離婚調停とは親権をはじめとする離婚に関する様々なこと(財産分与、慰謝料、養育費、面会交流など)を決めるための裁判手続の一種です。この記事をご覧の方の中には、今まさに「離婚調停をしたい」とお考えの方も多いのではないでしょうか?
この記事では、「親権」の話に絞り、
- 離婚調停で親権を決める際に考慮される7つのポイント
- 離婚調停で親権を獲得するための3つのポイント
- 父親、母親の親権を巡る判例
- 離婚調停の流れ
などについて離婚の弁護士が詳しく解説してまいります。
ぜひ最後までご一読いただき、離婚調停で親権を獲得する際の参考としていただければ幸いです。
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目次
離婚調停で親権を決める際に考慮される7つのポイント
離婚調停で親権を決める際に重要視されるポイントは、父親・母親のいずれに親権を認めることが子どもの幸せのためか、つまり、「子どもの利益(子どもが精神的にも、肉体的にも健全に成長していけること)」のためか、ということです。
そして、その判断のために、離婚調停では主に以下の7つのポイントが考慮されます。
母親優先の原則
母親優先の原則とは、乳幼児については、特段の事情がない限り、母親の監護養育に委ねることが子の利益に合致するとの考え方です。
乳幼児については、どうしても父親よりも母親の方が監護・養育に関わる機会が多く、子どもにとって不可欠の存在といえます。
したがって、乳幼児については母親に親権を持たせた方がよいと考えられるのです。
また、乳幼児に限らず、子どもの年齢が低ければ低いほど、一般的には、子どもと母親との結びつきが強い傾向にありますので、やはり、母親に親権が認められる可能性が高くなります。
子どもに対する「母性」(愛情)の大きさ
もっとも、上記の考え方はひと昔前の考え方です。
今では母親と同様、積極的に子どもの監護・養育に関わる父親も増えてきており、「母親」というより「母性」的な役割を果たしている父親、あるいは母親に親権を持たせる傾向が強いです。
母性とは言い換えれば「愛情」のことです。そして、愛情の大きさは、単に父親・母親の「気持ち」ではなく、目に見えるような形でどれだけ子どもの監護・養育に尽くしてきたか、という点から判断されます。
- 子どもの食事、弁当を作ってきたのは(父親・母親の)どちらか
- 子どもと一緒に食事を摂っていた(子どもに食事を食べさせていた)のはどちらか
- 子どもの健康管理(病院へ連れていく、健康診断を受診させるなど)をしていたのはどちらか
- 子どもとお風呂に入っていたのはどちらか
- 子どもと一緒に寝ていた(子どもの寝貸付をしていた)のはどちらか
- 保育園、幼稚園、学校の行事に参加していたのはどちらか
- 保育園、幼稚園、学校まで送り迎えをしていたのはどちらか
監護、養育の継続性
監護、養育の継続性とは、離婚までに監護、養育を中心に行ってきた父親、あるいは母親の方が、将来も子どもの監護、養育を継続して行っていける見込みが高く、子の利益に合致するとの考え方です。
これは、離婚をきっかけとして子どもの生活環境を変えることは子どもの利益のためになりませんから、離婚までの生活環境を離婚後もそのまま維持させた方がよいという考え方に基づいています。
したがって、離婚時、すでに別居しており、子どもと一緒に暮らしている方は、離婚後の親権も獲得しやすいといえるでしょう。
子どもの意思
子どもが10歳以上の場合は、子どもが父親・母親のいずれの監護・養育に服したいのかという子どもの意思も、親権を決める際に考慮されることがあります。
また、子どもが15歳以上の場合は、家庭裁判所が子どもの意見を聴くことが法律上の義務となっています。
基本的には子どもの年齢が高くなればなるほど、子どもの意見が尊重される傾向にあります。
もっとも、子どもの意見を聴くことが義務となるのは、あくまで調停以後の手続き(調停・審判、訴訟)です。
したがって、協議離婚の段階では、子どもの意見を聴くことは法律上の義務ではありません。
父親と母親の経済力
子どもを監護・養育していくためにはそれなりの経済力が必要ですから、経済力も親権を決めるにあたっての考慮事情になりえます。
もっとも、たとえば、父親のみが働いていて経済力があり、母親に経済力がない、という場合でも、離婚後、基本的に、母親は父親から養育費の支払いを受けることができます。
また、上記の場合でも、たとえば父親が単身赴任や海外出張などで、日頃から子どもの監護・養育にあたっていないという場合は、前述のとおり、父親が親権を獲得することは難しくなるでしょう。
その意味では、経済力も親権を決める上での一つの考慮事情に過ぎません。
父親と母親の心身の健康状態
父親と母親の心身の健康状態が悪ければ、子どもを適切に監護・養育していくことが期待できません。
したがって、父親と母親の心身の健康状態も親権を決めるにあたっての考慮事情になりえます。
考慮されるのは「心身」ですから、精神的にも肉体的にも健全でなければなりません。
過去に病気や怪我などで入通院歴がある場合は今後の再発可能性、離婚時も病気や怪我などが完治していない場合は、現在の症状や今後の治療状況、完治の見込みなども考慮されることになるでしょう。
面会交流に対する寛容性
面会交流とは、子どもと同居していない父親、あるいは母親が子どもと面会するなどして交流を図ることです。
したがって、面会交流に対する寛容性とは、子どもと同居している父親、あるいは母親が相手の面会交流に対して寛容な姿勢を見せることをいいます。
過去には、父親が子どもと一緒に暮らしていなかったにもかかわらず、母親の面会交流に対して寛容な姿勢を見せていた(母親の「月1回の面会交流を認める」という条件に対して、父親は「年間100回程度の面会交流」を認め、「仮に、約束を果たせなかった場合は親権者を妻に変更してもよい」という条件を提示していました)ため、父親に親権を認めた判例(平成28年3月29日付け千葉家庭裁判所松戸支部)があります。
この判例が出した結論は、 以下の「平成29年7月11日 最高裁判所」の決定で結論が覆ります(母親に親権を認めることになった)が、少なくとも、裁判所が上記の判断を示したことで面会交流に対する寛容性も一つの考慮事情となり得ると考えてよさそうです。
離婚調停で親権を獲得するための3つのポイント
離婚調停で親権を獲得するためのポイントは
- 家庭裁判所調査官に悪い印象を与えない
- 家事調停委員に悪い印象を与えない
- 日頃の監護・養育状況を日記などに記載しておく
という3点です。
家庭裁判所調査官に悪い印象を与えない
家庭裁判所(調停委員会)は、離婚調停において、家庭裁判所調査官(以下、調査官といいます。)を選任することができます。
家庭裁判所が調査官を選任する理由は、「離婚調停で親権を決める際に考慮される7つのポイント」でご紹介した考慮事情の有無の調査(事実の調査)をするためです。
調査官は父親、母親、子どもなどに対する聴き取りなど必要な調査を行い、その結果を家庭裁判所に対して報告します。
また、調査官はこの報告に対して父親、母親いずれに親権を認めるべきかの意見を付すことができます。
家庭裁判所は調査官の意見も考慮して最終的な結論を当事者に提示します。したがって、調査官に与える印象が親権を獲得できるか否かに大きく影響する、というわけです。
調査官に対して悪い印象を与えないためにも、身なり・言葉遣いに気を付ける、調査官との約束事を守る、調査官に対して嘘をつかない、調査官が自宅を訪問する際は部屋を綺麗にしておくなど、できる限りの対策はとっておくべきでしょう。
家事調停委員に悪い印象を与えない
家事調停委員(以下、調停委員といいます。)とは調停委員会のメンバーで、離婚当事者である父親、母親から話を聴くなどして離婚調停の手続きを進めていく人です。
調停委員はどちらの言い分が正しいのか判断する人、どちらか一方の味方をする人ではありません。
あくまで中立的な立場に立って離婚当事者の利害関係をうまく調整しながら、合意形成できるよう手続きを進めていきます。
もっとも、調停委員は離婚調停の手続きで抱いた印象などをベースに、最終的には自分の意見を調停委員会で提示します。
そして、その意見が家庭裁判所の下す結論に反映されることもあります。
したがって、前述の調査官と同様に、離婚調停の手続きを通じて、調停委員に対しても悪い印象を持たれないよう細心の注意を払う必要があります。
なお、調停委員は裁判官ではありません。
調停委員(通常、男女1名ずつの計2名)は、原則として人格識見の高い40歳以上70歳未満の人で、離婚を巡る紛争の解決に有用な専門的知識経験を有する人(弁護士、大学の教員など)又は社会生活の上で豊富な知識経験を有する人(学校の校長、地域の民生委員など)として、最高裁判所が認めた人の中から選ばれることになっています。
日頃の監護・養育状況を日記などに記載しておく
前述の「離婚調停で親権を決める際に考慮される7つのポイント」でも解説しましたように、離婚調停では、父親、あるいは母親が日頃から子どもに対してどんな監護・養育を行ってきたかということが、親権を決める際の考慮事情とされます。
もっとも、離婚調停において調査官や調停委員に「私は日頃からこれだけ子どもの監護・養育を行ってきた」と主張(アピール)しても、それを裏付ける証拠がなければ説得力に欠けるでしょう。
そこで、上記の主張をより説得力のあるものとするために、日頃の監護・養育状況を日記などに記載しておきましょう。
実際に、調査官の調査を受けた際や調停委員との面談の際は、その日記を調査官や調停員に示すのです。日記などには、いつ、どこで、どの子どもに、どんなことをしたのか、可能な限り具体的に記載しておきましょう。
父親、母親の親権を巡る判例
以下では、親権を巡って争われた判例をご紹介します。裁判所がどの点に着目して親権を認めたのか、あるいは認めなかったのかに注目していただければと思います。
平成29年7月11日 最高裁判所
前述の「面会交流に対する寛容性」でご紹介した裁判所の判断に対して母親が控訴したところ、控訴審(東京高等裁判所)では母親に親権を認めたため、父親が上告したというものです。
これに対して、最高裁判所は父親の上告を受理せず、母親に親権を認めた控訴審の判断が維持されました。
なお、控訴審では、
- これまで母親が子供の監護者であったこと(子どもと一緒に暮らしていたこと)
- 母親と父親との間で監護能力に差がないこと
- 子どもが母親との生活を希望していること
などの事情を踏まえた上で、「現在の監護養育環境を変更しなければならないような必要性があるとの事情は見当たらない」としています。
また、父親が示した面会交流に対する寛容性については「面会交流だけで健全な育成や子どもの利益が確保されるわけではない」としています。
平成27年1月30日 福岡高等裁判所
これは母親から父親へ親権者の変更が命じられた判例です。
家族構成は父親、母親、子ども2人(5歳、4歳)で、離婚の際、親権者は母親と指定されていました。
もっとも、離婚後、子ども達は母親ではなく、父親に監護・養育されていた(また、母親は子どもの幼稚園の行事参加にも消極的で、保育料の支払いも行っていなかった)ため、父親が親権者変更の申し立てをしたのでした。
裁判所は、
- 婚姻中から、父親が子どもの入浴や寝貸付けを担当していたこと
- 夫婦間で母親を親権者とした経緯(父親は、母親が住居や就職が決め生活を安定させるという条件で親権を母親に譲っただけで、もともと母親に監護能力が備わっていることを認めた上で親権を譲ったわけではなかった)
- 婚姻期間中、母親が不貞行為を行っていたこと
などの事実を認定し、母親の監護意思・資格に問題があるとして、父親に親権を認めています。
離婚調停の流れ
離婚調停の大まかな流れは以下のとおりです。
- 家庭裁判所に対して離婚調停の申し立てを行う
- 家庭裁判所から呼出状(離婚調停期日等が記載されたもの)が送達
- 離婚調停(期日)(1回、2回、3回、、、)へ出席
- 離婚調停成立OR不成立
①家庭裁判所に対して離婚調停の申し立てを行う
離婚調停するには、家庭裁判所に対して離婚調停の申し立てを行う必要があります。
具体的には「夫婦関係等調整調停申立書(ここからダウンロードできます)」を家庭裁判所に提出します。申し立て時に必要なものは以下のとおりです。
- 申立書及びその写し
- 1200円分の収入印紙(申立書に貼付します)
- 連絡用の郵便切手(切手の種類、枚数は事前に申し立て先の家庭裁判所へ問い合わせて確認しておきましょう)
- 夫婦の戸籍謄本(全部事項証明書)
※個別の状況により、他にも必要とされる書類がある場合がありますので、事前に申し立て先の家庭裁判所へ問い合わせて確認しておきましょう。
②家庭裁判所から呼出状が送達、③離婚調停(期日)へ出席
申し立てから2週間前後で、家庭裁判所から離婚調停期日等を記載した呼出状が送達されてきますから、指定された期日に出席します。
調停期日では、別々の部屋で調停委員から親権などに関する希望、主張などを聴きます。
一方当事者の希望、主張は他方当事者にも伝えられ、調停委員のアドバイスも受けながら合意形成を図っていきます。
また、調停期日前、あるいは調停期日と並行して調査官による調査も行われます。
離婚調停の回数は3回~4回、期間にして約6箇月が平均です。
もっとも、これはあくまで目安であって個別事案により少なく(短く)なることもあれば、多く(長く)なることもあり得ます。
④調停成立 or 不成立
離婚調停を経て親権等につき合意に達することができれば調停成立です。
調停が成立した場合、調停調書という書類が作成されます。
離婚当事者は家庭裁判所から「調停調書謄本」という書類を取り寄せ、これをもって離婚届などの手続きを行います(離婚届に子どもの親権者に関する記載がないと、市区町村役場は離婚届を受理してくれません)。
また、調停調書には判決書と同様の効力(債務名義)が付与されます。
他方で、調停不成立の場合、家庭裁判所は、それまで把握した事情などを踏まえて離婚当事者の一方に親権を認めるなどの審判を下すことができます。
この審判のことを「調停に代わる審判」といいます。
もっとも、離婚当事者はこの審判に対して異議を申し立てることができます。
家庭裁判所の出した結論に納得がいかないからこそ調停不成立となったのですから、たとえ審判したとしても離婚当事者から異議を申し立てられる可能性が高く、調停に代わる審判がなされることは稀です。
したがって、調整不成立となった場合、可能であれば、再度、協議をするか、あるいは離婚訴訟を提起するかの選択をすることになります。
親権に関してよくある疑問と答え
ここでは親権に関してよくある疑問についてお答えしてまいります。
親権を持つのは母親の方が有利?
実際のところ、母親の方が親権を獲得できることが多いです。
もっとも、これは単に「母親であること」が理由ではなく、一般的に、母親の方が父親より子どもと接する機会が多く、母親に親権を持たせた方が子の利益にとってよいと考えられるからに過ぎません。
したがって、父親の方が母親よりも子どもと接する機会が多いのであれば、父親が親権を獲得できる可能性は十分にあり得ます。
経済力がないと親権を持てない?
そんなことはありません。
前述のとおり、現時点で経済力がなくても養育費等で賄っていけるのであれば親権を獲得できる可能性は十分あります。
また、就職、転職を機に経済力は変動するものです。
たとえ、現時点で経済力がなくても、就職、転職に向けた活動をしており、その進捗状況(たとえば、内定を得ており就職、転職できる可能性が高い)などによっては親権を獲得できる可能性は十分あるといえるでしょう。
離婚原因があると親権を持てない?
不貞行為等によって離婚原因を作った場合でも親権は獲得できる可能性はあります。
親権を獲得できるかどうかは、子の利益のためになるかどうかという観点から判断されますから、離婚原因と親権は切り離して考えてよいでしょう。
もっとも、離婚原因が子の利益に悪影響を与えている場合、離婚原因によって監護能力がないと判断される場合などは親権を獲得できないこともあり得ます。
親権を持てない場合は、面会交流を求める
親権を持てない場合は、面会交流を求めましょう。
面会交流は子どもの親権を持てない、子どもと同居できない親の権利です。
親権を持てないからといって、子どもと全く会えないわけではありません。
したがって、交渉のやり方として、面会交流を認めてもらう代わりに相手に親権を譲るという方法もありますし、反対に、面会交流を認める代わりに親権を譲ってもらうという方法もあるでしょう。
面会交流については、そのやり方などを具体的に決めておくことが必要ですし、状況に応じて適宜、そのやり方を変更していくことも必要です。
まとめ
離婚調停で親権を決める際は、前述した様々な事情が考慮されます。
離婚を決断し、親権を巡って相手ともめそうだ、という場合は、日頃の監護養育について記録しておくと、のちのち離婚調停などで証拠として使えます。
離婚調停では裁判所や調停委員の指示に従って手続きを進めていきますが、裁判所や調停委員はあくまで中立的な立場でしかありません。
親権を持つために、離婚調停で有利な主張をして欲しいという場合は離婚に詳しい弁護士に弁護活動を依頼することも検討しましょう。
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