不同意性交等罪の公訴時効は15年です。
不同意性交等罪とは、被害者が「同意しない意思を形成、表明、全う」することが難しい状態で性交等を行う犯罪のことです(刑法第177条)。2017年の刑法改正により「強姦罪」が「強制性交等罪」となり、2023年の刑法改正により「強制性交等罪」が「不同意性交等罪」となっています。
公訴時効とは、犯罪行為が終了した時から一定の期間が経過することで犯人を処罰する事が出来なくなる制度です。そのため、不同意性交等罪にあたる行為をした方の中には、「15年逃げ切れば刑事罰を受ける可能性が消滅するということか…」と考える方もいるようですが、15年間逃げ切るのは至難の業ですし、場合によっては15年が経過しても逮捕されて処罰を受ける可能性もあります。
この記事では、性犯罪に強い弁護士が、
- 不同意性交等罪の公訴時効・民事の時効
- 不同意性交等罪の公訴時効を待つリスクと時効完成を待たずにすべきこと
などについてわかりやすく解説していきます。
心当たりのある行為をしてしまい、いつ警察から逮捕されるかご不安な方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には全国無料相談の弁護士までご相談ください。
なお、どのような行為が不同意性交にあたるのか詳しく知りたい方は、不同意性交等罪とは?旧強制性交等罪(旧強姦罪)との違いを解説をご覧になってください。
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目次
不同意性交等罪の時効は?
公訴時効は15年
不同意性交等罪は、15年が経過することで公訴時効が完成します。
公訴時効とは、一定の期間が経過することで、公訴を提起しても裁判所は免訴の判決を言い渡さなければならなくなるという制度のことです(刑事訴訟法第337条4号)。このように公訴時効が完成した事件については必ず免訴判決が言い渡されるため、検察官もわざわざ起訴することはしません。
不同意性交等罪またはその未遂罪の公訴時効については、「15年」と規定されています(刑事訴訟法第250条3項第2項)。
公訴時効は犯罪行為が終了した時点から起算されます。
また、不同意性交等罪または、この未遂罪を犯し、被害者に怪我を負わせた場合には、「不同意性交等致傷罪」が成立します(刑法第181条)。
不同意性交等致傷罪の公訴時効は、「20年」となります(刑事訴訟法第250条3項1項)。
さらに、不同意性交等罪または、その未遂罪を犯し、被害者を死亡させた場合には、「不同意性交等致死罪」が成立します(刑法第181条)。
不同意性交等致死罪については、「人を死亡させた罪」であって、「無期の懲役に当たる罪」であるため、公訴時効は「30年」となります(刑事訴訟法第250条1項1号)。
民事の時効
また、不同意性交等罪に該当する行為は、民法上の不法行為に該当します。
そのため、犯罪の被害者は加害者に対して不法行為に基づく損害賠償を請求することができます(民法第709条)。
ただし、この民事上の賠償請求権には消滅時効が存在しています(民法第724条、724条の2)。
不法行為に基づく損害賠償請求権は、以下の期間を経過することによって時効となります。
- 被害者が損害及び加害者を知った時から「5年」が経過
- 事件が発生した時から「20年」が経過
上記いずれかの期間が経過することによって民法上の賠償責任から逃れることができます。
なお、通常不法行為責任の時効は「3年」ですが、2017年の民法改正によって、被害者救済の観点から生命・身体に対する不法行為の時効期間は「5年」に延長されています。
不同意性交等罪の公訴時効についての注意点
刑法改正前の行為にも改正後の時効が適用される
令和5年(2023年)に改正されるよりも前の刑法では、不同意性交等罪に該当する犯罪は、強制性交等罪として処罰の対象でした。そして、強制性交等罪の公訴時効は「10年」とされていました。
しかし、刑法改正と同じタイミングで改正された刑事訴訟法により、性犯罪の公訴時効が延長されることになりました。
そのため、旧強制性交等罪に関する公訴時効は以下のとおり、それぞれ延長されています。
罪名 | 改正前 | 改正後 |
強制性交等罪 | 10年 | 15年 |
強制性交等致傷罪 | 15年 | 20年 |
強制性交等致死罪 | 30年 | 30年 |
刑法が改正された令和5年(2023年)7月13日以前に発生した性犯罪については、不同意性交等罪が遡及されて適用されることはなく、改正前の強制性交等罪に問われることになります。ただし、公訴時効に関しては改正後の規定が適用されることになるため、注意が必要です。
例えば、2015年1月1日に強制性交等罪に該当する行為を行った場合、改正前の規定に従えば、「10年後」の2025年1月1日に時効が完成するはずでしたが、改正法の適用により「15年後」の、2030年1月1日を経過しなければ公訴時効が完成しないことになるのです。
この場合も、問われる罪名は、強制性交等罪となります。
被害者が18歳未満であれば時効期間が加算される
さらに、今回の法改正により、性犯罪の被害者が18歳未満である場合には、犯罪が終わったときから被害者が18歳になる日までの期間を加えることにより、公訴時効期間を更に延長することとされました(刑事訴訟第250条4項)。
なぜなら、心身ともに未熟な子どもや若年者は、特に被害を申告することが難しいと考えられるためです。
この改正により、例えば、12歳のときに不同意わいせつ罪の被害に遭った人については、不同意性交等罪(改正前の強制性交等罪)の公訴時効期間が10年から15年に延長され、さらに、その人が18歳になる日までの期間が加わることになることから、公訴時効はその人が33歳(6年+15年=21年)に達する日まで完成しないことになります。なお、「33歳に達する日」とは、法律上、30歳の誕生日前日のことをいいます。
公訴時効の進行が停止することがある
時効は一定の条件を満たしたときに停止することがあります。これを「公訴時効の停止」といいます。時効が停止すると、その期間分時効の完成が遅れることになります。
公訴時効が停止するのは以下のような事由がある場合です(刑事訴訟法第254条、255条参照)。
- 当該事件について公訴が提起された場合
- 共犯の1人に対してした公訴が提起された場合:他の共犯に対しても時効が停止する
- 犯人が国外にいる場合:国外にいる期間は時効が停止する
- 犯人が逃げ隠れているため有効な起訴状の謄本の送達・略式命令の告知ができなかった場合:逃げ隠れいている期間は時効が停止する
刑事事件における公訴時効の停止は、続きから再開されます。
民事事件における時効では、時効の進行が一度停止すると期間がすべてリセットされるものがあります。これを「時効の更新」といいますが、刑事事件にはこのような制度はありません。刑事事件における時効の停止は、すべてそれまでに経過した時効期間は有効に維持されたままになります。
不同意性交等罪の時効完成を待つリスク
逃げきることはほぼ不可能
不同意性交事件を起こしておいて、時効まで逃げ切るというのはほぼ不可能でしょう。
法務省が公表している令和4年度の犯罪白書によれば、不同意性交事件(改正前の強制性交等罪)の認知件数は1388件で、そのうち検挙された件数は1330件でした。そのため、検挙率は95.8%と非常に高い数値となっています。
したがって、不同意性交事件は、ほぼすべての事件が検挙されていると言えます。
不同意性交事件については、強盗事件や殺人事件と同じように、捜査機関が総力を挙げて犯人逮捕に動くため、公訴時効が完成する15年間逃げきることは非常に難しいと考えられます。
15年が経過しても逮捕される可能性もある
事件から15年が経過していたとしても逮捕される可能性があります。
不同意性交罪の公訴時効は15年ですが、不同意性交等により被害者が膣壁裂傷・肛門裂傷などの傷害を負った場合や、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの精神疾患を発症した場合には、不同意性交等致傷罪が成立することになります。この場合、公訴時効は15年ではなく20年となることから、その期間内であれば警察に逮捕される可能性があるのです。
裁判例の中には、強姦罪の公訴時効(10年)成立後に、事件が原因で心的外傷後ストレス障害(PTSD)にかかっていると被害者が診断されたため、時効期間がより長い「強姦致傷罪」に問われた被告について同罪の成立を認めた事例があります。
被告は、2005年に通りがかった当時10代の少女を強姦したものの容疑者不詳として立件されず、事件から10年後の2015年に公訴時効が成立しました。しかし、2018年に別件でDNA鑑定を受けた際、2005年の事件の際に採取されたDNA型と一致しました。女性は2019年2020年に診察を受け、事件が原因でPTSDの状態が続いているとの診断を受けました。
これを受け、被告人は、県警に強姦致傷容疑で逮捕され、強姦致傷罪の時効(15年)成立直前に起訴されました。
この事案で裁判所は、この被告人に懲役8年(求刑懲役10年)の判決を言い渡しています(横浜地方裁判所小田原支部令和3年7月16日判決)。
事件の性質上かなりの年月が経過してから被害申告されることもある
一般的に不同意性交事件では、被害者が警察に被害を申告することで犯罪捜査が開始されます。通常の刑事事件の場合には、事件直後から1〜2年ほどは刑事事件として立件されるリスクが特に高いといえるでしょう。
しかし、性犯罪の場合には、その性質上、精神的なショックから被害者が回復するために、事件から一定の期間を要する可能性があります。被害者が事件を他人に話せるようになるまでは被害の申告が困難なケースも少なくありません。
そのため、不同意性交事件からかなりの期間が経過して「もう大丈夫だろう」と思っていたころに突然警察に逮捕されるという可能性も十分にあります。社会的な信用や家庭を築いていた人は、突然すべてを失うことになりかねません。
不同意性交等罪の時効完成を待たずにすべきこと
被害者と示談を成立させる
不同意性交事件を起こしてしまった場合には、被害者との示談を成立させることが非常に重要となります。
示談とは、加害者が被害者に事件を謝罪し、一定の示談金を支払うことで、被害者が加害者に対して宥恕(ゆうじょ)を与えることを指します。特に性犯罪の場合には、被害者の精神的な苦痛は大きい可能性があるため、賠償金の金額も高額になる傾向があります。
示談書には、「加害者を宥恕する(許す)」「処罰を望まない」などの宥恕文言が記載されるため、被害者の処罰感情が沈静化したことを確認することができます。
そして、示談交渉については、弁護士に任せるようにしましょう。
被害者の連絡先がわかっている場合には、加害者が直接被害者に示談の申入れをすることも可能です。しかし、性犯罪の場合には、被害者が加害者に恐怖心を持っていたり、事件のトラウマにより一切の接触を拒否したりする可能性もあります。
また、不同意性交事件で警察に逮捕された場合には、示談交渉は弁護士に行ってもらう必要があります。性犯罪の場合、二次被害を防止するため、被害者の個人情報を加害者に教えることはしません。しかし、弁護士が示談交渉をする目的に限って、被害者の意思を確認して連絡先を教えてもらえる可能性があります。
そのため、被害者の連絡先を知らない場合であっても、弁護士が検察官に依頼することで被害者の連絡先を確認できる可能性があるのです。
自首をする
不同意性交事件を起こした場合には、自ら警察に自首をすることが、被疑者のメリットとなることもあります。
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首した場合には、その刑を減軽することができると刑法に規定されています(刑法第42条1項)。「捜査機関に発覚する前」とは、「犯罪事実が全く捜査機関に発覚していない場合」や犯罪事実は発覚しているものの、「その犯人が誰であるか全く発覚していない場合」であると考えられています。
自首の同行を弁護士に依頼すると自分のした行為がどのような犯罪事実に該当し、どのような法益侵害・問題があったのかについて正確な理解を得られます。自首をして反省の態度を示したいという場合であっても、ご自身の行為がどのような犯罪に該当し、どのような法益を侵害したのかを正確に理解していることは、非常に重要なポイントとなります。
ただ漠然と「反省している」「繰り返さない」と主張するよりも、よっぽど真摯な反省の態度だと受け取ってもらえる可能性が高まります。
したがって、自首をする場合にも、弁護士に相談してアドバイス・サポートを受けるべきでしょう。
まとめ
以上、この記事では、不同意性交等罪に関する公訴時効について詳しく解説してきました。
性犯罪については、時効が延長されており、時効完成まで逃げきるのは困難です。そのうえ、性犯罪の検挙率は高いため、時効完成まで何年も逮捕に怯えて暮らすことになりかねません。
したがって、性犯罪を起こして逮捕されるか不安という場合、公訴時効の完成まで逃げきろうとするのは得策とはいえません。
そのような場合には、弁護士に相談したうえで、適切な対処法をとることをおすすめします。
当事務所では、性犯罪事件で逮捕を回避したり、不起訴処分を獲得したりする弁護活動を得意としており、豊富な実績を有しております。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、不同意性交事件を起こしてお悩みの場合には、当事務所の弁護士にご相談ください。
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