傷害致死の有名判例を弁護士が解説

①無関係な第三者の暴行が介在していても被告人の傷害致死罪が肯定された判例

事案の概要

この事案は、被告人の暴行行為と被害者の死亡の間に、無関係な第三者による暴行行為が介在していたという事案です。

被告人は、自己の営む飯場において、洗面器の底や皮バンドを使って被害者の頭部等を多数回殴打するなどの暴行を加えました。その結果、恐怖心による心理的圧迫等によって被害者の血圧を上昇させ、内因性高血圧性橋脳出血を発生させて意職消失状態に陥らせた後、被害者を建材会社の資材置場まで自動車で運搬し、同所に放置して立ち去りました。

その結果、被害者は翌日未明、内因性高血圧性橋脳出血により死亡しました。

しかし、資材置場にうつ伏せの状態で倒れていた被害者は、その生存中に何者かによって角材でその頭頂部を数回殴打されおり、その暴行は既に発生していた内因性高血圧性橋脳出血を拡大させ、幾分か死期を早める影響を与えるものであったという事情が存在していました。

判例分抜粋

「このように、犯人の暴行により被害者死因となった傷害が形成された場合には、仮にその後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、犯人の暴行と被害の死亡との間の因果関係を肯定することができ、本件において傷害致死罪の成立を認めた原判断は、正当である」と判断され、被告人には傷害致死罪の成立が認められました(最高裁判所平成2年11月20日決定)。

弁護士の見解

この事案は、「大阪南港事件」といい、傷害致死事件をベースに刑法上の因果関係の考え方を示した重要な判例です。

本件では、被告人が暴行・傷害を行った後に、第三者による暴行が行われ被害者が死亡しています。そのため、被告人の暴行と被害者の死亡という結果との間に因果関係が認められるのかが問題となります。

仮に因果関係が認められなかった場合には、被告人は致死結果について責任を負わず傷害罪の罪責を負うにとどまります。

これについて、被告人の暴行により被害者の死因となった傷害が形成された場合には、その後第三者により加えられた暴行によって死期が早められたとしても、被告人の暴行と被害者の死亡との間には因果関係があると判断されています。

被告人の暴行行為に内在している被害者の死亡という危険性に現実化したといえる場合には、死亡結果について因果関係を肯定できると考えることができます(このような考え方を因果関係いおける「危険の現実化」論などといいます)。

したがって、このような考え方を前提とすると、本件の被告人には傷害致死罪が成立することになるのです。

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②統合失調症の影響下でおこなった傷害致死で責任能力が問題となった判例

事案の概要

この事案は、長年統合失調症を患っていた被告人は、元雇用主である被害者らが頭の中に頻繁に出てくる幻視・幻聴に悩まされていました。

ある日、被害者が頭の中に現れ「仕事に来い。電話しろ。」という声が聞こえ、同人に対する腹立ちが収まらなかったため、殴って脅して自分をばかにするのをやめさせようなどと考えて被害者の店に出向きました。

そして被告人は同店内で被害者の顔面を数発殴ったうえ、店外に逃げ出す被害者を追いかけ路上でさらにその顔面を殴りつけ、太もも付近を足で蹴りました。このような被告人による一連の暴行の結果、被害者は外傷性くも膜下出血で死亡したしまいます。

被告人は傷害致死罪で起訴されましたが、犯行時の責任能力の有無が問題となったのです。

判例分抜粋

「生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度については、その診断が臨床精神医学の本分であることにかんがみれば、専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には、鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり、鑑定の前提条件に問題があったりするなど、これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り、その意見を十分に尊重して認定すべきものというべきである・・・被告人が犯行当時統合失調症にり患していたからといって、そのことだけで直ちに被告人が心神喪失の状態にあったとされるものではなく、その責任能力の有無・程度は、被告人の犯行当時の病状、犯行前の生活状態、犯行の動機・態様等を総合して判定すべきである・・・そうすると、統合失調症の幻覚妄想の強い影響下で行われた本件行為について、原判決の説示する事情があるからといって、そのことのみによって、その行為当時、被告人が事物の理非善悪を弁識する能力又はこの弁識に従って行動する能力を全く欠いていたのではなく、心神耗弱にとどまっていたと認めることは困難であるといわざるを得ない。・・・被告人が心神耗弱の状態にあったとして限定責任能力の限度で傷害致死罪の成立を認めた原判決は、被告人の責任能力に関する証拠の評価を誤った違法があり、ひいては事実を誤認したものといわざるを得ない。これが判決に影響することは明らかであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる」と判示し、破棄差し戻しの判断をしました(最高裁判所平成20年4月25日判決)。

弁護士の見解

本判決は、精神鑑定の信用性について法律判断の前提となる生物学的要素・心理学的要素に与えた影響については、専門家である精神医学者の鑑定を「十分に尊重すべきである」という指針を示しました。

そのうえで、統合失調症にり患した者の責任能力の判断については従来の判例が示した諸事情の総合判断という枠組みについては維持しています。

本判例では、「幻覚妄想の影響下で、被告人は、本件行為時、前提事実の認識能力にも問題があったことがうかがわれるのであり、被告人が、本件行為が犯罪であることも認識していたり、記憶を保っていたりしても、これをもって、事理の弁識をなし得る能力を、実質を備えたものとして有していたと直ちに評価できるかは疑問である」として、弁識能力を実質的には備えていなかったものと判断していることは非常に重要なポイントです。

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