- そもそも微罪処分ってなに?
- 微罪処分になるに基準は?
- 微罪処分のメリット・デメリットは?
- 前科・前歴はつくのだろうか?
- 微罪処分を得るためにはどうすればいい?
この記事では、こういった疑問を、刑事事件に強い弁護士が解決していきます。
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微罪処分とは
微罪処分の意味
微罪処分とは、警察官が捜査した事件のうち、一定の事件については検察庁へ送致することなく、警察官が被疑者に対して厳重注意や訓戒等を行い、事件を終了させる手続きのことをいいます。
被疑者が警察に逮捕されると、警察官は弁解録取(取り調べ)を行った後、検察官に被疑者の身柄を送致(送検)します。検察官は、被疑者を起訴するか不起訴にするかを判断し、起訴された場合には刑事裁判が開かれ、有罪が認定されれば懲役や罰金などの刑罰が科されます。
しかし、警察が捜査する事件には軽微な事件から重大な事件まで様々な種類があります。すべての事件を検察官に送致してしまうと、検察庁の処理能力が逼迫し、刑事手続きのスムーズな運用に支障をきたす恐れがあります。
また、犯人に刑罰を与える目的は再犯防止と社会秩序の安定にありますが、軽微な事件を犯した者に対して刑罰を与えることで再犯防止を図る必要性は低いと考えられます。
そのため、犯罪事実が極めて軽微であり、検察官があらかじめ送致の必要がないと指定した事件については、検察庁に送致することなく、警察が処理することが認められています(犯罪捜査規範第198条、刑事訴訟法第246条参照)。
(微罪処分ができる場合)
第198条 捜査した事件について、犯罪事実が極めて軽微であり、かつ、検察官から送致の手続をとる必要がないとあらかじめ指定されたものについては、送致しないことができる。
第二百四十六条 司法警察員は、犯罪の捜査をしたときは、この法律に特別の定のある場合を除いては、速やかに書類及び証拠物とともに事件を検察官に送致しなければならない。但し、検察官が指定した事件については、この限りでない。
もっとも、犯罪を疑われる行為をしたことには変わりはなく、再犯防止を図る観点から何らかの処置を取る必要はあります。そこで、犯罪捜査規範200条に、警察官が微罪処分とする際に取るべき処置が規定されています。
(微罪処分の際の処置)
第200条 第198条(微罪処分ができる場合)の規定により事件を送致しない場合には、次の各号に掲げる処置をとるものとする。
(1)被疑者に対し、厳重に訓戒を加えて、将来を戒めること。
(2)親権者、雇主その他被疑者を監督する地位にある者又はこれらの者に代わるべき者を呼び出し、将来の監督につき必要な注意を与えて、その請書を徴すること。
(3)被疑者に対し、被害者に対する被害の回復、謝罪その他適当な方法を講ずるよう諭すこと。
微罪処分の流れ
微罪処分となる場合には、警察署で事情聴取を受け、身元引受人に迎えに来てもらい身元引受書を作成してもらうことで、釈放となる流れが一般的です。
微罪処分の対象事件として典型的なものとして、軽微な万引き事件や暴行事件などがあります。ここでは、お店で万引きや暴行事件を起こした場合を例に説明します。
微罪処分となる場合の手続きの流れは次のとおりです。
- お店で事件を起こし、通報を受けた警察官に逮捕・任意同行される
- 警察署で事情聴取・取調べを受ける
- 身元引受人になってくれる人に連絡し、警察署まで来てもらう
- 身元引受人となってくれる人に身元引受書を作成してもらう
- 微罪処分として釈放される
また、現場で警察に逮捕されて連行されるパターンではなく、在宅事件となって後日警察から連絡を受けて警察署に呼び出された場合であっても、基本的に流れは同じです。
もっとも、微罪処分となるためには、身元引受人のほかに、被害者の処罰感情がないことや、事件について深く反省しており、被害弁償ができるなどのさまざまな要件を満たす必要があります。以下、微罪処分の要件につき解説していきます。
微罪処分の要件
①軽微な犯罪であること
微罪処分になるためには、比較的軽微な犯罪であることが必要です。例えば、窃盗罪や占有離脱物横領罪のように法定刑が比較的軽い犯罪は、微罪処分となる可能性が高いといえます。一方で、殺人罪や強盗罪など、法定刑が重く社会に与える影響が大きい犯罪は、微罪処分には該当しません。
さらに、微罪処分には、被害が軽微であることも要件となります。例えば、窃盗罪、占有離脱物横領罪、横領罪などの財産犯では、被害額が低額(おおむね2万円以下)が目安とされています。傷害罪については、加療期間が「1週間~2週間以下」であることが要件です。加療期間がこれを超える場合や後遺症が残る場合は、微罪処分の対象外となります。
②犯行態様が悪質ではないこと
偶発的な犯行、単独犯による犯行、武器を使用していないこと、暴行の回数が少ないこと、などが要件です。一方で、計画的な犯行、共犯による犯行、武器を使用した犯行、暴行の回数が多い犯行は微罪処分の対象外です。
③被疑者に身元引受人がいること
微罪処分の必須の要件ではありませんが、早期釈放を得るためには、身元引受人がいることが重要です。身元引受人として、釈放される際に、被疑者の生活を管理し、二度と再犯を起こさないように監督する人のことを指します。身元引受人がいないと、逃亡や再犯のおそれがあるとして、逮捕・勾留が継続する可能性があります。
具体的に身元引受人となる人として、次のような人です。
- 両親
- 配偶者
- 兄弟姉妹
- 雇用主
- その他被疑者を監督する地位にある者 など
身元引受人になってくれる人には警察署まで来てもらい、身元引受書に署名・押印してもらう必要があります。また、身の回りに身元引受人になってくれる人がいない場合には、弁護士に身元引受人になってもらうこともできます。家族や会社の人に事件のことを知られたくないという場合にも、弁護士に依頼して身元引受人になってもらうことができます。
なお、身元引受人がいない場合であっても、軽微な犯罪で前科・前歴がなく、本人が十分に反省している場合には、微罪処分で事件が終了する可能性はあります。
④被害者が被疑者の処罰を望んでいないこと
被害が軽微であったり、犯行態様が悪質ではない場合でも、被害者が被疑者の処罰を望んでいる場合は微罪処分の対象外です。
⑤被害弁償していること、示談が成立していること
警察が事件を検察庁に送致する前に被害弁償や示談できていれば被害者の処罰感情も緩和され、微罪処分の対象事件となりやすいです。もっとも、被害弁償や示談しなければ微罪処分の対象事件とならないかといえば、そうとも限りません。その意味で、被害弁償や示談は微罪処分の絶対要件ではありません。
⑥前科・前歴がないこと
前科・前歴を有している場合よりも初犯の場合の方が微罪処分となりやすいです。ただ、前科・前歴を有していても、その内容や数によっては微罪処分となる場合もあります。
微罪処分の対象事件
実務では、検察官(各都道府県の検察庁の検事正)から各都道府県本部長の警察官宛てに発せられた文書で微罪処分の対象となる事件が指定されていますが、情報は非公開です。微罪処分の対象事件が非公開である理由は、軽犯罪が処罰が軽いと誤認され、犯罪の誘発を防ぐためです。公開することで犯罪の模倣を助長し、社会的な警戒心を薄れさせないようにする目的があります。
ただ、これまで取り扱った事例から、微罪処分の対象となる事件をある程度推測することは可能です。
まず、微罪処分の対象事件となる要件は、比較的罰則が軽く、かつ、類型的に犯しがちな犯罪であることが必要です。
具体的には、次のような犯罪をあげることができます。
- 窃盗罪(10年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
- 占有離脱物横領罪(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金若しくは科料)
- 横領罪(5年以下の懲役)
- 暴行罪(2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)
- 傷害罪(15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)
- 軽犯罪法違反(拘留又は科料)
実務上は、窃盗罪(万引き、置引きなど)や暴行罪が微罪処分の対象とされることが多いです。
一方で、次のような重大犯罪は微罪処分の対象ではありません。
- 強盗罪(5年以上の有期懲役)
- 殺人罪(死刑又は無期若しくは5年以上の懲役)
- 現住建造物等放火罪(死刑又は無期若しくは5年以上の懲役)
ただし、微罪処分の対象事件は法律で一律に定められておらず、各地方検察庁が地域ごとに指示を出しており、同じ犯罪であっても地域によって適用されるかどうかが異なる場合があります。
微罪処分のメリット
微罪処分を受けるメリットは以下のとおりです。
- ①前科がつかない
- ②早期解放と日常生活への影響の最小化
①前科がつかない
微罪処分を受ける最大のメリットは、前科がつかないことです。微罪処分が適用されると、事件は起訴されず、刑事裁判を受けることがありません。これにより、懲役刑や罰金などの刑罰を受けることもなく、その結果、前科がつくこともありません。
前科は、刑事裁判で有罪判決を受け、刑罰を科された場合にのみつくものであり、刑事裁判を受けることなく解決できる微罪処分では、社会的な不利益を避けることができます。そのため、職業や日常生活において不利な影響を受けることがほとんどありません。
②早期解放と日常生活への影響の最小化
微罪処分を受けると、通常の刑事事件に比べて手続きが非常に迅速に完了します。通常、取調べから送致、起訴・不起訴の決定には数ヶ月かかりますが、微罪処分では、その日のうちに取調べが終わり、捜査が迅速に終了します。これにより、長期間の拘束や繰り返しの取調べを避け、短期間で解放されます。
また、微罪処分を受けることで身柄が最短で当日中に解放されるため、日常生活への影響を最小限に抑えることができます。職場や学校に知られることなく、すぐに社会復帰できる点は大きな利点です。逆に、通常の手続きの場合は数週間拘束されることがあり、その間に生活への影響が生じるリスクがあります。
微罪処分のデメリット
微罪処分のデメリットは次のとおりです。
- ①身元引受人に事件のことを話さなくてはならない
- ②前歴がつく
- ③民事責任は免除されない
①身元引受人に事件のことを話さなくてはならない
まず、微罪処分を受けるためには身元引受人が必要であり、その人に事件のことを話さなければならない点がデメリットとなります。
身元引受人は、あなたが再び犯罪を犯さないよう見守る役割を担う人で、通常は親や親族がお願いされますが、適任者がいない場合は職場の上司に頼むこともあります。
警察が事件を微罪処分で済ませるためには、身元引受人をつけることを求められることが多いです。そのため、微罪処分を希望する場合、親や親族、職場の上司に事件のことを知られたくない場合には、注意が必要です。ただし、弁護士に刑事弁護を依頼している場合は、弁護士が身元引受人となることにより、親や親族に知られることなく処理できる場合もあります。
②前歴がつく
次に、微罪処分を受けると前歴がつく点が挙げられます。
前歴とは、過去に被疑者として検挙された履歴のことです。身柄拘束(逮捕)がなくても、検挙されれば前歴がつきます。前歴は警察に保管され、再犯時には逮捕の有無や刑事処分、量刑の参考として使用されることがあります。また、顔写真や指紋が採取され、警察庁のデータベースに登録されることもあります。
ただし、前歴は前科とは異なり、免許や資格、旅券取得などには影響しません。前歴がついたからといって、過度に心配する必要はないでしょう。また、前歴は微罪処分に限らず、検挙されればつくため、微罪処分特有のデメリットではありません。
③民事責任は免除されない
最後に、微罪処分では民事責任(損害賠償責任)は免除されないことです。
微罪処分は刑事責任に対する処分であり、民事責任には影響を与えません。刑事処分が不起訴となった場合でも、民事責任は免除されませんので、微罪処分特有のデメリットとは言えません。
微罪処分を獲得するためにやるべきこと
微罪処分を獲得するためには、
- 被害弁償と示談
- 私選弁護人に依頼する
を行いましょう。
被害弁償と示談
前述のとおり、被害弁償や示談は微罪処分を獲得する上での絶対条件ではありません。しかし、被害弁償や示談をしておくことで、微罪処分を獲得できる可能性が各段に上がります。
検察に送致されてしまっては微罪処分を獲得できません。被害弁償、示談するなら送致される前に済ませることが必要です。
私選弁護人を探す、依頼する
被害弁償、示談はご自分で行うことも可能です。しかし、被害者の多くは加害者であるあなたと直接やり取りすることを嫌います。そのため、仮に、被害者の連絡先を把握していて被害者とやり取りできる状態でも、実際は被害弁償や示談することが困難なケースが多いです。
また、事件によっては被害者と面識がなく、被害者の連絡先すら知らないというケースもあります。その場合に被害弁償や示談するには、警察から被害者の連絡先等を教えてもらう必要があります。ただ、警察が加害者に被害者の連絡先を教えることはありません。そのため、被害者と面識がない事件では被害弁償や示談ができません。
そこで、被害弁償や示談を望む場合は、弁護士に依頼するのも一つの方法です。弁護士であれば、被害者と面識がない事件でも、被害者の意向しだいでは警察から被害者の連絡先等を教えてもらえる可能性があります。また、実際に被害弁償や示談となった場合でも、ご自分で交渉する負担が減りますし、円滑に話をまとめてくれる可能性が大きいです。
弁護士の力を必要とする場合、在宅事件が警察にある段階では国選弁護人を選ぶことはできませんから、私選弁護人を探す必要があります。
微罪処分についてのよくある質問
微罪処分になった後に警察に呼び出されることは?
微罪処分になった後は、その事件の件で警察から呼び出しを受けることはありません。警察から呼び出しを受けるのは、微罪処分の後、微罪処分の対象となった事件以外の余罪が発覚したときぐらいでしょう。
なお、警察から被疑者に対し微罪処分とした旨の通知はしません。警察に呼び出しを受け、簡単な取調べを受けた後、数か月経っても状況に変化がない場合は、処分がどうなったのか警察に問い合わせしてみてもよいでしょう。
公務員は微罪処分にならない?
公務員の場合には、職務の公共性が高いことから、軽微な犯罪かどうかを問わず、「微罪処分にはしない」という運用がなされている可能性があります。
そのため、公務員による犯罪行為の場合には、どのような事件であっても、検察官に送致(送検)され、検察官が判断を行うこととされている可能性があります。
また、公務員が犯罪行為を行った場合には、警察の内規に従い、職務上連絡がされる可能性もあります。
ただし、送検されたとしても、早期に被害者に被害弁償をし示談を成立させることで、検察官が不起訴を判断する可能性は十分にあります。
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