これまで盗撮は、各都道府県の迷惑防止条例違反や軽犯罪法違反で処罰されてきましたが、2023年7月13日以降に行った盗撮行為には、新たに施行された「撮影罪」が全国一律で適用されます。
そして、撮影罪の公訴時効は3年です。つまり、盗撮の時効は3年となります。
もっとも、撮影罪が施行される前に行った盗撮行為については、従前どおり迷惑防止条例や軽犯罪法が適用されます。また、盗撮するために他人の住居や敷地に立ち入った場合には、撮影罪のほかに、住居侵入罪や建造物侵入罪に問われることもあります。
この記事では、盗撮事件に強い弁護士が、
- 盗撮で問われる罪と時効
- 盗撮の時効はいつからスタートするのか
- 盗撮の時効が完成するとどうなるのか
- 盗撮の民事の時効
- 盗撮の時効完成を待つリスクとすべきこと
などについて詳しく解説していきます。
なお、盗撮行為をしてしまった方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には、全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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目次
盗撮で問われる罪と時効
盗撮事件で問われる可能性がある犯罪やその法定刑、公訴時効についてまとめると、次のとおりです。
罪名 | 法定刑 | 公訴時効 |
撮影罪 | 3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金 | 3年 |
迷惑防止条例違反 | 1年以下の懲役または100万円以下の罰金 | 3年 |
軽犯罪法違反 | 拘留または科料 | 1年 |
住居侵入罪・建造物侵入罪 | 3年以下の懲役または10万円以下の罰金 | 3年 |
以下、それぞれの罪の内容と時効について解説します。
原則として盗撮には「撮影罪」が適用される
盗撮をした場合には、2023年7月13日から新たに施行された「性的姿態撮影等処罰法」(正式名称「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」)の「撮影罪(正式名称:性的姿態等撮影罪)」によって処罰されることになります。
撮影罪とは、以下のような犯罪です。
- 正当な理由がないのに、ひそかに、「性的姿態等」を撮影すること
- 不同意性交等罪に規定する一定の事由により、同意しない意思を形成、表明またはまっとうすることが困難な状態にさせ、または相手がそのような状態であることに乗じて、「性的姿態等」を撮影すること
- 性的な行為でないと誤信させたり、特定の者以外はその画像を見ないと誤信させて、または相手がそのような誤信をしていることに乗じて「性的姿態等」を撮影すること
- 正当な理由がないのに、16歳未満の子どもの「性的姿態等」を撮影すること
この「性的姿態等」とは、以下のようなものをさします。
- 人の性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部)
- 人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられているもの)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
- わいせつな行為又は性交等がされている間における人の姿態
そして、公訴時効の期間については、刑事訴訟法において法定刑の上限を基準に定められています。
撮影罪が成立した場合には、「3年以下の拘禁刑」または「300万円以下の罰金」が科されることになります。これは、人を死亡させた罪「以外」で「長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪」であるため、撮影罪の公訴時効は「3年」となるのです(刑事訴訟法第250条2項6号)。
さらに、性的姿態撮影等処罰法は、盗撮行為のみならず、撮影された動画・画像を第三者に提供する行為や、提供するために保管する行為についても犯罪として処罰対象としています。
そのうえ、盗撮した動画・画像を不特定若しくは多数の者に提供し、または公然と陳列した者には提供罪が成立し、「5年以下の拘禁刑」または「500万円以下の罰金」が科されることになります。
この場合、提供罪の公訴時効は「5年」となります(刑事訴訟法第250条2項5号)。
以上より、盗撮のみならず、その録画データをライブストリーミングで配信したり、ポルノサイトにアップロードした場合にはより重い刑罰が科されることになり、その分公訴時効も長くなります。
撮影罪の施行前の盗撮事件には迷惑防止条例もしくは軽犯罪法が適用される
撮影罪が施行された2023年7月13日より前の盗撮事件には、迷惑防止条例もしくは軽犯罪法が適用されます。
迷惑防止条例違反
各都道府県は迷惑防止条例を制定して、盗撮や痴漢、ストーカーなどの迷惑行為を処罰の対象としていることが一般的です。
東京都を例にすると、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」が制定されており、第5条は以下のように規定されています。
第五条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(前略)
二 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(後略)公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
東京都のこのような条例に違反した場合には、「1年以下の懲役」または「100万円以下の罰金」が科されることになります(同条例第8条2項1号)。さらに常習として違反行為を行った場合には、「2年以下の懲役」または「100万円以下の罰金」が科されることになります(同条例第8条8項)。
同条例違反の公訴時効は「3年」となります(刑事訴訟法第250条2項6号)。
軽犯罪法違反
盗撮行為は軽犯罪法違反に問われる可能性もあります。
軽犯罪法1条23号は以下のように規定されています。
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
(前略)
二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者
(後略)軽犯罪法 | e-Gov法令検索
例えば、盗撮目的で他人の家の中を覗っていたものの、撮影や撮影機器の設置をする前段階で家人に気付かれて逃走したケースでは、未遂規定のない迷惑防止条例違反では罪に問うことができません。
しかし、上記のようなケースであっても、軽犯罪法の「のぞき行為」が適用され処罰される可能性があります。
また、迷惑防止条例違反とならない「場所」での盗撮行為にも軽犯罪法が適用されて処罰の対象となります。
軽犯罪法違反が成立した場合には、1日以上30日未満の「拘留」、もしくは1000円以上1万円未満の科料が科されることになります。
軽犯罪法違反の場合の公訴時効は「1年」となります(刑事訴訟法第250条2項7号)。
盗撮目的での立ち入りは住居侵入・建造物侵入罪が適用されることも
盗撮するために他人の敷地に立ち入った場合には、住居侵入罪や建造物侵入罪に問われる可能性があります。
「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった」場合には、住居等侵入罪が成立することになります。
公衆トイレや駅の構内、コンビニ店など誰もが自由に出入りできる場所であったとしても、盗撮目的で立ち入った場合には、管理者・許諾権者の意思に反する立ち入りとして同罪が成立することになります。
住居侵入罪・建造物侵入罪が成立した場合には、「3年以下の懲役」または「10万円以下の罰金」が科されることになります。
住居侵入罪・建造物侵入罪の公訴時効は「3年」となります(刑事訴訟法第250条2項6号)。
盗撮の時効はいつからスタートする?
撮影罪の公訴時効は「3年」であることをお伝えしました。
それでは、3年の公訴時効の起算点となるのはいつなのでしょうか。
公訴時効の起算点については、「時効は、犯罪行為が終わった時から進行する」と規定されています(刑事訴訟法第253条)。
この「犯罪行為」については、犯罪の処罰は結果が発生することによってはじめて可罰的になることから、刑法各本条所定の結果を含む趣旨であると考えられています(結果時犯説)。
撮影罪に関して「犯罪行為が終わった時」とは、性的姿態撮影等処罰法に規定されている「撮影する行為」が終わった時点と考えて差し支えないでしょう。
繰り返し盗撮行為を繰り返している場合や、時間を空けて同一被害者を狙って撮影行為をしているケースでは、全体を観察して一体の行為として評価できる場合、最後の撮影行為が終了した時点から時効が進行することになると考えられます。
撮影行為が終了したときから3年以内に起訴されなければ時効が完成することになります。3年以内に逮捕されても検察官の起訴までに3年が経過すれば時効は完成することになるのです。
盗撮の公訴時効が停止するケース
盗撮(撮影罪)の公訴時効は、
- ①犯人が起訴された場合
- ②犯人が国外にいる(海外旅行などの一時渡航も含む)場合
- ③逃げ隠れしているため有効に起訴状の謄本の送達等ができない場合
に停止します(刑事訴訟法254条1項、255条1項)。
公訴時効の「停止」とは、あくまでも「一時停止」という意味合いです。例えば、盗撮事件を起こしてから半年後に犯人が国外に渡り、後に日本に戻ってきた場合、国外滞在期間は公訴時効が停止しており、帰国した時点から、残りの2年6ヶ月の時効の進行が再開されることになります。
なお、盗撮行為の共犯者がいる場合は、一人が起訴されると、その者の刑事裁判が確定するまでの間、他の共犯者の公訴時効も停止します。
盗撮の時効が完成するとどうなる?
「時効が完成したとき」は、「判決で免訴の言い渡しをしなければならない」と規定されています(刑事訴訟法第337条4号)。
したがって、公訴時効が経過した事件については、検察官が公訴を提起しても、裁判所は免訴判決を下さなければなりません。
このような公訴時効制度が設けられている趣旨は、時間の経過によって犯罪事実の社会的な影響が微弱化した結果、未確定の刑罰権が消滅し可罰性がなくなると考えられています。また、時間の経過によって証拠が散逸し、公正な裁判の実現が困難になるという理由も挙げられます。
したがって、犯人処罰の必要性と法的安定性のバランスを図るために公訴時効制度が設けられていると考えることができます。
以上より、時効が完成した事件については免訴判決が言い渡されるため、検察官もわざわざ起訴することはありません。そして、検察官が起訴することがない事件については、警察が逮捕に踏み切ることも基本的にはありません。
盗撮の民事の時効
盗撮の被害者は、加害者の逮捕や刑事処罰だけでなく、不法行為に基づく損害賠償請求(慰謝料請求)といった民事的な責任を追及する権利があります(民法709条・710条)。
盗撮の慰謝料とは、盗撮により被った精神的苦痛を金銭に換算したものです。
この損害賠償請求権は、盗撮の被害者が、「損害及び加害者を知った時から」3年間行使しないことで消滅時効にかかります(民法724条1項参照)。
そのため、被害者が盗撮されたことに気付いていない場合や、盗撮されたことに気付いたものの誰に盗撮されたのか分からない場合には、被害者がその事実や加害者を知るまでは時効の進行が開始されません。
ただし、不法行為の時(盗撮事件のあった時)から20年が経過した場合は、時効にかかります(民法724条2項参照)。
盗撮の時効を待つリスクと逮捕された場合のデメリット
時効の完成を待つリスク
現在、警察からの呼び出しや逮捕がないからといって、時効が完了するのを待つことは賢明な選択ではありません。
盗撮の時効が完成するまでの3年間、あなたは自らの犯罪行為に対する後ろめたさや逮捕の不安に苛まれながら、肩身の狭い生活を送らなければいけません。生きた心地はしないでしょう。
さらに、もし警察によって事件の容疑者として特定された場合、逃げ回っていた事実が「逃亡の可能性が高い」と判断され、逮捕されるリスクが大幅に高まります。
逮捕された場合のデメリット
盗撮で逮捕されると、釈放されるまで社会から隔離された状態が続きます。これにより、身体的・精神的な負担が大きくなります。
盗撮での逮捕は大きな衝撃を社会に与える出来事であり、場合によってはニュースやインターネット上で実名が報道されることもあります。このような報道がなされると、逮捕の事実が広まり、これまで築いてきた人間関係や社会的な評価・信用が一気に崩れる可能性があります。そのため、社会復帰後の生活を再構築することが難しくなるかもしれません。
また、逮捕されてから最大3日間は弁護士以外との連絡が取れなくなります。さらに、逮捕後に勾留された場合、検察官が刑事処分(起訴または不起訴)を決定するまで最大で20日間身柄拘束されます。実名が報道されなかったとしても、これだけの期間、会社や学校を休めば事実を隠し通すことが難しくなります。
さらに、起訴されて刑事裁判にかけられると、日本では99%以上の確率で有罪判決となりますので、前科がついてしまうことになります。
盗撮の時効の完成を待たずにすべきこと
これまで説明してきたように、盗撮の時効の完成を待つリスクは小さいものではありません。そのため、盗撮をしてしまった場合には時効完成まで逃げ回るのではなく、自らアクションを起こし、逮捕の回避や不起訴の獲得に向けて対策を講じることが重要です。
以下では、盗撮行為をしてしまった方がとるべき行動について解説します。
自首するかどうか検討する
まず、自首すべきかどうかを検討します。
自首によって、警察に「逃走の恐れなし」と認定され、逮捕を回避できる可能性があります。また、後に法的に自首と認められれば、起訴や不起訴の判断において有利に働く可能性があり、裁判官の量刑判断においても減軽され、執行猶予を獲得する可能性が高まります。
一方で、自首はこれまでに警察に発覚していなかった盗撮の罪を自ら申告することを意味します。もし被害者が既に被害を申告している場合や、後に申告した場合は、刑事事件として立件され、刑事裁判において有罪判決を受ける可能性があります。また、自首が必ずしも成立するわけではなく、自首したからといって逮捕を回避できる保証はありません。
このように、自首にはメリットとデメリットがありますので、自首すべきかどうか、また自首する場合に事前にとっておく対策はないのかを慎重に検討する必要があります。
この点、弁護士に相談することで、自首の是非を十分に検討し、自首する場合には適切な対策を講じた上で同行してもらうことができます。一人での自首よりも、精神的な負担を軽減することができます。
被害者と示談する
次に、被害者との示談を行うことが重要です。
示談交渉では、被害者がまだ警察に被害届を提出していない場合は、警察に被害届を提出しないよう求めます。一方、すでに提出されている場合は、被害届を取り下げるよう働きかけます。示談が成立すれば、前者の場合は警察に事件が明るみに出ることを防ぐことができますし、後者の場合は逮捕などの刑事手続きが進行していくことを回避できる可能性があります。
しかし、示談交渉は専門家である弁護士に任せるのが適切です。直接加害者と示談交渉する被害者はまずいないといっていいでしょう。他方で、弁護士を介してであれば示談交渉に応じてもいいという被害者は多くいます。また、弁護士に依頼することで、法的に問題のない示談書の作成をサポートしてもらえます。これにより、紛争が再燃するリスクを軽減することができます。
当事務所では、盗撮の被害者との示談交渉、逮捕の回避、不起訴の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、盗撮をしてしまい、時効完成まで精神的に耐えられないという方や、逮捕されないために先手を打っておきたい方は、まずは当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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