目次
①「侵入」の意義について判断した判例
事案の概要
この事例は、春闘(労働組合が毎年春に行う賃上げ要求を中心とする闘争)において組合員8名が夜間郵便局舎に立ち入り、ビラ約1000枚を局舎内の机や壁、ロッカー、窓ガラスなどに糊で貼り付けたという事件です。
判決文の抜粋
「刑法一三〇条前段にいう「侵入シ」とは、他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ることをいうと解すべきであるから、管理権者が予め立入り拒否の意思を積極的に明示していない場合であつても、該建造物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入りの目的などからみて、現に行われた立入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断されるときは、他に犯罪の成立を阻却すべき事情が認められない以上、同条の罪の成立を免れないというべきである」と判示しました(最高裁判所昭和58年4月8日判決)。
弁護士の解説
住居侵入罪は、正当な理由がないのに人の住居、邸宅、建造物などに「侵入し」た場合に成立します(刑法第130条参照)。住居侵入罪は、建造物などに対する管理者・住居者の権利を侵害する犯罪であると考えられています。つまり「誰に立ち入りを認めるか」という自由を侵害する犯罪だということです。
このような考え方から本件では侵入について「他人の看守する建造物等に管理権者の意思に反して立ち入ること」と定義しています。
そのうえで本判例では、庁舎施設の管理者としてはビラ貼り目的での立ち入りを受任する義務があるわけではないこと、そのような立ち入り行為を警戒し見つけた場合には退去を求めていることなどから、本件局舎内への立ち入りは管理権者の意思に反する立ち入りに該当すると認定しています。
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②盗撮目的での立ち入りが侵入にあたると判断した判例
事案の概要
この事例は、被告人らが、現金自動預払機(ATM)利用客のカードの暗証番号などを盗撮するために銀行店舗に立ち入った事例です。
被告人らの立ち入り行為は、外観上他の利用客と異なることがないため建造物の平穏を害していないとして問題となりました。
判決文の抜粋
「被告人らは、現金自動預払機利用客のカードの暗証番号等を盗撮する目的で、現金自動預払機が設置された銀行支店出張所に営業中に立ち入ったものであり、そのような立入りが同所の管理権者である銀行支店長の意思に反するものであることは明らかであるから、その立入りの外観が一般の現金自動預払機利用客のそれと特に異なるものでなくても、建造物侵入罪が成立するものというべきである」と判示しています(最高裁判所平成19年7月2日決定)。
弁護士の解説
「人の看守する建造物」とは、人が事実上管理・支配する建造物をいうと考えられており、一般的に人が存在することが前提とはなっていません。そのため本件ATMがある無人の銀行支店出張所については、「銀行の支店長」が看守者・管理権者となります。
そして住居侵入罪の保護法益は、建造物の事実上の平穏ではなく、建造物の管理権であると考えられています。
そのため如何に被告人らが平穏に無人店舗内に立ち入ったとしても、ATM利用客のカード番号が盗撮されてそのカードが不正利用されてしまえば銀行業務に多大な障害が発生することになります。したがってそのような盗撮行為を銀行が容認しているはずもなく、カード情報盗撮のための立ち入り行為は銀行支店長の「意思に反する立ち入り」であると認定することができるのです。
③公務員宿舎の共用部分が邸宅に当たるとされた判例
事案の概要
この事例は、活動団体の構成員である被告人がビラを投函する目的で、防衛庁の職員らが居住する宿舎の各号棟の1階出入口~4階の各室玄関前まで立ち入ったことが邸宅侵入罪に問われた事例です。
判決文の抜粋
「前記1の立川宿舎の各号棟の構造及び出入口の状況、その敷地と周辺土地や道路との囲障等の状況、その管理の状況等によれば、各号棟の1階出入口から各室玄関前までの部分は、居住用の建物である宿舎の各号棟の建物の一部であり、宿舎管理者の管理に係るものであるから、居住用の建物の一部として刑法130条にいう「人の看守する邸宅」に当たるものと解され、また、各号棟の敷地のうち建築物が建築されている部分を除く部分は、各号棟の建物に接してその周辺に存在し、かつ、管理者が外部との境界に門塀等の囲障を設置することにより、これが各号棟の建物の付属地として建物利用のために供されるものであることを明示していると認められるから、上記部分は、「人の看守する邸宅」の囲にょう地として、邸宅侵入罪の客体になるものというべきである」
弁護士の解説
管理者が管理する集合住宅の1階出入口から各室玄関前までの部分については、居住用の建物の一部であり宿舎管理者の管理にかかるものであるという理由をあげて、「人の看守する邸宅」に当たると判断されました。そしてそれを取り囲む敷地部分についても同様であると判断されています。
貸与に係る集合住宅は居住用の建物として「邸宅」に当たりますが、各室が貸与されると、各室は各居住者の「住居」となります。しかしそれ以外の共用部分については依然宿舎管理者の管理になるものと考えられるため「邸宅」であると考えられるのです。
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