無理やりキスをすると、不同意わいせつ罪に問われることになります。冗談や酔った勢いであっても、被害者の同意がなければ、処罰の対象となります。また、防犯カメラの映像など、無理やりキスをした明確な証拠がない場合でも、被害者の供述や目撃者の証言などから逮捕される可能性もあります。
この記事では、不同意わいせつ事件に強い弁護士が、上記内容につき詳しく解説するとともに、
- 無理やりキスをした場合に罪に問われる具体例
- 無理やりキスをした場合の示談金相場
- 無理やりキスをした場合に逮捕を回避するための対応方法
についても解説していきます。
なお、心当たりのある行為をしてしまい、逮捕回避に向けて早急に対応したいとお考えの方は、全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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目次
無理やりキスすると何罪?
無理やりキスすると不同意わいせつ罪が成立
無理やりキスをすると不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。
不同意わいせつ罪とは刑法176条に規定されている罪です。令和5年の刑法改正によって新設された罪で、改正までは強制わいせつ罪という罪が設けられていました。
(不同意わいせつ)
第百七十六条次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。一暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
刑法176条によると、たとえば、被害者に「キスさせなければお前の裸の写真をSNS上に拡散させるぞ」などと脅迫(①)して、被害者が明確にキスというわいせつ行為を拒否する意思表示をさせることを困難な状態にし(②)(あるいは被害者がそのような状態にあることに乗じて)、キスというわいせつな行為を行った(③)場合に不同意わいせつ罪が成立するとされています。
なお、①に関しては脅迫のほかにも暴行や飲酒や薬物の服用、被害者の心身の障害、無力感・恐怖心、上司・部下などの立場を利用しての行為などが規定されています。したがって、これらの行為を行い、被害者を②の状態にし、キスをした場合などでも不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。
不同意わいせつ罪の罰則は6月以上10年以下の拘禁刑です。拘禁刑とは、令和4年の刑法改正によって新設され、改正までの懲役刑と禁錮刑を一つにまとめた刑です。内容は懲役刑とほぼ変わりませんが、刑務作業が任意となった点が義務とされていた懲役刑と異なるところです。
強制わいせつ罪は非親告罪でしたが、不同意わいせつ罪も非親告罪です。つまり、被害者の告訴がなくても起訴されることがあります。
罪に問われる可能性のある具体例
ここでは不同意わいせつ罪に問われる可能性があるケースについて紹介していきます。
会社の飲み会で、酔いが回ってきた頃、ゲームに負けた部下社員に上司が無理やりキスをした
刑法176条1項3号では「アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」、6号では「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること」、8号では「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」をわいせつ行為の手段、又は事由であると規定しています。
今回のケースの場合、いずれの行為又は事由によっても、被害者が明確にキスというわいせつ行為を拒否する意思表示をさせることを困難な状態にして、キスというわいせつな行為を行っていると判断され、不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
被害者の背後から近づいて抱きつき、あるいは被害者の顔や腕を押さえつけて無理やりキスをした
被害者の背後から近づいて抱きつくこと、顔や腕を押さえつけることは刑法176条1項1号の「暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと」にあたります。そして、キスした動機、経緯、被害者との関係性などを考慮して、被害者が明確にキスというわいせつ行為を拒否する意思表示をさせることを困難な状態にしてわいせつな行為を行ったと判断されれば不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
泥酔状態の被害者に無理やりキスをした
被害者を泥酔状態にさせることは刑法176条1項3号の「アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること」にあたります。その上で被害者にわいせつな行為をした場合はもちろん、自ら被害者を泥酔状態にさせなくても、すでに泥酔状態にある被害者にキスをした場合でも不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
夜道に相手に近づき相手がフリーズしている隙にキスをした
夜道に人と出会うこと、ましてやまったく知らない人からキスをされることは被害者にとって、刑法176条1項6号の「予想と異なる事態」といえるでしょう。また、夜道で人と出会うことは「恐怖させ、若しくは驚愕させる」ことにあたります。よって、不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
相手の同意があると判断してキスをした
証拠関係から相手の同意があると思ってキスをしたことが認められると判断された場合は嫌疑不十分による不起訴、あるいは無罪となることは考えられます。ただし、単に「相手の同意があると思っていた」などと主張したからといって上記のように判断されるわけではありません。証拠関係からあらわれた当事者の関係性、キスに至るまでの経緯、キス後の当事者の言動などの事実関係を詳細に検討された上で、犯人が相手の同意があると誤信することが不合理でないと認められなければ罪に問われる可能性があります。
相手の同意があっても罪に問われることも
刑法176条3項では次の規定が設けられています。
3十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。
「第一項」と同様とするとは、6月以上10年以下の拘禁刑を科すという意味です。また、3項では年齢による制限は設けられていますが、脅迫などの手段は規定されていません。つまり、次の者に対してはわいせつ行為を行っただけで不同意わいせつ罪が成立する可能性があるのです。
- 13歳未満の者
- 5歳以上年下である13歳以上16歳未満の者
したがって、たとえ相手の同意を得た上でキスをした場合であっても、たとえば、12歳の子どもにキスをした場合や、19歳の者が14歳の子どもにキスをした場合(年齢が5歳差以上)には、不同意わいせつ罪に問われることになります。
相手が怪我をしたら不同意わいせつ致傷罪が成立
なお、無理やりキスをした際に被害者に傷害を負わせてしまった場合は不同意わいせつ致傷罪が成立する可能性があります。不同意わいせつ致傷罪は刑法181条1項に規定されている罪で、不同意わいせつ罪の既遂または未遂の罪を犯す機会に被害者に傷害を負わせた場合に成立しうる罪です。ここでいう「傷害」とは、怪我などの外傷にとどまらず、生理的機能の障害全般を指します。したがって、たとえば、無理矢理キスされた女性が抵抗した際に唇を切るなどの怪我をした場合のほか、PTSD(心的外傷後ストレス障害)や鬱病などの精神障害に至った場合も、不同意わいせつ致傷罪で処罰されます。なお、罰則は無期又は3年以上の懲役と大変重たいです。
無理やりキスをした証拠がなければ逮捕されない?
無理やりキスをした証拠とは、たとえば暴行又は脅迫を手段としたキスが撮影されている防犯ビデオ映像などでしょうか。しかし、無理やりキスをしたという事実は、他の事実関係(たとえば、加害者と被害者との年齢差、関係性、出会った経緯、キスされるまでの言動、キス後の言動など)からでも証明されることがあります。そして、これらの事実関係は被害者の供述・証言のほか目撃者・関係者の供述・証言から明らかになります。したがって、無理やりキスをしたという明確な証拠がなくても、無理やりキスをしたのではないかと疑われ、逮捕されることは十分に考えられます。
無理やりキスをして罪に問われた判例
ここで無理やりキスをして強制わいせつ(未遂も含む)となった判例をご紹介します。
裁判所・判決日 | 事案の概要 | 量刑 |
東京地裁(昭和56年4月30日) | 早朝、自宅近くの路上で顔見知りの新聞配達員の女性にキスしようとしたものの激しく抵抗されたため未遂に終わった。 | 懲役2年 ※過去に刑務所に服役した前科があったため実刑となった |
松枝地裁(平成30年2月26日) | 駐車場に停めた車の中で、被害者に抵抗されている状況下、被害者の唇に2回キスをした | 懲役1年6月 執行猶予3年 |
札幌地裁(令和元年10月18日) | 路上に停車中の車の中で、13歳未満の児童にキスをした。 | 懲役1年6月 執行猶予3年 |
無理やりキスをした場合は示談が重要
合意のないキスをして不同意わいせつに問われ、罪を認める場合は相手と示談することをお勧めします。以下ではその理由(メリット)や方法、示談金の相場についてみていきましょう。
示談をするメリットは?
無理やりのキスで示談するメリットは次の3点です。
不起訴となる可能性が高まる
検察官に起訴される前に示談できれば、刑事処分は起訴ではなく不起訴となる可能性が高くなります。不起訴となれば刑事裁判を受ける必要がなくなります。刑事裁判を受けないということは刑罰(懲役)を受け、刑務所に服役しなければならなくなる可能性も消滅します。また、刑罰を受けないということは前科もつきません。
早期釈放される可能性が高まる
被害者と示談するにあたっては罪を認めていることが前提となります。ただ、罪を認めているということは、証拠隠滅や逃亡のおそれがないと判断されます。そもそも、身柄拘束されるのは証拠隠滅や逃亡のおそれがあると判断されているからです。そのため、示談すれば早期釈放につながる可能性が高くなります。
起訴前から身柄拘束されている場合、起訴前に示談できれば起訴後の長期の身柄拘束を回避できます。一方、起訴後にしか示談できなかったとしても、保釈請求した際に有利に考慮してもらえます。
量刑が軽くなる可能性が高まる
被害者側に示談をもちかけても、起訴前に示談できない場合もあります。起訴前に示談すれば加害者が不起訴となる可能性があることは、被害者側も十分承知しているからです。もっとも、起訴前に被害者と示談できなくても、諦めずに粘り強く示談交渉を続ける必要があります。
そして、起訴後であっても示談できれば量刑上有利に勘案されます。すなわち、実刑相当事案であっても執行猶予付きの判決を受けるなどの可能性が高くなります。
無理やりキスした場合の慰謝料相場
無理やりキスした場合の慰謝料は50万円~100万円が相場です。
慰謝料の具体的金額は、キスの態様(キスする際に用いられた手段、キスの回数など)、被害者の年齢、加害者と被害者の関係性、行為後に被害者が負った精神的ダメージの度合い、被害者の処罰感情などを勘案して決めます。
もっとも、上記の慰謝料額を提示しても被害者が示談に応じるとは限りません。強制的にキスされた被害者の性的自由の侵害度は高く、相場内の額で被害者が納得しないこともあるからです。
そのため被害者の感情に配慮した慎重な交渉と、場合によっては相場を超える慰謝料の支払いが必要なこともあります。
示談交渉は弁護士に任せるべき
不同意わいせつで示談するには弁護士に示談交渉を任せるほかありません。なぜなら、被害者は、無理やりキスするといおう加害行為によって精神的にも肉体的にも大きなダメージを負っており、加害者との直接の示談交渉に応じる被害者はまずいないからです。また、万が一示談交渉に応じていただけたとしても、うまく折り合いがつかずに示談交渉が難航するおそれが極めて高いといえます。
一方、弁護士であれば代理人としての立場から、被害者側の心情に最大限配慮しながら、被害者側の要求と加害者側の要求をうまく折り合いをつけながら話をまとめることができます。これにより不当な条件で示談することを防ぐこともできます。
当法律事務所では、同意のないキスの被害者との示談交渉を粘り強く行い、逮捕・起訴を回避した実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、まずはお気軽にご相談ください。その一歩が解決へと近づきます。
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