
着服と横領の違いは、法律用語かどうかにあります。横領は刑法に罪名として定められた言葉ですが、着服は法律上の用語ではありません。報道や日常会話で使われる、一般的な言い方です。
刑法に「着服罪」はないものの、他人のお金や物を自分のものにする行為は、預かっていたかどうかによって、横領罪や窃盗罪などで処罰される可能性があります。
「会社のお金に手をつけてしまったが、何の罪になるのだろう」「返せば許してもらえるのか」と不安を抱えている方もいるかもしれません。会社のお金を使い込むと、業務上横領罪にあたる可能性があり、全額を返しても刑事責任までは消えません。ただし、発覚した後に早く動けば、刑事事件になるのを防げることもあります。
この記事では、横領事件の解決実績が豊富な弁護士が、次の点について解説します。
- 着服と横領・窃盗はどう違うのか
- どんな罪に問われ、時効は何年か
- 会社に発覚したら何が起きるのか
- 返済・示談で解決するには何ができるのか
お読みいただくことで、ご自身の行為がどの罪にあたりうるのかを見きわめ、発覚した後に何をすべきかを判断できます。
なお、着服・横領についてお悩みの方は、この記事をお読みいただいた後、当事務所の無料相談へお気軽にご連絡ください。地域を問わずご相談を承っています。
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着服とは?横領・窃盗との違い
「着服」と「横領」は同じような場面で使われますが、言葉としての性格には違いがあります。まずそれぞれの意味を確認し、混同されやすい窃盗との区別まで整理します。
着服の意味
着服(ちゃくふく)とは、他人のお金や物を、不正にこっそり自分のものにしてしまうことです。「使い込み」「私的流用」「拐帯(かいたい:預かったお金を持ち逃げすること)」も、着服とほぼ同じ場面で使われる言葉です。着服という言葉は、報道などでは「会社のお金を着服した」のように用いられますが、法律用語ではありません。
刑法に「着服罪」はなく、着服にあたる行為は、状況に応じて横領罪や窃盗罪などの罪に問われます。
着服と呼ばれる行為には、たとえば次のようなものがあります。
- 集金した売上金を会社に納めず、自分の生活費に使う
- 顧客から預かったお金を、自分の口座に移して使う
- 会社の備品や商品を持ち帰り、売ってお金にする
なお、経費を水増しして請求し、会社をだましてお金を受け取った場合は、横領罪ではなく詐欺罪になることがあります。
横領の意味
横領は、刑法に定められた法律用語です。自分が預かって管理している他人の物を、持ち主に無断で自分のものにすることをいい、条文では「自己の占有する他人の物を横領した」と表されています。
ここでいう「占有」とは、その物を保管・管理している状態のことです。経理担当者が会社から管理を任されている預金や、友人から借りている品物などは、それを預かっている人にとって「自己の占有する他人の物」にあたります。会社の商品や備品も、同じように横領の対象になります。横領罪には、単純横領罪・業務上横領罪と、落とし物など持ち主の管理から離れた物を対象とする遺失物等横領罪の3つの類型があり、それぞれの罰則は次の章で解説します。横領罪の成立要件や各類型の違いをさらに詳しく知りたい方は「横領罪とは?3つの種類と構成要件・罰則を解説」もあわせてご確認ください。
預かっている物を自分のものにするのではなく、任された仕事に背いて会社などに損害を与えた場合は、背任罪という別の罪が問題になります。
着服と横領の違い
ここまで見てきたように、着服と横領の違いは、着服がふだんの会話や報道で使われる言い方であるのに対し、横領は刑法上の罪名である点にあります。指す範囲も着服のほうが広く、着服と呼ばれる行為がすべて横領罪になるわけではありません。たとえば、預かってもいない他人のお金を抜き取った場合は、着服と呼ばれていても窃盗罪になります。
実際の事例でも、行為と罪名は使い分けられています。2025年1月、マンション管理組合の出納を請け負っていた管理会社の元課長が、修繕積立金約4,700万円を着服したとして、業務上横領の容疑で逮捕されました(出典:国土交通省近畿地方整備局「指名停止措置」の公表資料)。この資料では、行為は「着服」、容疑の罪名は「業務上横領」と表現されています。
横領と窃盗の違い
横領と窃盗を分けるのは、そのお金や物を自分が預かって管理していたかどうかです。管理を任されていた物を自分のものにすれば横領、持ち主や会社が管理している物を持ち去れば窃盗になります。
たとえば、集金を担当する社員が、回収した代金を会社に入れずに使えば横領です。一方、集金に関わっていない社員が、事務所の引き出しから現金を抜き取れば窃盗にあたります。
会社の商品を横流しした場合も考え方は同じで、商品の管理を任されていた人なら業務上横領罪、任されていなかった人なら窃盗罪になる可能性があります。商品の横流しについては「会社の商品の横流しは業務上横領?罪を犯した人がすべきこと」で詳しく取り上げています。
着服がどの罪にあたるかを判断する流れを、図にまとめました。
着服で問われる罪と罰則
着服で問われる主な罪と法定刑は、次のとおりです。
| 罪名 | 条文 | 法定刑 |
| 単純横領罪 | 刑法252条 | 5年以下の拘禁刑 |
|---|---|---|
| 業務上横領罪 | 刑法253条 | 10年以下の拘禁刑 |
| 遺失物等横領罪 | 刑法254条 | 1年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金もしくは科料 |
| 窃盗罪 | 刑法235条 | 10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 |
※拘禁刑とは、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑が一本化された刑罰のことで、2025年5月31日以前の行為には改正前の懲役が科されます。科料は、1,000円以上1万円未満の金銭を納めさせる刑罰です。
単純横領罪
仕事とは関係なく預かっている他人の物を自分のものにすると、単純横領罪になります(刑法252条)。
たとえば、友人から借りていたカメラを無断で売ってしまった場合や、知人から預かったお金を自分の買い物に使った場合がこれにあたります。
業務上横領罪との違いは、仕事として預かっていたかどうかです。法定刑は5年以下の拘禁刑で、罰金刑はありません。
業務上横領罪
仕事として預かっている他人の物を自分のものにしたとき、業務上横領罪が成立します(刑法253条)。ここでいう業務とは、仕事として繰り返し行っている事務のうち、お金や物を預かって管理するものを指します。
経理担当者が会社の預金を自分名義の銀行口座へ移した場合や、集金担当者が集めた代金を使い込んだ場合が典型例です。会社員が仕事で扱うお金を着服した場合は、この業務上横領罪にあたる可能性があります。
法定刑は10年以下の拘禁刑で、単純横領罪の上限の2倍です。業務上横領罪にも罰金刑はないため、起訴されると略式手続(公開の裁判を開かずに罰金などを科す簡易な手続)では終わらず、公開の法廷で裁判を受けることになります。実際の裁判でどの程度の刑が言い渡されているかについては「業務上横領罪とは?刑罰の重さと判例を解説」をご参照ください。
遺失物等横領罪
遺失物等横領罪は、落とし物など、持ち主の管理から離れた他人の物を自分のものにしたときに成立する罪で、占有離脱物横領罪とも呼ばれます(刑法254条)。道に落ちていた財布を拾い、警察に届けずにそのまま自分のものにした場合が典型例です。
預かった物ではない点がほかの2つの横領罪と異なり、法定刑も横領の罪の中では最も軽く定められています。
ただし、置き忘れた物でも、持ち主がまだ近くにいるうちに持ち去れば窃盗罪になることがあります。最高裁は、公園のベンチに置き忘れられたポシェットを、持ち主が約27m離れた時点で持ち去った事案について、窃盗罪にあたると判断しています(最高裁平成16年8月25日決定)。置き忘れた物について、持ち主の管理が及んでいるかどうかの見分け方は「占有離脱物横領罪とは?遺失物横領・窃盗との違いを弁護士が解説」にまとめています。
窃盗罪
窃盗罪は、持ち主や会社などが管理している他人の財物を盗んだときに成立する罪です(刑法235条)。着服と呼ばれる行為でも、お金の管理を任されていない従業員が、会社の金庫やレジから現金を持ち出した場合は、横領罪ではなく窃盗罪になります。
法定刑は10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。単純横領罪・業務上横領罪と異なり罰金刑があるため、略式手続で罰金を科されて終わる場合もあります。
着服の時効は何年?
公訴時効とは、一定の期間が過ぎると検察官が起訴できなくなる制度です(刑事訴訟法250条)。起訴されなければ刑事裁判にかけられることはなく、刑罰を受けることもありません。
公訴時効の期間は、着服で問われる罪によって異なります。
| 罪名 | 公訴時効 |
| 単純横領罪 | 5年 |
|---|---|
| 業務上横領罪 | 7年 |
| 遺失物等横領罪 | 3年 |
| 窃盗罪 | 7年 |
時効は、犯罪行為が終わった時から数え始めます(刑事訴訟法253条1項)。たとえば、会社から借りていた備品を売ってその代金を自分のものにした場合は、売った時から時効期間が進みます。着服を何度も繰り返していた場合に、時効期間をどの時点から数えるのかは「横領罪の時効は何年?いつから進行するかを弁護士が解説」で具体的に説明しています。
着服したお金を返す責任(民事上の責任)には、公訴時効とは別の時効があります。不法行為にもとづく損害賠償請求権は、被害者が損害と加害者を知った時から3年、または着服した時から20年で時効によって消滅します(民法724条)。
ただし、会社が雇用契約などを根拠に請求する場合は、別の時効期間(権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年)が適用されることもあります。
着服が発覚したときに押さえておきたいポイントと対処法
着服行為が会社などに知られると、社内での処分と刑事手続の両方が動き出すことがあります。ここでは、発覚後に起きることと、返済や示談の進め方について、順に整理します。
発覚後に進む社内処分と刑事手続
会社のお金の着服が見つかった場合、たとえば次のような順で進みます(事案によって順番が前後したり、一部の段階を経なかったりすることもあります)。
- 会社による調査や事情聴取
- 返済についての話し合い
- 懲戒処分などの社内処分
- 会社による被害届の提出や刑事告訴
- 警察の捜査(逮捕される場合と、在宅のまま進む場合がある)
- 検察官による起訴・不起訴の判断
社内では、就業規則にもとづき、懲戒解雇などの処分を受けることがあります。
刑事手続は、会社が被害届(被害にあった事実を警察に届け出るもの)を出したり、刑事告訴(犯人の処罰を求める申告)をしたりすることをきっかけに始まることがあります。逮捕された場合は、起訴されるかどうかが決まるまで最長で23日間身柄を拘束されることがあります。逮捕されず、自宅で生活しながら取調べに応じる在宅事件として進むこともあります。逮捕されるかどうかも含め、告訴を受けて捜査が進む手順は「横領で刑事告訴されたらどうなる?流れと取り下げのための対応」で順を追って解説しています。
単純横領罪と業務上横領罪には罰金刑がないため、起訴されると公開の法廷で裁判を受け、有罪になれば拘禁刑(2025年5月31日以前の行為は懲役)が言い渡され、前科がつきます。そのため、刑の執行猶予(一定期間罪を犯さずに過ごせば刑を受けずに済む制度)が付くかどうかが大きな分かれ目になります。
司法統計年報(刑事編)令和7年によると、横領の罪(単純横領・業務上横領・遺失物等横領の合計)について、通常の第一審で懲役・拘禁刑・禁錮の有罪判決を受けた526人のうち、全部執行猶予は317人(約60%)、実刑(執行猶予が付かない判決)は209人(約40%)でした。
返済しても刑事責任は消えない
着服したお金(着服金)を返すことは、損害を埋め合わせる民事上の責任を果たすことであり、罪に対して刑罰を受ける刑事上の責任とは別の問題です。全額を返したとしても、それだけで刑事責任がなくなるわけではありません。
返済した後に会社が被害届を出せば、捜査を受ける可能性があります。また、告訴や被害届がなくても、警察が事件を知れば捜査が始まることもあります。
もっとも、返済したことは、検察官が起訴するかどうかを決めるときや、裁判で刑の重さを決めるときに、有利な事情として考慮されることがあります。すぐに全額を返せない場合の対応は「横領で返済できないとどうなる?2つの対処法を弁護士が解説」で解説しています。
示談の交渉は弁護士に任せる
示談とは、加害者と被害者が話し合い、被害の弁償などについて合意することです。着服の示談では、返済する金額や支払い方法のほか、被害届や告訴をしないこと(すでに出されていれば取り下げること)を合意の内容に入れることがあります。
被害届が出される前に示談が成立すれば、刑事事件になるおそれを大きく下げられます。すでに捜査が始まっていても、起訴される前に示談がまとまれば、不起訴となる可能性が高まります。示談金の考え方は「業務上横領の示談金相場は?示談を成功させる5つのポイント」で詳しく解説しています。
ただ、被害者である会社と本人が直接話し合うと、感情的な対立から交渉がまとまらなかったり、実際の着服額を大きく超える金額を求められたりすることがあります。交渉が決裂すれば、会社が被害届を出すことも考えられます。
弁護士に依頼すれば、会社との話し合いの窓口を任せられるため、本人が直接やり取りする必要はありません。弁護士は、着服した金額や返済の見通しを整理したうえで、無理のない支払い方法を提案し、合意した内容を示談書に残すことができます。
着服が発覚した、あるいは発覚しそうだという段階で、できるだけ早く弁護士に相談してください。弁護士への依頼を検討されている方は「横領事件に強い弁護士とは?依頼するメリットと費用を解説」もあわせてご確認ください。
着服・横領でお悩みの方は弁護士にご相談ください
着服は法律用語ではありませんが、お金や物を預かって管理していたかどうかで、問われる罪は横領罪・窃盗罪などに分かれます。仕事で預かっていた会社のお金であれば業務上横領罪が問題となり、全額を返しても、それだけで刑事責任が消えるわけではありません。
発覚した後にどう動くかで、その後の見通しは変わります。弁護士が会社との窓口となって返済の方法を話し合い、示談がまとまれば、被害届を出されずに済む可能性や、不起訴となる可能性が高まります。
「まだ会社には知られていないが、いつ発覚するか不安だ」「すでに会社から事情を聞かれている」という方は、一人で抱え込まず、早めに弁護士へ状況をお話しください。
当事務所は、着服・横領事件の被害弁償や示談交渉を得意としており、解決の実績があります。弁護士が迅速に動き、依頼者の不利益を最小限に抑えるために全力を尽くします。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
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この記事の監修者
刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

