放置自転車が占有離脱物であるとされた判例
この事案は、被告人が拾ったA所有の自転車に対して窃盗罪が成立するのか、占有離脱物横領罪が成立するのかについて争われた事案です。
この事例では以下のような事実が認定されています。
- 所有者Aは酩酊のため路上に自転車を放置して立ち去った
- 交番に届け出たが酔っているため相手にされなかった
- Aは結局自転車を放置してそのまま帰宅した
自転車についてAの占有が及んでいるのであれば被告人には刑罰の重い窃盗罪が成立することになり、占有離脱物であれば刑罰の軽い占有離脱物横領罪が成立することになります。
これに対して裁判所は、「自転車は、Aが前記場所にこれを放置してその場を立去つた際、Aの事実上の支配を離れたものと認めるのが相当であり、その時から数時間を経て、前記のようにこれを発見拾得し、不法領得の意思をもつてこれを持ち去つた被告人の前記所為は、占有離脱物横領罪を構成し、窃盗罪は成立しない」と判示しています(東京高等裁判所昭和36年8月8日判例)。
なお、この事件で被告人は、窃盗罪の公訴事実で起訴されていましたが、窃盗の犯罪事実と占有離脱物横領の犯罪事実は公訴事実が同じであり、被告人の防御に何ら不利益を与えるものではないとして、窃盗罪から占有離脱物横領罪への訴因変更の手続きは不要であると判断されています。
飼い主の支配下から出た飼い犬が占有離脱物と認められた判例
この事例は、被告人が近所に居住するAが飼育中の犬が、B方居宅内に入ってきたところ、Bとその犬を捕まえ殺してその肉を食べることを共謀し、犬を捕えて殺したうえでその肉を食用に供したという事件です。
この事例では、飼犬が所有者の事実上の支配を及ぶ地域外に出遊した場合に、所有者の占有が及ぶのか、占有離脱物にあたるのかが争われました。
「判示猟犬は所有者Cによつて8年間も飼育訓練され、毎日運動のため放してやると夕方には同家の庭に帰つて来ていたことが認められ・・・、このように、養い訓らされた犬が、時に所有者の事実上の支配を及ぼし得べき地域外に出遊することがあつても、その習性として飼育者の許に帰来するのを常としているものは、特段の事情の生じないかぎり、直ちに飼育者の所持を離れたものであると認めることはできない」と判示し、被告人には占有離脱物横領罪ではなく窃盗罪の成立が認められました(最高裁判所昭和32年7月16日判決)。
飼育・訓練された動物については、「習性として飼育者の許に帰来するのを常としている」か否かという点が、所有者の占有の判断にとって重要な考慮要素となります。
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