背任罪とは、簡単に言えば、会社の従業員などが自分や第三者の利益のため、あるいは会社に損害を与える目的で、その任務に背いて会社などに損害を加える犯罪です。
刑法犯の中でもあまり適用されるケースが少ない犯罪ですが、2021年に日大背任事件がマスコミで大々的に報道されたため、「背任罪」という言葉を耳にした方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、背任事件に強い弁護士が、
- 背任罪とは
- 背任罪の成立要件・時効・未遂の処罰について
- 背任罪と特別背任罪の違い
- 背任罪と横領罪の違い
などについてわかりやすく解説していきます。
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目次
背任罪とは
背任罪とは、刑法第247条に規定された犯罪です。他人のために事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図りまたは本人に損害を与える目的で、任務に背く行為をして、本人に損害を加えることで成立します。罰則は5年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
(背任)
第二百四十七条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
以下、背任罪がどのような罪なのか、背任罪の構成要件、時効などについて解説していきます。
背任罪の構成要件(成立要件)
背任罪が成立するには、
- 「他人のために事務を処理する者」が
- 「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的」で
- 「任務に背く行為をして、本人に損害を加えること」
が必要です。
他人のために事務を処理する者
まず、背任罪の主体は他人のために事務を処理する者、すなわち、委託信任関係に基づいて他人の事務をその他人のために処理する者です。
たとえば、県知事の農地売買の許可が下りることを条件に、農地の買主に農地を売り渡した農地の売主は、許可前に農地を抵当権等の負担付きの農地としないことはもちろん、許可後は農地の所有権移転登記手続きに協力すべき任務を負いますから、売主は他人(買主)のために事務を処理する者にあたります(最高裁判所昭和38年7月9日)。
したがって、売主が上記の任務に反して、許可前に第三者のために農地に抵当権を設定した場合は、任務に背く行為をしたとして背任罪が成立する可能性があります。
なお、ここでいう「事務」とは、他人のためにする他人の事務である必要があります。「他人」とは、自然人、法人、法人格を有しない団体のいずれであってもよいとされています。
他人との委託信任関係が発生する根拠は、民法などの法令の規定や、委任、雇用、請負などの契約によるところが一般的ですが、慣例・慣習として行われた行為によって生じたものでもよいとされています。
自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的
次に、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的(図利加害目的)をもって、任務違背行為を行うことが必要です。
ここでいう「利益」とは、必ずしも財産的利益に限らず、身分上の利益その他すべて自己の利益も含まれると解するとするのが判例(大審院判決大正3年10月26日)の考え方です。
したがって、
- 自己の信用・面目を保持する目的
- 不良貸付の発覚を防ぐ目的
- 会社役員の地位を得る目的
なども「自己の利益を図る目的」にあたります。
自己若しくは第三者の利益を図る目的と本人に損害を加える目的はいずれか一方だけが存在すれば足り、両者が併存する必要はないと解されています。実務上は、任務違背行為が自己又は第三者の利益を図る目的でなされているようにみられる場合でも、他面において本人の利益を図る目的でなされるとみられる場合も少なくありません。その場合は、目的の主従、すなわち、どちらの目的により重きをおいて任務違背行為を行っているかどうかで判断するほかありません。
任務に背く行為(背任行為)をして、本人に財産上の損害を加える
次に、図利加害目的をもって、任務に背く行為(背任行為・任務違背行為)を行い、本人に財産上の損害を加えることが必要です。
「任務に背く行為(以下、「背任行為」)」とは、本人からの委託の趣旨に反する行為をいいます。すなわち、事務の処理者として当然になすべく法的に期待される行為をしないことをいいます。どのような行為が背任行為にあたるのかは、処理すべき事務の性質・内容・原因・委託信任関係の態様などを法律の規定・信義誠実の原則などに照らして判断されます。
背任行為の例としては、以下のようなものがあります。
- いち従業員が取引先からキックバック(リベート)を受領する行為
- 株式会社等が配当するだけの十分な利益がないのに粉飾決算などで配当が可能であると見せかけて過剰な配当をする行為(蛸配当)
- 企業の社外秘の情報を漏洩させる行為
また、過去の判例では、
- 金融機関の事務担当者が、回収見込みがないのに無担保又は不足担保で不良貸付した行為(最高裁判所昭和38年3月28日)
- 自己の不動産に抵当権を設定した後、まだその登記がなされていない間に、更に他の者のために抵当権を設定する行為(最高裁判所昭和31年12月7日)
- 県知事の許可を条件として自己の農地を売り渡した者が、許可前に更に他の者のために抵当権を設定して登記する行為(前記昭和38年7月9日)
などが背任行為にあたるとされています。
また、背任罪が成立するには、背任行為があっただけでは足りず、その結果として、本人に財産上の損害を加えたことが必要です。
この場合の「損害」とは、本人の全体的財産の減少を意味します。すなわち、既存の財産が減少した場合はもちろんですが、本来得られるはずだった利益を取得できなかった場合も含まれます。
また、財産の減少を法的に評価するか(法的損害概念)、事実的・経済的に評価するのか(経済的損害概念)は争いがあります。たとえば、十分な担保をとることなく金銭を貸し付けた場合の不正融資の場合、100万円を貸し付けても法的には100万円の金銭的債権を取得することになるため、法的損害概念によれば損害はないことになります。これに対し、経済的損害概念によれば、十分な担保なしに金銭を貸し付けるということは、100万円全額を回収できなくなるおそれがあり、経済的な損害が発生すると考えることになります。なお、判例(最高裁判所昭和58年5月24日決定)は経済的損害概念の考え方を採用しています。
背任罪の未遂
背任罪は未遂を処罰する旨の規定が置かれています(刑法第250条参照)。背任罪の既遂か未遂かは、背任行為によって本人に財産上の損害を負わせたか否かによって区別されます。すなわち、背任行為によって本人に財産上の損害を負わせた場合は既遂、負わせなかった場合(背任行為にとどまった場合)は未遂です。
もっとも、背任行為が当然に本人に経済的損害を与えるものであるときは、背任行為が終わったと同時に背任罪の既遂が成立し、その時点で損害額が確定している必要はないとするのが判例(大審院大正11年5月11日判決)です。したがって、不良貸付の場合は、当該貸付を実行したときに既遂に達します。
背任罪の時効
罪の時効期間は罰則を基準に定められています(刑事訴訟法第250条参照)。この点、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪で、懲役10年未満の懲役に当たる罪の時効期間は「5年」と定められています(同条第2項第5号)。したがって、背任罪の時効期間は5年です。
特別背任罪との違い
背任罪は刑法に規定されているのに対して、特別背任罪は会社法(第960条)に規定されています。
前述のとおり、背任罪は「他人のために事務を処理する者」が処罰の対象ですが、これに対して特別背任罪は、会社法に規定されていることからもわかるとおり、会社設立の発起人、設立時取締役、取締役、会計参与、監査役、執行役などの会社の重要ポストに就く人を処罰の対象としています。
罰則も10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又は懲役と罰金の併科と、背任罪の刑罰(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)よりも重たいことがわかります。時効期間も7年と背任罪の時効期間(5年)よりも長いことがわかります。
時効期間
前述のとおり、背任罪の時効期間は5年です。これに対して、特別背任罪の時効期間は7年と背任罪よりも時効期間が長いことがわかります。
背任罪と横領罪の違いとは?
背任罪に似た罪として特別背任罪のほかに横領罪があります。ここでは、背任罪と横領罪の違について解説します。
行為
まず、処罰の対象となる行為が異なります。
前述のとおり、背任罪は背任行為が処罰対象となるのに対して、横領罪は他人から預かっている物を勝手に処分する行為などが処罰の対象とされています。
目的の有無
次に、行為の目的が必要か否かが異なります。
前述のとおり、背任罪では、自分の利益のほか第三者の利益を図ることを目的とした場合でも処罰される可能性があります。これに対し、横領罪では、そうした目的は必要とされていません。
罰則
次に、罰則が異なります。
前述のとおり、背任罪の罰則は5年懲役又は50万円以下の罰金です。一方、横領罪の罰則は5年以下の懲役と罰金刑が設けられていません。
背任罪の判例
日大理事背任事件
この事件は、日本大学の元理事の男性らと共に医療コンサルタント会社代表の被告が、背任罪の共犯として起訴された事件です。
この事件では日本大学付属板橋病院の電子カルテ機器などの医療機器の調達に絡めて、不要な会社を仲介させたとして、日本大学に約2億円の損害を負わせたと認定されています。元理事と医療コンサルタント会社社長は共謀のうえ背任罪が成立するとして懲役2年6月執行猶予4年の判決が言い渡されました。
判決では、日大元理事に従うことで利益の拡大ができると考え、必要不可欠な役割を果たした刑事責任は相当に重いと判示されていますが、一方で関与に従属的な側面があり病院の経営を改善した実績を考慮して執行猶予が相当だと判断されました(東京地方裁判所令和4年10月6日)。
日大背任事件とは 内部告発で見えてきた組織の〝内幕〟 - NHK
理事長の指示に従った不正貸付事件
この事例は理事長の指示によって、他の理事が不正行為を行ったことが任務違背行為にあたると認定された事例です。
信用組合の専務理事である人物が、自ら所管する貸付事務について無担保あるいは不十分な担保で貸付を実行する手続きを行いました。
被告人は貸付手続きの際、貸付金の回収がほとんど不可能である状態を熟知していたということで、決議権を有する理事長の決定・指示に従ったとしても、背任罪のいうところの任務違背行為に該当すると判断されました。
この被告人は、貸し付けについて理事長に対して反対意見を具申していたという事情がありました。しかし貸し付けが実行された場合には、直接信用組合(本人)に大きな損失を発生させることから貸し付けを行わないような措置を講じることが要請されていたということができます(最高裁判所昭和60年4月3日決定)。
背任罪で逮捕される前後の流れ
背任罪で逮捕されるまでの流れ
会社で背任行為が発覚すれば、会社が事実関係を調査し、損害が生じている場合は不正をした従業員に損害賠償請求をするのが通常の流れです。そして従業員と示談が成立すれば刑事事件にせずに不正を働いた従業員を解雇して済ますのが一般的です。会社としては被害が回復すれば良く、また、社内で起きた不祥事をマスコミ報道などで世間に知られたくないという考えが働くためです。
もっとも、示談が成立しなかった場合には警察に被害届を出されたり刑事告訴をされて捜査が開始される可能性があります。また、犯行の悪質性や従業員の反省の程度に鑑みて看過できないと会社が判断すれば、示談交渉なしに警察に被害申告をする事態も考えられます。刑事事件になれば背任事件では在宅事件(被疑者が身柄拘束されずにこれまで通りの生活を送りながら捜査を受ける事件)となるケースも多いですが、警察が必要と判断すれば逮捕されることもあります。
背任罪で逮捕された後の流れ
背任罪で逮捕された後は、以下の流れで手続きが進んでいきます。
- 警察官の弁解録取を受ける
- 逮捕から48時間以内に検察官に事件と身柄を送致される(送検)
- 検察官の弁解録取を受ける
- ②から24時間以内に検察官が裁判官に対し勾留請求する
- 裁判官の勾留質問を受ける
→勾留請求が却下されたら釈放される - 裁判官が検察官の勾留請求を許可する
→10日間の身柄拘束(勾留)が決まる(勾留決定)
→やむを得ない事由がある場合は、最大10日間延長される - 原則、勾留期間内に起訴、不起訴が決まる
- 正式起訴されると2か月間勾留される
→その後、理由がある場合のみ1か月ごとに更新
→保釈が許可されれば釈放される - 勾留期間中に刑事裁判を受ける
このように、背任罪で逮捕されてから勾留請求までは最大で72時間(48時間+24時間)、勾留されてから刑事処分(起訴または不起訴)が決定するまでは最大20日間、つまり逮捕されてから刑事処分が決定するまで最大23日間は身柄拘束されることになります。
背任行為をしてしまったらすべきことは?
最後に、背任罪にあたる行為をしてしまったかも?と思った場合に、やるべきことをご紹介します。
被害者との示談交渉
まずは、被害者との示談交渉が可能か検討します。
仮に、示談を成立させることができれば、被害者から捜査機関(警察、検察)に被害届が提出されず、捜査機関に事件が発覚してしまうことを防止できます。捜査機関に事件が発覚しなければ、事件が刑事事件化することなく、逮捕や勾留などの身柄拘束や厳しい取調べ、刑事裁判、懲役などの刑罰を受けなくて済むようになります。
弁護士に相談、依頼する
また、同時に、弁護士に相談、場合によっては、刑事弁護を依頼します。
示談交渉を行うべきとはいえ、自分一人の力で示談交渉を進めることは困難を伴います。弁護士の力を借りた方が、よりスムーズに示談交渉を進めることができ、かつ、適切な内容で示談することができます。
また、示談以外にも、状況に応じて適切なアドバイスを受けることができます。背任罪で逮捕される可能性がありますから、はやめに相談しておくことが大切です。
弊所では、背任事件の示談交渉、逮捕の回避、不起訴処分の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますのでまずはご相談ください。
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