出頭命令とは、裁判所が被告人に対し指定の場所に出頭するよう出す命令のことです(刑事訴訟法68条)。裁判を受けることは被告人の権利でもあり義務でもあることから、裁判所は、必要があると認めるときは出頭命令を出すことができるとされています。
第六十八条 裁判所は、必要があるときは、指定の場所に被告人の出頭又は同行を命ずることができる。被告人が正当な理由がなくこれに応じないときは、その場所に勾引することができる(略)。
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ただし、一般的には、警察や検察といった捜査機関から呼び出される「出頭要請」のことを「出頭命令」と言うことが多いでしょう。そのため、この記事で「出頭命令」と言う場合には「出頭要請」のことであると理解して頂けたらと思います。
この記事では、以下の項目について、刑事事件に強い弁護士が解説していきます。
- 出頭要請とは?
- 出頭命令に応じて出頭したら逮捕されるの?
- 出頭命令を無視・拒否したらどうなる?
- 出頭に応じる場合の対処法・留意点
警察からの出頭命令を受けていてお困りの方で記事を読んでも問題解決しない場合は、まずは気軽に弁護士に相談してみましょう。
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出頭要請とは?
冒頭でも触れましたが、「出頭要請」とは、警察や検察などの捜査機関による呼び出しのことです(刑事訴訟法198条1項・223条1項)。電話や手紙(呼出状)で要請されることが多いでしょう。
(被疑者の出頭要求・取調べ)
第198条
1.検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。刑事訴訟法第198条 - Wikibooks
条文によると、検察官、検察事務官、警察官は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができるとしています。
この「出頭を求め」という部分が出頭要請にあたる部分です。もっとも、198条1項の但書では「出頭を拒むことができる」としております。つまり、出頭するかどうかはあなたの意思しだいであり自由ですよ、ということになります。
なお、捜査機関による出頭要請に基づいて出頭することを「任意出頭」といいます。強制ではないことから「任意」というわけですね。
出頭命令(出頭要請)に応じたら逮捕される?
出頭命令に応じて出頭したら逮捕されるかどうかはケースバイケースとしか言いようがありません。逮捕するかしないのかは最終的には警察等の捜査機関の判断に委ねられているからです。
もっとも、警察等の捜査機関が被疑者を逮捕するには、「①被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある」「②罪証隠滅・逃亡の恐れがある」の2つの要件を満たさなくてはなりません。逮捕せずに出頭命令を出したということは、まだ逮捕の要件が満たされていない可能性も十分あります。
また、軽微な犯罪であれば、事件を検察に送致せずに、警察官から被疑者に対する厳重注意・訓戒等で事件を終了させる手続き(微罪処分)もありますので、その目的で出頭命令を出すこともあります。あるいは、被疑者の身柄を拘束せずに在宅のまま捜査を進める在宅事件を想定して、取り調べ目的のために出頭命令を出すこともあります。
つまり、「出頭命令に応じて出頭=逮捕」ではないということです。
もっとも、出頭時の取り調べにおける聴取内容によっては逮捕の判断がなされることもありますし、呼び出された時点で逮捕の可能性が高い事件もあります。これまでの事例からどのような事件で逮捕されやすく、どのような事件で逮捕されにくいのかということはある程度予測することができますので、以下の表でまとめておきます。
逮捕されやすい事件 | 逮捕されにくい事件 |
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参考人として出頭命令(出頭要請)を受けることもある
捜査機関から出頭命令を受けるのは被疑者だけではありません。事件の目撃者や関係者が参考人として呼び出されることがあります(刑事訴訟法233条1項)。
(第三者の任意出頭・取調べ・鑑定等の嘱託)
第223条
1.検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者以外の者の出頭を求め、これを取り調べ、又はこれに鑑定、通訳若しくは翻訳を嘱託することができる。
2.第198条第1項但書及び第3項乃至第5項の規定は、前項の場合にこれを準用する。刑事訴訟法第223条 - Wikibooks
同条1項の「被疑者以外の者の出頭を求め」の箇所が、参考人に対する出頭命令にあたる部分です。また、被疑者として呼び出された場合と同様に出頭を拒否することもできます(同条2項)。
参考人として出頭命令を受けた場合は、犯罪の情報収集のための協力者として呼び出されているため出頭しても通常は逮捕される心配はありません。ただし、参考人として呼び出されたものの、共犯関係を疑われている場合には注意が必要です。出頭後の事情聴取で犯罪の共犯者である嫌疑が濃厚であると捜査機関が判断すれば、参考人から被疑者の立場に切り替えられて厳しい取り調べを受けることになります。
なお、出頭命令を受けたのが、被疑者としてなのか参考人としてなのか、捜査機関による呼び出しの電話や手紙(書面)では伝えられないことも多くあります。質問しても回答が得られない場合は弁護士を介して捜査機関に問い合わせてもらいましょう。
出頭命令(出頭要請)を無視・拒否し続けたらどうなる?
前記のとおり、捜査機関から出頭命令を受けたとしても、出頭するかどうかは被疑者の自由です。したがって、出頭命令を受けたとしても無視・拒否することはできます。
しかし、捜査機関の出頭命令を無視・拒否し続けた場合、捜査機関はどう考えるでしょうか?そう、被疑者から無視・拒否し続けられた捜査機関としては、通常、「このまま出頭命令を続けても被疑者は出頭しない」「このままだともしかしたら被疑者は逃亡するかもしれないし、もう逃亡しているかもしれない」「身柄を拘束(逮捕)するしかない」と考えるでしょう。
つまり、出頭命令を無視・拒否し続けること自体が、逃亡のおそれ(場合によっては罪証隠滅のおそれ)がある微表だとされ、逮捕されてしまう可能性があるわけです。
また、刑事訴訟法199条1項には、出頭命令に応じない場合に逮捕を認める規定が置かれています。
(逮捕状による逮捕)
第199条
1.検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。刑事訴訟法第199条 - Wikibooks
この規定は逮捕できる場合を限定したものですが、読み方によっては軽微な事件ですら不出頭の場合に逮捕できるのであれば、それよりさらに重たい罪についてはさらに逮捕できる、と読めなくもありません。
出頭命令(出頭要請)に応じる場合の対処法、留意点
⑴ 弁護士に相談、報告する
出頭する前に弁護士に相談、報告しておくと、出頭後の対処法についてアドバイスを受けることができます。また、万が一逮捕された場合でも相談、報告した弁護士との接見にスムーズに移行することができます。
⑵ 出頭しても退去できる(退去権)
出頭後どのタイミングでも理由を問わず警察署、検察庁から退去することができます。
⑶ 取調室から退室できる
また、取調室に入り、取調べを受けた後どのタイミングでも、理由を問わず取調室から退室することができます。
⑷ 話したくない場合は終始沈黙できる(黙秘権)
取調べ中、理由を問わず話したくなければ話さなくても構いません。それによって不利益に取り扱われることは、実質黙秘権を侵害しているのと同じであり許されません。
⑸ 供述調書の内容をよく確認する
取調べで話した内容は、取調官があなたに代わって供述調書という書類にまとめます。取調べの最後に供述調書の内容に間違いがないかどうか確かめる機会が設けられます。内容をよく確認しましょう。
⑹ 内容に誤りがあれば増減変更を申立てることができる(増減変更申立て権)
内容を確認して誤りがあれば「ここを付け加えてください」「ここは削除してください、このように変更してください」などと取調官に申し立てることができます。
⑺ 供述調書に無理にサインする必要はない(署名押印拒否権)
内容に間違いがある場合はもちろん、間違いがない場合でも無理に供述調書に署名・押印する必要はありません。署名・押印する場合は、その調書が捜査や裁判で使われる可能性があることを覚悟してください。
⑻ 権利を適切に行使する
以上⑵から⑺は被疑者に保障されている権利をご紹介しました。もっとも、権利が認められているからといって、やみくもに行使するとかえって受けないでよい不利益を被る結果にも繋がりかねません。罪の重さや罪に対する認否など鑑みて権利は適切に行使すべきです。
まとめ
捜査機関(警察、検察)から出頭要請(出頭命令)を受けても、出頭するかしないかはあなたしだいです。
しかし、出頭要請(出頭命令)を無視し続けたり、正当な理由なく拒否し続けると逮捕されるおそれもあります。
出頭すると逮捕されるかも、と不安になるかと思いますが、逮捕されるか否かは捜査機関の判断しだいという面が否めません。
仮に、逮捕された場合にそなえて弁護士からアドバイスを受けておくことも必要です。
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