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被害者が驚愕により判断力を失った状態を「抗拒不能」にあたるとした判例
事案の概要
この事例は、被告人が当時15歳の少女に対して欺罔等の巧妙な手段によって機会を作り、相手方の性的無知・性的所作事に起因する驚愕に乗じて姦淫した事例です。
このような場合にも準強制性交等罪(準強姦罪)の「抗拒不能」といえるかが問題となりました。
判決文の抜粋
「その当初性交の如何なるものであるかを知らない未だ満十五年にも満たない少女に対し、同女が中学の卒業期を控えて、就職に焦心して居た折柄、これに乗じて言葉巧みに就職斡旋を名に、同女を連れ出して姦淫したものであり、・・・姦淫において、敢えて有形力の行使による暴行や畏怖せしむる言辞を弄するの手段に出でた事実がないとしても、欺罔等の巧妙な手段によつて機会を作り、相手方の性的無知ないしは性的所作事に起因する驚愕による前後の辨(物事を十分に理解すること)を失した抗拒不能に乗じて姦淫を遂げた事実あるにおいては、強姦の罪の成立あるを免がれない」と判示しています(東京高等裁判所昭和31年9月17日判決)。
弁護士の解説
人の「抗拒不能に乗じ」または「抗拒不能にさせて」性交等をした場合には、準強制性交等罪(準強姦罪)が成立します(刑法第178条2項参照)。法定刑は「6月以上10年以下の懲役」です。
この「抗拒不能」とは、物理的・心理的にわいせつ行為または姦淫に対して抵抗することが著しく困難な状態をいいます。偽計を用いて性交等をしたような場合には、暴行・脅迫と同程度の心理的な抑圧状態が必要であるという立場も有力です。
同罪が認められるケースとして被害者が睡眠状態、薬物やアルコールの影響を受けている事例が典型的です。
本件では、被害者が中学校卒業を控えた若干15歳であり性的無知である点や、被害者の陰部に手指を挿入・陰茎を挿入するという行為に起因して驚愕した点を理由に「抗拒不能の精神状態」にあったことが認定されています。
このように被害者側の精神状態に起因するケースについても「抗拒不能」に該当すると判断されている点がポイントです。
心理的・精神的な追い込みが「抗拒不能にさせて」にあたるとした判例
事案の概要
この事例は、被告人が警察から依頼された医師と称して被害者に近づき、売春と性病の疑があるなどと申向け、検査や治療のため拒みえない処置であると誤信させ、わいせつおよび姦淫の行為を行った事例です。被害者が準強制性交等罪(準強姦罪)にいう「抗拒不能」に該当するかどうかが問題となりました。
判決文の抜粋
「刑法一七八条にいう抗拒不能は、物理的、身体的な抗拒不能のみならず、心理的、精神的な抗拒不能を含み、たとえ物理的、身体的には抗拒不能といえない場合であつても、わいせつ、姦淫行為を抗拒することにより被り又は続くと予想される危難を避けるため、その行為を受け容れるほかはないとの心理的、精神的状態に被害者を追い込んだときには、心理的、精神的な抗拒不能に陥れた場合にあたるということができる。そして、そのような心理的、精神的状態に追い込んだか否かは、危難の内容、行為者及び被害者の特徴、行為の状況などの具体的事情を資料とし、当該被害者に即し、その際の心理や精神状態を基準として判断すべきであり、一般的平均人を想定し、その通常の心理や精神状態を基準として判断すべきものではない」と判示しています(東京地方裁判所昭和62年4月15日判決)。
弁護士の解説
本件で被告人は、警察から依頼された医師であると名乗ったうえ、言葉巧みに売春と性病の検査を受ける必要があることを説き、その検査を拒否すれば警察に不利な報告をしたり警察による公の捜査が行われたりして名誉や信用が失墜すると告げています。さらに最悪の場合には逮捕されることもありうると暗示したため被害者は被告人の言葉を信じ、これに従うほかないと観念して検査に応じています。
本件ではこのような事実認定のうえで心理的、精神的な「抗拒不能」に陥っていたと判断されています。
被害者に知的障害がある状況を「心神喪失」にあたるとした判例
事案の概要
この事例は、被告人が知的障害のある成人女性を姦淫したとして、準強制性交等罪(準強姦罪)に問われた事例です。このような場合にも同罪の「心神喪失」に含まれるのか否かが問題となりました。
判決文の抜粋
「同女が当時正常な判断能力を有せず、精神薄弱(重度の白痴)の状態にあり、同女が本件姦淫について承諾能力を欠いていたことはもとよりとして、被告人に対し通常成人の婦女が示す姦淫についての同意の意思を示していたものとは到底容認し難く、被告人としても、前記捜査官に対し語っているように同女が頭の弱いばかな人だとの認識、すなわち、刑法一七八条の罪の成立に必要な故意を有していたものと認定するに毫も支障はない。・・・してみると、被告人が右認定のような精神状態にあるVを姦淫した本件所為は、まさに刑法一七八条にいう人の心神喪失に乗じて姦淫したものと解するのが相当であるから、原判決には所論のような事実誤認の違法は存しない」と判示しています(東京高等裁判所昭和51年12月13日判決)。
弁護士の解説
「心神喪失」に乗じて性交等をした者には準強制性交等罪(準強姦罪)が成立します(刑法第178条2項参照)。
「心神喪失」とは、自己に対してわいせつな行為または姦淫が行われていることについて認識を欠く状態のことをいいます。
そして本件の被害者は当時43歳で成人でしたが、重度精神薄弱者収容施設に収容され、知能指数21の重度の白痴で、4,5歳の知能程度しかなく善悪の判断ができない状態でした。
この判例は、このような知的障害のある被害者の状況も、準強制性交等罪(準強姦罪)のいう「心神喪失」に該当することを示した点で重要です。
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