監護者性交等罪とは?弁護士がわかりやすく解説

監護者性交等罪とは、18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした場合に処罰される犯罪です。刑法第179条第2項に規定されています。罰則は、5年以上の有期拘禁刑です。監護者性交等罪は平成29年(2017年)の刑法改正により新設された罪です。

この記事では、性犯罪に強い弁護士が、

  • 監護者性交等罪の成立要件
  • 罪を犯した場合の対応方法

などについてわかりやすく解説していきます。

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監護者性交等罪とは

監護者性交等罪とは、18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした場合に処罰される犯罪です。刑法第179条第2項に規定されています。

第百七十九条
(省略)
2十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条第一項の例による

刑法 | e-Gov法令検索

なお、刑法第179条1項には、監護者わいせつ罪について規定されています。

第百七十九条 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第百七十六条第一項の例による。

刑法 | e-Gov法令検索

監護者わいせつ罪とは、18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて「わいせつな行為」をした場合に処罰される犯罪です。つまり、同様の状況で「性交等(性交、肛門性交、口腔性交)」をした場合には監護者性交等罪が、「わいせつな行為(性交等以外のわいせつな行為。乳房を揉む、陰部に触れる、キスをするなど)」をした場合には監護者わいせつ罪が成立することになります。

監護者わいせつ罪について詳しく知りたい方は、監護者わいせつ罪とは|構成要件や罰則は?同意があっても成立する?をご覧になってください。

監護者性交等罪の構成要件

監護者性交等罪の構成要件(成立要件)は、以下の4つです。

  • ①監護者であること
  • ②相手が18歳未満の者であること
  • ③監護者であることによる影響力に乗じたこと
  • ④性交等を行ったこと

①監護者であること

まず、18歳未満の者を現に監護する者(監護者)である必要があります。

「現に」監護する者である必要がありますので、離婚して離れて暮らす過去の親権者などは監護者性交等罪の主体にはなりえません。一方、事実上18歳未満の者を監督し、保護する立場の者であれば監護者に当たります。監護者に当たるかどうかは、具体的には以下の諸事情を総合的に勘案して決定されます。

  • 18歳未満の者と同居しているかどうか
  • 18歳未満の者に対する指導状況、身の回りの世話等の生活状況
  • 生活費の支出などの経済的状況
  • 18歳未満の者に関する諸手続などを行う状況

実務では、法律上の監護権をもつ実親、養親が監護者に当たることが多いですが、内縁の夫など法律上の監護権をもたない者も事情によっては監護者に当たることがあります。一方、学校の担任教師やクラブ活動のコーチなどは、上記の判断要素からすると、監護者には当たらないという判断になります。

②相手が18歳未満の者であること

次に、相手が18歳未満の者である必要があります。

18歳未満であれば女性のみならず男性も監護者性交等罪の客体(被害者)になりえます。なお、相手が18歳未満の者という事実に加えて、監護者が、相手が18歳未満であることを知っていたこと(故意)が必要ですが、監護者性交等罪の事案では知っていることがほとんどでしょう。

③監護者であることによる影響力に乗じたこと

次に、監護者であることによる影響力に乗じたことが必要です。

監護者であることによる影響力とは、現に18歳未満の者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点や生活上の指導監督など精神的な観点から、現に18歳未満の者を監督し、保護することにより生じる影響力をいいます。

乗じたとは、上記の影響力が一般的に存在し、性交等を行う当時においてもその影響力を及ぼしている状態で性交等をすることをいいます。

要するに、18歳未満の者が生活していく上で経済的にも精神的にも監護者に頼らざるをえない状況下で性交等に及んだことが必要ということです。

④性交等を行ったこと

最後に、性交等を行ったことが必要です。

性交等とは次の3つの行為のことです。

  • 性交:陰茎を膣内に挿入する行為
  • 肛門性交:陰茎を肛門に挿入する行為
  • 口腔性交:陰茎を口腔内に挿入する行為

なお、監護者が女性、被害者が男性、あるいは同性間の場合も監護者性交等罪が成立する場合があります。

罰則は?

監護者性交等罪の罰則は、5年以上の有期拘禁刑です。

監護者性交等罪の条文にある「第百七十七条」とは、2023年7月に新設された不同意性交等罪の規定です。監護者性交等罪に該当する行為をした者は「第百七十七条第一項の例による」とありますので、監護者性交等罪の罰則は不同意性交等罪と同じ「5年以上の有期拘禁刑」となります。

不同意性交等罪とは?旧強制性交等罪(旧強姦罪)との違いを解説

新設された理由は?

監護者性交等罪は平成29年(2017年)の刑法改正により新設された罪です

監護者性交等罪が新設されるまでは、監護者による18歳未満の者に対する性交等事案に対しては各都道府県が定める青少年保護育成条例(淫行条例)、あるいは児童福祉法が適用されていました。しかしながら、前者の罰則は2年以下の懲役又は100万円以下の罰金、後者は10年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又は併科と、同じ性交等を罪の成立要件とする強制性交等罪(現在は不同意性交等罪)あるいは準強制性交等罪(現在は不同意性交等罪)に比べて著しく刑が低いものでした。また、青少年保護育成条例や児童福祉法よりも刑が重たい強制性交等罪は暴行又は脅迫を、準強制性交等罪は心神喪失・抗拒不能を成立要件とする罪ですが、こうした状況が伴わない性交等に対しては強制性交等罪や準強制性交等罪を適用することが困難でした。

もっとも、経済的にも精神的にも未熟で監護者に依存しなければ生活していけない状況を悪用して18歳未満の者に性交等を加えることは、強制性交等罪や準強制性交等罪と同様に、18歳未満の者の性的自由や自己決定権を侵害する悪質な行為といえます。そこで、暴行又は脅迫、心神喪失・抗拒不応という状況が認められない場合でも、18歳未満の者に対し性交等を行った以上、強制性交等罪や準強制性交等罪と同様の刑を適用すべきとして新設されたのが監護者性交等罪なのです

監護者性交等罪の判例

ここで、監護者性交等罪の裁判事例をご紹介します。

15歳の養子に対し性交等を繰り返した養父に懲役18年

2020年12月~2021年5月までの5か月間、当時15歳の養女に対し、計59回にわたって性交や口腔性交を繰り返し、さらに、養女に口腔性交させた場面を動画撮影して94点の児童ポルノを製造したとして監護者性交等罪及び児童ポルノ法違反に問われた養父に懲役18年の判決が言い渡されました。

量刑を重くした理由として裁判官は「同種事案の中で件数が比類ない程に多く、常習性が顕著であること」、「被害者が心的外傷後ストレス障害を発症していること」などを挙げる一方で、「本件は凶悪な事案ではなく、妊娠・中絶という最悪の事態が生じた事案と同列に扱うわけにはいかない」として、監護者性交等罪の刑の上限である懲役20年とするまでには至らないと述べています(津地方裁判所判決令和4年1月28日)。

16歳の実の娘と性交した父親に懲役6年

2018年8月3日の午前、当時16歳の実の娘とお風呂に入った後、同女に服を脱げと命じ、同女と性交等をした父親に懲役6年の判決が言い渡されました。

父親は「娘が意図的に虚偽の被害申告をした」として無罪を主張。第一審の福島地方裁判所郡山支部は、「被害者(実の娘)の証言は信用でき、被告人(父親)が監護者としての影響力に乗じて被害者と性交したと認められる」として被告人に懲役6年を言い渡しましたが、被告人がこれを不服として控訴。仙台高等裁判所は第一審での審理が尽くされていないとして地裁に審理を差し戻したところ、地裁において冒頭で述べた判決が言い渡されています(福島地方裁判所判決令和3年1月15日)。

監護者性交等罪で逮捕されたときの弁護活動

最後に、監護者性交等罪で逮捕されたときの、不起訴処分の獲得を目指すための弁護活動を、罪を認める場合と認めない場合にわけて解説します。

罪を認める場合

罪を認める場合は、まずは被害者への謝罪、慰謝の措置(示談交渉、賠償金の支払い)が優先されますが、それだけで問題が解決するわけではありません。監護者性交等罪の事案では、事件前までは被害者やその親族と同居していることが前提となっていますから、再び同じ過ちを繰り返さないために、社会復帰後の被害者や親族との関係を見直す必要があります。具体的には離婚、離縁、別居(引っ越し)、転職などを検討し、可能な限り、行動に移していく必要があります。

被害者への慰謝の措置や再犯防止策などがトータルで評価されることにより、早期釈放、不起訴処分の獲得、減軽などの有利な結果につながりやすくなります

罪を認めない場合

罪を認めない場合は、依頼者の主張に沿った弁護活動を展開します。もっとも、監護者性交等罪の事案では、監護者であることや相手年齢の故意を否認する主張よりも、性交等の事実を否認する主張をしていくことが多いと思われます。性交等の事実を否認するには、性交等の事実を証明する証拠の根幹となる被害者の供述(証言)が信用できないことを主張していくことが主な弁護活動となります。また、取調べで不利な供述をしてしまわないよう、接見等を通じて取調べのアドバイスなどもしっかり行います。

その他、罪を認めない場合は身柄拘束期間が長期化する傾向にありますから、身柄拘束の理由や必要性がないことを検察官、裁判官に主張して早期釈放をうながしていくことも考えられます。

弊所では、監護者性交等罪の弁護活動に力を入れております。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますのでまずはご相談ください。相談する勇気が解決への第一歩です。

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