堕胎罪とは?構成要件と罰則、なぜ中絶が許されるのかを解説

堕胎罪(だたいざい)とは、自然の分娩に先立ち、人為的に胎児を母体から排出する犯罪です。堕胎罪には複数の種類があり、女子が薬やその他の方法を用いて堕胎する自己堕胎罪のほか、同意堕胎罪・業務上堕胎罪・不同意堕胎罪及びこれらの致死傷罪が犯罪として刑法第212条~216条に規定されています。

ここで、「堕胎罪があるのになぜ中絶が認められているの?」を思われる方もいるかもしれませんが、日本では一定の条件のもと、母体保護法にもとづく人工妊娠中絶が適法とされており、厚生労働省の資料によると令和4年度には約12万件の人工妊娠中絶が日本で実施されています。

この記事では刑事事件に強い弁護士が、

  • 堕胎罪の種類と罰則
  • 堕胎罪と殺人罪の違い
  • 堕胎罪があるのになぜ中絶が許されているのか

などについてわかりやすく解説していきます。

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堕胎罪とは

堕胎罪とは、自然の分娩(出産)に先立ち、人為的に胎児を母体から排出する犯罪です

ここでは、堕胎罪の種類や、各堕胎罪の構成要件と罰則、堕胎と殺人罪の違いにつき解説していきます。

堕胎罪の種類と構成要件・罰則

堕胎の罪については、以下の行為が犯罪として規定されています。

  • 自己堕胎罪
  • 同意堕胎罪・同致死傷罪
  • 業務上堕胎罪・同致死傷罪
  • 不同意堕胎罪・同致死傷罪

ここでは、上記の各堕胎罪の構成要件(成立要件)や罰則について解説していきます。

自己堕胎罪

自己堕胎罪とは、妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により堕胎した場合に成立する犯罪です。刑法第212条に規定されています。自己堕胎罪の罰則は1年以下の懲役です。

ここで「堕胎」とは、自然の分娩期に先立つ胎児の人口排出のことをいいます(大審院明治44年12月8日判決)。胎児が死亡するか否かは問題とはなりません。

堕胎罪が保護しようとしている法益(保護法益)は、「胎児の生命・身体の安全」と「母親の生命・身体の安全」です。犯罪の客体は、「胎児」であり、受精卵の子宮内着床以降であると考えられています。したがって、受精した卵子が子宮内に着床することを妨害する行為は「堕胎」にはあたりません。

自己堕胎罪は、母体との関係では、自傷行為または同意傷害であり、法律が守ろうとしている法益主体(母親)自身による関与として違法性がないと考えらえます。しかし、胎児との関係では、犯罪とされています。ただし妊婦の心理状態を考慮して責任が減少すると考えられています。

堕胎罪の時効は何年?

同意堕胎罪及び同致死傷罪

「女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させた」場合には、同意堕胎罪が成立します。刑法第213条に規定されています。同意堕胎罪の罰則は2年以下の懲役です。

「嘱託」とは、妊婦が第三者に堕胎を依頼することで、「承諾」とは第三者が堕胎行為をすることについて妊婦が同意することです。

前述の通り、堕胎罪の保護法益には「母体の生命・身体」が含まれているため、母体に危険を及ぼす可能性のある堕胎行為については、たとえ女子本人の嘱託・承諾ががあった場合でも、同罪で処罰の対象となります。

もっとも、保護の対象となる女子本人の同意がある以上、後述する不同意堕胎罪よりは刑罰が軽くなっています。

また、同意堕胎罪を犯し、「よって女子を死傷させた」場合には同意堕胎致死傷罪が成立します。この場合、3月以上5年以下の懲役が科されることになります。

業務上堕胎罪及び同致死傷罪

「医師、助産師、薬剤師又は医薬品販売業者が女子の嘱託を受け、又はその承諾を得て堕胎させた」場合には業務上堕胎罪が成立します。刑法第214条に規定されています。業務上堕胎罪の罰則は3月以上5年以下の懲役です。

医師に歯科医師が含まれるかどうかについては見解が分かれています。

女子の嘱託・承諾があるにもかかわらず同意堕胎罪よりも刑罰が重くなっている理由としては、医師、助産師、薬剤師、医薬品販売業者は妊婦と接する機会が多い職種のため、予防的な見地から刑罰が重くなっていると考えられています。また、職業倫理違反という点が責任非難に値するという見解もあります。

もっとも、後述するように、医師が母体保護法に基づく適法な人工妊娠中絶を実施した場合には同罪は成立しません。

業務上堕胎罪を犯し、「よって女子を死傷させた」場合には業務上堕胎致死傷罪が成立します。この場合、6月以上7年以下の懲役が科されることになります。

不同意堕胎罪及び同致死傷罪

「女子の嘱託を受けないで、又はその承諾を得ないで堕胎させた」場合には、不同意堕胎罪が成立します。刑法第215条に規定されています。不同意堕胎罪の罰則は6月以上7年以下の懲役です。

例えば、妊婦の嘱託も承諾もないのに、流産させる目的を持って妊婦のお腹を殴る蹴るなどして流産させた場合は同罪が成立します。

また、不同意堕胎罪は未遂の場合も罰せられます(刑法215条2項)。例えば、妊婦の同意なく堕胎手術を実施している最中に第三者によって制止され、堕胎が失敗に終わった場合も処罰されるということです。

不同意堕胎罪を犯し、「よって女子を死傷させた」場合には、不同意堕胎致死傷罪が成立します(刑法第216条)。この場合、傷害の罪と比較して、重い刑により処断されることになります。

なお、不同意堕胎罪を含む堕胎罪は故意犯(意図的に犯す犯罪)ですので、意図せずに結果的に流産してしまったケース、例えば、口論となりカッとなって妊婦を突き飛ばしたところ妊婦が転倒して流産してしまったようなケースでは、不同意堕胎罪は成立しません。

もっとも、このケースでは傷害罪が成立します。仮に転倒により妊婦が怪我をしなかった場合も同様です。後述しますが、法律上、胎児は母体の一部と考えられているため、流産したことは母体の一部が損傷したと考えられるためです。

堕胎罪と殺人罪の違い

堕胎行為は「赤ちゃんに対する殺人だ」と主張する人たちもいます。そのような言い分も理解できなくはありませんが、刑法上、堕胎は殺人にはあたりません

前述のとおり「堕胎」とは、自然分娩期に先立つ胎児の人工的排出のことをいいます。

そして、殺人罪の客体となる「人」の始期については、胎児が母親の体内から一部露出した時点であると考えられています(一部露出説)。

したがって、母親の体内に存在する胎児については殺人罪の客体とはならず、母親の身体の一部または胎児として法律上保護の対象となります

以上より堕胎行為は殺人とは異なるのです。

なお、母体を通じて胎児に侵害を加え、出生によって人となった段階で傷害・死亡の結果が発生した場合に、殺人罪等の人に対する罪が成立するかにつき争われた判例もあります。詳しくは、堕胎罪の有名判例を解説をご覧になってください。

堕胎罪と母体保護法に基づく中絶について

日本では堕胎罪があるのに中絶が認められているのはなぜ?

堕胎罪が存在しているのになぜ人工妊娠中絶が可能なのか疑問に思われている方もいるかもしれませんが、日本では、母体保護法(旧優生保護法)によって、一定の要件を満たす場合には違法性が阻却されると考えられています

日本では、明治政府が堕胎禁止令を発出してから、1880年に旧刑法、1907年に現刑法に「堕胎罪」が規定されました。

その後、1948年に「優生保護法」が施行されました。優生保護法とは、優生思想の見地から、遺伝的疾患や障害の可能性を持つ胎児の出生を防ぐことと母体保護を目的として制定された法律です。同法では、特定の疾患や障害がある人を「不良」と扱い、その人から子孫が生じないよう強制的に不妊手術を受けさせることができる条文が規定されていました。そして実際に多数の「強制不妊手術」が実施されていたのです。

このように、優生保護法は極めて非人道的かつ障害者の人権や尊厳を著しく毀損するものであり、廃止を求める声が多数上がっていました。そして1996年、法改正により、優生保護法から優生思想に基づく規定が削除され、法律名も「母体保護法」に改称されました。

この流れからもわかる通り、日本では原則として堕胎は罪になるとされてきましたが、優生保護法を経て、母体保護法で定める一定の要件を満たせば例外的に堕胎が合法になる(堕胎罪が免除される)ようになったのです。

なお、女性の自己決定権の観点から堕胎罪の廃止を求める意見も存在しますが、我が国では116年以上にわたり制定当時からほとんど変わらない形で、令和6年現在も堕胎は処罰の対象とされています。

ちなみに、韓国では2019年4月に憲法裁判所が堕胎罪について違憲判決を下し、2021年1月1日より堕胎罪が無効化されています。

母体保護法にもとづく人工妊娠中絶は堕胎罪に問われない

母体保護法で人工妊娠中絶が適法となるのはどのような条件なのでしょうか。

「人工妊娠中絶」とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいいます(母体保護法第2条2項)。

そして母体保護法第14条には、都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、以下に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる、と規定しています。

  • 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
  • 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫されて妊娠したもの

前述の同意は、配偶者が分からないときや、その意思を表示することができないとき、妊娠後に配偶者が亡くなったときには本人の同意だけで足りるとされています(同条2項)。

堕胎罪が適用される人工妊娠中絶とは

母体保護法の要件を満たさない人工妊娠中絶については、堕胎罪が適用され、刑事責任を問われる可能性があります

具体的に以下のような中絶方法をとると、堕胎罪が成立する可能性があります。

指定のない医師による人工妊娠中絶人工妊娠中絶を行えるのは、都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(指定医師)だけです。したがって、医師会の指定を得ていない医師・やぶ医者による中絶行為は堕胎罪に該当する可能性があります。
本人・配偶者の同意のない人工妊娠中絶人工妊娠中絶は、母親やその配偶者の同意を得て行うことが必要です。したがって、妊婦本人やその配偶者の同意なく人工妊娠中絶を行うと不同意堕胎罪に該当します。
妊娠22週以降の人工妊娠中絶人工妊娠中絶は「胎児が、母体外において生命を保続することのできない時期」に行う必要があり、妊娠22週未満である必要があるとされています。したがって、妊娠22週以降の人工妊娠中絶は堕胎罪に問われる可能性があります。

まとめ

望まない妊娠の場合には、一定の要件のもとで人工妊娠中絶をすることができます。適法な人工妊娠中絶であれば堕胎罪その他の犯罪に問われる心配はありません。

ただし、家族や胎児の父親とトラブルを抱えている場合にはどうしてよいのか分からないという場合もあると思います。

妊娠や出産に関するトラブルを抱えている方は、一度法律の専門家である弁護士に相談するようにしてください。

当事務所では、刑事事件はもちろん、妊娠トラブルを含む男女問題の解決を得意としております。親身誠実に弁護士が依頼者のために全力を尽くしますので、堕胎罪にあたる行為をしてしまった方、子の認知や子の父親への慰謝料請求などの問題でお困りの方は当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。

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