子どもの養育費を大学卒業まで請求できるケースを弁護士が解説

文部科学省公表の「学校基本調査」によると、令和2年の大学・短大進学率は58.6%にも達します。高校、中等教育学校後期課程卒業者(過年度卒を含む)の6割弱が大学に進学する時代となりました。

そして、文部科学省公表の「国公私立大学の授業料等の推移」によると、平成30年度の4年間の大学の授業料の平均額は、国立大学で約214万円(入学金が別途約28万円)、公立大学で約215万円(入学金が別途約39万円)、私立大学で約362万円(入学金が別途約25万円)となります。

私立大学のみならず国公立大学だったとしても4年制大学であれば学費も相当高額に及ぶことになりますので、離婚して子供を引き取った親権者としては、当然のことながら、養育費として他方の親にも分担してもらいたいと考えるはずです。

しかしながら、

  • 離婚の際の協議で大学進学についての話はしなかったけど請求できるのだろうか…
  • 子供が成人(20歳)するまで養育費を受け取る約束を交わしたが大学卒業(一般的には22歳)まで請求できるのだろうか…

といった疑問を抱えている親御さんも多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、これらの疑問を、養育費問題に強い弁護士が解消していきます。

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養育費の支払いは一般的には子が成人するまで

親子間では相互に扶養義務を負います(民法877条1項)。そして、扶養義務には養育費(教育費)が含まれていることから、親は子供に対して養育費を支払う義務があります。

「子供が〇歳まで払う」といった法律の定めはありませんが、子が「未成熟子」の間は支払義務があるとされています。

未成熟子とは、親から経済的に独立していない子供を指します。したがって、未成熟子=成年(20歳)ではなく、成人前でも就職して親から独立して暮らしていれば未成熟子ではありません。逆に、就学している、精神的肉体的に障害を抱えているといった理由で成人になっても経済的に親に頼って生活している場合には未成熟子となります。

とすれば、大学に進学した子は未成熟子という扱いとなり、養育費を支払う側の親(義務者)は子が大学を卒業するまで養育費を支払う義務を負うようにも思えます。

しかしながら、家庭裁判所の実務上では養育費の支払いは成人するまでというのが一般的な基準となっています

また、家庭裁判所が養育費の算定のために実務上利用している「養育費算定表」は、「標準的な教育費」として公立の中学校・高校に通った場合の授業料や通学費用等を考慮して作成されています。したがってこの標準的な教育費を超過する部分については「特別の出費」となるため、算定表には計上されていません。具体的にこの「特別の出費」として考えられるのが、「私立中学・高校」や「大学・専門学校」に進学する際に必要となる費用です。

養育費の相場は?【令和最新版】裁判所公表の算定表をもとに解説

以上のことから、養育費を支払う側の親(義務者)は、子供が大学を卒業する年齢(標準的には22歳)まで当然に養育費を分担しなくてはならないわけではありません。義務者との協議や調停で話がまとまらない場合は裁判所の審判や判決で結論を出すことになりますが、「子が成人するまで負担する」という結果になる可能性が高いでしょう。

ただし、以下でお伝えするケースでは、家庭裁判所の判断により大学卒業までの養育費の支払いが認められることがあります。

子供が大学を卒業するまで費用分担を請求できるケース

前述したように、大学進学に必要となる諸費用については裁判所が公表している「養育費算定表」の基準に参入されていませんので、お子さんの大学進学が決まったからといって当然には相手方親に費用負担を請求することができるわけではないのです。

しかし一定の場合には養育費の支払義務を負っている親に対して、大学進学に要した費用の分担を請求できる場合があります。以下そのような請求が認められる可能性があるケースを詳述していきましょう。

相手方が大学進学について承諾していた場合

養育費を支払う義務を負っている他方の親が大学進学について「承諾」または「同意」している場合には養育費として大学進学コストについても請求できます。承諾や同意は明示的なもののみならず、黙示的なものも含みます

そこで離婚する時点で親権者が子どもの大学進学を検討していることを相手方に伝えていた場合やそれを知りながら相手方が特段の異議を申し立てていないような場合、さらに大学進学が普通の公立または私立中学・高校に進学することを了承していたような場合には黙示的な承諾や同意が認められる場合もあるでしょう。

大学進学のための費用として具体的には、

  • 大学の授業料
  • 通学費用
  • 教科書や参考書を購入するための費用 など

が考えられますが養育費分担の内容や割合は協議により具体的に決定されます。
分担の内容についても単純に父・母で2分の1ずつ分担する方法もあれば、父の収入が母の収入を上回っているためその割合に応じて負担するという決め方もできます。

相手方が大学進学を承諾していない場合

支払義務を負う親が大学進学について承諾していなかった場合にはそれに要した費用の分担を当然に請求することはできません。

しかし近年は4年制大学の進学率は高まっており大学進学のための費用も必ずしも「特別の費用」であるということが言えなくなってきました。そして裁判所も総合考慮により養育費の支払義務者に分担を認めるべき「合理的な理由がある」場合には分担を認める前例も多数あります。

具体的に大学費用の分担が認められやすいケースとは以下のような事実がある場合です。

両親も高学歴である場合

親が高学歴な場合には大学進学に要した費用についても非親権者に負担が認められる場合があります。

離婚した両親がともに国公立大学・私立大学または大学院を卒業・修了しているような場合には、大学卒業程度の学力を有するとして比較的収入の良い仕事に就いている場合があります。
そのような家庭の場合には子どもについても希望するとおり大学に進学して教育を受ける機会を保障すべきてあると考えられます。
したがって両親が高学歴の場合には子どもの大学進学費用についても分担が肯定されます。

相手方の収入が高い場合

両親が高学歴であったとしても現在経済的な余裕がない場合には超過額費の費用分担は認められにくいでしょう。

非親権者が、経済的に余裕があり子どもの大学進学の費用を負担できるだけの支払い能力があることが必要です。そのような場合には、進学費用についても非親権者に分担が認められやすいでしょう。なぜなら、非親権者に経済的な余裕がある場合、仮に両親が離婚しなかったと仮定すると相当程度高い確率で大学進学ができるであろうと考えられるからです。

逆に収入が低い場合はそもそも学費を請求しても支払義務者に負担する能力がありませんし、両親の離婚がなかったと仮定した場合も子どもを大学に進学させることがその家庭の通常の家庭環境であるとはいえません。このような場合に子どもが進学を諦めないようにするには奨学金などによる援助を受ける必要があるでしょう。

離婚時に大学に進学中である・進学が決定している場合

離婚が成立する際に既に大学に進学していたり、一貫校で大学に進学できることが相当程度確実であったりする場合には明示的な承諾がなくとも黙示的に大学進学を承諾もしくは同意していた推認することができます

離婚当時、大学に進学することを一貫して反対の意思を表示していたり、大学に進学しないことを前提とした養育費の取り決めが行われていたりしたなどがない限りは大学進学のコストの分担を請求できる可能性があります。

大学進学費用を請求する場合の考慮要素

以上説明したことを踏まえて、夫婦の間で大学進学の費用を協議する場合には以下のような考慮要素を斟酌して決定されることになります。

  • 大学進学の費用が不足する理由とその不足額
  • 奨学金の利用の可否
  • アルバイトなどで子ども自身により収入を得ることの可否
  • 父・母両方の収入や財産状況
  • 父・母が再婚しているかどうか・扶養家族がいるかどうか
  • 高等教育を受けることに対する子どもの意思・能力

裁判所で養育費について判断される場合であっても上記事実は重要な要素となります。

大学進学費用の分担割合の判例

大学費用の負担割合が争われた事案で裁判所により判断がされた事例がありますので紹介しましょう。この事案は母親が子どもの私立大学の学費の費用分担を養育費として父親に請求した事案です。(大阪高裁平成27年4月22日)

裁判所の認定したのは以下のような事実です。

  1. 父親は将来子供が国立大学に進学するという理由から私立高校へ進学することは了承していたが、私立大学への進学を了承してはいなかった(そのような証拠もない)
  2. しかし国立大学の進学を視野に入れていたので国立大学の学費標準額・通学費用については父親も負担すべきである
  3. 私立大学の学費は85万円であるが、国立大学の学費の標準額は53万5800円であり(国立大学等の授業料その他の費用に関する省令に規定)その他費用13万円を合わせて学費等は年額66万5800円となる
  4. 算定表では標準的学習費用として年33万3844円は予め考慮されているので子どもの学費等としては超過した額33万1956円を父親は負担するべき(=66万5800円-33万3844円)
  5. 仮に離婚していなかったとしても父母双方の収入で子どもの学費を全額賄うことはできなかったため奨学金やバイトで一部負担せざるを得なかった。
  6. 以上を考慮して超過額のうち父親が負担すべき学費は「3分の1」とするのが相当である。

このように判断され結果として子どもの学費は年間11万652円(=33万1956円×1/3)となり月額9000円の追加支払いが認められました。

まとめ

この記事では大学進学の費用等を養育費として負担してもらうことができるのかという点について解説しました。大学進学費用については相手方の承諾の有無も非常に重要なポイントとなります。

離婚したことで大学の費用が捻出できず子どもが希望する大学進学を諦めなければならなくなるような状況は親であれば誰もが避けたいと思うはずです。子どもの将来のためにも大学進学のコストを離婚した他方の親に費用分担してもらうことができないのか、という点はもう一度慎重に検討する必要があるでしょう。

さらに離婚に際して養育費の取り決めをスムーズにしたい方や変更をしたいとお考えの方は是非離婚・養育費の問題に精通した弁護士に相談することをおすすめします。お一人で悩みを抱え込まずにできれば法律のプロを頼ってください。必ず適切・妥当な解決策を提示してくれるはずです。

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