
暴行罪と傷害罪の違いは、相手に傷害(怪我や健康状態の悪化)の結果が生じたかどうかです。傷害が生じなければ暴行罪、生じれば傷害罪となり、拘禁刑の上限は2年と15年で7倍以上違います。
「自分のしたことはどちらになるのだろう」「相手に怪我をさせる気はなかったのに、なぜ傷害罪になるのか」と気にかかっている方もいるのではないでしょうか。
この記事では、暴行・傷害事件に強い弁護士が、次の点を解説します。
- 両罪を分ける「傷害の結果」と診断書の扱い
- 暴行罪・傷害罪それぞれの成立要件と法定刑
- どちらが重いのか、量刑・逮捕・示談金の実際
お読みいただくことで、ご自身のケースがどちらの罪にあたるのか、次に何をすべきかを整理できます。
なお、暴行・傷害事件でお悩みの方は、この記事をお読みいただいた後、当事務所の無料相談へお気軽にご連絡ください。地域を問わずお受けしています。
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暴行罪と傷害罪の違いは「傷害の結果が生じたか」
暴行罪と傷害罪を分ける基準は、加えた行為そのものではなく、その結果として相手に傷害が生じたかどうかの一点にあります。まずは違いを一覧で確認してください。
| 暴行罪(刑法208条) | 傷害罪(刑法204条) | |
| 成立する場面 | 暴行を加えたが、相手が怪我をしなかったとき | 人の身体を傷害したとき |
| 法定刑 | 2年以下の拘禁刑/30万円以下の罰金/拘留/科料 | 15年以下の拘禁刑/50万円以下の罰金 |
| 必要な故意 | 暴行を加えることの認識 | 暴行によるものなら暴行の認識で足りる |
| 未遂の処罰 | 未遂を処罰する規定なし | 未遂を処罰する規定なし(暴行罪が成立) |
| 実務上の分かれ目 | 診断書が提出されないケースが多い | 医師の診断書で傷害の結果が裏づけられる |
同じように相手を殴っても、無傷なら暴行罪、怪我を負わせれば傷害罪となり、問われる罪の重さに大きな違いが出てきます。分かれ目は結果であって、加害者の意図ではありません。怪我をさせるつもりがなくても、殴った結果として相手が骨折すれば傷害罪です。逆に、怪我をさせるつもりで殴ったが相手が無傷だったなら暴行罪にとどまります。
両罪を分ける「生理的機能の障害」とは
刑法は「傷害」の意味を条文で定義していません。判例・通説は、人の生理的機能に障害を与えることが傷害だと解しています(大判明治45年6月20日)。
難しく聞こえますが、要するに「健康な状態に異常が生じたかどうか」ということです。打撲や切り傷、骨折のように外から見える怪我はもちろん、外傷がなくても、次のような症状が傷害と判断されることもあります。
- 中毒症状
- めまい、嘔吐
- 耳鳴り
- 睡眠障害、慢性頭痛症
- 病気の感染
- うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患
出血や腫れが見えなくても、被害者が体調を崩したり精神疾患を発症したりすれば、暴行罪にとどまらず傷害罪が成立する余地があるということです。
実務では医師の診断書が分かれ目になる
理屈のうえでは「生理的機能に障害が生じたか」で決まりますが、捜査の現場でその有無を裏づけるのは、多くの場合被害者が医療機関で受け取った診断書です。
被害者が病院で「全治◯週間」と記された診断書を受け取り、それが警察へ提出されると、傷害の結果があったことの裏づけになります。反対に、被害者が受診しないまま終われば、罪名は暴行罪のままとどまりやすくなります。
とはいえ、診断書がないことが暴行罪の確定を意味するわけではありません。被害者の供述や現場の状況から傷害が認定されることもありますし、事件当日は痛みがなくても数日後の受診で骨折が見つかるなどして、罪名が途中から傷害罪へ変わることもあります。
暴行罪とは?成立要件と法定刑
暴行罪とは、人に対して暴行を加えたが、その人に傷害が生じなかった場合に成立する犯罪です(刑法208条)。
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
出典:e-Gov法令検索
※2025年6月1日施行の改正刑法により、従来の「懲役」と「禁錮」は「拘禁刑」に一本化されました。本記事の法定刑の記載は改正後の内容です。
暴行罪の成立要件(構成要件)
暴行罪の成立要件(構成要件)は以下の3つです。
- ① 暴行
- ② 傷害するに至らないこと
- ③ 故意
①暴行
暴行とは人の身体に対する不法な有形力(物理的な力)の行使をいいます。殴る、蹴る、叩く、肩を押す、引っ張る、絞める、突き飛ばすなど、直接人の身体に触れる行為が典型です。
もっとも、暴行は人の身体に「対する」行為であれば足り、相手に触れる必要はありません。狭い室内で刃物を振り回す、物を投げつけたが当たらない、人の数歩手前を狙って石を投げるといった行為も暴行にあたります。こうした身体に接触しない暴行や、物に加えた有形力が人に及ぶ「間接暴行」が問題になった裁判例は「暴行罪の有名判例を弁護士が解説」で個別に紹介しています。
光、音、熱、電気などのエネルギーを人に及ぼした場合も暴行にあたるとされています。室内で太鼓を連打した事案(最高裁昭和29年8月20日)、耳元で拡声器を使って大声を出した事案(大阪地裁昭和42年5月13日)が、その例です。
さらに、傷害の危険が伴わない行為であっても暴行にあたります。胸倉をつかむ、唾をかける、水をかける、塩を振りかけるといった、通常であれば人が負傷しないような行為も該当します。過去には、人の髪の毛を切った行為について、傷害罪ではなく暴行罪の成立を認めた古い判例もあります。
他方で、侮辱的発言で精神的苦痛を与えるだけでは有形力の行使とはいえず、暴行にあたりません。満員電車で肩が触れる程度の、社会生活上やむを得ない接触も同様です。成立するケースとしないケースの線引きは「触れるだけで暴行罪になる?暴行罪にならないケースは?」で解説しています。
②傷害するに至らないこと
暴行の結果、傷害するに至らないことが暴行罪の成立要件の一つです。暴行罪は、被害者が怪我をしていないことを前提に成立する犯罪といえます。被害者が怪我をすれば、原則として後述する傷害罪が成立します。
③故意
故意とは罪を犯す意思、具体的には犯罪事実の認識をいいます。暴行罪でいえば、わざと暴行を加えるという認識・認容(暴行を加えてもかまわないという意識)があることです。
これに対して、不注意による行為、すなわち暴行の認識・認容を欠く行為を過失といいます。誰もいないと思ってボールを投げたところ、通りかかった人に当ててしまったという場合です。過失による暴行を処罰する規定は刑法にないため、過失であれば暴行罪には問われません。もっとも、相手が怪我をした場合は過失傷害罪(刑法209条)が成立しうるため、過失なら何も問われないというわけではありません。
暴行罪の法定刑
暴行罪に定められた刑は、2年以下の拘禁刑/30万円以下の罰金/拘留/科料の4種類で、このいずれかが選ばれます。
拘留は1日以上30日未満の期間、刑事施設に拘置される刑罰(刑法16条)、科料は1,000円以上1万円未満の金銭を納付する刑罰(刑法17条)です。もっとも実務上は、拘禁刑か罰金のいずれかがほとんどです。
なお、暴行罪には未遂を処罰する規定がなく、そもそも暴行に着手していなければ成立しません。もっとも、前述のとおり相手に触れていなくても暴行は成立しうるので、相手に向けて手を出した時点で既に暴行罪が成立していることもあります。暴行罪に未遂の規定がない理由は「暴行罪に未遂はありません」で確認できます。
傷害罪とは?成立要件と法定刑
傷害罪は、人の身体に傷害を負わせた場合に問われる犯罪です(刑法204条)。
(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
出典:e-Gov法令検索
傷害罪の成立要件(構成要件)
傷害罪の成立要件(構成要件)は以下の4つです。
- ① 傷害の実行行為
- ② 傷害の結果が生じたこと
- ③ 実行行為と傷害との間の因果関係
- ④ 故意
①傷害の実行行為
典型は、暴行罪のところでお伝えした暴行です。ただし刑法204条は「人の身体を傷害した者は~」と規定するのみで、傷害を生じさせる方法を暴行に限定していません。そのため、有形的方法である暴行のみならず、無形的方法または不作為でも傷害罪の実行行為にあたる可能性があります。
暴行を直接の手段としない行為や、外から見える怪我を伴わない事案でも傷害が認められた判例としては、以下のようなものがあります。
- 連日深夜にわたり、ラジオの音声及び目覚まし時計のアラーム音を大音量で鳴らし続けるなどして、被害者に慢性頭痛症、睡眠障害などの傷害を負わせた事案(最高裁判所平成17年3月29日)
- 性病を感染させる恐れがあることを認識しながらそれを秘して性行為に及び、相手を性病に感染させた事案(最高裁判所昭和27年6月6日)
- 深夜の無言電話などを長期間に渡り繰り返し、被害者を精神衰弱症に罹患させた事案(東京地方裁判所昭和54年8月10日)
- 不法に被害者を監禁したことにより、被害者が外傷後ストレス障害を発症した事案(最高裁判所平成24年7月24日)
②傷害の結果が生じたこと
傷害罪では、人に傷害の結果が生じていなければ罪は成立しません。
傷害にあたるかどうかは、前述のとおり実務では生理的機能障害説で処理されていると考えられています。挫傷・捻挫・打撲・挫創・切創・骨折といった一般に「怪我」といわれるものはもちろん、前述した中毒症状・めまい・耳鳴り・睡眠障害・慢性頭痛症・PTSDなども含まれます。怪我の程度ごとの示談金の目安は「傷害事件の示談金相場を全治別に解説|示談書テンプレート付き」で紹介しています。
③実行行為と傷害との因果関係
その行為がなければ傷害が生じなかったという関係も必要です。たとえば、肩を押した相手がその場では無傷で、帰り道に自分で転んで骨折したような場合、怪我は押した行為から生じたものとはいえず、傷害罪ではなく暴行罪にとどまる可能性が高くなります。
④故意
傷害罪が成立する場合は、通常、暴行から傷害へという経過をたどります。この場合、傷害罪の故意は暴行の認識で足り、傷害までの認識は不要と解されています。「怪我をさせてやろう」というまでの認識は不要ということです。
このように基本的行為の認識があれば足り、重い結果までの認識を不要とする犯罪を結果的加重犯といいます。同じ結果的加重犯としては傷害致死罪(刑法205条)があります(死亡までの認識がある場合は殺人罪(刑法199条)に問われます)。傷害致死罪の量刑や執行猶予の可否は「傷害致死罪の量刑相場は?執行猶予はつく?殺人との違いも解説」でまとめています。なお傷害罪は故意犯ですが、暴行罪と異なり、過失犯として過失傷害罪(刑法209条)も規定されています。
傷害罪の法定刑
傷害罪に定められた刑は、15年以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金です。
なお、傷害罪にも未遂の処罰規定は置かれていませんが、傷害の故意で暴行し、傷害の結果が生じなかった場合には暴行罪が成立します。そのため、実質的には暴行罪が傷害罪の未遂を処罰する役割を担っています。
暴行罪と傷害罪はどちらが重い?量刑と処分の傾向
法定刑の違いは、拘禁刑の上限にはっきり表れます。暴行罪の2年に対して傷害罪は15年で、7倍以上の開きがあります。
もっとも、実際の処分が法定刑の上限で決まるわけではありません。暴行の態様や悪質性、傷害の程度、動機、示談の有無、前科の有無といった事情を総合して判断されます。傷害罪の量刑相場や、実刑と執行猶予の分かれ目は「傷害罪の懲役の目安は?量刑相場と実刑・執行猶予の判断基準」で具体的に整理しています。
なお、暴行事件・傷害事件では、その場で現行犯逮捕されることも、後日逮捕状に基づいて逮捕されることもありますが、逃亡や証拠隠滅のおそれが低ければ、逮捕されずに在宅のまま捜査が進むこともあります。逮捕された場合は、留置の必要があると判断されれば48時間以内に検察官へ送致され(刑事訴訟法203条1項)、その後の勾留とあわせて、処分が決まるまで最大23日間にわたって身柄を拘束される可能性があります。逮捕後の具体的な流れは「暴行罪で逮捕されたら?逮捕後の流れや刑罰を解説」で詳しく解説しています。
暴行罪の処分の傾向
暴行罪は、刑法が定める犯罪の中でも比較的軽い部類に位置します。初犯で、被害弁償や示談といった有利な事情がそろえば、不起訴で終わることも少なくありません。起訴された場合も、正式な裁判ではなく略式手続による罰金で終わることが多くなります。
ただし、態様が悪質な場合や暴行を繰り返して前科・前歴がある場合には、正式に起訴され、有罪となって拘禁刑が言い渡されることもあります。初犯の量刑や罰金の相場については「暴行罪の初犯はどうなる?罰金の相場と拘禁刑になるケース」もあわせてご確認ください。
傷害罪の処分の傾向
傷害罪では、被害者の傷害の程度によって処分の重さに大きな違いが出ます。相手が軽傷で、示談が成立していれば不起訴で終わることも珍しくありません。不起訴の考慮要素や示談の進め方は「傷害罪で不起訴になるには?起訴率と示談なしの対処法」を参考にしてください。
一方、後遺症が残るような大怪我を負わせてしまった場合には、正式裁判となり拘禁刑が選択される可能性が上がります。ここで、言い渡される拘禁刑が3年を超えると、執行猶予(一定期間、刑の執行を猶予する制度)を付けることができません(刑法25条1項)。
示談金の相場と、示談が処分に与える影響
示談が成立していることは、検察官が起訴するかどうかを判断するときにも、裁判官が量刑を決めるときにも、加害者に有利な事情として考慮されます。
示談金の額は当事者の協議で決まるもので、公的な統計はありません。各法律事務所が公表している目安を総合すると、おおむね次のようなレンジで語られています。
| ケース | 示談金の目安 |
| 暴行罪(怪我なし) | 10万円〜30万円程度 |
| 傷害罪(怪我あり) | 10万円〜100万円程度 |
| 傷害罪(重傷・後遺症あり) | 100万円を超えることもある |
暴行罪では被害者に怪我がないため治療費は発生せず、精神的な損害に対する慰謝料が中心になります。傷害罪では慰謝料に加えて治療費・休業損害・後遺症に対する賠償が加わるため、怪我が重いほど金額は膨らみます。
表の金額はあくまで目安であり、被害者の処罰感情や事案の悪質性によって上下します。金額の決まり方や示談の進め方は「暴行罪の示談金・慰謝料の相場は?金額の決まり方も解説」で解説しています。
暴行罪・傷害罪でお悩みの方は弁護士にご相談ください
暴行罪と傷害罪の違いは傷害の結果が生じたかどうかにあり、法定刑にも大きな差があります。どちらの罪であっても、逮捕されれば最大23日間身柄を拘束され、起訴されて有罪になれば前科がつきます。
こうしたリスクを避けるには、できるだけ早い段階で被害者と示談をまとめておくことが重要です。しかし暴行・傷害事件では、被害者の怒りや恐怖心から、加害者本人との直接交渉に応じてもらえないことも少なくありません。弁護士が間に入ることで交渉が進みやすくなり、不起訴処分の獲得につながる可能性が高まります。
「相手に怪我をさせてしまったかもしれない」「警察から連絡が来ている」といった不安を抱えている方は、おひとりで悩まず、できるだけ早く弁護士にご相談ください。時間が経つほど、示談をまとめられる余地は狭まっていきます。
当事務所は、暴行・傷害事件の示談交渉と不起訴の獲得に多くの実績があります。依頼者の不利益を最小限に抑えるため弁護士が迅速に動き、全力を尽くして守ります。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
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この記事の監修者
刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

