養育費の一括請求は可能!4つのメリットとデメリットを弁護士が解説

離婚してから子どものために必要になる養育費は「月額払い」で支払われるものだと認識している方も多いでしょう。しかし、夫婦で条件がそろえば「一括」での支払いで完了させることも可能なのです。そこで養育費を受け取る親権者の方はできることなら一括で養育費を受けとりたいと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、

  • 養育費を一括で受け取ることのメリットは何か?
  • 逆に養育費を一括で受け取ることのデメリットは何か?

という点をメインに養育費の相場や追加請求の可否についても合わせて解説していきます。

養育費問題に強い弁護士がわかりやすく解説していますので、養育費の一括受け取りを希望している方はどちらの方がよりご自身や子どものために適しているのかの参考にしてみてください。

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養育費を一括支払いすることは可能

養育費とは、子どもの養育の為に必要となる生活費・学費・医療費などのために支払われる金銭のことですので、支出が必要となった場合に支払いに充てられるようになっていることが理想的です。

子どもが経済的に自立するまで支払う場合には離婚した際の子どもの年齢によっては相当長期にわたって支払うことになりますので、その金額についても高額になりがちです。そのため子どものための養育費の支払いは一回払いではなく「月額払い」で親権者に対して支払われることが一般的ですし適切であると考えられています。

しかし離婚時の夫婦間で合意できるのであれば「一括支払い」をすることも可能です。具体的には養育費の支払義務を負っている側が一括での支払いに応じる場合には一括支払いの合意をすることができるというケースが想定できます。

養育費を一括で受け取ることのメリット

養育費を一括で受け取ることにはメリットとデメリットが存在しています。それぞれの内容をご確認いただいてご自身のケースで「月額払い」がよいのか「一括払い」がよいのかという点を判断してください。まずここでは、「メリット」についてお伝えし、「デメリット」については後述します。

養育費を一括で受け取る場合のメリットとしては以下の4つが考えられます。

  • 毎月の未払いを心配しながら生活する必要がなくなる
  • 今後相手方との接触をなくすことができる
  • 一回で多額の金銭を得られる
  • 不払いで強制執行をする手間がなくなる

それではそれぞれについて具体的に解説していきましょう。

毎月の未払いを心配しながら生活する必要がなくなる

まず養育費を一括で受け取るメリットは、月々の未払いや将来支払われなくなるリスクを心配しながら生活する必要がなくなるということです。

現在・過去に養育費の支払いを受けられていた世帯は少ないのです。具体的なデータとして厚生労働省が行った平成28年の母子世帯の母の養育費の受給状況について「現在も養育費を受けている」「養育費を受けたことがある」と答えた世帯は全体の4割弱です。そもそも養育費を受け取ることができていた母子家庭が少ないことが分かります。そうした中で養育費の支払いに

ついて離婚する際に相手方と約束していたとしても、毎月定期的に支払いを継続してくれない相手が多いことが問題です。最初は支払いの振込みをしてくれていた相手方も、支払期間が長期にわたるにつれ次第に支払いを怠りがちになり最終的には支払いがストップしてしまうケースもあります。

この点、一括支払いの場合には将来にわたって不払いの不安は生じませんのでそのような懸念を抱くことなく生活を続けていくことができるという点はメリットということができます。

今後相手方との接触をなくすことができる

離婚にはさまざまな原因が考えられます。中には精神的な虐待であるモラハラや肉体的な暴行であるDVが原因により離婚に至った方もいらっしゃるでしょう。そのような方は離婚後には二度と相手方と接触したくないと考えているはずです。

ここで養育費の支払いが月々の支払いだった場合、滞納や未払いがあった場合にはその都度支払い状況の確認や催促のために電話やメールで相手方とわざわざ連絡をとる必要が出てきてしまいます。悪質な相手方になるあなたを困らせることが目的で養育費の支払いを怠ったり、養育費を支払うという名目であなたや子どもに接触・面会を求めてきたりする場合も考えられます。

この点、養育費が一括払いの場合には将来にわたって相手方から金銭の受取作業が不要になりますので、離婚後に相手方と接触するリスクを大幅に減らすことができるのです。この点も大きなメリットと言えるでしょう。

一回で多額の金銭を得られる

離婚後の生活に金銭的な不安を感じている方も多いはずです。夫と別れて子どもと2人、心機一転新生活が始まるような方は今後安定的に生活資金を確保できるかどうかという不安を抱いていることでしょう。特にこれまで専業主婦であったような人は離婚を契機に新たに就職して働かなければならないという方も多くいるはずです。

そこで養育費を一括受給すると、一度にまとまった金銭が一気に手元に入ってきます。養育費は子どもの成長のために使用されるべきものですが、まとまった資金が常に手元にあるということはこれから新しいチャレンジをしようとする場合非常に精神的な支えとなり心強いはずです。

このように新しい環境を整備するまでの間、経済的な余裕のみならず心理的にも余裕ができるという点に関しては一括支払いのメリットであると言えるでしょう。

不払いで強制執行をする手間がなくなる

相手方が履行遅滞や履行不能となった場合には債権者である親権者の側で強制執行の手続きを行わなければなりません。離婚の際に養育費の支払いを相手方と約束していたとしても、相手方が任意に支払ってくれなければそのような書面は絵に描いた餅です。

相手が不払いの場合、実際に約束に基づいて養育費支払請求を強制的に実現するには「強制執行」という手続によるほかありません。この手続も相手が支払いを怠ったことで自動的に進む手続ではなく債権者である親権者が手続を裁判所に対して申し立てる必要があります。具体的には法律にのっとり強制執行に必要な書類を用意したり手続き費用を負担したりする必要があるのです。

この点一括支払いの場合には一度の支払いで義務の履行が完了しますので、分割支払いのように将来にわたる強制執行の手続的な負担から解放されるという点もメリットととらえることができるでしょう。

養育費の一括受け取りのデメリット

他方で養育費を一括で受け取る場合のデメリットについては以下の4つが挙げられます。

  • 事情変更があっても追加で請求しにくくなる
  • 本来よりも少額での合意となる可能性が高い
  • 離婚の話自体がまとまらなくなる可能性がある
  • 税金が課税されるおそれがある

事情変更があっても追加で請求しにくくなる

一括支払いの合意で支払われた後、事情の変更があったため本来であれば養育費の増額が可能な場合であっても追加して請求することが難しくなる可能性があります。このデメリットについては後述します。

本来よりも少額での合意となる可能性が高い

本来であれば養育費は毎月必要となる費用に備えて支払われるべき性質であると考えられています。そしてその総額も多額にのぼる可能性が高いです。養育費の一括支払いを受ける親権者側にはメリットが大きいのに対して支払義務者には負担が大きいとして、支払義務者の側から一定の譲歩を要請される可能性が高くなります。

具体的には「一括で養育費を支払う代わりにその総額を減額して欲しい」という要望をのまなければ一括支払い自体が難しいと言われること場合もあります。そのため往々にして一括支払いが合意される場合には本来親権者が受け取れる養育費の総額より少なくなってしまうという点はデメリットといえます。

養育費の調整で離婚手続き自体が滞る可能性がある

親権者が養育費の一括支払いを要求した場合には総額の確定や減額の交渉などのために離婚の最終的な合意に至るまで時間がかかる可能性があります。養育費は離婚に際して決定されるべき事項ですので離婚自体が合意されるまでに相当時間がかかる可能性があります。養育費は必要になった場合に備えて月々支払われることが本質的ですので一括支払いを要請する場合には相手からも必要性について納得いく説明を求められる可能性があるでしょう。

税金が課税されるおそれがある

養育費を一括で受け取った場合、受け取った金額が課税対象となり税金を納めなければならなくなる可能性があります。具体的には養育費の一括受け取りは「贈与」にあたるとして「贈与税」が課税されるリスクがあるのです。税金として納める分親権者が受け取れるトータルの金額は目減りしてしまいます。

法律には、扶養義務者である父母相互間において「生活費又は教育費に充てるためにした贈与」のうち「通常必要と認められるもの」については贈与税の課税価格に算入しない旨が規定されています。(相続税法第21条の3第1項2号)しかし養育費の一括支払いは子どもの養育のために「通常必要と認められるもの」の範囲を超えるものと考えられますので贈与税が課される可能性があるということです。

養育費を一括で受け取る場合の相場はいくら?

養育費を一括で受け取ろうとする場合、その金額の相場はどのように決まっているのでしょうか。

月額の養育費の相場は夫婦の年収や子どもの年齢・人数により「養育費算定表」を参考に決定されることが一般的です。この算定表に基づき養育費の月額が算出できますので一括支払いの場合は支払期間に応じて計算することが可能になるでしょう。ただし一括支払いの場合は相手方の負担を考慮して算出額よりも減額して合意されるケースが多いことは前述のとおりです。

養育費を一括で受け取った後に追加請求はできる?

養育費の取り決めをした後に事情変更によりその支払金額の増額を要請することも「正当な理由」があれば認められる可能性があります。例えば、相手方の収入が大幅に増えた場合や子どもが病気になって不測の医療費が必要となった場合、学費が見込みよりもかかってしまった場合などです。

しかし養育費の一括支払をした相手方は義務を履行し終えているため、事後的に養育費が足りなくなったとしても追加請求することは認められないのが原則です。さらに既に支払った相手方が任意で支払いに応じる可能性も小さいでしょう。それでも増額請求に「正当な理由」があるとして増額請求する場合には養育費支払請求について「調停」や「審判」を申し立て、第三者機関を介して解決を図る必要性があるでしょう。

一括で受け取っても公正証書は作成しておくべき?

養育費に関する取り決めは公正証書で作成しておくべきなのでしょうか。離婚協議書や養育費・慰謝料など各種支払いに関する取り決めは公正証書の形をとらずとも書面で行うことはできます。

しかし公正証書で作成しておくことで以下で解説するようなメリットがあります。

まず公正証書は、法務大臣が認定した公証人が作成する公文書です。そのため書面の記載内容や作成当事者の本人確認は厳格に行われます。そのため事後的に「言った・言わない」の水掛け論を回避することができ、またその内容が後の訴訟で否認されたり無効とされたりすることもほとんどありません。それだけ証明力の高い文書であるといえます。

また養育費について公正証書で取り決めを行っておくと、相手が支払いを怠ったときに簡単に「強制執行」をすることができます。本来であれば、強制執行をするためには裁判所に対して訴訟を提起し、勝訴判決を確定させたうえで行わなければなりません。

しかし金銭の支払いについて公正証書を作成していた場合には、上記の裁判手続きを飛ばして直ちに「強制執行」の申し立てができるのです。民事裁判を提起するのには時間も労力も費用も要しますが公正証書はその信頼性が高いことから裁判手続きを経る必要がないのです。

上記のようなメリットがあることから養育費の取り決めは「公正証書」で作成しておくことがおすすめです。

まとめ

この記事では養育費の一括支払いを受ける場合のメリットとデメリットについて解説してきました。通常養育費を一括で受け取ることは相手方の負担も大きいためハードルが非常に高いことも事実です。

養育費の一括支払いを希望されている方の多くは離婚後の経済的な不安を抱えている方が多いでしょう。離婚に関して経済的な不安がある場合には一度離婚・養育費問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。ご自身のケースで最適な解決策について尽力してくれるはずです。

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