電車内で女性に体液をかけたとして男性が逮捕されるニュースを目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。体液とは、広く「動物の体内にある液体」を指しますので、血液、リンパ液、唾液、尿、汗、精液など様々な液体を含みますが、ニュースで報道される事例の多くが「精液をかけた」事案です。
この記事では、性犯罪に強い弁護士が、
- 体液(精液・精子)をかける問われる可能性のある罪
- 間違って体液がかかった場合も罪に問われるのか
- 体液をかけて逮捕された事件とどうやってかけたのか(手口)
- 体液をかけて逮捕された場合の対応方法
についてわかりやすく解説していきます。
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目次
体液をかけると問われる可能性のある罪
体液をかけると、その態様、体液をかけた場所等によって、次の罪に問われる可能性があります。
- 暴行罪
- 器物損壊罪
- 公然わいせつ罪
- 迷惑行為防止条例違反
- 強制わいせつ罪
以下、それぞれの罪について詳しく解説します。なお、体液をかけた場合、以下のすべての罪に問われるというわけではありません。前述のとおり、体液をかけた態様、体液をかけた場所等によって、問われる罪、問われない罪は異なります。
暴行罪
暴行罪は、相手に暴行を加えた場合に問われる罪です。罰則は「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
暴行とは、人に対する不法な有形力の行使をいい、殴る、蹴る、叩くなどが典型ですが、相手に直接手脚を出す行為のみならず、硬い物を投げつける、熱湯をかけるなど、物を利用する行為も暴行に含まれます。したがって、体液をかける行為も暴行にあたり、暴行罪に問われる可能性があります。
器物損壊罪
器物損壊罪は、相手の物を損壊した場合に問われる罪です。罰則は「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料」です。
損壊と聞くと、家や車の窓ガラスを割るなどのように、物の物理的な損壊をイメージされる方も多いと思います。しかし、器物損壊罪の損壊とは物の物理的な損壊のみならず、物の効用を失わせることも含むと解されています。他人の物に体液をかけると、その物の所持者もはやその物を使いたくはありませんから、物の効用を失わせたと評価することができます。
なお、器物損壊罪は他の罪と異なり、検察官が起訴するにあたって被害者の告訴を必要とする親告罪です。
公然わいせつ罪
公然わいせつ罪は、公然とわいせつな行為をした場合に問われる罪です。罰則は「6月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」です。
公然とは、不特定又は多数人が認識しうる状態でという意味です。わいせつな行為とは、その行為者又はその他の者の性欲を刺激興奮又は満足させる動作であって、普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道徳観念に反するものをいうとされています。
人に体液をかける行為は様々ですが、たとえば、体液をかけるために自分の陰茎を他人が見ることができる可能性のある状態で露出させた場合は、公然わいせつ罪に問われる可能性があります。
迷惑行為防止条例違反
各都道府県が定める迷惑行為防止条例には人に対する卑わいな言動を禁止しています。卑わいな言動とは、社会通念上、性的道徳観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいい、人に体液をかける行為もこの卑わいな言動にあたる可能性があります。罰則は都道府県によって異なりますが、東京都では、非常習の場合「6月以下の懲役又は50万円以下の罰金」、常習の場合は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」と定めています。
強制わいせつ罪
強制わいせつ罪は暴行又は脅迫を手段としてわいせつな行為をした場合に問われる罪です。罰則は「6月以上10年以下の懲役」です。他の罪と異なり罰金刑が定められていません。
強制わいせつのわいせつな行為の意味は公然わいせつのわいせつな行為の意味と同じです。また、前述のとおり、人に体液をかける行為は暴行にあたる可能性があります。そして、人に体液(精液)をかける場合のように、暴行それ自体がわいせつな行為だった場合でも強制わいせつに問われる可能性があります。
なお、相手が13歳未満の場合は、暴行又は脅迫は不要ですが、相手が13歳未満であるとの認識(故意)が必要です。
誤って相手に体液がかかった場合は?
なお、これまで解説してきた犯罪は故意犯と呼ばれ、犯罪が成立するためには犯行の故意があることが必要とされます。
ところで、故意には確定的故意と不確定的故意があり、不確定的故意は更に、択一的故意、概括的故意、未必の故意、条件付き故意の4種類の故意があります。
確定的故意とは、たとえば、目の前にいるAに体液をかけようと思ってAに向かって体液をかけるというように、犯行の実現を確定的なものとして認識・認容していることをいいます。
一方、実務上よく問題となる未必の故意とは、はじめ目の前にいるAに体液をかけようと思ってかけるつもりはないものの、仮にかかっても構わないと思いながら体液をかけるというように、目の前にいる人に体液がかかるという結果の発生を確実なものとしては認識・認容していないものの、それが可能なものとして認識・認容している場合をいいます。
この点、誤って相手に体液をかけてしまったというのは、相手に体液をかけるという結果の発生を確実なものとしては認識・認容していなかったものの、そうなっても構わないという認識・認容、つまり未必の故意はあったとも考えられなくもありません。
そうすると、前述した器物損壊や暴行などの罪に問われる可能性はあるといえます。
体液をかけて逮捕された事件|どうやってかけた?
最後に、体液をかけて逮捕された事件とその手口(どうやって精液をかけたのか)をご紹介します。
女子高生のスカートに精液をかけて逮捕
2014年12月、JR総武線の新小岩駅から秋葉原方面に向かう電車の中で、前に立っていた女子高生のお尻に自己の陰茎を押し当てるなどして射精し、女子高生のスカートに精液をかけた器物損壊の疑いで契約社員の男性が逮捕されています。
底に穴を開けたジャンパーのポケットに両手を突っ込んで、はたから見ると手がふさがっているように見せかけ、その穴から手を出してズボンのチャックからはみ出た陰茎をしごく手口を使っていました。
被害者が駅を降りてから警察に通報。スカートに残されていた精液のDNA型と2009年に痴漢で検挙された際に提出した唾液のDNA型が一致したことなどから犯人が浮上、逮捕に至っています。
犯人は、「3年ほど前から月2、3回のペースで同様の行為を行ってきた。」、「これまでに100回以上はやった。」と述べ、常習的に犯行を繰り返していたことを認めています。
タレ容器に入れた体液を女性のバックに入れ逮捕
2020年8月、弁当のタレ用に作られた容器の中に入れた自己の体液を、大阪市内のスーパーマーケット内で買い物中の女性がもっていたカバンの中に入れた器物損壊の疑いで自営業の男性が逮捕されています。
被害者から被害届を受けた警察が、カバンに残っていた体液のDNA型を調べるなどして犯人が浮上、逮捕に至っています。
犯人の自宅からは体液が入った容器が10本以上見つかっており、犯人自身も「容器を常に持ち歩いていて、好みの女性を狙って20~30件はやった」と、これまで常習的に同様の手口で女性に体液をかける行為を繰り返していたことを認めています。
体液をかけて逮捕されるとどうなる?
電車内などで体液をかけて逮捕されるパターンは大きく分けて、
- 現行犯逮捕
- 通常逮捕(後日逮捕)
となります。
現行犯逮捕は、痴漢行為でよくあるように被害者や目撃者にその場で逮捕されることです。一方、通常逮捕とは、犯行の翌日以降に捜査官が自宅等に訪れ、逮捕状を示して逮捕することです(後日に逮捕されるので後日逮捕ともいいます)。
防犯カメラ映像のリレーによって身元を割り出されることが多く、しかも体液をかけることでしっかりと痕跡(証拠)を残していますので、後日逮捕される可能性も十分あります。
では、体液をかけて逮捕されるとその後どのような流れで刑事手続きが進むのでしょうか。一般的な流れを以下で確認しておきましょう。
- 警察官の弁解録取を受ける
- 逮捕から48時間以内に検察官に事件と身柄を送致される(送検)
- 検察官の弁解録取を受ける
- ②から24時間以内に検察官が裁判官に対し勾留請求する
- 裁判官の勾留質問を受ける
→勾留請求が却下されたら釈放される - 裁判官が検察官の勾留請求を許可する
→10日間の身柄拘束(勾留)が決まる(勾留決定)
→やむを得ない事由がある場合は、最大10日間延長される - 原則、勾留期間内に起訴、不起訴が決まる
- 正式起訴されると2か月間勾留される
→その後、理由がある場合のみ1か月ごとに更新
→保釈が許可されれば釈放される - 勾留期間中に刑事裁判を受ける
逮捕されてから最大3日間(48時間+24時間)は弁護士以外の者との連絡はとれません。そのため、会社勤めされている方や学校に通われている方は、弁護士を介して家族から会社や学校に休みの連絡を入れるようお願いしましょう。
また、勾留が決定すると、刑事処分(起訴・不起訴)が決まるまで最大20日間身柄拘束されます。もし起訴されれば日本では99%以上の確率で有罪判決となり、執行猶予付き判決となっても前科がついてしまいます。
体液をかけてしまった場合の対処法
逮捕される前であれば自首を検討
体液をかけてしまった後に、警察などの捜査機関に自首することで逮捕を回避できる可能性があります。
そもそも逮捕されるのは捜査機関に逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあると判断されるためです。しかし、捜査機関に自ら出頭するということは、逃亡とは真逆のことを行っているわけですから逃亡のおそれがないと判断されやすくなります。また、捜査機関に出頭後、自分が行ったことをすべて正直に申告(自白)すれば、罪証隠滅のおそれがないと判断されやすくもなります。
ただし、自首について定めた刑法第42条1項には「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」と規定されている点に注意が必要です。「発覚前」とは犯罪の発覚前または犯人が誰であるかが判明する前を意味し、この双方が捜査機関に判明したあとでは「自首した」と認められない可能性があります。
また、逮捕回避は刑の減軽と異なり、自首による法律上の効果ではありません。自首したからといって必ず逮捕を回避できるという保証はないことはもちろん、自首することで被疑者として逮捕・勾留され身体拘束を受ける可能性もあります。そのため自首するにしても自己判断で行うのではなく必ず弁護士に相談してから行動すべきでしょう。
逮捕された後の対応方法
では、体液をかけたことで逮捕されるに至った場合に、不起訴を獲得したり、刑の減軽をしてもらうにはどのように対応すべきでしょうか。逮捕後に釈放されて在宅捜査(身柄拘束を受けずに通常の日常生活を送りながら捜査を受けること)に切り替わった方の対応方法も含めて以下で解説します。
示談交渉
まずは、体液をかけられた被害者に真摯に謝罪し、被害弁償を行ったうえで示談を成立させることが重要です。
示談を成立させることができれば、示談金の支払いと条件に被害者に被害届を取り下げてもらうことができます。加えて被害者の処罰感情が大幅に緩和されていれば、不起訴となる可能性は飛躍的に高まります。
もっとも、性犯罪の被害者は加害者に強い恐怖心を抱いており、加害者との直接の示談交渉に応じる被害者はまずいません。そこで、後述するように、示談交渉するには弁護士に刑事弁護を依頼しましょう。被害者の連絡先等の個人情報を知らない場合は、捜査機関から被害者の個人情報を取得する必要がありますが、捜査機関が加害者に被害者の個人情報を教えることはありませんから、その意味でも弁護士の力が必要です。
専門機関に通院する
性犯罪は再犯率の高い犯罪ですから、刑事処分を決める検察官からも仮に社会復帰したとしても再び犯行を繰り返すのではないかと疑いの目で見られています。そこで、更生の意欲があり、再犯のおそれがないことを主張する意味でも、継続的に専門機関に通院して治療を受ける必要があります。
また、更生の道を歩むには本人の意思だけでは限界があり、周囲のサポートも不可欠です。加害者の中には自分自身が性依存者であることの自覚がなく、一度、通院したとしても途中で諦めてしまうこともあります。本人が最後まで治療を受けるには、本人の味方となり最後まで寄り添ってくれる周囲の方々の力も必要です。
弁護士に相談、依頼する
前述のとおり、体液をかけられた被害者との示談交渉は弁護士しかできないといっても過言ではありません(身柄拘束されている場合は必然的に弁護士に任せることになります)。また、弁護士であれば、本人の更生のため、不起訴獲得のために今何をやるべきなのか、個別の事情に応じて具体的にアドバイスしてくれます。
当事務所は、体液をかけられた被害者との示談交渉、不起訴処分の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、体液をかけてしまいいつ逮捕されるかご不安な毎日を過ごされているかた、既に逮捕されてしまった方のご家族の方は、当事務所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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