特別背任罪とは、簡単に言えば、会社の重要人物が、自分もしくは第三者の利益のために、または会社に損害を与える目的で、その任務に背いて会社に損害を加える犯罪です。
かつてマスコミで大々的に報道されたカルロス・ゴーン事件や、大王製紙事件などで耳にしたことがある人もいることでしょう。
とはいえ、
- 特別背任罪の成立要件や罰則がわからない…
- 特別背任罪と背任罪との違いはなんだろう…
- 特別背任罪の事例にはどのようなものがあるのだろう…
- 罪を犯してしまったけどどう対処すれば良いのだろう…
といった疑問をお持ちの方も多いかと思われます。
そこでこの記事では、背任・横領事件に強い弁護士が、上記疑問を解消すべくわかりやすく解説していきます。
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目次
特別背任罪について
特別背任罪とは
特別背任罪とは、取締役など会社に対して重要な役割・義務を負う人物が、自己もしくは第三者の利益を図り、または会社に損害を与える目的で任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を負わせた場合に成立する犯罪です。刑法の背任罪の特別法として会社法960条1項に規定されており、背任行為を行った場合に、一般の背任罪に比べて重く処罰されます。
(取締役等の特別背任罪)
第九百六十条 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 発起人
二 設立時取締役又は設立時監査役
三 取締役、会計参与、監査役又は執行役
四 (省略)
五 (省略)
六 支配人
七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
八 検査役会社法 | e-Gov法令検索
刑罰
取締役等による特別背任罪が成立した場合には「10年以下の懲役」もしくは「1000万円以下の罰金」に処せられるか、これらが併科されます。
代表社債権者や決議執行者が背任行為をした場合にも特別背任罪が成立しますが、その法定刑は「5年以下の懲役」もしくは「500万円以下の罰金」を処せられ、またはこれらが併科されることになります(会社法第961条参照)。
成立要件(構成要件)
行為の主体
特別背任罪に問われる可能性がある「一定の権限のある者」とは、以下のような役職にある者を指します(同法条1項各号参照)。
- 発起人
- 設立時取締役または設立時監査役
- 取締役、会計参与、監査役、執行役
- 一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役、代表執行役の職務を行うべき者
- 支配人
- 事業に関するある種類または特定の事項の委任を受けた使用人
- 検査役
行為の目的
特別背任罪が成立するためには「自己若しくは第三者の利益を図る目的」または「株式会社に損害を与える目的」のいずれかが必要です。
このような主観を「図利(とり)加害目的」といいます。
任務違背行為
特別背任罪の実行行為は「任務に背く行為をすること」です。これを任務違背行為といいます。
不正融資や不正取引、不良貸付・粉飾決算などの行為はこの任務違背行為に該当する可能性が高いです。
会社の財産上の損害
取締役等の任務違背行為によって会社に対して「財産上の損害」が発生したことが必要です。具体的には会社の財産が減少した場合(積極的損害)や、増加すべき財産の増加を妨げた場合(消極的損害)に財産上の損害があったといえます。
特別背任罪は全体財産に対する罪ですので、この「財産上の損害」が不発生の場合には、特別背任罪は既遂になりません。
背任罪との違いは?
背任罪は刑法に規定されているのに対して、特別背任罪は会社法に規定されています。
両罪は、成立要件(構成要件)は基本的に同じですが、行為の主体が異なる点が大きな違いとなります。
背任罪の主体は「委託信託関係にもとづいて他人の事務を処理する者」、具体的には会社に対する従業員がその代表例といえます。他方で特別背任罪の主体は前述の通り「取締役や監査役など会社に対して重要な役割・義務を負う人物」です。
このように、誰が背任行為を行ったかによって背任罪が成立するのか特別背任罪が成立するのかが異なってきます。
また、特別背任罪の法定刑は背任罪の法定刑(5年以下の懲役または50万円以下の罰金)よりも重たいです。加重処罰される理由は。株式会社内部の役職員が適法業務を装い外部に気づかれずに違背行為を反復継続することは、一般の背任行為以上に深刻かつ広範な害毒が生じると考えられているからです。
なお、背任罪も特別背任罪も、親告罪ではない(非親告罪)である点については共通しています。そのため、被害者による告訴がなくても、捜査機関が事件を認知すれば逮捕・起訴されることがあります。また、第三者による告発で刑事事件化する可能性もあります。
未遂でも処罰される?
背任罪も特別背任罪のいずれも未遂犯も処罰対象です(会社法第962条、同960条、961条参照)。実行行為は任務違背行為ですが、その行為の結果として会社に財産上の損害が発生した時点で既遂となり、財産上の損害が発生していない場合に未遂となります。
時効は?
刑事手続に関する公訴時効については、行為時点から「7年」で時効になります。
民事手続に関する消滅時効については、債権者が権利を行使することができることを知った時から「5年」、権利行使することができる時から「10年」です。
特別背任罪の判例と事例
拓銀特別背任事件(懲役2年6月の実刑判決)
この事例は銀行の代表取締役頭取が、実質倒産状態にある融資先企業グループの各社に対して、赤字補填資金などを実質無担保で融資した事例です。
客観性を持った再建・整理計画もなく、また既存の貸付金の回収額をより多くして銀行の損失を極小化する目的があったとはいえない状況であったことから、被告人らの判断は著しく合理性を欠き、銀行の取締役として融資の際に求められる債権保全に関する義務に違反していると判断されました。
被告人らには懲役2年6月の実刑判決が下されています(最高裁判所平成21年11月9日決定)。
平和相互銀行特別背任事件(懲役3年6月の実刑判決)
この事例は相互銀行の役員らが、土地の購入資金や開発資金などの融資にあたり、土地の売主に対し遊休資産化していた土地を売却して代金を直ちに入手できるようにして利益を与えた事例です。融資先に対して大幅な担保不足であるにもかかわらず、多額の融資が受けられる利益を与えることを認識しつつあえて融資を行ったと認定されています。
この事例では図利加害目的の有無が争点となりました。銀行と密接な関係にある売主に資金を確保させることによって相互銀行の利益を図る動機があったとしても、それが融資の決定的な動機ではなかったという理由で、役員らに特別背任罪における第三者図利目的を認めることができると判断されました。
当時相互銀行の役員らであった被告人らには懲役3年6月の実刑判決が下されています(最高裁判所平成10年11月25日決定)。
粉飾決算事件(懲役3年執行猶予5年)
上場会社の役員が、架空売り上げを計上し内容虚偽の財務諸表を掲載した事例です。
粉飾決算をして役員賞与を支給したことが、単に粉飾決算を隠ぺいして会社の信用を維持するという目的にとどまらず、自己を含めた各役員に経済的利益を与える目的があったと認定され図利目的が認められました。
同社の専務取締役の被告人は、懲役3年・執行猶予5年が言い渡されました(東京地方裁判所昭和57年2月25日判決)。
カルロス・ ゴーン氏の事例
日産自動車の最高経営責任者(CEO)であったカルロス・ゴーン氏は特別背任罪の嫌疑でも捜査されていました。
具体的な疑惑については以下のような内容です。
- ゴーン氏の私的な金融取引について銀行から要求された追加担保を日産に負担させた
- 契約を日産からゴーン氏の資産運用会社に戻した際に、銀行に約30億円の信用保証をしてくれたサウジアラビアの知人に謝礼を支払った
- その際、販売促進費などの名目で約16億円を日産の子会社から入金させた
- 別の知人2名が経営する会社に約53億円が日産から支出されていた
上記のようなゴーン氏の行為が、日産自動車に財産上も損害を発生させる任務違背行為に当たるのではないかという疑いが持たれていたのでした。
特別背任罪で逮捕された後の流れとすべきこと
逮捕後の流れ
特別背任罪で逮捕され、そのまま勾留されてしまうと、刑事処分(起訴・不起訴)が決定するまで最大23日間も身柄を拘束される可能性があります。起訴されて実刑の有罪判決となれば、刑務所に収監されるますし、執行猶予付き判決であっても前科はつきます。
また、特別背任罪はマスコミで実名報道されるケースも多く、家族も巻き込む事態となってしまうおそれもあります。さらに、刑事事件だけではなく民事でも損害賠償請求訴訟を起こされる可能性もあるでしょう。
早急な示談交渉が重要
上記のような事態を避けるためにも、特別背任の容疑をかけられた場合には、会社に対して真摯に謝罪するとともに早急に示談交渉に入るべきです。
会社としてもできるだけ社内の不祥事を世間に知られたくないという考えが働きますし、被害弁償さえしてくれるのであれば内部的解決を望むことが多いです。したがって、被害届や告訴がされる前に会社と示談を成立させ、示談書に宥恕条項(罪を許すことを意味する条項)を入れてもらうことで刑事事件化することを防ぐことができます。
また、逮捕された後であっても示談が成立すれば不起訴になる可能性も出てきますし、起訴されても量刑が軽くなることも期待できます。
示談交渉は弁護士に依頼
示談成立が重要とはいえ、細かい法律知識や交渉経験がない方がほとんどでしょうから、支払回数で合意が得られなかったり、会社との間で被害額の認識が食い違うなど交渉が難航してしまうこともあります。それにより示談成立に至らなかった場合には被害者から警察へ被害届や告訴状を出されて逮捕勾留されてしまう可能性もあるでしょう。
そのため、特別背任行為が会社に発覚したらできるだけ早急に背任事件に強い弁護士に相談し、被害弁償と示談交渉を一任すべきでしょう。それによりご自身で対応する必要がなくなりますし、適正額での示談交渉をしてもらえます。また、これまでに培われた交渉経験により、一般の方に比べて示談成立の確率は高くなりますので、逮捕回避や不起訴の獲得に向けて大きく前進することができます。
弊所では、特別背任事件における会社との示談交渉、逮捕の回避、不起訴処分の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、特別背任でいつ警察に逮捕されるのか不安な日々を送られている方は弁護士までご相談ください。
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