
離婚は、通常、夫婦の双方が離婚届に記入し、それを市区町村の窓口に出すことによって成立します。
しかし、ときに夫婦の一方が勝手に離婚届に記入したり、あるいは過去に双方で離婚届に記入したものの一定期間が経って出す、というケースも少なからずあります。
そうした場合、離婚届は受理され、離婚は成立するのでしょうか?
この記事では、上記のようなケースで
- 離婚届は受理されるのか?離婚は成立するのか?
- 離婚が成立した場合の離婚を無効にする方法
- 離婚が成立した場合、離婚が無効となった場合の戸籍
- 離婚届が受理されないための対処法
などについて弁護士が詳しく解説します。
ぜひ最後までご一読いただき、離婚届を勝手に出されそうだ、出されたという場合の参考にしていただけると幸いです。
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Contents
1.配偶者(夫又は妻)に離婚届を勝手に出されてしまうパターン
「配偶者に離婚届を勝手に出されることなんてあるの?」などと疑問を抱かれるかもしれませんが、現実にはあり得ることです。
離婚届を勝手に出されてしまうパターンとしては以下の2通りが考えられます。
⑴ 離婚届に署名・押印されて離婚届を出されてしまう
まず、配偶者(たとえば、夫・山本太郎さん)が離婚届の「届出人・署名押印」欄に、他方配偶者(たとえば、妻・山本花子さん)の名前を書き、名前の横に印鑑を押印します。
そして、配偶者にその離婚届を市区町村役場の窓口に出されてしまうというパターンです。
とにかく、配偶者に限らず、本人(山本花子さん)以外の人が本人の「届出人・署名押印」欄に記入しることは事実上可能といえるでしょう。
⑵ 自ら署名・押印したものの離婚届を出されてしまう
次に、他方配偶者(山本花子さん)が離婚届の「届出人・署名押印」欄に自ら署名・押印したものの、配偶者に離婚届を市区町村役場の窓口に出されてしまうというパターンです。
一見すると何も問題ないように見えますが、人によっては、
- 配偶者に浮気された。今度浮気したら離婚するという意思表示を示すためにも、(離婚する意思はないけれども)離婚届に署名・押印する。
- 署名・押印した時点では離婚する意思があったものの、気持ちが変わって今は離婚する意思がなくなった。
などという場合もあるでしょう。
しかし、そんなとき、そのままにしておいた離婚届を配偶者(山本太郎さん)に勝手に出されてしまうのです。
2.離婚届を勝手に出されても受理される?協議離婚は成立する?
では、市区町村役場の窓口に離婚届を勝手に出されたとして離婚届は受理されるのでしょうか?また、受理されたとして協議離婚は成立してしまうのでしょうか?
この点、窓口の係員がチェックするのは、民法、戸籍法などの法律で定められた事項について不備なく離婚届に記入されているかどうかという点のみで、誰によって記入されたのか、本人の意思で印鑑が押印されたのかどうかという点(内容の真実性)はチェックしません(というかチェックのしようありません)。
そこで、離婚届を勝手に出されたとしても、不備なく離婚届に記入されていれば離婚届は受理されてしまいます。
また、協議離婚する場合、離婚の成立要件は、
- ①離婚の届出(離婚届の提出)(形式的要件)
- ②離婚意思の合致(実質的要件)
の2つが必要であるところ、窓口の係員は①についてはチェックすることができますが、②についてはチェックすることができません。
したがって、離婚届を勝手に出されたとしても、夫婦間に離婚する意思があるかどうかに関わりなく離婚届は受理されてしまうのです。
そして、協議離婚の場合、必要書類とともに離婚届を出され受理されてしまうと、その時点で離婚が成立してしまいます。
3.勝手に出された離婚届を無効にする方法
以上、夫婦間に離婚する意思がなくても協議離婚が成立してしまう可能性があるわけですが、他方配偶者に離婚する意思がない以上、離婚を成立させるわけにはいきません。
そこで、離婚する意思がない場合の協議離婚は無効と解されています。
もっとも、離婚する意思がないからといって自動的に協議離婚が無効になるわけではありません。
協議離婚を無効とするには次の方法を取る必要があります。
⑴ 調停
まず一つ目の方法として、相手方の住所地又は離婚当事者が合意する家庭裁判所に対して「協議離婚無効確認調停」の申立てを行う方法です。
申立てができるのは協議離婚した当事者はもちろん、協議離婚をした当事者の親族(子供など)あるいは離婚を無効とすることにつき確認の利益を有する人です。
申立てを行うには家庭裁判所に対して「協議離婚無効確認調停の申立書」とともに、基本的には、申立人の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)、相手方の戸籍全部事項証明書、離婚届の記載事項証明書(離婚届の写し)を提出する必要があります(離婚当事者が申立てを行う場合)。
また、申立てには1200円分の収入印紙(申立書に添付)と連絡用の郵便切手(いくら分が必要となるかは申立てをする家庭裁判所に尋ねるのがよいでしょう)が必要です。
調停期日では、調停委員が離婚当事者の双方から意見を聴いたり(お互い顔を合わせないよう配慮がなされます)、必要な書類を提出させるなどして無効の合意に向けた必要なアドバイスを行います。
そして、当事者双方が協議離婚は無効である旨の合意をし、原因となった事実に争いがない場合には、家庭裁判所が調停委員から意見を聴いた上で、協議離婚は無効である旨の審判をします。
他方で、当事者の一方が調停期日に出席しない、出席したとしても協議離婚の無効に合意しないなどという場合は、調停は不成立となり調停での手続は終了ということになります。
なお、離婚当事者の一方があなた以外の別の第三者と婚姻しており、その婚姻を解消したい場合は協議離婚無効確認調停のほかに、離婚当事者の一方と第三者を相手方とした婚姻取消しの調停を申し立てることも必要となります。
⑵ 裁判
調停が不成立に終わったものの、それでも協議離婚の無効を主張したい場合は管轄する家庭裁判所に対して「協議離婚無効確認訴訟」を提起します(なお、調停前置主義から、まずは調停を申立て、それが不成立となった場合にはじめて裁判を提起することができます)。
訴訟を提起するには必要書類、収入印紙を添付して訴状を提出します。
その後、裁判では、「離婚届への署名・押印が本人の意思によるものかどうか」、「離婚届提出時に離婚する意思があったかなかったか」が争点となります。
そこで、裁判ではそうした事実を裏付ける証拠を提出する必要があります。
そして、裁判で離婚届への署名・押印が本人の意思によるものではない(偽造されたものだ)、あるいは離婚届提出時に離婚する意思はなかった、と認められれば協議離婚無効の判決が出されます。
4.離婚届を勝手に出された場合の戸籍はどうなる?
⑴ 離婚届を勝手に出された場合の戸籍はどうなる?
離婚届を勝手に出され受理された場合、戸籍は離婚届に記入された内容とおりに書き換えられてしまいます。
たとえば、夫が勝手に離婚届を出したという場合、妻は夫の戸籍から外され(除籍され)ます(ただし、妻の名前等は残ります)。
そして、妻が旧姓に戻ること、もとの戸籍(親の戸籍)に戻ることを希望する場合は、もとの戸籍に復籍します。
他方、もとの戸籍が閉鎖されている、妻が別の戸籍を作る、婚姻中の姓のままでいることを希望する場合は、妻を筆頭者とする新しい戸籍を作る必要があります。
⑵ 無効後の戸籍はどうなる?
調停や裁判で離婚が無効とされた場合は、戸籍の訂正を申請しなければなりません。
申請は調停審判確定、裁判確定後1か月以内です。
申請先は夫婦の本籍地又は申立人の住所地の市区町村役場(戸籍係)です。
申請をするには、調停の場合、審判書謄本と確定証明書が、裁判の場合、判決書謄本と確定証明書が必要となります。
それぞれ調停の場合は家庭裁判所から、裁判の場合は地方裁判所から取り寄せます。
5.離婚届を勝手に出されたくないなら不受理申出制度の活用を
不受理申出制度とは、離婚する意思がないにもかかわらず、相手方から勝手に離婚届を市区町村の窓口に出されるおそれがある場合に、あらかじめ市区町村の窓口に離婚届を受理しないよう申し出る制度です。
相手方が勝手に離婚届を提出する前にこの申し出をしておけば離婚届は受理されません。
なお、この申し出の効力は申し出をした方が取り下げるまで継続します。
そこで、合意の下、実際に離婚届を出すことになった場合は、申し出を取り下げてから離婚届を出すことになります。
6.離婚届に勝手に記入すること、勝手に出すことは犯罪
なお、離婚届の相手方の署名・押印欄に勝手に名前を記入することは「私文書偽造罪(刑法159条1項=3月以上5年以下の懲役)」、偽造した離婚届を市区町村の窓口に出すことは「偽造私文書行使罪(刑法161条1項=3月以上5年以下の懲役)」にあたります。
また、離婚届を勝手に出して、公務員をして戸籍に嘘の内容を記載、記録させた場合は「電磁的公正証書原本不実記録罪(刑法157条1項=5年以下の懲役又は50万円以下の罰金)」にあたる可能性があります。
7.まとめ
離婚届を勝手に出された場合でも離婚が成立してしまう可能性があります。
事前にできることとしては市区町村の窓口に離婚届不受理の申出をしておくことです。事後にできることは調停や裁判です。
そして、調停や裁判で離婚が無効となった場合は戸籍を訂正する手続も行わなければなりません。
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