未必の故意の有名判例を弁護士が解説

①近隣で騒音を出し続けた被告人には傷害の故意があるとされた判例

事案の概要

この事案は、近隣において長年にわたり騒音を出し続け、被害者に「全治不詳の慢性頭痛症、睡眠障害、耳鳴り症」を生じさせたという騒音障害事件です。

この事案では、自宅から隣家の被害者に向けて、精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら、連日連夜、ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、被害者に精神的ストレスを与え、慢性頭痛症等を生じさせた行為は、未必の故意をもって傷害罪の実行行為に及んだと判断されています。

判例分抜粋

「被告人は、自宅の中で隣家に最も近い位置にある台所の隣家に面した窓の一部を開け、窓際及びその付近にラジオ及び複数の目覚まし時計を置き、約1年半の間にわたり、隣家の被害者らに向けて、精神的ストレスによる障害を生じさせるかもしれないことを認識しながら、連日朝から深夜ないし翌未明まで、上記ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、同人に精神的ストレスを与え、よって、同人に全治不詳の慢性頭痛症、睡眠障害、耳鳴り症の傷害を負わせたというのである。

以上のような事実関係の下において、被告人の行為が傷害罪の実行行為に当たるとして、同罪の成立を認めた原判断は正当である」と判断しています(最高裁判所平成17年3月29日決定)。

弁護士の見解

第一審判決は、「被告人は、少なくとも、判示のとおり被害者が精神的ストレスを負ってその身体に障害が生じる可能性があることを認識しつつ、あえて判示行為に及んだと認めるのが相当であり、被告人には被害者に対する傷害罪の未必の故意があったものというべきである」とし、第二審・本決定もこの判断を是認しています。

ここでは、被告人による犯行の態様、被告人に対する家族の反対や警察官の警告、被告人と被害者の間に存在した確執、また社会通念上、騒音行為による精神的ストレスが様々な心身の疾患を生じさせるのは顕著なことであることが考慮されたうえで、「未必の故意」が認定されています。

②未必の故意により不作為による殺人罪が認められた判例

事案の概要

この事案は、重篤な患者の親族から患者に対する「シャクティ治療」を依頼された被告人が、入院中の患者を病院から運び出させたうえ、未必的な殺意をもって、患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせないまま放置して死亡させたとして、不作為による殺人罪に問われた事例です。

判例分抜粋

「被告人は、自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上、患者が運び込まれたホテルにおいて、被告人を信奉する患者の親族から、重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際、被告人は、患者の重篤な状態を認識し、これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、上記医療措置を受けさせないまま放置して患者を死亡させた被告人には、不作為による殺人罪が成立し、殺意のない患者の親族との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となると解するのが相当である」と判示しています(最高裁判所平成17年7月4日決定)。

弁護士の見解

本件は、いわゆる「シャクティ治療殺人事件」と呼ばれている著名な事件で、不真正不作為犯による殺人罪の成立を肯定した最初の判例です。

本件では以下の事実が認定されています。

  • 手の平で患者の患部をたたいてエネルギーを患者に通すことにより自己治癒力を高めるというシャクティ治療を施す特別の能力を持つなどとして信奉者を集めていた
  • 被告人の信奉者の被害者は、脳内出血で倒れて入院し、生命に危険はないものの、数週間の治療を要し回復後も後遺症が見込まれていたことから、後遺症を残さずに回復できることを期待して、シャクティ治療を被告人に依頼した
  • 主治医の警告や、その許可を得てから被害者を運ぼうとする家族の意図を知りながら、指示して、なお点滴等の医療措置が必要な状態にあるAを入院中の病院から運び出させて生命に具体的な危険を生じさせた
  • 被告人は、被害者の容態を見て、そのままでは死亡する危険があることを認識したが、指示の誤りが露呈することを避ける必要などから、シャクティ治療を施すにとどまり、痰の除去や水分の点滴等Aの生命維持のために必要な医療措置を受けさせないまま約1日の間放置し、痰による気道閉塞に基づく窒息によりAを死亡させた

以上のような本件では、被告人の殺意の認定が事実認定上の問題となり、どの段階における殺意を認定するかによって、理論構成が異なってきます。

第二審や最高裁は、被告人がホテルに連れ込まれた被害者の様子を自ら認識する以前に殺意があったとすることには合理的疑いが残るとしています。

上記事実認定を前提にした場合には、被告人がホテルに運び込まれた被害者の様子を認識した以降の不作為の実行行為が問題となり、被告人の当該不作為に殺人の未必の故意を認めるとともに、生命維持のために必要な医療措置を受けさせなかったことを実行行為として捉え、殺人罪の不真正不作為犯の成立を肯定しました。

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