
刑事上の時効である「公訴時効(こうそじこう)」とは、犯罪行為が終わってから一定期間が経過すると、検察官が公訴の提起(起訴)ができなくなるという制度のことです。起訴ができなくなるということは、犯人を刑事裁判にかけて処罰することが出来なくなるということです。時間の経過とともに犯罪の証拠が散逸してしまい立証が困難になること、社会や国民の処罰感情の低下などが、公訴時効がある理由と考えられています。
そして、暴行罪の刑事上の時効(公訴時効)は3年です。
暴行罪の刑罰は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料(刑法208条)」であるところ、刑事訴訟法250条2項6号で「長期5年未満の懲役もしくは禁錮または罰金に当たる罪については3年」で時効が完成すると書かれているからです。
例えば、令和3年3月3日15時に甲さんが乙さんを暴行した場合、暴行罪の公訴時効が完成するのは、令和6年3月2日24時(つまりは、3月3日の0時)となります。15時と24時(0時)で時間がずれているのは、時効期間の初日は時間を論じないで1日として計算するためです(刑事訴訟法55条1項)。
2項 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによつて完成する。
(略)
6号 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年
(略)
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暴行罪の公訴時効の起算点
暴行罪の公訴時効が進行を開始する起算点は、「暴行行為の終了時」です。
例えば、令和3年7月1日深夜23時55分にAさんがBさんに暴行を加え始め、7月2日の0時を過ぎて暴行行為を終了させた場合は、7月2日が、暴行罪の公訴時効の起算点となります。
暴行を用いた他の犯罪の公訴時効
暴行を用いた他の犯罪の時効についても確認しましょう。
暴行を手段とした犯罪 | 公訴時効 |
傷害罪 | 10年 |
傷害致死罪 | 20年 |
強盗罪 | 10年 |
強制性交等罪 | 10年 |
恐喝罪 | 7年 |
公務執行妨害罪 | 3年 |
ご覧のように、暴行罪の公訴時効が3年であるのに対し、傷害罪の公訴時効は10年とかなりの長期間です。加害者の立場で見れば、その差7年間、起訴されて刑事裁判にかけられる不安を抱えて生活していくことになりますので、どちらの犯罪が成立しているのかを、以下の記事を読んで今一度確認しておいた方が良いでしょう。
暴行罪の公訴時効が停止するケース
【暴行罪の公訴時効の停止・進行再開の流れ】
暴行罪の公訴時効は、①犯人が起訴された場合、②犯人が国外にいる(海外旅行などの一時渡航も含む)、または、逃げ隠れしているため有効に起訴状の謄本の送達等ができない場合、停止します(刑事訴訟法254条1項、255条1項)。
公訴時効の「停止」とは、あくまでも「一時停止」という意味合いです。例えば、暴行事件を起こしてから半年後に国外に渡った犯人が、その後日本に帰国した場合、国外に滞在していた期間は公訴時効が停止しており、帰国した時点で残りの2年6ヶ月の時効の進行が再開されることになります。
なお、暴行行為の共犯者がいる場合は、共犯者の一人が起訴されると、その者の刑事裁判が確定するまでの間は、他の共犯者の公訴時効も停止します。
民事の時効も3年
暴行の被害者は、加害者の逮捕、刑事処罰を求める他、不法行為による損害賠償や慰謝料の請求といった民事的な責任を追及することもできます(民法709条・710条)。
暴行の慰謝料とは、暴行行為により被った精神的苦痛を金銭に換算したものです。一方、暴行罪の損害賠償(財産的損害)は、暴行の際の衣類や持ち物の破損、怪我の有無を検査する際の病院の診察費用がそれに該当するでしょう。
これら損害賠償請求権は、被害者が、損害及び加害者を知った時から3年間行使しないことで時効にかかります(民法724条)。
「加害者を知った時から3年間~」ですので、見知らぬ者に暴行を受けた挙句に逃走されたようなケースでは、加害者が誰であるかを被害者が知るまでは時効の進行が開始されません。ただし、不法行為の時(暴行事件のあった時)から20年が経過した場合も時効にかかります。このケースでいえば、加害者が誰か知ることができないまま20年が経ってしまった場合です。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
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