離婚の際に子どもに関する「養育費」について夫婦間で話し合いがまとまらない場合、裁判所の「調停」手続というものを利用できることをご存じの方もいらっしゃると思います。
この記事では、
- 養育費について利用できる「調停」とはどのような手続きなのか
- 調停手続きを有利に進めるためにはどのようなことに気を付けるべきか
という疑問点に、養育費問題に強い弁護士が答えていきますので、是非最後まで読んでください。
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養育費調停とはどのような手続か
養育費調停とは?
養育費調停とは、養育費について両親間で話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所に調停を申し立て、話し合いの中で両親間の合意を目指す手続きのことをいいます。
「調停」とは当事者の話し合いで納得いく合意の実現を目指す手続きですので「訴訟」などの裁判手続のように裁判所に勝ち負けを判断してもらうものではありません。
調停手続は「裁判官1名」と、その分野について専門的な知見のある人の中から選ばれた「調停委員2人」以上で構成される調停委員会が両親双方の言い分を聞き、専門的な立場からのアドバイスやあっせんを行います。
調停手続の中で夫婦の間で合意が成立すると、合意した内容が書面にされ手続きは終了します。この成立した合意が「調停調書」に記載された場合、この記載は「確定した判決と同一の効力」が認められます。この効力については以下の「養育費調停のメリット」のところで詳しく説明しましょう。
養育費調停が不成立になるとどうなる?
仮に調停が不成立になった場合には自動的に「審判手続き」が開始されます。審判手続についても簡単に説明しておくと、これは裁判官が、夫婦両方から提出された証拠や家庭裁判所調査官と言われる人が行った調査の結果などの資料に基づいて判断を決定するものです。審判手続で解決がみられなかった場合には裁判手続である「訴訟」に移行することになります。
養育費調停ではどんなことが決まる?
養育費調停では、父母間で話し合いがまとまらなかった場合に、子どもを監護している親権者の側から他方の親に対して、養育費の支払いを求めて家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
この養育費支払い請求調停では以下のような事項について話し合われることになります。
- そもそも養育費を支払う義務があるのか
- 養育費支払い義務がある場合、支払うべき養育費の金額はいくらか
- 一括支払い、月額支払いなど、どのような形で養育費を支払うのか
- 子どもが何歳になるまで養育費を支払うことにするのか など
原則として、離婚し別居して生活する親についても子どもの扶養義務が存続するため養育費支払義務があります。通常養育費は毎月子どもの成長や健康のために必要となる経費を支払うためのものですので、月額払いで決められることが多いでしょう。
また養育費支払いの期限についても、「子どもが高校(大学)を卒業するまで」や「20歳になるまで」など、経済的に自立できるまでの支払いとして決定されることが一般的です。
養育費調停で聞かれることは?
親権者が希望する養育費の金額
親権者が希望する養育費の金額について、なぜその金額の養育費が必要となるのか、どのような費目について支払いを希望しているのかについて根拠を示して説明することが求められます。
親権者や非監護親の現在の収入
双方の現在の収入状況を聞かれたり、収入がわかる給与明細や源泉徴収票などの提出を求められる場合があります。現在の収入が一時的に高いまたは低いため、養育費の金額を決める資料として適切ではないと主張する場合には、その根拠を示して説明することが必要です。
親権者や非監護親の現在の生活状況
父母双方の健康状態・生活状態、今後の収入状況についても養育費を決める際に確認が必要なため、調停で聞かれることになります。
例えば、子どもを私立の学校に進学させることを目指して早くから学習塾に通わせたいというような場合には、一般的な養育費算定表で算出される金額よりも高くなる可能性があります。
そのような希望が、現在の親権者の生活状況・資産状況から現実的、合理的なものかどうかという点も話し合いで検討する必要があるでしょう。
養育費の金額を左右する事情は?
当事者の合意ができれば、その内容で養育費については自由に決定することができます。しかし、話し合いが暗礁に乗り上げている場合には、調停委員が以下のような事情を聞き取って、適切な金額・方法で合意ができるように誘導、あっせんしてくれることになります。
- 親権者の収入
- 非監護親の収入
- 子どもの人数・年齢 など
親権者の収入が高いほど、算定される養育費の金額は低く、非監護親の収入が高いほど養育費の金額は高くなる傾向があります。
また子どもの人数が多いほど、年齢が上がるほど養育費の金額は高くなる傾向があります。
養育費調停のメリット・デメリット
養育費調停のメリットとは
調停手続のメリットとして以下のようなものが挙げられます。
相手方と直接テーブルを挟んで話し合う必要はない
夫婦間の家事調停についてはできる限り両当事者が顔を合わさないように配慮されています。調停手続では原則として両当事者は同席ではなく別々に調停委員が話を聞きます。具体的には片方の当事者から言い分や主張を聞くと一旦控室で待機を促されます。その間他方の当事者と交代して次はその者から言い分や主張を聞く、というように進められます。
第三者の客観的な視点を導入して話し合いができる
調停では、裁判官や調停委員が当事者の間にたって助言・あっせんを行います。したがって、当事者同士では互いの言い分や感情をぶつけ合うことに終始していた話し合いも専門的な仲裁が入ることでスムーズに進む可能性が高いのです。
約束違反には履行催告・履行命令を申し立てられる
調停で確定された義務を相手方が守らない場合には、「履行勧告」「履行命令」の手続きを利用することができます。この制度は、義務を履行しない債務者に対して裁判所から相手方に対して義務を履行するよう履行勧告・履行命令を発するように申し立てるものです。
ただこの履行勧告・履行命令はあくまで裁判所から債務者に対する勧告・命令のみにとどまります。相手方が断固として支払わない姿勢を崩さない場合に義務の履行を強制することはできません。この場合には「強制執行」手続きにより強制的に支払いを実現させることになります。
「確定判決と同一の効力」がある調停調書が作成される
「調停調書」は確定判決と同一の効力が認められています(民事訴訟法第267条、民事調停法16条)。そして債務者に強制的に給付義務を履行させる(強制執行)手続きを行うには、前提として公的機関が権利の存在・範囲を証明している文書(債務名義)が必要となります。
調停調書は「確定判決と同一の効力」が認められていることで「債務名義」となります(民事執行法第22条1号)。したがって、調停調書に違反して養育費の支払いが行われなかった場合には、債務者の財産から強制的に支払いを実現することができるのです。「調停調書」はこのようにかなり強い効力を持った特別な文書だということがお分かりいただけると思います。
養育費調停のデメリットとは
それでは調停手続きのデメリットはどのようなものがあるでしょうか。具体的に考えられるデメリットは以下に挙げるようなものです。
調停手続きに時間がかかる
調停で合意が成立するには時間がかかります。調停手続は基本的に1カ月に1回の頻度でしか開かれません。数回の期日で話がまとまらない場合は何か月も調停手続を経る必要があります。
当事者それぞれに言い分がある場合には、半年から1年ほどかかることも十分にあります。申し立て手続きから初回の期日まで一定時間がかかるのでどんなに早くても3か月ほどは覚悟しておくべきでしょう。
仕事を休む必要がある
裁判所で行われる調停手続は裁判所の稼働時間に行われるため、平日の日中に指定されることになります。具体的には午前中は10時以降、午後は13時~16時頃で指定される場合が多いのではないでしょうか。
会社勤めをしている方は有給休暇や半休を取る必要がある場合がほとんどだと思います。なかなか自由に休暇を取りにくい職場で働いている方は休暇申請にも精神的なストレスを感じるかもしれません。
休暇申請の理由についてはプライバシーの問題もあるため「私用の為。」と記載すれば十分足りますが、詳細な説明を求める前近代的な会社も未だに多いことも問題です。会社の同僚の目が気になるという方も中にはいらっしゃるかもしれません。
そのような精神的なストレスが伴うという点は調停手続きに関連するデメリットであると考えることができるでしょう。
手続きには費用がかかる
手続きを利用する以上当然ですが、手続費用がかかります。子どもの人数などによって手続費用は変わってきます。この点もデメリットと考えられますが、養育費調停手続を申し立てるための費用は他の手続と比較しても数千円程度ですのでそこまで負担は大きくないでしょう。
相手が欠席すると調停手続としては進められない
調停を正当な理由なく欠席すると5万円以下の過料を科されるリスクがありますが、実務上この刑事罰が科されるケースは稀でしょう。相手方が呼び出しを受けているのに出席せず手続きに参加しない場合、話し合いは困難ですので養育費調停は「不調」となることがほとんどです。このような場合には話し合いによる解決を目指す調停手続では解決が図れませんので協議離婚や裁判離婚といった別の手続きを利用する必要があります。
裁判で無断で欠席すると相手方の主張を認めたと扱われる結果、欠席者に不利益が生じることになりますが、調停の場合にはこのような取扱いはありません。したがって相手方が無断欠席する場合には、調停手続を活用することができなくなるのです。
養育費調停の手続の流れや申立費用について
養育費調停手続の流れ
①家庭裁判所に「養育費調停」を申し立てる
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者が合意した家庭裁判所にに養育費調停の「申立書」を提出します。
②調停期日が決定され呼出状が送付される
家裁が調停の期日を決め双方の当事者に呼出状を送付します。
③初回の期日に出頭する
裁判官と調停委員が双方の言い分・主張を聞きながら話し合いを行います。
④第2回以降期日が重ねられる
1カ月に1回のペースで期日が重ねられお互いに譲れない点譲歩できる点が整理され合意できる着地点を探ることになります。
⑤調停手続が終了する
調停成立・調停不成立・取り下げによって調停手続は終了します。
養育費調停の申立にかかる費用はいくらか
①収入印紙:1200円
養育費調停を申し立てるには子ども1人について1200円分の収入印紙が必要となります。
②郵便切手:1000円弱
裁判所からの呼出状や書面送付に利用されるための郵便切手が必要です。具体的な金額は家庭裁判所によって異なっていますので確認する必要があります。
③その他書類の収集費用:1000円弱
戸籍謄本などの必要書類を役所で発行してもらうのにも手数料がかかります。
申立てに必要な書類
養育費調停を申し立てる場合には、以下のような書類が必要となります。
- 申立書及びその写し1通
- 対象となる子どもの戸籍謄本(全部事項証明書)
- 申立人の収入に関する資料(源泉徴収票の写し、給与明細の写し、確定申告書の写し、非課税証明書の写しなど)
申立書の書式や記載例については、各家庭裁判所の窓口で受け取ったり、家庭裁判所のホームページからダウンロードして使用したりすることができます。
また、審理の過程で追加で必要となる書面や資料の提出を求められる場合もあります。
養育費調停でメリットを最大化するために重要な5つのこと
養育費には相場を把握する
養育費として勝手に計算して他方の親に請求できるわけではありません。養育費に関しては「養育費算定表」といわれる算定表が存在しています。
これは東京・大阪の家庭裁判所の裁判官によってまとめられ公表されている研究報告です。この研究報告は家事事件において養育費・婚姻費用の算定される際に活用されています。実務上、特別な事情がない限りこの算定表をベースとして養育費が算定されます。
この養育費算定表は子どもの人数や年齢に応じて9つの表が存在しています。算定表そのものについては、裁判所のホームページ上で確認することができます。「平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」というページを参照してください。
獲得目標となる養育費額を計算する
「養育費算定表」を参照できたら、ご自身のケースで養育費の金額が具体的にいくらになるのかということを割り出してください。あなたの年収・子どもの人数、年齢によって参照する表は変わってきます。そのうえであなたと子どもが生活するために必要となる金額や実際にかかっている学費・経済的に特に苦しい事情を整理してください。
自分の請求を理由付ける証拠はたくさん提出する
ご自身の養育費請求を根拠づける客観的な証拠は多ければ多いほど説得的でしょう。以下のような点に留意して客観的な証拠を提出できれば効果的です。
- 相手方の収入が高額であること
- 相手方の収入に比して養育費の負担割合が少なすぎること
- 高度な蓋然性をもって将来かかる養育費が高額であること
調停委員を味方につける
調停委員も専門家ですのでより合理的で説得的な主張をしている当事者の味方をしてくれる可能性があります。感情的に調停委員の同情を得ることだけに終始せず、客観的な証拠に基づいて論理的に必要な養育費を請求しているというスタンスで調停委員を説得できれば、調停委員の方が相手方を説き伏せてくれる可能性もあります。
弁護士に依頼する
養育費調停は原則的には当事者の話し合いによる手続きですが、弁護士に依頼して代理人として行動してもらうことができます。調停手続きなど話し合いの当初から弁護士に依頼しておくことで、その後の「審判」「訴訟」という手続き全体の中でこの「調停」でどのような主張をするべきかといった俯瞰した視点で手続を進めることができます。また法律のプロを頼ることで、あなた一人で見知らぬ手続を不安な中で進めていくよりよっぽど心強く感じることでしょう。
まとめ
今回は、養育費に関する調停手続きについて、その概要や効果的に進めるコツを解説していきました。
離婚に際して養育費について悩まれている方は是非離婚問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
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