電車内で女性に体液をかけた男性が逮捕されたというニュースを目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。「体液」とは広義において「動物の体内に存在する液体」を指し、血液やリンパ液、唾液、尿、汗、精液などが含まれますが、報道で取り上げられるケースの多くは「精液をかけた」というものです。
この記事では、性犯罪に強い弁護士が、
- 体液(精液・精子)をかけると何罪で逮捕されるか
- 体液をかけて逮捕された事例とその手口(どうやってかけたのか)
- 逮捕されるとどうなるのか
- 体液をかけてしまった場合の対応方法
についてわかりやすく解説していきます。
なお、心当たりのある行為をしてしまい、逮捕回避のために早急に対応したいとお考えの方は、この記事を読まれた上で、全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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目次
体液をかけると何罪で逮捕される?
体液をかけると、その態様、体液をかけた場所等によって、次の罪で逮捕される可能性があります。
- ①暴行罪
- ②器物損壊罪
- ③公然わいせつ罪
- ④迷惑行為防止条例違反
- ⑤不同意わいせつ罪
以下、それぞれの罪について詳しく解説します。
①暴行罪
暴行罪は、相手に暴行を加えた場合に問われる罪です。罰則は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
暴行とは、人に対する不法な有形力の行使をいい、殴る、蹴る、叩くなどが典型ですが、相手に直接手脚を出す行為のみならず、硬い物を投げつける、熱湯をかけるなど、物を利用する行為も暴行に含まれます。したがって、体液をかける行為も暴行にあたり、暴行罪で逮捕される可能性があります。
②器物損壊罪
器物損壊罪は、相手の物を損壊した場合に問われる罪です。罰則は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」です。
損壊と聞くと、家や車の窓ガラスを割るなどのように、物の物理的な損壊をイメージされる方も多いと思います。しかし、器物損壊罪の損壊とは物の物理的な損壊のみならず、物の効用を失わせることも含むと解されています。例えば、他人の物に体液をかけると、その物の所持者もはやその物を使いたくはありませんから、物の効用を失わせたと評価することができます。そのため、、スカートなどの衣服や靴、帽子、バッグ、車、自転車などの「物」に体液をかければ、器物損壊罪で逮捕される可能性があります。
なお、器物損壊罪は親告罪であり、検察官が起訴するには被害者の告訴が必要です。したがって、被害者と示談を成立させ、告訴しない、または告訴を取り下げてもらうことに同意していただければ、起訴されることを避けることができます。
③公然わいせつ罪
公然わいせつ罪は、公然とわいせつな行為をした場合に問われる罪です。罰則は「6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
公然とは、不特定又は多数人が認識しうる状態でという意味です。わいせつな行為とは、その行為者又はその他の者の性欲を刺激興奮又は満足させる動作であって、普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道徳観念に反するものをいうとされています。
人に体液をかける行為は様々ですが、たとえば、体液をかけるために自分の陰茎を他人が見ることができる可能性のある状態で露出させた場合は、公然わいせつ罪で逮捕される可能性があります。
④迷惑行為防止条例違反
各都道府県が定める迷惑行為防止条例には人に対する卑わいな言動を禁止しています。卑わいな言動とは、社会通念上、性的道徳観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいい、人に体液をかける行為もこの卑わいな言動にあたる可能性があります。罰則は都道府県によって異なりますが、東京都では、非常習の場合「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」、常習の場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と定めています。
⑤不同意わいせつ罪
不同意わいせつ罪は、相手が同意しない状態でわいせつな行為を行うと成立する犯罪です(刑法第176条)。その罰則は、「6か月以上10年以下の懲役刑」と定められています。
2023年7月13日の刑法改正により、従来「強制わいせつ罪」として処罰されていた行為が、今後は「不同意わいせつ罪」として取り扱われることとなりました。
不同意わいせつ(及び強制わいせつ)における「わいせつな行為」とは、公然わいせつ罪における定義と同じく、「その行為者や他者の性欲を刺激・興奮・満足させる動作であり、一般的な社会通念に照らして正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反するもの」とされています。相手の同意なく精液をかける行為は、この「わいせつな行為」に該当するため、不同意わいせつ罪で逮捕される可能性があります。
なお、2023年7月12日以前に精液をかける行為を行った場合には、改正前の「強制わいせつ罪」が適用されます。この罪は、暴行または脅迫を手段としてわいせつ行為を行った場合に適用され、罰則は「6か月以上10年以下の懲役刑」です。強制わいせつ罪には罰金刑はなく、懲役刑のみが科せられます。
また、前述のとおり、人に体液をかける行為は暴行にあたる可能性があります。そして、人に体液(精液)をかける場合のように、暴行それ自体がわいせつな行為だった場合でも強制わいせつに問われる可能性があります。
なお、相手が13歳未満の場合は、暴行又は脅迫は不要ですが、相手が13歳未満であるとの認識(故意)が必要です。
体液をかける犯罪で逮捕するには「故意」が必要
なお、これまで解説してきた体液をかけることで逮捕される可能性のある犯罪は、故意犯と呼ばれ、犯罪が成立するためには犯行の故意があることが必要とされます。
ところで、故意には確定的故意と不確定的故意があり、不確定的故意は更に、択一的故意、概括的故意、未必の故意、条件付き故意の4種類の故意があります。
確定的故意とは、たとえば、目の前にいるAに体液をかけようと思ってAに向かって体液をかけるというように、犯行の実現を確定的なものとして認識・認容していることをいいます。
一方、実務上よく問題となる未必の故意とは、はじめ目の前にいるAに体液をかけようと思ってはないものの、仮にかかっても構わないと思いながら体液をかけるというように、目の前にいる人に体液がかかるという結果の発生を確実なものとしては認識・認容していないものの、それが可能なものとして認識・認容している場合を指します。
例えば、2024年11月報じられた事件では、飛行機内で女性の衣服に体液をかけた疑いで大学生の男が逮捕されています。事件の概要としては、窓側の席に座り夜景を眺めていた女性に、空席を一つ挟んで横並びで座っていた大学生の男が体液(精液)をかけたというものです。男は取り調べで「かかってしまった認識はありません」と供述しています。
この「かかってしまった認識はありません」という供述に関して、「かけるつもりはなかったが誤ってかかってしまった」という解釈も考えられます。しかし、仮にその女性に対し積極的に体液をかけることを意図していなかった場合でも、空席を一つ挟んでいたとはいえ、その位置関係で射精すれば、女性に体液をかけるという結果の発生を確実なものとしては認識・認容していなかったものの、そうなっても構わないという認識・認容、つまり未必の故意はあったとも考えられなくもありません。
そうすると、確定的故意がなくても、このケースのように、不同意わいせつ罪や、前述した器物損壊や暴行などの罪に問われる可能性はあるといえます。
体液をかけて逮捕された事件|どうやってかけた?
最後に、体液をかけて逮捕された事件とその手口(どうやって精液をかけたのか)をご紹介します。
女子高生のスカートに精液をかけて逮捕
2014年12月、JR総武線の新小岩駅から秋葉原方面に向かう電車の中で、前に立っていた女子高生のお尻に自己の陰茎を押し当てるなどして射精し、女子高生のスカートに精液をかけた器物損壊の疑いで契約社員の男性が逮捕されています。
底に穴を開けたジャンパーのポケットに両手を突っ込んで、はたから見ると手がふさがっているように見せかけ、その穴から手を出してズボンのチャックからはみ出た陰茎をしごく手口を使っていました。
被害者が駅を降りてから警察に通報。スカートに残されていた精液のDNA型と2009年に痴漢で検挙された際に提出した唾液のDNA型が一致したことなどから犯人が浮上、逮捕に至っています。
犯人は、「3年ほど前から月2、3回のペースで同様の行為を行ってきた。」、「これまでに100回以上はやった。」と述べ、常習的に犯行を繰り返していたことを認めています。
タレ容器に入れた体液を女性のバックに入れ逮捕
2020年8月、弁当のタレ用に作られた容器の中に入れた自己の体液を、大阪市内のスーパーマーケット内で買い物中の女性がもっていたカバンの中に入れた器物損壊の疑いで自営業の男性が逮捕されています。
被害者から被害届を受けた警察が、カバンに残っていた体液のDNA型を調べるなどして犯人が浮上、逮捕に至っています。
犯人の自宅からは体液が入った容器が10本以上見つかっており、犯人自身も「容器を常に持ち歩いていて、好みの女性を狙って20~30件はやった」と、これまで常習的に同様の手口で女性に体液をかける行為を繰り返していたことを認めています。
体液をかけて逮捕されるとどうなる?
逮捕されるまでの流れは?
他人に体液をかけて逮捕されるパターンは大きく分けて、次の2つです。
- 現行犯逮捕
- 通常逮捕(後日逮捕)
現行犯逮捕は、痴漢行為でよくあるように被害者や目撃者にその場で逮捕されることです。現行犯逮捕とは、現に罪を行い、または現に罪を行い終わった者を逮捕状なしで誰でも行うことが可能な逮捕手続きです。現行犯逮捕は私人逮捕とも呼ばれ、一般人でも逮捕が可能ですから、体液をかけられた被害者や目撃者にその場で取り押されられることが多いです。一般人が現行犯逮捕した場合には、その後、直ちに現行犯人を警察官等に引き渡す必要がありますので、通報を受けた警察官が現場に到着次第、警察官に身柄を引き渡され、警察署に連行されることになります。
一方、通常逮捕とは、犯行の翌日以降に捜査官が自宅等に訪れ、逮捕状を示して逮捕することです(後日に逮捕されるので後日逮捕ともいいます)。最近では駅構内や商業施設をはじめ、街中の多くの場所に防犯カメラが設置されています。2023年10月15日以降、電車の新車両には防犯カメラの設置が義務付けられました。さらに、防犯意識の高まりから、民家や商店にも防犯カメラが増えており、体液をかけた場所に関係なく、防犯カメラのリレー捜査によって容疑者が特定される可能性が高くなっています。加えて、体液をかける行為自体が痕跡(証拠)として残るため、後日逮捕される可能性も十分に考えられます。
逮捕後の流れは?
では、体液をかけて逮捕されるとその後どのような流れで刑事手続きが進むのでしょうか。一般的な流れを以下で確認しておきましょう。
- 警察官による弁解録取
逮捕後、警察官が容疑者から弁解を録取します。 - 送致(送検)
逮捕から48時間以内に、容疑者は検察官に事件と身柄を送致されます。 - 検察官による弁解録取
検察官も容疑者から弁解を録取します。 - 勾留請求
送致から24時間以内に、検察官は裁判官に対して勾留請求を行います。 - 裁判官による勾留質問
裁判官が勾留の必要性を判断するため、容疑者に対して質問を行います。勾留請求が却下されると、容疑者は釈放されます。 - 勾留決定
裁判官が勾留請求を認めると、容疑者は最大10日間身柄を拘束されます。やむを得ない理由があれば、勾留期間はさらに最大10日間延長されることがあります。 - 起訴・不起訴の決定
勾留期間内に起訴または不起訴が決まります。起訴されると最大2ヶ月間の勾留が続き、その後は1ヶ月ごとに更新されます。もし保釈が許可されれば、釈放されます。 - 刑事裁判
勾留期間中に刑事裁判が行われます。
上記の通り、逮捕されてしまうと、刑事処分(起訴または不起訴)が決定されるまで、最大で23日間(48時間+24時間+20日間)も身柄を拘束されることになります。しかも、逮捕されると実名報道されるリスクも高くなります。特に、体液をかける事件をはじめとした性犯罪については世間の耳目を集めやすく、マスコミで報道される可能性も十分あります。実名報道や長期間の欠勤により会社に事件のことが露見してしまい、解雇される可能性もあります。
また、起訴されれば日本では99%以上の確率で有罪判決となり、執行猶予付き判決となっても前科がついてしまいます。
体液をかける事件を起こしてしまった方がこれらの事態を避けるには、逮捕の回避や不起訴の獲得に向けた対応が重要です。以下で詳しく解説します。
体液をかけてしまった場合の対処法
逮捕される前であれば自首を検討
体液をかけてしまった後に、警察などの捜査機関に自首することで逮捕を回避できる可能性があります。
そもそも逮捕されるのは捜査機関に逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあると判断されるためです。しかし、捜査機関に自ら出頭するということは、逃亡とは真逆のことを行っているわけですから逃亡のおそれがないと判断されやすくなります。また、捜査機関に出頭後、自分が行ったことをすべて正直に申告(自白)すれば、罪証隠滅のおそれがないと判断されやすくもなります。
ただし、自首について定めた刑法第42条1項には「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」と規定されている点に注意が必要です。「発覚前」とは犯罪の発覚前または犯人が誰であるかが判明する前を意味し、この双方が捜査機関に判明したあとでは「自首した」と認められない可能性があります。
また、逮捕回避は刑の減軽と異なり、自首による法律上の効果ではありません。自首したからといって必ず逮捕を回避できるという保証はないことはもちろん、自首することで被疑者として逮捕・勾留され身体拘束を受ける可能性もあります。そのため自首するにしても自己判断で行うのではなく必ず弁護士に相談してから行動すべきでしょう。
逮捕された後の対応方法
では、体液をかけたことで逮捕されるに至った場合に、不起訴を獲得したり、刑の減軽をしてもらうにはどのように対応すべきでしょうか。逮捕後に釈放されて在宅捜査(身柄拘束を受けずに通常の日常生活を送りながら捜査を受けること)に切り替わった方の対応方法も含めて以下で解説します。
示談交渉
まずは、体液をかけられた被害者に真摯に謝罪し、被害弁償を行ったうえで示談を成立させることが重要です。
示談を成立させることができれば、示談金の支払いと条件に被害者に被害届を取り下げてもらうことができます。加えて被害者の処罰感情が大幅に緩和されていれば、不起訴となる可能性は飛躍的に高まります。不起訴になれば刑事裁判にかけられることもありませんし、前科がつくこともありません。
もっとも、性犯罪の被害者は加害者に強い恐怖心を抱いており、加害者との直接の示談交渉に応じる被害者はまずいません。そこで、後述するように、示談交渉するには弁護士に刑事弁護を依頼しましょう。被害者の連絡先等の個人情報を知らない場合は、捜査機関から被害者の個人情報を取得する必要がありますが、捜査機関が加害者に被害者の個人情報を教えることはありませんから、その意味でも弁護士の力が必要です。
専門機関に通院する
性犯罪は再犯率の高い犯罪ですから、刑事処分を決める検察官からも仮に社会復帰したとしても再び犯行を繰り返すのではないかと疑いの目で見られています。そこで、更生の意欲があり、再犯のおそれがないことを主張する意味でも、継続的に専門機関に通院して治療を受ける必要があります。
また、更生の道を歩むには本人の意思だけでは限界があり、周囲のサポートも不可欠です。加害者の中には自分自身が性依存者であることの自覚がなく、一度、通院したとしても途中で諦めてしまうこともあります。本人が最後まで治療を受けるには、本人の味方となり最後まで寄り添ってくれる周囲の方々の力も必要です。
弁護士に相談、依頼する
前述のとおり、体液をかけられた被害者との示談交渉は弁護士しかできないといっても過言ではありません(身柄拘束されている場合は必然的に弁護士に任せることになります)。また、弁護士であれば、本人の更生のため、不起訴獲得のために今何をやるべきなのか、個別の事情に応じて具体的にアドバイスしてくれます。
当事務所は、体液をかけられた被害者との示談交渉、不起訴処分の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、体液をかけてしまいいつ逮捕されるかご不安な毎日を過ごされているかた、既に逮捕されてしまった方のご家族の方は、当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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