今から過去の未払いの養育費を請求できないだろうか…
養育費の請求に時効はあるのだろうか?
このような疑問をお持ちではないでしょうか。
結論から言いますと、原則として、養育費を請求できる権利は5年で時効消滅します。
ただし、例外として、時効期間が10年になる場合もあります。また、現在進行してしまっている時効をストップさせる方法もあります。
この記事では、養育費問題に強い弁護士が上記内容についてわかりやすく解説していきます。
相手の養育費未払いでお困りの方で、記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には弁護士までご相談ください。
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目次
養育費の時効について
養育費は、定期的に一定の金銭等の支払いをさせることを目的とする債権(定期金債権)ですので、月ごとに養育費を請求できる債権(権利)が発生します。そして民法第166条1項1号では、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないと債権が時効消滅すると規定しています。
したがって、月ごとに発生する養育費請求権は、支払期日の翌日から起算して5年間で消滅時効にかかります。
なお、令和2年4月1日に改正民法が施行され、時効期間などの改正がありましたが、養育費の時効については改正前から5年でしたので変更はありません。
(債権等の消滅時効)
第166条
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
(後略)
養育費が消滅時効にかかる例を挙げると、例えば夫婦間で毎月月末までに10万円の養育費を支払うという約束をし、2022年10月1日に離婚が成立したとします。2022年10月から2022年12月までは養育費が振り込まれていましたが、2023年1月からは振り込まれなくなりました。この場合、2023年1月末日の翌日である2023年2月1日から時効期間が開始し、5年後である、2028年1月末日の経過(2028年2月1日0時)をもって、2023年1月分の養育費請求権は消滅時効にかかります。
同様に、2023年2月分の養育費は2028年2月末日の経過をもって消滅時効にかかり、2023年3月分の養育費は2028年3月末日の経過をもって消滅時効にかかります。このように、毎月の支払日の翌日から5年経過するごとに月々の養育費は順次消滅時効にかかるのです。
なお、相手が養育費の支払い日までに支払いをしない場合、その支払い日の翌日(つまりは時効期間が開始する日)から年利3%の遅延損害金が発生します(民法第419条・404条)。
調停・審判・訴訟で決まった養育費の時効は10年
上記の通り、養育費の時効は原則5年ですが、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利の時効期間は10年となります(民法169条1項)。
(判決で確定した権利の消滅時効)
第169条
1. 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、10年とする。
2. 前項の規定は、確定の時に弁済期の到来していない債権については、適用しない。
「確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利」とは、訴訟による判決のほか、調停、審判、訴訟上の和解などの裁判所を介した手続きにより決定した養育費(請求権)のことを指します。
したがって、
- 父母が口頭で合意した養育費
- 離婚協議書や公正証書で定めた養育費
などについては、裁判所の手続きによって決定していませんので、原則である5年の消滅時効にかかります。
また、注意点として、時効期間が10年となるのは、既に未払いとなっている養育費につき、訴訟、調停、審判等により確定した場合です。例えば、調停や審判などで、「令和〇年〇月~令和〇年〇月分の未払いの養育費を申立人指定の口座に振り込む」という決定がなされた養育費については時効期間が10年になるということです。
他方で、「被申立人は申立人に対し、令和〇年〇月から子が成人に達するまで毎月月末までに養育費として〇万円を申立人の指定する口座に振り込む」といった将来発生する養育費について決定がなされたものについては原則通り5年で消滅時効にかかります。民法169条2項では、「前項の規定(時効期間を10年とする1項の規定)は、確定の時に弁済期の到来していない債権については適用しない」とされているからです。
よく、「離婚調停の際に離婚後の養育費についても取り決めましたが、調停で決まったので時効は10年ですよね?」と勘違いされている方もいますのでご注意ください。
養育費と時効に関するよくある質問
養育費の取り決めをしていなかったのですが遡って請求できますか?
養育費の取り決めをしないまま離婚し、後になって過去の養育費を遡って請求したいと考える方もいます。
この場合、交渉により相手が任意で支払ってくれれば良いのですが、応じてくれない場合には、過去の養育費を遡って請求することはできません。
養育費の請求ができるのは、当事者の話し合いにより取り決めした以降、あるいは、調停や審判を申し立てて養育費について決定された場合は申し立てした日以降の分からとなります。
口約束でしか養育費の取り決めをしなかったのですが請求できますか?
では、養育費につき口約束をして離婚した場合、後になって過去の養育費を請求できるのでしょうか。
この点、養育費につき公正証書や離婚協議書などの書面を取り交わさずに口約束だけでした場合でも法的には相手に養育費支払義務が生じます。
もっとも、相手がそのような約束をしていないと主張してきた場合には、書面(または録音データ)がない以上は約束したことを証明できないため、過去の未払い養育費を請求できない可能性があるでしょう。
時効期間が過ぎたら絶対に養育費は請求できない?
養育費の時効期間が経過したとしても、時効の完成により利益を受ける者、つまりは養育費支払義務者が時効の完成を主張(これを「時効の援用」といいます)しない限りは時効の効果が発生しません(民法第145条)。
相手が時効期間が経過していることに気付いていない場合もありますし、仮に時効が完成していることを知っていたとしても任意で支払ってくれる可能性もありますので、諦めずに請求した方が良いでしょう。
未払い養育費の時効が完成しないようにするには?
未払い養育費を放置していると刻々と時効期間が経過していってしまいます。そこで、民法上は消滅時効が完成しないように「完成猶予」事由と「更新」事由を規定しています。
「完成猶予」事由とは
「完成猶予」事由とは、その事由が終了するまでの間は時効が完成しないとする事由をさします。簡単に言えば、時効が一時停止するということです。
具体的には、以下の事由が終了するまでの間、時効は完成しません。(民法第147条以下参照)
- 裁判上の請求
- 支払督促
- 和解調停
- 破産手続参加再生手続参加更生手続参加
- 強制執行
- 担保権の実行
- 担保権の実行としての競売の例による競売
- 民事執行法上の財産開示手続第三者からの情報取得手続
- 仮差押え
- 仮処分
- 催告
- 協議を行う旨の合意
このなかで容易に消滅時効の完成猶予ができる事由は「催告」でしょう。
この「催告」とは債権者から債務者に対して債務の履行を請求することです。内容証明郵便で養育費の支払いを請求することもこの催告にあたるため、訴訟など他の手段に比べ簡単でもっともコストもかけずに時効の完成を猶予することができる手段といえます。
「更新」事由
「更新」事由とは新しく時効期間が進行する、つまり時効期間がリセットされる事情のことをいいます。
消滅時効の更新事由は以下のものがあてはまります。
- 確定判決・判決と同一の効力を有するもので権利が確定したとき裁判上の請求等の事由が終了した時から新たに進行する
- 強制執行・担保権の実行・強制競売・財産開示手続/情報取得手続が終了した時から新たに進行する
- 債務承認があった時から新たに進行する
上記のような事由がある場合には、消滅時効の完成を猶予したり時効期間の経過をリセットしたりすることができます。 いずれにしても養育費の未払いが発生した場合、消滅時効の阻止は時間との勝負になります。したがって長期間放置することなく適切な対処法を採る必要があります。
まとめ
以上、今回の記事では養育費と消滅時効の関係について解説してきました。
養育費について未払いの滞納があった場合にはまずは相手方に請求することからはじめますが時効完成間際の場合には早急な対応が必要な場合もあります。
また消滅時効については令和2年4月に大きな民法改正があった分野です。今回は改正法の内容を前提に解説しましたが、ご自身のケースでは経過措置との関係で旧民法が適用される可能性もあります。
弊所では未払い養育費の回収を得意としており実績があります。養育費が時効消滅するまえに出来るだけ未払い養育費を相手に支払わせたいとお考えの方は弁護士までご相談ください。親身誠実に弁護士が依頼者を全力でサポートします。相談する勇気が解決への第一歩です。
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