不同意わいせつ未遂とは、相手の同意なしにわいせつな行為を試みたものの、その行為が実際には完了しなかった場合を指します。この未遂行為も、刑法第180条に基づき処罰されます。罰則は既遂罪と同様に「6月以上10年以下の拘禁刑」とされていますが、未遂の場合は減軽されることがあります。不同意わいせつ罪が減軽された場合、罰則は既遂罪の2分の1である「3月以上5年以下の拘禁刑」となります。
この記事では、不同意わいせつ事件に強い弁護士が、上記内容につき詳しく解説するとともに、
- 不同意わいせつ未遂が成立する具体例
- 未遂を犯した場合に逮捕を回避するための対応方法
についても解説していきます。
なお、心当たりのある行為をしてしまい、逮捕回避に向けて早急に対応したいとお考えの方は、全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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目次
不同意わいせつ罪は未遂でも処罰される?
そもそも不同意わいせつ罪とは?
成立要件は?
2023年7月13日に改正刑法が施行され、これまで「強制わいせつ罪」として処罰されてきた行為が「不同意わいせつ罪」として処罰されることになりました。
不同意わいせつ罪とは、一定の原因・事由のもとで、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした」場合に成立する犯罪です(刑法第176条1項)。
一定の原因・事由として次の8つのものが明記されています(同条項1号〜8号)。
- ①暴行若しくは脅迫
- ②心身の障害
- ③アルコールまたは薬物の影響
- ④睡眠その他の意識不明瞭
- ⑤同意しない意思を形成、表明または全するいとまの不存在
- ⑥予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕
- ⑦虐待に起因する心理的反応
- ⑧経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
「わいせつな行為」とは、「いたずらに性欲を刺激興奮させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反するような行為」をいうと解されています(最高裁判所昭和26年5月10日)。具体的には、陰部に触れる、乳房を揉む、抱きつく、無理やりキスをする、服を脱がせるなどの行為が該当します。
したがって、突然相手に抱きついたり、エステ店などで施術中のセラピストの胸やお尻に無断で触れたり、お酒に酔っぱらっている状態の相手の服を脱がしたりする行為は、不同意わいせつ罪に該当する可能性があります。
強制わいせつ罪との違いは?
上記の通り、不同意わいせつ罪が施行されたのは2023年(令和5年)7月13日ですので、それ以前、すなわち2023年7月12日以前に起こした未遂事件については、旧法である「強制わいせつ罪」が適用されます。
強制わいせつ罪は、13歳以上の者に対しては暴行または脅迫を手段としてわいせつな行為を行った場合に成立します。13歳未満の者に対しては同意の有無に関係なくわいせつな行為を行っただけで成立します。他方で、不同意わいせつ罪は、暴力や脅迫がなくても、相手の同意がない場合に成立するため、より広範な行為が処罰対象となります。
このように、事件の発生時期が法律的な評価や処罰に大きな影響を与えますので、事件が発生した日付を正確に把握することが重要です。
不同意わいせつ罪と強制わいせつ罪の違いについて詳しくは、不同意わいせつ罪とは?旧強制わいせつ罪との違いをわかりやすく解説をご覧になってください。
不同意性交等罪との違いは?
強制わいせつ罪が不同意わいせつ罪に改正されたのと同じタイミングで、強制性交等罪(旧強姦罪)が不同意性交等罪へと改正されています。
不同意わいせつ罪か不同意性交等未遂罪かの区別は、「性交等」を行う意図があったかどうかによって決まると考えられます。性交等とは、性交(陰茎を膣内に挿入する行為)のほか、肛門性交・口腔性交、膣や肛門に指などの身体の一部または物等を挿入することです。
不同意わいせつ罪は「わいせつな行為」を行うことで成立し、不同意性交等罪は「性交等」を行うことで成立します。そのため、加害者に性交等を行う意図があった場合には、不同意性交等罪が成立することになるのです。
加害者の主観によって成立する犯罪が異なることになりますが、その判断のためには、事件の具体的な状況や加害者の行動や発言など客観的な事情によって判断されることになります。いずれの罪が成立するかの判断には、取り調べにおける供述も重要な要素となります。
そのため、取り調べへの対応や答え方については、あらかじめ弁護士に相談したうえで、アドバイスを受けておくことが重要でしょう。
不同意性交等罪とは?旧強制性交等罪(旧強姦罪)との違いを解説
不同意わいせつは未遂でも処罰される?未遂の具体例は?
まず、未遂は、犯罪の実行に着手したものの、最後まで遂行できなかった場合に成立する罪です。犯罪の結果が発生する現実的な危険性が生じたときに「犯罪の実行に着手」したとみなされます。
法律は既遂を処罰することを原則とし、未遂は各罪において規定されている場合にのみ処罰することとされていますが、不同意わいせつ罪については刑法180条で未遂を処罰する旨が規定されています。
そのため、「未遂に終わったから処罰されないはずだ」と容易に考えてはいけません。
わいせつな行為という結果が不発生であったとしても不同意わいせつ罪の実行に着手した場合には、未遂に問われることになります。不同意わいせつ罪の実行の着手とは、「同意しない意思を形成、表明、または全うすることが困難な状態の原因となり得る行為」が開始されたと評価される必要があります。
例えば、以下のような場合には不同意わいせつ罪の未遂罪が成立する可能性があります。
- ①日頃から好意を抱いていた被害者に対して無理矢理キスしようとしたところ、被害者から抵抗されたためキスできずに終わった場合
- ②相手の胸を触ろうと酒に酔った女性の背後から腕を回したところ、振り払われて逃げられた場合
- ③相手の下半身を触ろうとわいせつな意図を持って女性の腕を力強く引き寄せたところ、振り払われて逃げられた場合
- ④眠っている女性の衣服を脱がして裸を見ようと考えて、ボタンに手をかけたが、女性が目を覚まして目的を達成しなかった場合
未遂の場合の刑罰は?
不同意わいせつ罪の法定刑は「6月以上10年以下の拘禁刑」ですが、未遂罪の法定刑も同様に「6月以上10年以下の拘禁刑」です。
ただし、以下で解説するように、未遂罪は減軽されることがあります。
なお、拘禁刑とは、これまでの懲役・禁固を一本化した新たな刑罰です。ただし、2025年に予定されている改正刑法が施行されるまでは、不同意わいせつ罪には「懲役刑」が科されます。
未遂の場合は減軽される?
ここからは減軽とは何か、減軽されると刑の重さはどうなるのか解説します。
不同意わいせつの未遂は減軽される?
減軽とは各罪に規定されている法定刑の重さを法律の定めに従って軽減することです。刑法第43条では、未遂の場合の刑の減軽について規定しています。
(未遂減免)
第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
未遂には中止未遂と障害未遂があります。
中止未遂とは、犯罪の実行に着手したものの、自己の意思により犯罪を中止したため、犯罪が既遂に至らなかった場合をいいます。前述の不同意わいせつ未遂罪が成立する具体例①が中止未遂の典型例です。中止未遂が成立する場合は、必ず刑が減軽されます(刑法43条但書)。
一方、障害未遂とは、犯罪の実行に着手したものの、中止未遂にあたる理由以外の理由によって犯罪が既遂に至らなかった場合をいいます。前述の不同意わいせつ未遂罪が成立する具体例②から④が障害未遂の典型例です。障害未遂の場合は必ず刑が減軽されるわけではありません。刑を減軽するかどうかは裁判官の判断に委ねられます(刑法43条前段)。
減軽された場合の刑罰は?
では、仮に、不同意わいせつ未遂罪で減軽されるとして、どのように減軽されるのかみていきましょう。
不同意わいせつ罪に規定されている拘禁刑については、刑法68条第3号に「有期拘禁刑を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる」と規定されています。そして、不同意わいせつ罪の法定刑は「6月以上10年以下の拘禁刑」ですので、長期(10年)の2分の1、短期(6月)の2分の1を減じた「3月以上5年以下の拘禁刑」が不同意わいせつ未遂罪の処断刑ということになります。
不同意わいせつ未遂を犯した場合に逮捕を回避するには?
最後に、不同意わいせつ未遂を犯した場合に逮捕を回避するための対応方法につき解説します。
被害者と示談を成立させる
まず、不同意わいせつ未遂の被害者が知り合いの場合など、連絡先がわかるようであれば、被害者と示談交渉し示談を成立させることが重要です。
被害者と示談交渉し示談を成立させることができれば、逮捕回避につながる可能性が飛躍的に高まります。被害者に示談金を支払うことを条件に、被害者がまだ警察に被害届を提出していない場合は被害者に警察に被害届を提出しないことを確約してもらうことができ、すでに被害届を提出している場合は被害届を取り下げてもらうことができるからです。
しかし、不同意わいせつをはじめとした性犯罪の加害者と、直接の示談交渉に応じる被害者はまずいません。加害者が示談交渉を持ち掛けることで被害者の感情を逆なでし、不利な結果につながるおそれもあるでしょう。被害者が弁護士を立ててくることも考えられますが、その場合、加害者にとって不利な条件で示談させられてしまう可能性もあります。
そのため、示談交渉は弁護士に任せることをお勧めします。弁護士であれば警戒心を解いて交渉に応じてくれる被害者も多いです。また、刑事事件の示談経験が豊富な弁護士であれば、性犯罪の被害者の心情に最大限配慮して、適切な示談交渉を行うことができます。
自首を検討する
次に、不同意わいせつ未遂の被害者の連絡先が一切わからない場合には、自首をすることも検討しましょう。
警察が被疑者を逮捕するには、逮捕の必要性、すなわち犯人が逃亡や証拠隠滅をするおそれがあるという要件を満たす必要があります。しかし、自首をするということは犯人が自らの罪を認めて自白することになるため、逃亡・証拠隠滅のおそれがないと判断されて逮捕を回避できる可能性があるのです。
もっとも、ただ単に自首すればよいというわけではありません。自首しても反対に、不同意わいせつ未遂の容疑で逮捕されてしまう可能性もあります。少しでも自首による逮捕回避の可能性を高めるには、事前準備が欠かせません。無職であれば職に就く、一人暮らしであれば監督者(親など)のもとで暮らすなどの対応も必要となる場合があるでしょう。
逮捕回避に向けて何をやるべきか困ったら、早急に弁護士に相談しましょう。弁護士に相談すれば、個別の事情に応じて自首すべきかどうか具体的なアドバイスがもらえます。弁護を依頼した場合は、取り調べ対応についてのアドバイスを受けることができるほか、警察に意見書を出したり、自首に付き添ってくれます。一人で自首することが不安な場合は心強い味方になってくれます。
弊所では、不同意わいせつ未遂(旧強制わいせつ未遂)事件を犯してしまった場合の示談交渉、逮捕の回避を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が全力で依頼者を守りますのでまずはお気軽にご相談ください。相談する勇気が解決へと繋がります。
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