
内乱罪(ないらんざい)とは、国の統治機構を破壊するなど、憲法の定める統治の基本秩序の壊乱を狙って暴動を起こしたときに成立する、刑法77条の罪です。暴動の中での役割によって刑が分かれ、首謀者には死刑または無期拘禁刑が科されます。
ニュースで「国家転覆」や「クーデター」という言葉を見聞きし、日本にも内乱罪はあるのか、実際に使われたことはあるのかと気になった方もいるでしょう。適用が検討された事件はあるものの、判決で内乱罪が適用された例は一度もありません。
この記事では、刑事事件に精通した弁護士が、次の点について解説します。
- 成立するための要件と、処罰される範囲
- 内乱罪は死刑になるのか、刑罰の重さ
- 日本で内乱罪が問題になった過去の事件
- 暴動の前の準備や手助けも罰せられるのか
お読みいただくことで、ニュースで報じられる事件が内乱罪にあたるのかを、ご自身で見分けられるようになります。
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内乱罪とはどんな罪?構成要件と成立する範囲

内乱罪は、国家の存立を守るために日本の刑法77条が定める罪です。俗に「国家転覆罪」「国家反逆罪」と呼ばれることもありますが、日本の法律に、国家転覆罪や国家反逆罪という名前の罪はありません。国家の転覆を狙った暴動は内乱罪が、外国と通じて日本に武力を向けさせる行為は外患誘致罪(刑法81条)が、それぞれ処罰の対象にしています。
内乱罪の構成要件は「目的」と「暴動」
内乱罪の構成要件(犯罪が成立するための条件)の中心は、統治の基本秩序を壊乱する「目的」と、その目的で起こす「暴動」です。
(内乱)
第七十七条 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
一 首謀者は、死刑又は無期拘禁刑に処する。
二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の拘禁刑に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の拘禁刑に処する。
三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の拘禁刑に処する。
2 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第三号に規定する者については、この限りでない。
※拘禁刑とは、2025年6月1日施行の改正刑法で懲役刑と禁錮刑を一本化した刑罰です。
「目的」とは、国会・内閣・裁判所といった統治の仕組みそのものを壊したり、国の一部を政府から切り離して支配したりするなど、憲法の定める統治の基本秩序を壊乱しようとする意図です。この目的がなければ、大規模な集団による暴行・脅迫でも内乱罪にはなりません。
「暴動」とは、多数の者が結びついて暴行・脅迫を行い、少なくとも一地方の平穏を害する程度に至ることと解されています。内乱の目的で暴動に伴い行われた殺人や放火などは、内乱罪に吸収されると考えられています。
未遂や一人だけの場合も内乱罪になる?
内乱罪は、統治機構の破壊などの目的が実現しなくても、暴動によって一地方の平穏を害した時点で既遂(犯罪の完成)となります。
さらに、暴動に着手したものの一地方の平穏を害するまでに至らなかった場合も、内乱罪の未遂として処罰されます(刑法77条2項)。ただし、周囲に同調して加わっただけの人など、単に暴動に参加しただけの人(同条1項3号)については、未遂は処罰されません。
一方、たった一人で行動した場合、内乱罪は成立しません。内乱罪の暴動は多数の人が加わることを前提としているからです。一般に、2人以上の関与が犯罪の成立に予定されている罪を必要的共犯といい、内乱罪はその一つに分類されます。
革命が成功したら処罰されない?
革命やクーデターが成功すると、実行した側が国家の権力を握るため、内乱罪で裁かれることは事実上ありません。内乱罪で処罰できるのは、革命が失敗に終わった場合や途中の段階にとどまる場合に限られます。内乱罪は、統治機構が実際に壊されるのを待たず、暴動の段階で成立する危険犯(被害が生じる危険があれば成立する罪)とされています。
外患誘致罪・騒乱罪との違い

外患誘致罪(がいかんゆうちざい)は、外国と通謀し、日本に対して武力を行使させる罪です(刑法81条)。外国の武力を日本に向けさせる点で内乱罪と異なり、法定刑は死刑のみと定められています。外患誘致罪の構成要件や罰則について詳しくは「法定刑が死刑のみの外患誘致罪とは?過去の適用実例や判例はなし」で解説しています。
騒乱罪(そうらんざい)は、多衆で集合して暴行や脅迫をした者を処罰する罪です(刑法106条)。内乱罪と違って統治の基本秩序を壊乱する目的は要らず、抗議デモが暴徒化しただけなら騒乱罪の問題になります。1968年の新宿騒乱事件などで適用例があり、詳しくは「騒乱罪とは?成立要件と刑罰、適用された事例を徹底解説」をご参照ください。
内乱罪は死刑になる?刑罰と過去の事例

内乱罪は、首謀者に死刑が科されうる、日本の犯罪の中でも法定刑が特に重い罪の一つです。内乱罪以外にどのような罪に死刑が定められているかは「日本で重い罪ランキング|死刑になる罪19種類を法定刑順に解説」で解説しています。
また、内乱罪の裁判は、高等裁判所が第一審を担当する二審制です(裁判所法16条4号)。裁判員制度は地方裁判所の刑事裁判が対象のため、内乱罪は対象外です。
役割で異なる4段階の刑罰
刑法77条1項は、内乱罪に関わった者を役割で4つに分けて刑を定めています。
- 首謀者:死刑又は無期拘禁刑
- 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者:無期又は3年以上の拘禁刑
- その他諸般の職務に従事した者:1年以上10年以下の拘禁刑
- 付和随行し、その他単に暴動に参加した者:3年以下の拘禁刑
首謀者とは暴動を計画し主導したリーダー、謀議への参与とは計画の話し合いに加わること、付和随行とは周囲に同調して集団に加わることを指します。
日本で内乱罪が適用された例はある?問題になった5つの事件
日本の裁判で内乱罪が適用された例はこれまでありません。内乱罪の適用が検討された事件や内乱予備罪で起訴された事件に、社会を揺るがしながら別の罪で裁かれた事件も加えて、代表的な5つを年代順に見ていきます。
まず、1919年の三・一運動です。日本統治下の朝鮮で広がった独立運動で、検察は内乱罪の適用を求めましたが、結局この罪は適用されませんでした。
1932年の五・一五事件では、海軍の青年将校らが陸軍士官学校の生徒や民間人とともに首相官邸などを襲い、犬養毅首相の命を奪いました。軍人には海軍刑法・陸軍刑法の反乱罪が適用され、民間人も内乱罪ではなく殺人などの罪で裁かれています。
翌1933年の神兵隊事件は、右翼団体の関係者らが計画したクーデターが、実行直前に発覚した事件です。内乱の準備をした罪(内乱予備罪)に問われ、刑法施行後唯一の内乱予備事件として大審院(当時の最上級の裁判所)で審理されましたが、1941年の判決では内乱予備罪の成立が否定されました。
1936年の二・二六事件では、2月26日から29日にかけ、陸軍の青年将校らが部隊を率いて首相官邸などを襲撃しました。中心が現役の軍人であったことから、内乱罪ではなく陸軍刑法の反乱罪が適用され、特設軍法会議で民間人を含む19名に死刑が言い渡されています。
参考:山本政雄「旧陸海軍軍法会議法の意義と司法権の独立」(防衛研究所)
戦後では、オウム真理教事件があります。地下鉄サリン事件などで多数の死傷者を出し、2018年1月に全裁判が終わった時点で192人が起訴され、13人の死刑と6人の無期懲役が確定しましたが、いずれの裁判でも内乱罪は適用されていません。
内乱予備罪・内乱陰謀罪・内乱幇助罪とは

内乱罪には、準備や計画(78条)、手助け(79条)を処罰する3つの関連罪があります。
この3つの罪には、自首(捜査機関に自ら罪を申し出ること)の特例があります。暴動に至る前に自首したときは、刑が必ず免除されます(刑法80条)。この免除は78条・79条の罪に限られ、内乱罪そのもの(77条)には適用されません。暴動に至った後の自首は、捜査機関に発覚する前であれば刑法42条1項により刑が減軽される可能性があるにとどまります。
また、内乱罪を教唆(そそのかすこと)した者や、実行させる目的でせん動(あおること)した者は7年以下、予備・陰謀・幇助の罪を教唆した者などは5年以下の拘禁刑に処されます(破壊活動防止法38条)。
内乱予備罪
内乱予備罪(ないらんよびざい)は、内乱を予備(準備)した者を処罰する罪です(刑法78条)。予備とは犯罪を実行するための準備行為で、内乱罪の暴動に着手する前の行為が対象です。刑罰は1年以上10年以下の拘禁刑です。
内乱陰謀罪
内乱陰謀罪(ないらんいんぼうざい)は、内乱を陰謀した者を処罰する罪で、内乱予備罪と同じ刑法78条に定められ、刑罰も同じです。陰謀とは、2人以上の者が内乱罪などの犯罪の実行について合意することです。
内乱幇助罪
内乱幇助罪(ないらんほうじょざい)は、兵器や資金、食糧の供給などによって内乱罪・内乱予備罪・内乱陰謀罪を幇助した者を処罰する罪です(刑法79条)。幇助とは、犯罪の実行を物質的・精神的に容易にする行為をいいます。刑罰は7年以下の拘禁刑です。
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内乱罪は、統治の基本秩序を壊乱する目的の暴動を罰する罪で、首謀者には死刑もありえます。有罪判決で用いられたことはないものの、暴動前の準備や計画まで処罰の対象になる重い罪です。
内乱罪をはじめ、刑事事件でお困りのことがあれば弁護士にご相談ください。全国どこからでもご利用いただける無料相談を設けておりますので、まずはお気軽にご相談ください。
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この記事の監修者
刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

