暴行罪の罰則は「2年年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。つまり、暴行罪には懲役、罰金、拘留、科料という4種類の刑罰が規定されていますが、実務上は、ほとんどのケースで懲役か罰金が科されます。
この点、
- 暴行の初犯であっても懲役刑になるのだろうか…
- 暴行罪の初犯で懲役刑になりやすいのはどんなケースだろうか…
- 懲役刑にならないために不起訴処分を獲得するにはどうすればいいだろうか…
といった疑問をお持ちの方も多いと思われます。
そこでこの記事では、暴行事件に強い弁護士が、これらの疑問を解消していきたいと思います。
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目次
暴行罪とは
暴行罪は刑法208条に規定されています。
(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
暴行罪の「暴行」とは、人の身体に対して不法な有形力を行使することをいいます。たとえば、次のような直接人の身体に触れる行為が典型例です。
- 殴る
- 蹴る
- 叩く
- 投げ飛ばす
- 押し倒す
- 腕をつかむ
- 腕を引っ張る
- 頭を揺らす
- 物を人の身体に命中させる
また、次のような直接人の身体に触れない行為も暴行にあたる可能性があります。
- 胸倉を掴む
- 着衣を引っ張る
- 髪の毛を引っ張る
- 人に向けて物を投げる
暴行の結果、人に怪我を負わせなかった(人を傷害するに至らなかった)場合が暴行罪、人に怪我を負わせた場合は暴行罪ではなく傷害罪(刑法204条:15年以下の懲役又は50万円以下の罰金)に問われます。
暴行罪と傷害罪の違いは?どこから成立する?構成要件や罰則を弁護士が徹底解説
暴行罪で逮捕されるパターン
暴行罪は犯罪の中では比較的軽微な部類の犯罪に属しますが、その暴行罪でも逮捕される可能性は十分にあります。罰則の重さと逮捕との因果関係はなく、罰則が軽くても逮捕される可能性はあると考えておいた方がよいです。
暴行罪で逮捕されるパターンは現行犯逮捕か後日逮捕(通常逮捕)かのいずれかですので、以下、それぞれの逮捕の条件(逮捕されやすいケース)について解説したいと思います。
現行犯逮捕の条件
現行犯逮捕の条件は、
- ① 暴行と逮捕とが時間的・場所的に接着していること
- ② 暴行と犯人が逮捕者にとって明白であること
- ③ 逮捕の必要性があること
の3点です。
犯人が被害者に対して暴行を加え、さらに暴行を加えそうだったため、周囲の目撃者が犯人を取り押さえた(逮捕した)、というケースが現行犯逮捕の典型例です(現行犯(準現行犯)逮捕は一般の人でも可能です)。
また、犯行現場から逃走した場合でも、被害者や目撃者に追跡され、暴行とその後の逮捕との間に時間的・場所的接着性が失われない限りは、やはり適法な逮捕といえます。なお、この逮捕のことを準現行犯逮捕といいます。準現行犯逮捕の条件は上記①~③の条件に加えて、以下のいずれかの条件が必要です。
- 犯人として追呼(※1)されていること
- 暴行で使ったと思われる凶器を所持していること
- 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があること(※2)
- 誰何されて(※3)逃走しようとしていること
※1 犯人として追跡、または呼称されていること
※2 被害者ともみ合った際に服が破れた、など
※3 警察官に「犯人か」などと問われた場合のほか、警察官の姿を見て逃げ出した場合も含まれます
後日逮捕(通常逮捕)の条件
後日逮捕(通常逮捕)の条件は、
- ① 罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があること
- ② 逃亡のおそれがあること
- ③ 罪証隠滅のおそれがあること
- ④ 逮捕の必要があること
の4点です。
暴行罪の場合、被害者や目撃者、犯行現場に設けられた防犯ビデオカメラの映像などが直接的な証拠となります。被害者や目撃者の証言や映像の内容が信用できるものであれば、それらの証拠を根拠に「①」が認められると判断されやすいです。
もっとも、後述するように、暴行罪が初犯の場合は略式起訴(罰金)、または不起訴で終わることが多く、刑罰をおそれて犯人が逃亡するおそれは低いと判断されやすいですから後日逮捕の可能性は低いです(②)。②があるかどうかは「初犯か否か」のほかに、居住形態(同居人の有無など)、定職の有無なども考慮されます。すなわち、一人暮らしの場合や適切な監督者がいない場合、無職の場合は逮捕される可能性が高くなります。
③は「犯人の認否」、「加害者と被害者との関係性」などから判断されます。初犯であっても否認している場合は逮捕される可能性が高くなります。また、加害者と被害者が同居している場合(DV事案など)、加害者が被害者の住所を把握していて直ちにコンタクトを取れるような場合も逮捕される可能性が高くなります。
暴行罪の初犯でも懲役刑になりやすいケースは?
暴行罪が初犯という場合は、通常、略式起訴(※)されて罰金、あるいは不起訴で終わる場合が多いです。ただ、初犯でも次の場合は正式起訴され、刑事裁判で有罪認定されれば懲役刑を科されることがあります。
※書面審理のみで終わる略式裁判を受けるための起訴。略式裁判に付されると「100万円以下の罰金又は科料」の範囲で刑が科されます。
事件内容が悪質なケース
事件内容が悪質なケースとは、計画性のあるケース、共犯事件のケース、長年にわたり暴行が繰り返されてきたケース(DV事案などの常習性が認められるケース)、暴行態様が悪質なケース(凶器などの物を使用して暴行を加えた、暴行の回数が複数回にわたった)、などです。
否認しているケース
初犯でも罪を認めていないと正式起訴(※)され、裁判で有罪の認定を受けると、否認していることやその他の諸般の事情から懲役刑を科される可能性もあります。なお、正式起訴されても、被告人に有利な情状が認められる場合は、懲役刑ではなく罰金刑を選択される可能性もあります。
処罰感情が厳しく、示談が成立していないケース
事件までの被害者との関係性や暴行に至る経緯・動機、暴行の態様によっては、被害者の処罰感情が厳しいことも考えられます。処罰感情が厳しいと、示談交渉に対応してもらえない可能性が出てきます。また、仮に交渉はできたとしても示談が成立しない可能性もあります。
示談は被告人にとって有利な情状ですから、示談が成立していないと量刑が重くなる、すなわち、懲役刑を科される可能性があります。
暴行罪で罰金刑となった場合の相場は?
暴行罪の罰金は、1万円~30万円以下の範囲内と規定されていますが、相場としては10万円~30万円となります。
ケースバイケースですので一概には言えないものの、初犯で暴行の程度が軽微な場合は、略式起訴で罰金10万円が相場と考えられます。
なお、不起訴を獲得することで罰金刑を免れることができますが、そのためには暴行の被害者との示談が重要となります。暴行罪の示談金相場はおよそ20万円~40万円程度となります。
不起訴を獲得するためにすべきことは?
不起訴を獲得するためにすべきことは示談交渉です。もっとも、加害者が直接示談交渉しようとしても拒否される可能性が高いですし、仮に対応してくれたとしても感情のもつれなどから交渉がうまく進展しない可能性があります。
また、被害者と面識がなく、被害者の名前も連絡先(個人情報)も知らないというケースも考えられます。面識のない被害者に謝罪文を送るには、捜査機関(警察、検察)から個人情報を取得することからはじめなければいけません。
しかし、捜査機関が加害者に被害者の個人情報を教えることはありえません。つまり、被害者と面識がある場合もない場合も、示談交渉は弁護士に依頼した方がよいということになります。
なお、示談するには罪を認め、真摯に反省することが大前提です。そして、示談交渉をはじめる前に、謝罪文などを通して被害者に反省と謝罪の意を伝えなければいけません。
もっとも、この場合も被害者が直接対応することは稀であるため、上記の示談交渉とあわせて弁護士に依頼した方が賢明です。
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