不同意性交等罪とは、一定の行為や事由により、被害者が、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」性交等をした場合に成立する犯罪です(刑法第177条)。罰則は5年以上の有期拘禁刑となります。
2017年の刑法改正により、強姦(レイプ)に関する処罰規定が変更されました。具体的には、「強姦罪」が「強制性交等罪」に、「準強姦罪」が「準強制性交等罪」となりました。さらに、2023年(令和5年)7月13日には、性犯罪に関する規定を見直した改正刑法が施行され、「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」が統合され、新たに「不同意性交等罪(ふどういせいこうとうざい)」が新設されました。
この記事では、性犯罪事件に強い弁護士が、
- 不同意性交等罪の定義や罰則
- 強制性交等罪から不同意性交等罪への法改正のポイント
- 不同意性交等罪の成立要件
などについてわかりやすく解説していきます。
なお、心当たりのある行為をしてしまい、いつ逮捕されるか不安な方、逮捕された方のご家族の方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合には全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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目次
不同意性交等罪とは
定義
不同意性交等罪とは、一定の行為や事由により、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」、性交等をした場合に成立する犯罪です(刑法第177条)。
「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」とは、「嫌だと思うこと」「嫌だと言うこと」「嫌だとつらぬくこと」が難しい状態と考えればいいでしょう。
「性交等」とは、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に姿態の一部(陰茎を除く)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなものをいいます。
強制性交等罪と不同意性交等罪の違い
これまで強姦については「強制性交等罪」で処罰されてきましたが、冒頭でも述べた通り、法改正により2023年7月13日以降の強姦行為については「不同意性交等罪」が適用されることになりました。
ここでは、強制性交等罪から不同意性交等罪に改正されたことでどのような変化があったのかにつき解説していきます。
犯罪の名称が変わった
これまでは、「強制性交等罪」と呼ばれていた犯罪は、「不同意性交等罪」という呼び方に変更になりました。
また、これまで「人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて」性交等をした場合には、準強制性交等罪とされていました。
しかし、同罪も不同意性交等罪に吸収されて規定されることになりましたので、準強制性交等罪(旧刑法第178条)は削除されました。
犯罪が成立するための構成要件が拡充された
不同意性交等罪は、強制性交等罪に比べて犯罪となる行為が幅広く設定されており、要件が拡充されています。
これまでの強制性交等罪については、「暴行又は脅迫を用いて」性交等をしたものに成立する犯罪でした。
しかし、新設された不同意性交等罪は、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」で性交等をした場合に成立する犯罪ですので、暴行・脅迫がない場合であっても犯罪となる範囲が広くなっているのがわかります。
したがって、被害者が行為に抵抗できない状態でなされた性交等については処罰することができるように改正されているのです(成立要件については後述します)。
性交同意年齢が引き上げられた
性交同意年齢が「13歳」から「16歳」に引き上げられました。
改正前の刑法においては、13歳未満のものに対して性交等をしたこと自体で強制性交等罪により処罰することとされていました。
性犯罪の本質的な要素を「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」であると考えるのであれば、そのような自由な意思決定の前提となる能力が十分に備わっていない人に対しては、性交等をしただけで、その性的自由・性的自己決定権を侵害することになるはずです。
これまでは13歳未満は(1)「行為の性的意味を認識する能力」が備わっていないと考えられていたことから、性交同意年齢についても「13歳未満」とされていました。
しかし、性的行為について有効に意思決定をするためには、(2)「性行為の相手との関係で、その行為が自分に与える影響について自律的に考えて理解したり、その結果に基づいて相手に対処する能力」も必要であると考えられるようになりました。
そして、13歳以上16歳未満のものは、前者(1)の能力はないとはいえないものの、後者(2)能力については十分に備わっているとはいえず、相手との関係で対等でなければ、性的行為に関する自由な意思決定の前提となる能力に欠けると考えられます。
以上のような考え方を前提として、性交同意年齢について「13歳未満」から「16歳未満」に引き上げられることになったのです。
公訴時効の時効期間が延長された
これまで強制性交等罪の公訴時効は「10年」とされていましたが、不同意性交等罪の公訴時効は「15年」とされました。
さらに、性交等の結果、被害者が負傷したような不同意性交等致傷罪の場合には公訴時効は20年、被害者が死亡した不同意性交等致死罪の場合には公訴時効は30年となります。
犯罪行為が終了した時点で被害者が18歳未満の場合には、被害者が18歳になるまでの期間が時効期間に加算されることになります。
公訴時効は刑法ではなく、刑事訴訟法に規定されていますが、今回の改正を受けて刑事訴訟法も改正されています。
不同意性交等罪の公訴時効についてより詳しく知りたい方は、不同意性交等罪(旧強制性交等罪・旧強姦罪)の時効は15年ですをご覧になってください。
不同意性交等罪の構成要件
不同意性交等罪について定める刑法第177条によると、不同意性交等罪の構成要件(成立要件)は次の3つです。
- ①同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて性交等をすること
- ②行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をすること
- ③十六歳未満の者に対し、性交等をすること(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)
①同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせまたはそれに乗じて性交等をすること
以下に掲げる行為や事由、その他これらに類する行為・事由により「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ」または「その状態にあることに乗じて」性交等をした場合には、不同意性交等罪が成立します(刑法第177条1項、176条1項1号~8号)。
一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
暴行・脅迫を用いた性交等
「暴行」とは人の身体に向けられた有形力の行使のことです。例えば、被害者が抵抗できないよう殴る、抑えつける、羽交い絞めにするといった暴力行為をすることです。
「脅迫」とは、相手に恐怖心を抱かせる目的で、相手の生命、身体、名誉、自由に対して害悪を加える旨を告知することです。例えば、「騒いだら殺す」「抵抗したらお前のレイプ動画をネットに晒してやる」といった言葉がそれにあたります。
旧刑法では強制性交等罪によって処罰されてきた類型です。
心身の障害を用いた性交等
「心身の障害」とは、身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害を指し、一時的なものも含まれます。
加害者の行為により被害者が身体的に障害を負ったり、強い恐怖やストレスから精神的な障害を負った場合の他、すでに被害者が精神的または身体的な障害を負っている場合に性交等に及ぶと不同意性交等罪に問われます。
旧刑法では準強制性交等罪によって処罰されてきた類型です。
アルコール・薬物の影響を用いた性交等
「アルコール若しくは薬物を摂取させること」または「それらの影響があること」が原因事由とされています。
旧刑法では準強制性交等罪によって処罰されてきた類型です。
睡眠その他の意識不明瞭を用いた性交等
「睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること」または「その状態にあること」が原因事由とされています。
旧刑法では準強制性交等罪によって処罰されてきた類型です。
同意しない意思を形成、表明または全うするいとまの不存在を用いた性交等
「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと」も原因事由とされています。被害者の気をそらしたり、別のことに集中していたりする際に不意打ちで性交等を行う場合を想定しています。
予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕を用いた性交等
「予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること」または「その事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること」も原因事由とされています。
これは、予想外の出来事にフリーズしてしまっている被害者と性交等をした場合などを想定しています。
虐待に起因する心理的反応を用いた性交等
「虐待に起因する心理的反応を生じさせること」または「それがあること」も原因事由とされています。
これは、被害者に対する虐待によって無力感や恐怖感を利用して性交等をする場合を想定しています。
経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮を用いた性交等
「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること」または「それを憂慮していること」も原因事由とされています。
これは、祖父母・孫、上司・部下、教師・生徒などの立場ゆえの影響によって不利益が生じることを不安に思って性交等をした場合を想定しています。
②相手を誤信をさせまたは誤信に乗じて性交等をすること
「行為がわいせつなものではないと誤信させ、若しくは行為をする者について人違いをさせ」または「それらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて」性交等をした場合も不同意性交等罪の罪責を負います(刑法第177条2項)。
③十六歳未満を相手に性交等をすること
「16歳未満の者に対し、性交等をしたもの」も不同意性交等罪の罪責を負います。
そして、「当該16歳未満の者が13歳以上である場合について、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る」と規定されています。
わかりにくい書き方ですが、これは要するに、「被害者が13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年長である場合」には、不同意性交等罪に問われるということです。
不同意性交等罪の刑罰
不同意性交等罪の刑罰は5年以上の有期拘禁刑です。原則として執行猶予はつきません。執行猶予について定める刑法第25条で「3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは~(省略)~その刑の全部の執行を猶予することができる。」と規定されているからです。
したがって、酌量減軽や自首減軽などにより、裁判官が量刑を3年以下にしない限り実刑に処せられて刑務所に収監されることになります。
なお、拘禁刑とは、これまでの懲役・禁固を一本化した刑罰として新設されたものです。
「拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、1月以上20年以下とする」「拘禁刑は、刑事施設に拘置する」「拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる」と規定されています(刑法第12条)。
これまでの刑法では、懲役刑には刑務作業が課されていましたが、禁固刑には刑務作業が課されていませんでした。そこで「拘禁刑」に一本化されたことで、刑務作業が一律義務ではなくなったのです。また、再犯防止に向けた矯正教育を実施できるようにもなりました。
ただし、現行の強制性交等罪や準強制性交等罪の法定刑は、「5年以上の有期懲役」とされていますので、刑の上限には変更がないことになります。
なお、拘禁刑は令和7年(2025年)に施行されることが見込まれており、施行前に懲役・禁錮の判決が確定した受刑者にはこれまで通り懲役・禁錮刑が執行されることになります。
不同意性交等罪はいつから施行された?
2023年(令和5年)6月16日「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」が成立し、2023年6月23日に公布され、2023年7月13日から施行されています。
これにより、2023年7月13日以降に発生した事件には不同意性交等罪が適用されますが、2023年7月12日以前の事件には旧法である強制性交等罪が適用されます。事件の発生日が法律適用の重要な要素となりますので、注意が必要です。
不同意性交等罪についてのよくある質問
不同意性交等罪が新設された理由は?
まず、性犯罪の本質的な要素としては、「自由な意思決定が困難な状態で行われた性行為」であると考えられています。そして、改正前の強制性交等罪や準強制性交等罪では、「自由な意思決定か否か」を、暴行・脅迫、心神喪失・抗拒不能といった要件によって判断していました。
しかしこのような判断方法に対しては、それらの要件の解釈により犯罪の成否にばらつきが生じるのではないか、といった指摘がされていました。
具体的には、事案によっては同意があったとは言い難いにもかかわらず暴行・脅迫が認定できないことから性犯罪とならないという不都合・社会不正義が存在しており、成立範囲が限定的すぎるのではないかと問題となっていたのです。
そこで不同意性交等罪を新設して、それらの要件を改めて、性犯罪の本質的な要素を「同意しない意思を形成し、若しくは全うすることが困難な状態」という表現を用いて統一的な要件としました。
また、被害者がそのような状態にあったのかどうかの判断をしやすくするため、その原因となりえる行為や事由についても、具体的に挙げることとされました。
その結果、不同意性交等罪は、強制性交等罪・・準強制性交等罪と比較して、より明確で判断のばらつきが生じない規定に変更されたといえます。
不同意性交等罪の問題点は?
不同意性交等罪の問題点としては、
- 同意の証明が困難であること
- 法的な不確実性が高いこと
- 行為者に過度な萎縮効果を与える可能性があること
が挙げられます。
改正前の強制性交等罪では、暴行や脅迫が明確な要件として存在していたため、犯罪の成立範囲が限定されていました。しかし、不同意性交等罪の導入により、犯罪の成立要件が大幅に拡大されました。
この拡大により、「同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態」での性交が処罰対象となる一方で、実際に同意があったかどうかの判断が難しくなりました。特に、密室での行為においては、同意の存在を証明するのが極めて困難です。
また、不同意性交等罪では、アルコールや薬物の影響下にある場合、意識不明瞭な状態、経済的・社会的関係からの圧力など、8つの具体的な事由が規定されていますが、これらの要件の解釈や適用が現時点でまだ確立されていないため、法的な不確実性が残ります。
このような状況下で、行為者にとっては性行為を行う前に明確な同意を得ることが重要となりますが、現実的には全ての状況でこれを証明するのは難しく、結果として過度な萎縮効果を生む可能性もあります。
罪を犯してしまった方は弁護士に依頼
これまでは、被害者の反抗を著しく困難ならしめる程度の暴行・脅迫が伴わなければ、強制性交等罪に問われることはありませんでした。
しかし、今回の法改正により処罰される行為の範囲が拡がると考えられるため、ご自身では問題のない行為だと考えていたとしても、ある日突然警察に逮捕されるおそれもあります。
そのため、不同意性交等罪にあたる行為をしてしまった方や、既に逮捕された方のご家族の方は、性犯罪に強い弁護士に早急に依頼しましょう。弁護士に依頼することで、逮捕の回避や不起訴の獲得に向けた弁護活動を開始してくれます。
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