不同意わいせつ罪の公訴時効は12年です。
不同意わいせつ罪とは、被害者が「同意しない意思を形成、表明、全う」することが難しい状態で、体を触るなどのわいせつ行為を行う犯罪のことです(刑法第176条)。2023年7月13日に施行された改正刑法により、これまで「強制わいせつ罪」で処罰されてきた行為が、「不同意わいせつ罪」で処罰されることとなりました。
公訴時効の完成により不同意わいせつの犯人が刑事処罰を受ける可能性が消滅しますが、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)の検挙率は約86%となっており、12年もの間、厳しい捜査の手から逃れることは難しいでしょう。
この記事では、性犯罪事件に強い弁護士が、
- 不同意わいせつ罪の公訴時効・民事の時効
- 不同意わいせつ罪の時効完成を待つリスク
- 不同意わいせつ罪の時効完成を待たずにすべきこと
などについてわかりやすく解説していきます。
心当たりのある行為をしてしまい、いつ警察から逮捕されるかご不安な日々を送られている方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には全国無料相談の弁護士までご相談ください。
なお、どのような行為をすれば不同意わいせつ罪にあたるのか詳しく知りたい方は、不同意わいせつ罪とは?旧強制わいせつ罪との違いをわかりやすく解説も合わせて読んでみてください。
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目次
不同意わいせつの時効は?
公訴時効は12年
不同意わいせつ罪の公訴時効は「12年」です。「時効は、犯罪行為が終わった時から進行する」とされています(刑事訴訟法第253条)。
公訴時効とは、「時効が完成したとき」は、「判決で免訴の言い渡しをしなければならない」という制度です(刑事訴訟法第337条4号)。
そのため、公訴時効が経過した事件については、検察官が公訴を提起しても、裁判所は免訴判決を下さなければなりません。免訴判決が下ることがわかっていてわざわざ検察官が起訴することはありませんので、不同意わいせつの行為が終わった時から12年が経過すれば、起訴されて刑事裁判にかけられることはなく、犯人が刑事処罰を受ける可能性は消滅します。
このような公訴時効制度が設けられている理由は、時間の経過によって犯罪事実の社会的な影響が微弱化した結果、未確定の刑罰権が消滅し可罰性がなくなると考えられています。また、時間の経過によって証拠が散逸し、公正な裁判の実現が困難になると考えられているからです。
そして、「刑法第176条若しくは第179条第1項の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は児童福祉法第60条第1項の罪(自己を相手方として淫行をさせる行為に係るものに限る。) 12年」の公訴時効が規定されています(刑事訴訟法第250条3項3号)。
したがって、不同意わいせつ罪(刑法第176条)の公訴時効は、「12年」となるのです。
さらに、不同意わいせつを行い、被害者を負傷させた不同意わいせつ致傷罪が成立した場合には、公訴時効は「20年」となり(同法第250条第3項1項)、被害者を死亡させた不同意わいせつ致死罪の場合には、公訴時効は「30年」となります(同法250条1項1号)。
民事の時効
不同意わいせつ罪の場合には、国家が加害者に対して行使する刑罰権の問題のみならず、被害者と加害者との間の民事の問題も残っています。
不同意わいせつ罪が成立する場合、加害者は民事上の不法行為責任を負うことになります。
そのため、不同意わいせつ行為によって被害者が受けた損害を賠償する責任があります(民法第709条)。被害者が請求できる損害として、入院・治療費や、休業損害、後遺障害が残った場合の逸失利益や慰謝料などが含まれます。
ただし、不法行為に基づく損害賠償請求権には、消滅時効が規定されています。損害賠償請求権は、以下の事情がある場合に時効によって消滅します(民法第724条参照)。
- 被害者(法定代理人)が損害及び加害者を「知った時から3年間」権利を行使しないとき
- 「不法行為の時から20年間」権利を行使しないとき
ただし、2017年の民法改正により、「人の生命又は身体を害する」不法行為による損害賠償請求権については「3年」ではなく「5年」に延長されることになりました(民法第724条の2)。
以上から、不同意わいせつ罪による損害賠償請求については、損害・加害者を知った時から「5年」が消滅時効期間となります。
不同意わいせつの公訴時効についての注意点
刑法改正前のわいせつ行為にも改正後の時効が適用される
不同意わいせつ罪に当たる行為は、刑法改正前には強制わいせつ罪として処罰されていました。刑法改正前の強制わいせつ罪の公訴時効は7年でした。
しかし、令和5年(2023年)7月13日から施行されている改正刑法に伴い、令和5年(2023年)6月23日から施行されている改正刑事訴訟法により、不同意わいせつ罪の公訴時効は延長されています。
不同意わいせつ罪などの性犯罪は、一般的に被害者による被害申告が難しく、被害者の周囲の人間も被害に気づきにくいという特徴があります。そのため、刑事訴追が事実上可能になる前に公訴時効が完成してしまい、犯人の処罰が不可能になるという不当な事態が懸念されていました。
このような性犯罪の特性を踏まえて、今回の法改正により、性犯罪について訴追の可能性を適切に確保するため、性犯罪の公訴時効が5年延長されることになったのです。
刑法改正前の2023年7月13日までに発生したわいせつ事件については、強制わいせつ罪に問われることになりますが、公訴時効については、改正刑事訴訟法の規定が適用されることになります。
例えば、2018年1月1日に強制わいせつ罪を犯した場合、改正前の刑事訴訟法によれば、公訴時効は7年後の2025年1月1日に完成するはずでした。しかし、この場合も改正刑事訴訟法の規定が適用されることになるため、12年後の2030年1月1日までは公訴時効は完成しないことになるのです。
【旧強制わいせつ罪の公訴時効】
罪名 | 改正前 | 改正後 |
強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪・監護者わいせつ罪 | 7年 | 12年 |
強制わいせつ等致傷罪 | 15年 | 20年 |
強制わいせつ等致死罪 | 30年 | 30年 |
被害者が18歳未満であれば時効期間が加算される
今回の法改正により、性犯罪の被害者が18歳未満である場合には、犯罪が終わったときから被害者が18歳になる日までの期間を加えることにより、公訴時効期間を更に延長することとされました。心身ともに未熟な子どもや若年者は、特に被害を申告することが難しいと考えられるためです。
この改正により、例えば、12歳のときに不同意わいせつ罪の被害に遭った人については、不同意わいせつ罪(改正前の強制わいせつ罪)の公訴時効期間が7年から12年に延長され、さらに、その人が18歳になる日までの期間が加わることになることから、公訴時効はその人が30歳(6年+12年=18年)に達する日まで完成しないことになります。なお、「30歳に達する日」とは、法律上、30歳の誕生日前日のことをいいます。
公訴時効の進行が停止することがある
公訴時効は一定の事由がある場合には、その進行がストップする場合があります。これが「時効の停止」という制度です。
公訴時効が停止するのは以下のような事由がある場合です(刑事訴訟法第254条、255条参照)。
- 当該事件について公訴が提起された場合
- 共犯の1人に対してした公訴が提起された場合:他の共犯に対しても時効が停止する
- 犯人が国外にいる場合:国外にいる期間は時効が停止する
- 犯人が逃げ隠れているため有効な起訴状の謄本の送達・略式命令の告知ができなかった場合:逃げ隠れいている期間は時効が停止する
公訴時効の「停止」とは、あくまでも「一時停止」という意味合いです。例えば、不同意わいせつ事件を起こしてから半年後に国外に渡った犯人が、その後日本に帰国した場合、国外に滞在していた期間は公訴時効が停止しており、帰国した時点で残りの公訴時効の進行が再開されることになります。
不同意わいせつの時効完成を待つリスク
逃げ切れるという考えは甘い
不同意わいせつ罪にあたる行為を犯し、簡単に逃げ切れると考えない方が良いでしょう。
法務省が発表している犯罪白書によると、令和4年度の不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)の認知件数は4708件で、検挙件数は4062件であり、検挙率は86.3%(※)にのぼります。
※不同意わいせつ罪の検挙率を示す具体的な統計データがないため旧強制わいせつ罪のデータとなります。
このように、不同意わいせつ事件(旧強制わいせつ事件)の検挙率は9割を超えており、強盗事件や殺人事件などの犯罪と同じくらい高い検挙率になっています。
不同意わいせつ事件の場合には、捜査機関も総力を挙げて被疑者の特定に努めることになるため、公訴時効が成立する12年間逃げ切ることは非常に難しいと考えられます。
性犯罪の被害者は何年も経ってから被害申告することもある
不同意わいせつ事件では、被害者が警察に被害を申告することで捜査が始まることが一般的です。しかし、性犯罪の場合には、被害に遭ったことが恥ずかしいことだという感情や自分が悪いという感情により被害申告が遅れる可能性があります。性犯罪の被害から立ち直るためには時間がかかります。事件のフラッシュバックに悩まされる被害者の方も少なくありません。
そのため、事件から年月が経過してから警察に被害を申告するケースも決して珍しくはありません。一度は被害申告を諦めたものの、知人や家族からのアドバイスや感情の整理ができて事件化する可能性があります。
そのため、性犯罪の場合には加害者が忘れかけた頃に突然警察に逮捕されるという可能性があるのです。
不同意わいせつの時効を待たずにすべきこと
被害者と示談を成立させる
不同意わいせつ事件において、不起訴や執行猶予付き判決を得るためには、事件の被害者と示談をすることが重要です。
被害者との示談が成立した場合には、被害者が被害届や告訴を取り下げることがあります。また、示談の成立によって、犯罪の違法性が一定程度減少したとして加害者側に有利に判断される可能性が高いでしょう。具体的には、示談の成立により逮捕の回避や不起訴処分に繋がることも期待できます。
しかし、不同意わいせつの加害者本人が被害者と直接示談交渉を進めることは困難です。性犯罪事件の場合、被疑者に被害者の個人情報を提供されることはありません。
ただし、弁護士が代理人として示談交渉をする場合であれば、被害者の承諾を得たうえで、被害者の連絡先を教えてもらえます。公正中立な立場の弁護士が相手であれば被害者の精神的負担が減り、示談に応じてくれる可能性もでてきます。
自首をする
また、弁護士に相談することで、自首の同行を依頼することができます。
自首とは、犯人が司法警察員・検察官に対して自発的に自己の犯罪事実を申告し、その訴追を含む処分を求めることを指します。罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首した場合には、その刑を減軽することができると刑法に規定されています(刑法第42条1項)。「捜査機関に発覚する前」とは、「犯罪事実が全く捜査機関に発覚していない場合」や犯罪事実は発覚しているものの、「その犯人が誰であるか全く発覚していない場合」を指します。
また、自首そのものの効果ではありませんが、自首をすることで「逃亡・証拠隠滅の恐れがない」と判断され、逮捕を回避できる可能性もあります。さらに、自首は犯人が反省していることを示す事情ですので、検察官が不起訴の判断をしてくれる可能性もあります。
そして、自首をする場合には、弁護士に相談されることをおすすめします。
自首をして反省の態度を示したいという場合であっても、ご自身の行為がどのような犯罪に該当し、どのような法益を侵害したのかを正確に理解していることが重要です。また、弁護士に自首の同行を依頼することで捜査機関による威圧的な取り調べがなされる可能性が低くなりますし、弁護士が上申書を提出することで逮捕を回避できる可能性も高まります。
まとめ
刑事事件の公訴時効が経過するまでは、いつ逮捕・起訴されてもおかしくありません。
時効が成立するまで何年も逮捕に怯えて暮らすことがないよう、できるだけ早期に弁護士に相談すべきでしょう。弁護士に相談して捜査機関に自首することで、重い処罰を受けずに事件を解決できる可能性もあります。
当事務所では、わいせつ事件で逮捕を回避したり、不起訴処分を獲得したりする弁護活動を得意としており、豊富な実績を有しております。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、不同意わいせつ事件を起こしてお悩みの場合には、当事務所の弁護士にご相談ください。
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