暴行罪と傷害罪の違いは?どこから成立?構成要件や罰則を解説

ケンカなどで人を殴ったり蹴ったりすると「暴行罪」や「傷害罪」が成立します。

しかしここで、

「暴行罪と傷害罪はなにが違うの?」

このような疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

簡単に言いますと、暴行罪とは、人に暴行を加えたがその人が傷害を負わなかった場合に成立する犯罪です。他方で、暴行の結果、人が傷害を負った場合には傷害罪が成立します。つまり、暴行行為により傷害の結果が生じたか否かが両罪の大きな違いとなります

もっともその他にも、両罪はその成立要件や罰則などで大きな違いがあります。

そこでこの記事では、

  • 暴行罪や傷害罪とは
  • 暴行罪や傷害罪はどこから成立するのか(成立要件)
  • 暴行罪と傷害罪の違い

などについて、暴行・傷害事件に強い弁護士がわかりやすく解説していきます。

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暴行罪とは?

暴行罪とは、人に対して暴行を加えたが、その人に傷害が生じなかった場合に成立する犯罪です(刑法第208条)。

(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

刑法 | e-Gov法令検索

構成要件(成立要件)

暴行罪の構成要件(成立要件)は以下の3つです。

  • ① 暴行
  • ② 傷害するに至らないこと
  • ③ 故意

①暴行

暴行とは人の身体に対する不法な有形力(物理的な力)の行使をいいます。

たとえば、「殴る、蹴る、叩く、肩を押す、押し倒す、引っ張る、絞める、揺らす、突き飛ばす」など、直接人の身体に触れる行為が典型です。

また、人の身体に「対する」行為であれば暴行なわけですから、

  • 狭い室内で刃物を振り回す
  • 物を投げつける(当たらない)
  • 人の数歩手前に物を落下させる
  • 煽り運転、車の幅寄せ

など、直接人の身体に触れない間接的な行為も暴行にあたります(これを「間接暴行」といいます)。

また、光、音、熱、電気などのエネルギーを行使した場合も「暴行」にあたるとされた判例もあります。室内で太鼓を連打して被害者の意識を朦朧とさせた事案(最高裁判例昭和29年8月20日)、人の耳元で拡声器で大声を出した事案(大阪地裁昭和42年5月13日)につき、判例ではそれらの行為が「暴行」にあたると判示しています。

さらに、傷害の危険が伴わない行為であっても暴行にあたります。例えば、胸倉をつかむ、唾をかける、水をかける、塩を振りかけるといった、通常であれば人が負傷しないような行為も暴行に該当します。過去には、人の髪の毛を切ったことで暴行罪が成立した例もあります(大判明治45年6月20日)。

他方で、侮辱的発言で人に精神的苦痛を与える行為は有形力の行使とはいえないため暴行にあたりません。また、(違法な目的ではなく)人の体に軽く触れただけのように極めて軽微な接触行為も暴行にあたりません。

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②傷害するに至らないこと

暴行の結果、傷害するに至らないことが暴行罪の成立要件の一つです。

傷害とはなにかについては後述しますが、一般的には打撲、骨折などのいわゆる怪我が傷害にあたることが多いでしょう。つまり基本的には、暴行罪は被害者が怪我をしないことを前提に成立する犯罪といえます。被害者が怪我をすれば後述する傷害罪が成立します。

③故意

故意とは罪を犯す意思のことです。具体的には、犯罪事実を認識することです。暴行罪の故意でいえば、わざと暴行を加えるという認識・認容(暴行を加えてもかまわないという意図)があることです。

これに対して、不注意による行為、すなわち暴行の認識・認容を欠く行為を過失といいます。たとえば、誰もいないと思ってボールを投げたところ、たまたま近くを通りかかった人に当ててしまったという場合です。過失による暴行は法律に規定されておらず処罰されません。

刑罰

暴行罪の罰則は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。

実務上、暴行罪で拘留(1日以上30日未満の間、刑事施設に収容される刑罰)、科料(1万円未満のお金を国に納付しなければならない刑罰)が科されることはなく、懲役か罰金かのいずれかがほとんどです。

なお、暴行罪に未遂規定はありませんので、暴行の未遂で処罰されることはありません。例えば、誰かを突き飛ばそうとした直前に第三者に制止された場合には罪に問われることはないとうことです。

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傷害罪とは?

傷害罪とは、人の身体を傷害する犯罪です(刑法第204条)。

(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

刑法 | e-Gov法令検索

構成要件(成立要件)

傷害罪の構成要件は以下の4つです。

  • ① 暴行
  • ② 傷害の結果が生じたこと
  • ③ 暴行と傷害との間の因果関係
  • ④ 故意

①暴行

暴行とは、暴行罪の成立要件の箇所でお伝えした通りです。

ただし、刑法204条では「人の身体を傷害した者は~」と規定しており、傷害を生じさせる方法を暴行に限定していません。そのため、有形的方法である暴行のみならず無形的方法または不作為でも傷害罪の傷害行為にあたる可能性があります

無形的方法または不作為による傷害を認めた判例としては以下のようなものがあります。

  • 連日深夜にわたり、ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、被害者に慢性頭痛症、睡眠障害などの傷害を負わせた事案(最高裁判所平成17年3月29日)
  • 性病を感染させる恐れがあることを認識しながらそれを秘して性行為に及び相手を性病に感染させた事案(最高裁判所昭和27年6月6日)
  • 深夜の無言電話などを長期間に渡り繰り返し被害者を精神衰弱症に罹患させた事案(東京地方裁判所昭和54年8月10日)
  • 不法に被害者を監禁したことにより被害者が外傷後ストレス障害を発症させた事案(最高裁判所平成24年7月24日)

②傷害の結果が生じたこと

傷害罪が成立するには、人に傷害の結果が生じることが必要です。

傷害の意味については、以下の3つの学説が対立しています。

  • 生理機能障害説:人の生理機能に障害を与えること、又は人の健康状態を不良に変更すること
  • 完全性侵害説:人の身体の完全性を害すること
  • 折衷説:生理機能に障害を与えること、又は身体の外貌に重要な変化を加えること

    この点、判例・裁判例の立場も明確ではありませんが、実務では、生理機能障害説に立って処理されていると考えられています。

    したがって、一般に「怪我」といわれる、

    • 挫傷
    • 捻挫
    • 打撲・打撲傷
    • 挫創
    • 切創
    • 骨折

      などが傷害にあたることはもちろん、前述した、

      • 頭痛症
      • 睡眠障害
      • 耳鳴り症
      • めまい
      • 嘔吐
      • 中毒症
      • 心的外傷後ストレス障害(PTSD)

        なども傷害にあたる可能性があります。

        ③暴行と傷害との因果関係

        傷害罪が成立するためには、暴行がなければ傷害が発生することはなかったという関係が必要です。そのため、暴行と因果関係のない傷害が発生したにすぎない場合は、傷害罪ではなく暴行罪にとどまる可能性が高いです。

        ④故意

        傷害罪が成立する場合は、通常、暴行→傷害という経過をたどりますが、傷害罪の故意は暴行の認識で足り、傷害までの認識は不要と解されています。「怪我させてやろう」というまでの認識は不要ということです。

        このように暴行という基本的行為の認識があれば足り、傷害という結果までの認識を不要とする犯罪を結果的加重犯といいます。同じ結果的加重犯としては傷害致死罪(刑法205条)があります。傷害致死罪も、暴行あるいは傷害行為に関する認識があれば足り、死亡という結果を発生させることまでの認識を不要とする犯罪です(死亡までの認識がある場合は傷害致死罪ではなく殺人罪(刑法199条)に問われます)。

        以上のように、傷害罪は故意犯ですが、暴行罪と異なり過失犯(過失傷害罪(刑法209条))も規定されています。

        刑罰

        傷害罪の罰則は「15年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。

        なお、傷害罪も暴行罪と同様に未遂規定はありませんが、傷害の故意で暴行し、傷害の結果が生じなかった場合には暴行罪が成立しますので、実質的には暴行罪が傷害罪の未遂規定としての地位を有しています。つまり、暴行罪と違い、傷害罪の未遂は処罰される可能性があるということです。

        暴行罪と傷害罪の違いのまとめ

        暴行罪と傷害罪は、以下のように、成立要件と罰則に違いがあります。

         暴行罪(刑法208条)傷害罪(刑法204条)
        成立要件の違い暴行により人を傷害しなかった場合に成立暴行により人を傷害した場合に成立
        罰則の違い2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料15年以下の懲役又は50万円以下の罰金

        このように暴行罪と傷害罪には違いがありますが、両罪とも逮捕されると起訴・不起訴が決定するまで最大23日間身柄拘束されます。学校や職場に通われている方にとっては大きな影響があるでしょう。また、起訴されて有罪となれば執行猶予付き判決となっても前科がついてしまいます。

        逮捕の回避や不起訴を狙うのであれば、被害者との示談成立が最も重要です。ただし、暴行・傷害の被害者が加害者と直接の示談交渉に応じないケースも多いため、刑事事件に強い弁護士に相談し、弁護活動を依頼することをお勧めします。

        当事務所では、暴行・傷害事件の示談交渉、逮捕の回避、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますのでまずはご相談ください。お力になれると思います。

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