錮の下限が1年以下の罪(※2)であっても、判決で1年を超える懲役又は禁錮の言い渡しを受けると再度の執行猶予を受けることはできません。

※1殺人罪(死刑又は無期若しくは5年以上の懲役)、強盗罪(5年以上の有期懲役)など
※2窃盗罪(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金) など

③情状に特に酌量すべきものがあること

「情状」は犯罪そのものに関する情状(「犯情」)と犯情以外の「一般情状」にわけられます。

【犯情】
  • 犯行態様(犯行の回数、武器使用の有無、単独か共犯か、故意か過失かなど)
  • 犯行の計画性(偶発的か計画的か)
  • 犯行の動機(私利私欲のためか、被害者にも一定の落ち度があるかなど)
  • 犯行の結果(怪我か死亡か、怪我・被害の程度、被害金額、後遺症の有無など)
    【一般情状】
    • 被告人の年齢、性格
    • 被告人の反省の程度(当初から罪を認めているか、不合理な弁解に終始して罪を否認しているかなど)
    • 被害弁償、示談成立の有無
    • 更生可能性(被告人に更生意欲があるか、適切な監督者・身元引受人がいるか、更生に向けた環境が整っているかなど)
    • 再犯可能性(前科・前歴の有無、執行猶予中かどうか、常習性の有無、犯行の原因は消滅しているか、犯行グループから脱却できているかなど)

    再度の執行猶予の場合は単に被告人に有利な情状が認められるだけでは足りず、「特に」有利と(酌量すべき)と認められる情状が認められなければいけません。

    ④前の罪の執行猶予で保護観察に付されていなかったこと

    前の罪で執行猶予付きの判決を受けた際、あわせて保護観察に付されていた場合は、再度の執行猶予を受けることはできません。なお、再度の執行猶予となった場合は必ず保護観察に付されます。

    再度の執行猶予が得られる率は?

    再度の執行猶予が得られる確率はどの程度なのでしょうか?この点に関する明確な数値がないため、種々の数値から計算してみたいと思います。

    まず、「2020年 検察統計 71罪名別刑の全部の執行猶予の言渡しを受けた者の人員」によると、令和2年中に再度の執行猶予を受けた人の数は「171人」でした(①)。
    次に、「2020年 検察統計 75罪名別刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消された者の人員」によると、令和2年中に(刑法26条1号により)執行猶予を取り消された人の数は「3,261人」でした(②)(※)。

    そして、「①(171人)」の数を「①(171人)+②(3,261人)」の数で割ると「約5%(0,0498)」となります。つまり、令和2年度は、判決時に執行猶予中の人の「約5%」の人しか再度の執行猶予を受けることができていない、ということがわかります。

    実刑判決を受けてから執行猶予が取り消されるまでタイムラグがあることから正確な数値とは言い難いですが、おおよそこの程度の人しか再度の執行猶予を受けることができていないいうのが実務上の実感です。

    ※判決時に執行猶予中の人で再度の執行猶予を受けることができなかった場合、つまり、実刑判決を受けた場合は前の罪の執行猶予は必ず取り消されます(刑法26条1号)。そして、実刑となった罪の服役を終えた後、さらに執行猶予を取り消された罪について服役しなければいけません。

    刑法第26条(刑の全部の執行猶予の必要的取消し)

    次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。(略)。

    一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき

    再度の執行猶予を獲得するためにすべきことは?

    再度の執行猶予を獲得するには、被告人に有利な「情状」をいかに裁判でアピールするかにかかっています。有利な情状を獲得するためにやるべきことは、被告人が罪を犯した動機や経緯、罪の内容や重さなどによって異なります。

    前述のとおり、再度の執行猶予を獲得できる割合が低い中、窃盗罪については他の罪と比べて獲得できる確率は高いといえます(令和2年度は171人中103人が窃盗罪で再度の執行猶予を獲得した人でした)。

    窃盗罪に限っていうと、被害者に対する被害弁償や被害者との示談はもちろん、早い段階から窃盗症を専門とする治療機関に継続して通院する、被告人と離れて暮らしているのであれば家族と同居させて家族などが被告人を指導・監督するなどして更生可能性があること、再犯可能性がないこと、刑務所よりも社会内更生の方が今後の被告人にとって有益であることをアピールしていくことが求められます。

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