特別背任罪とは?成立要件・罰則と事例・判例を解説

特別背任罪とは、取締役や監査役といった会社の重要な地位にある人が、自分や第三者の利益を図る目的などで任務に背き、会社の財産に損害を生じさせたときに成立する犯罪です。刑法の背任罪よりも重く処罰されます。

「自分の行為は特別背任罪にあたるのだろうか」「会社に発覚して逮捕されるかもしれない」と不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。もっとも、疑いをかけられたからといって、必ず逮捕や実刑になるわけではありません。早い段階で会社との示談交渉を進めることで、刑事事件化や逮捕を回避できる可能性があります。

この記事では、背任・横領事件に強い弁護士が、次の点について解説します。

  • 特別背任罪と背任罪・横領罪の違い
  • 成立要件と罪にあたる典型的なケース
  • 罰則・時効と、必ず実刑になるかどうか
  • 拓銀事件・大王製紙事件など特別背任罪の有名な判例・事例

なお、特別背任の疑いをかけられてお困りの方は、この記事をお読みいただいた後、当事務所の無料相談をお早めにご利用ください。早期対応が結果を左右します。ご相談は地域を問わず承っています。

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特別背任罪とは?

特別背任罪とは、会社の取締役など重要な役割や義務を負う立場にある人が、自分または第三者の利益を図ったり、会社に損害を与えたりする目的で任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を負わせた場合に成立する犯罪です。刑法の背任罪の特別法として会社法960条1項に規定されており、一般の背任罪に比べて重い刑罰が科されます。

(取締役等の特別背任罪)
第九百六十条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 発起人

二 設立時取締役又は設立時監査役

三 取締役、会計参与、監査役又は執行役

四 (省略)

五 (省略)

六 支配人

七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人

八 検査役

出典:e-Gov法令検索

たとえば、取締役が、返済できる見込みがないと知りながら知人の経営する会社に自社の資金を貸し付け、回収できなくなった場合には、特別背任罪の疑いが生じます。

背任罪との違いは?

背任罪は刑法に規定されているのに対して、特別背任罪は会社法に規定されています。

両罪の成立要件(構成要件)は基本的に同じで、大きな違いは行為の主体にあります。

背任罪の主体は「他人のためにその事務を処理する者」で、会社の一般の従業員がその代表例です。他方で特別背任罪の主体は、取締役や監査役など会社法960条に挙げられた地位にある人です。

また、特別背任罪の法定刑は、背任罪(5年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)よりも重く定められています。取締役などは会社の中で大きな権限を持っており、その権限が悪用されると、会社が被る損害も大きくなりがちだからです。

なお、特別背任罪は親告罪(被害者などが処罰を求める告訴をしなければ、検察官が起訴できない犯罪)ではありません。そのため、会社が刑事告訴をしていなくても、警察などの捜査機関が事件を把握すれば逮捕・起訴に至ることがあります。株主などの第三者による告発(被害者以外の人が犯罪を申告して処罰を求めること)で刑事事件化する可能性もあります。

一般の背任罪の成立要件や時効については「背任罪とは?成立要件と刑罰、横領罪との違いをわかりやすく解説」をご参照ください。

横領罪との違いは?

横領罪とは、自分が預かっている他人の物を、自分のものにしてしまう犯罪をいいます。

横領罪と特別背任罪は、どちらも他人から委託を受けた者がその信頼を裏切る犯罪である点で共通しています。

しかし、横領罪が預かった物を自分のものにする行為を罰するのに対し、特別背任罪は、第三者の利益を図る目的や会社に損害を加える目的で任務に背いた場合にも成立し、対象も物に限られません。

両方にあたりそうな場合は、まず業務上横領罪(仕事として預かっている他人の物を横領する罪)が成立するかを検討し、成立しないときに特別背任罪の成立について検討するというのが判例の考えです。

目安としては、会社のお金や物を着服したり使い込んだりした場合は業務上横領罪、会社のための取引という形で任務に背き、会社に損害を与えた場合は特別背任罪が問題になります。

どのような場合に業務上横領罪が成立するのかについては「業務上横領罪とは?刑罰の重さと判例を解説」もあわせてご確認ください。

特別背任罪の成立要件と典型的なケース

4つの成立要件(構成要件)

特別背任罪が成立するには、次の4つの成立要件をすべて満たす必要があります。

行為の主体

特別背任罪の主体となるのは、次のような地位にある人です(会社法960条1項各号)。

  • 発起人
  • 設立時取締役または設立時監査役
  • 取締役・会計参与・監査役・執行役
  • 裁判所の仮処分命令で選任された取締役・監査役・執行役の職務を代行する者
  • 一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役、代表執行役の職務を行うべき者
  • 支配人
  • 事業に関するある種類の事項、または特定の事項について委任を受けた使用人
  • 検査役

こうした地位にない取引先なども、取締役らと示し合わせて不正に加担した場合には、特別背任罪の共同正犯(共犯の一種で、一緒に犯罪を実行した者)として処罰されることがあります。

また、会社法960条は会社の規模を限定していないため、株式会社であれば中小企業の社長や取締役も対象になります。株主が社長一人だけの会社でも、会社と社長は法律上別の人格であるため、会社の財産を私的に使えば業務上横領罪や特別背任罪に問われる可能性があります。

会社の財産を私的に使った社長が負う責任や、発覚した場合の対応については「社長が横領した場合でも罪に問われる?株主が社長だけなら?」で具体的に解説しています。

行為の目的

特別背任罪が成立するためには「自己若しくは第三者の利益を図る目的」または「株式会社に損害を加える目的」のいずれかが必要です。

これらの目的をまとめて「図利(とり)加害目的」といいます。

任務違背行為

特別背任罪で処罰の対象となるのは「任務に背く行為」です。これを任務違背行為といいます。

もっとも、取締役には経営上の判断について一定の裁量があるため、任務違背行為にあたるかは、経営判断として許される範囲を超えていたかどうかが問題になります。

会社の財産上の損害

取締役等の任務違背行為によって、会社に「財産上の損害」が発生したことが必要です。具体的には、会社の財産が減少した場合(積極的損害)や、増加すべき財産の増加を妨げた場合(消極的損害)に財産上の損害があったといえます。

任務違背行為をしても会社に財産上の損害が生じていなければ既遂にはなりませんが、特別背任罪は未遂も処罰されます(会社法962条)。

特別背任罪の4つの成立要件(行為の主体・図利加害目的・任務違背行為・財産上の損害がすべてそろうと成立)

特別背任罪にあたる典型的なケース

特別背任罪にあたる可能性がある行為の例には、不正融資や不正取引、粉飾決算などがあります。

たとえば不正融資では、返済のあてがない取引先に対し、十分な担保もとらないまま多額の貸付けを実行するケースが典型です。回収が見込めないにもかかわらず融資を続ければ、会社に貸倒れという損害を生じさせるおそれがあります。

不正取引の例としては、取締役が自身や親しい相手の関係する会社との間で、相場からかけ離れた不当な条件で売買や業務委託を行い、会社側にだけ損失を負わせる取引が挙げられます。

粉飾決算は、赤字を黒字に見せかけるなど決算書類の内容を偽る行為で、それ自体は金融商品取引法違反といった別の罪にあたりえます。ただし、粉飾をもとに過大な配当を行うなどして会社に財産上の損害を与え、図利加害目的もある場合には、特別背任罪に問われる可能性があります。

罰則と時効

法定刑はどれくらい重い?

取締役等による特別背任罪が成立した場合には、10年以下の拘禁刑もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方が科されます(会社法960条1項)。

代表社債権者や決議執行者が背任行為をした場合にも特別背任罪が成立しますが、その法定刑は5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、またはその両方です(会社法961条)。

※2025年6月1日に施行された改正刑法で、懲役と禁錮は「拘禁刑」に一本化されました。本記事の法定刑は改正後の内容で記載しています。

必ず実刑になる?

特別背任罪に問われたとしても必ず実刑になるわけではなく、証拠が足りない(嫌疑不十分)などの理由で不起訴(検察官が起訴しないと決めること)になることや、執行猶予(一定期間、刑の執行を見送る制度)がつくこともあります。

執行猶予がつけば、猶予期間中に新たな罪を犯すなどしない限り刑務所に入らずに済みます(有罪であることに変わりはありません)。次のいずれかにあたる人が3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金を言い渡された場合には、情状により1年以上5年以下の期間、刑の執行が猶予されることがあります(刑法25条1項)。

  • 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者
  • 前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日または執行の免除を得た日から5年以内に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者

特別背任罪で実刑になるか執行猶予がつくかは、被害弁償の有無や示談の成否、動機や会社での立場、不正の期間や手口、会社に生じた損害額などを総合して判断されます。

特に会社との示談は重要で、被害届や告訴の前に成立すれば刑事事件化を防げる可能性があり、捜査が始まった後でも不起訴や執行猶予の可能性が高まります。

示談を成立させるために必要な金額の目安と進め方については「業務上横領の示談金相場は?示談を成功させる5つのポイント」をご参照ください。

なお、刑事手続とは別に、会社から民事上の損害賠償請求を受けることもあります。

時効は何年?

取締役等の特別背任罪の公訴時効は7年です。公訴時効とは、一定の期間が過ぎると検察官が起訴できなくなる制度です。期間は、犯罪行為が終わった時から数えます(刑事訴訟法253条1項)。

期間の長さは、法定刑の上限を基準に決まります(刑事訴訟法250条)。

第二百五十条
(省略)

② 時効は、人を死亡させた罪であつて拘禁刑以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。

(省略)

四 長期十五年未満の拘禁刑に当たる罪については七年

五 長期十年未満の拘禁刑に当たる罪については五年

(省略)

出典:e-Gov法令検索

取締役等の特別背任罪は10年以下の拘禁刑で「長期十五年未満」にあたるため7年(同法250条2項4号)、代表社債権者等の特別背任罪(会社法961条)や背任罪は5年以下の拘禁刑で「長期十年未満」にあたるため5年となります(刑事訴訟法250条2項5号)。

また、犯人が国外にいる期間や、逃げ隠れていて起訴状の謄本を届けられなかった期間は、時効の進行が止まります(刑事訴訟法255条1項)。たとえば、取締役等の特別背任罪(時効7年)で、犯罪が終わってから3年後に海外へ逃亡し、その4年後に帰国した場合、国外にいた4年間は数えず、帰国後に残りの4年が進みます。

特別背任罪の判例と事例

拓銀特別背任事件

北海道拓殖銀行の代表取締役頭取が、実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対して、赤字補填資金などを実質無担保で融資した事例です。

客観性を持った再建・整理計画もなく、また既存の貸付金の回収額をより多くして銀行の損失を極小化する目的があったとはいえない状況であったことから、被告人らの判断は著しく合理性を欠き、銀行の取締役として融資の際に求められる債権保全に関する義務に違反していると判断されました。

被告人らには懲役2年6月の実刑判決が下されています(最高裁判所平成21年11月9日決定。参照:裁判所ウェブサイト/Wikipedia – 北海道拓殖銀行)。

平和相互銀行特別背任事件

相互銀行の役員らが、土地の購入資金や開発資金などの融資にあたり、土地の売主に対し遊休資産化していた土地を売却して代金を直ちに入手できるようにして利益を与えた事例です。融資先に対して大幅な担保不足であるにもかかわらず、多額の融資が受けられる利益を与えることを認識しつつあえて融資を行ったと認定されています。

本件では図利加害目的の有無が争点となりました。銀行と密接な関係にある売主に資金を確保させることによって相互銀行の利益を図る動機があったとしても、それが融資の決定的な動機ではなかったという理由で、役員らに特別背任罪における第三者図利目的を認めることができると判断されました。

当時相互銀行の役員らであった被告人らには懲役3年6月の実刑判決が下されています(最高裁判所平成10年11月25日決定。参照:裁判所ウェブサイト/Wikipedia – 平和相互銀行事件)。

イトマン事件

大阪市にあった日本の中堅総合商社伊藤萬株式会社(後にイトマン株式会社に商号変更)及びその子会社の取締役らと共謀の上、被告人が実質的に経営する会社から高額な利益を上乗せした価格で多数の絵画を購入させて、イトマンに総額約223億1000万円相当の、その子会社に総額約40億4000万円相当の損害を負わせたという特別背任事件です。

本件取引の過程で、被告人はイトマン等の側の取引の中心となったAらの任務違背性やイトマン等への損害発生について十分に認識していた上で、本件各取引を成立させたとみることができるとされています。このような観点から、被告人の関与の程度は通常の取引の範囲を明らかに逸脱しているとして特別背任罪の共同正犯の罪責を負うと判断されています(最高裁判所平成17年10月7日決定。参照:裁判所ウェブサイト/Wikipedia – イトマン事件)。

大王製紙事件

日本の大手製紙会社「大王製紙」の創業家出身であり、当時の代表取締役会長が、2010年4月から翌年9月にかけて大王製紙のグループ会社から106億円にのぼる資金を不正に引き出し、会長個人がカジノで遊興する際の掛け金に流用したとして逮捕・起訴された事件です。

裁判所は、「公私の別をわきまえず、子会社の資金繰りが逼迫するなど深刻な影響が生じた。厳しい非難を免れない」と述べ、懲役4年(求刑懲役6年)を言い渡しています(東京地方裁判所平成24年10月10日判決。参照:Wikipedia – 大王製紙事件)。

カルロス・ゴーン事件

日産自動車の最高経営責任者(CEO)であったカルロス・ゴーン氏は特別背任罪の嫌疑でも捜査されていました。

具体的な疑惑については以下のような内容です。

  • ゴーン氏の私的な金融取引について銀行から要求された追加担保を日産に負担させた
  • 契約を日産からゴーン氏の資産運用会社に戻した際に、銀行に約30億円の信用保証をしてくれたサウジアラビアの知人に謝礼を支払った
  • その際、販売促進費などの名目で約16億円を日産の子会社から入金させた
  • 別の知人2名が経営する会社に約53億円が日産から支出されていた

上記のようなゴーン氏の行為が、日産自動車に財産上も損害を発生させる任務違背行為に当たるのではないかという疑いが持たれていたのでした(参照:Wikipedia – カルロス・ゴーン事件)。

関連記事:背任罪の判例を弁護士が解説

特別背任罪の容疑をかけられてお困りの方へ

特別背任罪の疑いをかけられても、会社との示談が早くまとまれば、事件化そのものを防げる余地があります。

一方で、対応が遅れて被害届や告訴状が提出されると、逮捕・勾留により、起訴・不起訴が決まるまでの間だけでも最大23日間身柄を拘束されたり、マスコミで実名報道されたりするおそれがあります。示談交渉では被害額の確認や弁償方法の調整など専門的な判断が求められるため、背任事件に精通した弁護士のサポートが欠かせません。

「会社から追及を受けている」「すでに警察から連絡が来ている」など、状況が刻一刻と変化するなかで、おひとりで対応するのは精神的にも大きな負担です。

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この記事の監修者

若井亮 弁護士

若井 亮

代表弁護士

弁護士法人若井綜合法律事務所
東京弁護士会所属(登録番号:47827)

弁護士紹介ページ

刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

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