不同意性交等罪の法定刑は5年以上の20年以下の有期懲役です。執行猶予は3年以下の懲役でなければ付けられませんので、原則として不同意性交等罪は執行猶予がつかない実刑判決となります。ただし例外として、刑の減軽があった場合には執行猶予が付く可能性があります。
この記事では、上記内容につき刑事事件に強い弁護士が解説していきます。
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目次
不同意性交等罪の懲役刑の量刑相場は?
不同意性交等罪は、強姦やレイプを処罰するための「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」が統合されて、令和5年に新設された犯罪です。そのため、不同意性交等罪の具体的な懲役刑の量刑に関する統計データはまだ存在しません。しかし、法務省刑事局作成の「性犯罪の量刑に関する資料」によると、刑法改正前の強制性交等罪における懲役刑の量刑分布は次の通りです。
2年以下 | 3年以下 | 5年以下 | 7年以下 | 10年以下 | 15年以下 | 20年以下 | |
平成29年 | 1人 | 42人 | 77人 | 36人 | 18人 | 3人 | 0人 |
平成30年 | 1人 | 57人 | 97人 | 48人 | 24人 | 4人 | 1人 |
令和元年 | 2人 | 69人 | 92人 | 59人 | 18人 | 8人 | 2人 |
このデータから、平成29年~令和元年の強制性交等罪において最も多い量刑は懲役3年超~5年以下であり、全体の40.36%を占めています。
もっとも、このデータは強制性交等罪に関するものであり、不同意性交等罪の量刑相場については判例が積み重なるまで完全にはわかりません。しかし、強制性交等罪と不同意性交等罪の法定刑に下限・上限の違いがないため、量刑の相場も大きく変わらない可能性が高いと考えられます。
したがって、不同意性交等罪の懲役刑の量刑相場もおおむね3年超5年以下と推測されます。
なお、不同意性交等罪の量刑判断においては、以下のような要素をもとに裁判官が判断することになります。
- 性交等の行為により発生した被害の程度
- 性交等の行為の悪質性
- 被害者との示談の成否や示談金の額
- 性交等に至った経緯や動機
- 加害者と被害者の関係性
たとえば、単純な性交等ではなく、暴力を用いて性交等に及び、その結果、被害者が外出や他人との会話もままならないほど精神的に追い詰められ、加害者への怒りから示談にも応じないケースなどでは、量刑が重くなる傾向にあります。
そもそも不同意性交等罪とは?
どのような行為をすると罪に問われる?
そもそも不同意性交等罪とは、一定の行為や事由により、「同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあることを利用して」性交等を行った場合に成立する犯罪です(刑法第177条)。
この「性交等」とは、「膣・肛門・口腔に陰茎を挿入すること、または膣や肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為であってわいせつなもの」を指します。したがって、女性が加害者で男性が被害者となるケースや、同性間でのケースでも不同意性交等罪は成立します。
「同意しない意思を形成することが困難な状態」とは、性交等をするかどうかを考えたり、決めたりするきっかけや能力が不足していて性交等をしない・したくないという意思を持つことが自体が難しい状態をさします。そのような意思を「表明することが困難な状態」とは、性交等をしたくないという意思を持つことはできたものの、それを外部に表すことが難しい状態を指します。意思を「全うすることが困難な状態」とは、性交等をしたくないという意思を外部に表すことまではできたものの、その意思のとおりになることが難しい状態を指します。
そして、一定の事由として規定されているのは、以下の8つです。
- ①暴行・脅迫
- ②心身の障害
- ③アルコール・薬物の影響
- ④睡眠その他の意識不明瞭
- ⑤同意しない意思を形成・表明・全うするいとまの不存在
- ⑥予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕
- ⑦虐待に起因する心理的反応
- ⑧経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
不同意性交等罪の成立要件について詳しくお知りになりたい方は、不同意性交等罪とは?旧強制性交等罪(旧強姦罪)との違いを解説をご覧になってください。
刑罰は?
不同意性交等罪が成立した場合には、婚姻関係の有無にかかわらず、「5年以上の有期拘禁刑」に処せられることになります(刑法第177条)。
拘禁刑とは、これまでの懲役・禁固を一本化した刑罰として新設されたものです。
「拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、1月以上20年以下とする」「拘禁刑は、刑事施設に拘置する」「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」と規定されています(同法第12条)。
なお、2025年に予定されている改正刑法が施行されるまでは、不同意性交等罪においても「懲役刑」が科されます。
改正刑法が施行されると、「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、新たに「拘禁刑」に一本化されます。しかし、2025年の施行までは現行の制度が適用されるため、不同意性交等罪に対しても従来通り懲役刑が科されることになります。
強姦・レイプを処罰する犯罪の法改正について
従来、強姦やレイプ行為は「強姦罪」という名称で処罰されていましたが、2017年の改正により「強制性交等罪」に改正され、さらに2023年には「不同意性交等罪」に改められました。
強姦罪では膣に陰茎を挿入する行為(性交)のみが処罰対象でしたが、強制性交等罪では性交に加え、肛門性交や口腔性交も処罰対象となり、法定刑も「3年以上の懲役」から「5年以上の懲役」へと厳罰化されました。また、強姦罪では加害者が男性、被害者が女性に限定されていましたが、強制性交等罪への改正後は、加害者・被害者の性別に関わらず、男女双方が対象となるようになりました。さらに、不同意性交等罪への改正によって、性交・肛門性交・口腔性交に加え、膣や肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為も新たに処罰対象となりました。加えて、強姦罪や強制性交等罪では、暴行や脅迫を用いて行為に及んだ場合に成立する犯罪でしたが、不同意性交等罪では、暴行・脅迫がなくても、被害者が抵抗できない状態で行われた性交等も処罰対象となるように改正されました。
なお、強姦・レイプ事件にどの罪名が適用されるかについては、以下の通り、事件が発生した日により異なります。
- 2017年7月12日以前に起こした事件:「強姦罪」「準強姦罪」を適用
- 2023年7月12日以前に起こした事件:「強制性交等罪」「準強制性交等罪」を適用
- 2023年7月13日以降に起こした事件:「不同意性交等罪」を適用
「準強姦罪」や「準強制性交等罪」について詳しく知りたい方は、準強制性交等罪(準強姦罪)とは?強制性交等罪の違いを解説をご覧になってください。
その他、法改正による変更点をまとめると下表のとおりになります。
罪名 | 強姦罪 | 強制性交等罪 | 不同意性交等罪 |
対象となる行為 | 膣への陰茎の挿入 | 膣・肛門・口腔への陰茎の挿入 |
|
手段 | 暴行または脅迫 | 暴行または脅迫 | 暴行・脅迫など8類型の一定の行為や事由により、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせること。または、その状態にあることにつけこむこと |
被害者の性別 | 女性 | 全ての性別 | 全ての性別 |
加害者の性別 | 男性 | 全ての性別 | 全ての性別 |
法定刑 | 3年以上の懲役刑 | 5年以上の懲役刑 | 5年以上の拘禁刑 |
公訴時効(※) | 10年 | 10年 | 15年 |
※刑法改正がされた時点で、まだ時効が完成していない事件については、改正後の時効の規定が適用されます。例えば、2016年1月1日に強制性交等罪に該当する行為が行われた場合、改正前の規定に従えば「10年後」の2026年1月1日に時効が完成するはずでしたが、改正法の適用により「15年後」の2031年1月1日を経過しなければ公訴時効が完成しないことになります。
不同意性交等罪(旧強制性交等罪・旧強姦罪)の時効は15年です
不同意性交等罪で執行猶予はつかない?
原則として執行猶予はつかない
「執行猶予」とは、有罪判決が言い渡された後、一定期間、刑の執行を猶予し、その期間中に問題なく過ごせば刑の言渡しの効力を失わせる制度です。
執行猶予は、「3年以下の懲役若しくは禁固、または50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」に付されることができます。しかし、前述の通り、不同意性交等罪の法定刑の下限は5年です。そのため、不同意性交等罪には原則として執行猶予が付きません。したがって、たとえ初犯であっても、懲役実刑となり、刑務所に収監される非常に重い性犯罪といえます。
しかし、以下の場合には執行猶予が付される可能性があります。
減軽される3つのケース
法律上刑を減軽すべき事由がある場合、有期懲役では「長期及び短期の2分の1を減ずる」とされています(刑法第68条3号)。
不同意性交等罪の法定刑の下限は「5年」で、有期懲役の上限は「20年」ですので、「2年6月以上10年以下の懲役」で刑罰が言い渡されます。
したがって3年以下の懲役となれば執行猶予の可能性が出てきます。そして刑が減軽されるのは以下のようなケースです。
犯人が自首した場合
「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」と規定されています(刑法第42条1項参照)。
「発覚する前」とは、犯罪の発覚前または犯人が誰であるかが判明する前を意味し、犯人の所在だけが判明していない場合は含まれません。
未遂で終わった場合
「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる」と規定しています(同43条参照)。
性交等を試みたものの相手方に逃げられた場合などには未遂となります。
また「自己の意思により犯罪を中止したとき」は必ず刑が減軽されます(同但書き)。このように中止犯が成立するには、任意性と中止行為が必要となります。
酌量減軽
「犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる」と規定されています(同66条参照)。
酌量すべき場合とは、法定刑の最低をもってしてもなお重いと考えられる場合で、犯行の動機や態様、被害結果、被告人の境遇や生活環境、前科前歴の有無、反省の程度などが考慮されます。
不同意性交等罪で執行猶予を獲得するには?
被害者と示談を成立させ示談書に宥恕文言を入れてもらう
不同意性交等罪で執行猶予付の有罪判決を得るためには、酌量減軽を獲得する必要があります。
酌量減軽とは、法律上の減軽理由には該当しないものの、情状を考慮して裁判官の判断で刑を減軽することができる場合を指します(刑法第66条)。情状には、動機、性格・年齢、犯行後の状況、事件の社会的影響などが含まれます。
そして、酌量減軽を得るためには、被害者との示談を成立させることが重要です。ただし、被害者との示談がまとまれば内容はどうでもよいというわけにはいきません。
酌量減軽を得るためには、被害者と取り交わした示談書の中に「宥恕条項」が含まれていることが重要です。宥恕条項とは、刑事上の示談書に盛り込まれる「許す」や「寛大な処分を求める」という趣旨の条項のことをさします。
このように、示談書の中に、被害者が加害者を許し刑事処罰を望まないという意思表明があれば、裁判官が被告人を減刑するための根拠とすることができるのです。
再犯のリスクが低いことを示す
被害者との示談以外に、不同意性交事件で執行猶予を獲得するためには、再犯のリスクが低いことを裁判官に示すことが重要です。
再犯リスクを下げるために、カウンセリングや更生プログラムなどの適切な治療を受けることが重要です。性犯罪の場合には、被害者の感情が理解できず、自分の欲求を抑えられないという問題点を矯正する必要があります。例えば、性的な衝動を抱いた際の自分の行動やとっさに頭に浮かんだ自動思考などを記録し、認知の歪みを修正したり(認知行動療法)、カウンセリングや投薬治療を行うことで、再犯リスクを低下させることができます。起訴後に保釈された場合には、専門の医療機関でカウンセリングや更生プログラムを受け、事件当時からどのように変わったのかを被告人質問で述べることが大切です。場合によってはカウンセリングをした専門家などに証人として出廷してもらうこともあります。
また、再犯リスクを低下させるために、家族に監督してもらうという方法もあります。
衝動的に犯行に及んでしまう人は、自分ひとりで更生することは容易でありません。家族と同居して付き添ってもらったり、スマホのGPS機能によって位置情報を把握しておいてもらうなどの監督をしてもらうこともできます。
刑事裁判では、監督に協力してくれる家族が証人として出廷してもらい、被告人のサポート体制などを証言してもらうこともあります。
不同意性交等罪では執行猶予よりもまずは不起訴処分を目指す
不同意性交等罪で執行猶予がつく率は低い
不同意性交等罪の執行猶予率を示す具体的な統計データはありませんが、先ほどの、法務省刑事局作成「性犯罪の量刑に関する資料」によると、刑法改正前の強制性交等罪の令和元年度における執行猶予率は19.2%とけして高くありません。
他方で、検察統計調査によると、令和5年度の不同意性交等罪の起訴率は33.4%ですので、約67%が不起訴処分となっております。つまり、執行猶予よりもまずは不起訴処分の獲得を目指す方が現実的といえます。
日本の司法では起訴されると99.9%の確率で有罪判決となりますので、仮に執行猶予が付いたとしても前科はついてしまいます。一方、不起訴処分を獲得できれば前科はつきませんし、刑事裁判にかけられて刑務所に収監されることもありません。
不起訴処分を獲得するには弁護士に示談交渉を依頼
不同意性交等罪で不起訴処分を獲得するには、被害者との示談成立が最も効果的です。
被害者と示談を成立させることができれば、示談金の支払いと条件に被害者に被害届や告訴を取り下げてもらうことができます。加えて被害者の処罰感情が大幅に緩和されていれば、不起訴となる可能性は飛躍的に高まります。示談の成立や被害者の加害者に対する処罰感情の低下は、起訴・不起訴の判断でも重視されます。
もっとも、被害者が示談交渉に応じるか否か、被疑者側が提示した示談条件に応じるか否かは被害者の意思次第です。被害者が示談に応じるタイミングも大切です。不起訴を獲得するためには起訴される前に示談を成立させなければいけませんが、必ずしも起訴前に示談に応じていただけるとは限りません。
また、不同意性交等罪を始めとした性犯罪においては、被害者は加害者に強い恐怖心を抱いており、加害者との直接の示談交渉に応じる被害者はまずいません。そこで、示談交渉するには弁護士に刑事弁護を依頼しましょう。被害者の連絡先等の個人情報を知らない場合は、捜査機関から被害者の個人情報を取得する必要がありますが、捜査機関が加害者に被害者の個人情報を教えることはありませんから、その意味でも弁護士の力が必要です。
弊所では、不同意性交等罪の被害者との示談交渉、早期釈放、不起訴処分の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、逮捕されるかご不安な方、既に逮捕された方のご家族の方はまずはご相談ください。相談する勇気が解決へと繋がります。
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