離婚の財産分与では、「子供の預金を財産分与の対象とするのか?」という点を巡って、しばしば争点となることがあります。
離婚後、少しでも相手方からお金を受け取りたい、という方にとっては取り分を増やすため、子供の預金も財産分与の対象としたいと考えることでしょう。
以下では、子供の預金が財産分与の対象となる場合、ならない場合等について、子供の預金の財産分与に詳しい弁護士が詳しく解説してまいります。
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財産分与とは?
財産分与とは、夫婦共有名義の財産、あるいは、婚姻後から離婚(又は別居)までに夫婦が協力して築いたと認められる財産を離婚後に分け合うことです。
財産分与の一番の目的は、夫婦が協力して築いた財産を清算し分配すること(清算的財産分与)にあります。
上記からお分かりいただけるように、財産分与の対象となる財産は①夫婦共有名義の財産、あるいは②婚姻後から離婚(又は別居)までに夫婦が協力して築いたと認められる財産、です。
①の財産を共有財産、②の財産を実質的共有財産といいます。
②実質的共有財産というためには、夫婦が「婚姻後に築いた」と認められることが必要です。
そのため、離婚に先行して別居した場合は、特段の事情がない限り、婚姻から別居時までに築いた財産が実質的共有財産です。
次に、「夫婦が協力して築いた」と認められることが必要です。
注意しなければならないのは、ここでいう協力とは、何か大きな買い物をする際に夫婦同士でお金を出し合ったなどという金銭的協力に限られないということです。
たとえば、夫が仕事に専念できるよう、妻が家事労働に努めて夫や家族を支えた場合のように、実質的にみて夫婦の協力があったと認められる場合の協力も含まれます。
他方で、財産分与の対象とならない財産を特有財産といいます。
特有財産とは、夫婦の一方が婚姻前から有してた財産、あるいは婚姻後に取得した財産であっても夫婦が単独で得た財産のことをいいます。
- 不動産
- 車
- 家電、家具、骨とう品など金銭的価値の高い物
- 預金
- 各種保険の解約に伴う解約返戻金
- 株式
- 退職金(対象となるかどうかは、将来受け取れる蓋然性が高いかどうかによります)
- 厚生年金(国民年金は対象外です)
- 借金(ただし、内容によります) など
- 婚姻前に購入した車(ただし、購入時にローンを組み、婚姻後は共有財産の預金からローンが引き落とされていた場合は、引き落とされた額分は共有財産となります)。
- 婚姻前に購入した家電、家具、金銭的価値の高い物
- 婚姻前に築いていた預金
- 親から贈与、相続した不動産、車 など
子供の預金は財産分与の対象となる?
では、上記を踏まえた上で「子供名義の預金が財産分与の対象となるのか?」について考えていきましょう。
まず、夫婦の共有財産、あるいは実質的共有財産を原資とした子供の預金は、実質的には夫婦の財産ですから財産分与の対象となります。
たとえば、「子供の将来に備えて夫婦で貯めていた預金」などです。
親から子供へのお年玉も、特定の用途を定めて与えたものを除いては、夫婦の財産が原資となっている以上、財産分与の対象となります。
また、学資保険も基本的には財産分与の対象となります。
学資保険契約を解約した場合も同様です。
他方で、夫婦の特有財産を原資とした子供の預金は、財産分与の対象ではありません。
たとえば、妻が婚姻前から貯めていた預金を原資とした子供の預金などです。
また、夫婦の共有財産、実質的共有財産を原資とした子供の預金でも、子供の年齢、預金の管理状態などによっては子供の固有財産とされ、財産分与の対象とならない場合があります。
子供の年齢については12、13歳以上が一応の目安とされています。
加えて、子供が親から通帳、印鑑、キャッシュカードを渡されるなど、子供が自身の預金を管理していると認められる場合は、より子供の固有財産とされる可能性が高く、財産分与の対象とはならないでしょう。
もっとも、上記の事情が認められる場合でも、預金の金額が大きい場合は財産分与の対象となることがあります。
次に、夫婦以外の第三者の財産を原資とした預金は、基本的に財産分与の対象ではありません。
財産分与の対象となるのはあくまで共有財産、あるいは実質的共有財産です。
したがって、夫婦以外の第三者の財産が原資となった財産は財産分与の対象とはならないというわけです。
夫婦以外の第三者の財産とは、たとえば、
- 祖父母や親戚からいただいたお年玉
- 子供がアルバイトをして貯めたお金
などを挙げることができます。
お年玉は、祖父母等が、子供が自由に使うためのお金として贈与されたものといえますから、子供の固有の財産であって、財産分与の対象ではありません。
また、子供がアルバイトをして貯めたお金も、子供自身がその労力で得たお金といえますから、やはり子供の固有の財産であって、財産分与の対象ではありません。
では、各種(出産、誕生日、入園・入学)祝い金や自治体から給付される給付金は財産分与の対象となるのでしょうか?
まず、出産、入園・入学祝い金については、子供のためというよりかは、夫婦の今後の生活の糧として贈与されることが多いと思われます。そうした趣旨のお金の場合は子供の固有の財産とはいえないことから、財産分与の対象となります。もっとも、実務上は、双方合意の下、財産分与の対象から外されることもしばしばあります。
他方、誕生日祝い金については、夫婦のためというよりかは、子供本人のために贈与されることが多いと思われます。そうした趣旨のお金の場合は、前述したお年玉などと同様に、子供の固有財産であって、財産分与の対象ではありません。
次に、児童手当や新型コロナの影響で各家庭に給付された特別定額給付金をはじめとする自治体から給付される給付金は財産分与の対象となります。
こうした給付金は各家庭の家計を支える趣旨で、世帯宛に給付されるものだからです。
なお、世帯主が夫であろうが妻であろうが、給付金が共有財産、実質的共有財産のいずれかであることに変わりはありませんから、やはり財産分与の対象となります。
子供の預貯金と財産分与に関する判例
裁判所は子供の年齢、子供の預金に対する管理能力、預金の性質等に着目して財産分与の対象とするのかしないのか判断しています。
東京地方裁判所平成16年1月28日
「子供名義の預金は子供の固有の財産であり、財産分与の対象ではない」という原告の主張に対して裁判所は、「原告らの最年長の長女も現在10歳であり、上記の預金を自ら管理することができないことは明らか。」、「子供のためのお年玉等は、夫婦が子供の将来のために子供名義の預金に蓄積していたことが認められ、そうした場合は実質的には夫婦の共有の財産とみるのが相当である。」旨判示して、子供名義の預金は財産分与の対象としました。
この判例からは、
- 一般的に、10歳程度では、預金の管理能力がないと判断される可能性があること
- 子供に預金の管理能力がないと判断された場合、子供の預金は財産分与の対象とされる可能性があること
- お年玉であっても、夫婦が子供の将来のために貯蓄したものと認められる場合は実質的に夫婦の共有財産であって、財産分与の対象とされる可能性があること
を読み取ることができます。もっとも、このケースは子供の預金の大部分が夫婦の収入に依拠していたという事情があります。また、お年玉が夫婦のお金を原資とするものなのか、第三者のお金を原資とするものなのか、両方が混在としているとして双方の預金に占める割合はどうだったのかは明らかではありません。
なお、裁判所は、
- 用途を限定して他人から譲り受けた金銭であれば子供の固有の財産となる
などと、本件においてお年玉等が子供の固有の財産となり得る、つまり、財産分与の対象とはならないケースも示しています。
以上から、子供の預金を財産分与の対象とするするかどうかを巡って争いが生じた場合は、子供の年齢、子供の預金に対する管理能力、預金の性質・原資・取得した経緯・趣旨等を総合的に勘案して、子供の預金が財産分与の対象となるかどうか決めることとなる、ということがでいます。
まとめ
子供の預金が夫婦の共有財産を原資としている場合は、基本的にその預金は財産分与の対象です。他方で、夫婦の特有財産を原資としている場合は財産分与の対象とはなりません。
子供の預金が夫婦以外の第三者の財産を原資としている場合は、そのお金の性質等を総合的に勘案して判断する必要があります。
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