不同意わいせつ罪は親告罪ではありません。そのため、検察官は被害者の告訴がなくても起訴することが可能です。つまり、被害者と示談を成立させて告訴を取り下げてもらった場合でも、起訴されて刑事裁判にかけられることがあります。しかし、不同意わいせつ罪が非親告罪であっても、検察官が刑事処分を判断する際には被害者の意向が重視されるため、被害者との示談が成立すれば、不起訴処分を獲得できる可能性が大幅に高まります。
この記事では、不同意わいせつ(旧強制わいせつ)事件に強い弁護士が、上記内容につき詳しく解説していきます。
なお、心当たりのある行為をしてしまい、逮捕回避や不起訴獲得に向けて早急に対応したいとお考えの方は、この記事を最後まで読まれた上で、全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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目次
不同意わいせつ罪は親告罪?
そもそも不同意わいせつ罪とは?
不同意わいせつ罪は、2023年(令和5年)7月13日に施行された改正刑法により、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪を統合する形で新設された犯罪です。ここでは、不同意わいせつ罪の成立要件、罰則、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪からの変更点について解説していきます。
成立要件は?
一定の原因のもとで、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした」場合には、不同意わいせつ罪が成立します(刑法第176条1項)。
不同意わいせつ罪の成立要件となる一定の原因として次のものが明記されています(同条項1号〜8号)。
- 暴行若しくは脅迫
- 心身の障害
- アルコールまたは薬物の影響
- 睡眠その他の意識不明瞭
- 同意しない意思を形成、表明または全するいとまの不存在
- 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖または驚愕
- 虐待に起因する心理的反応
- 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮
また、「行為がわいせつなものではないと誤信をさせ」また、「行為をする者について人違いをさせ」、あるいは「誤信・人違いをしていることに乗じて」わいせつな行為をした場合にも、同様に不同意わいせつ罪が成立します。
罰則は?
不同意わいせつ罪が成立する場合には、婚姻関係の有無にかかわらず、「6月以上10年以下の拘禁刑」が科されることになります。
罰金刑は規定されていないため、実刑判決を受けた場合には、刑務所に収監されることになります。ただし、3年以下に減軽された場合には、執行猶予が付される可能性があり、その場合には、刑務所への収監を回避できる可能性があります。
なお、拘禁刑とは、従来の懲役刑・禁錮刑を一本化した新たな刑罰です。ただし、2025年に予定されている改正刑法が施行されるまでは、不同意わいせつ罪には「懲役刑」が科されます。
法改正のポイント
上記の通り、不同意わいせつ罪は、刑法が改正されたことにより、2023年(令和5年)7月13日から施行されている新しい犯罪です。
改正前の「強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪」では、「暴行又は脅迫」・「心神喪失」・「抗拒不能」など4つの要件によって犯罪があったかが判断されていました。しかし、今回の刑法改正により、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」という統一的な要件を規定し、従来の4つの要件以外の態様についても細かく規定されることになりました。これによって、これまで処罰を免れていたわいせつ事件についても的確に処罰されるようになると考えられています。
また、性交同意年齢についても、これまでの「13歳」から「16歳」と改められることになりました(刑法第176条2項)。これにより、16歳未満を相手としたわいせつな行為は、たとえ相手の同意があった場合でも不同意わいせつ罪に問われることになります。ただし、被害者が13歳以上16歳未満の場合には、行為者が5歳以上年長である場合に限り、不同意わいせつ罪が成立することになります(同3項)。
不同意わいせつ罪の成立要件や、法改正による強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪からの変更点について詳しく知りたい方は、不同意わいせつ罪とは?旧強制わいせつ罪との違いをわかりやすく解説を合わせて読んでみてください。
不同意わいせつ罪は親告罪ではない
不同意わいせつ罪は「親告罪」ではありません。
「親告罪」とは、検察官が公訴を提起(起訴)するのに、「告訴」が必要になる犯罪のことをいいます。「告訴」とは、「犯罪の被害者やその他一定の関係者が、捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯人の訴追や処罰を求める意思表示」のことです。そして、告訴ができるのは、犯罪の被害者や、その法定代理人(親権者、未成年後見人、成年後見人)など一定の範囲の者に限られています。
そして、親告罪が非親告罪からは、その犯罪を規定している法律に規定があるかどうかによって決まることになります。不同意わいせつ罪については、刑法の中に親告罪であることが規定されていないため、非親告罪となります。
そのため、不同意わいせつ事件について、検察や警察などは、被害者からの告訴がない場合であっても、捜査を行い、被疑者を起訴することができるのです。
【一覧表付き】親告罪・非親告罪とは?時効や法改正も弁護士が解説
不同意わいせつ罪はなぜ非親告罪なの?
不同意わいせつ罪に法改正される前の強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪は、以前は「親告罪」として扱われていました。
しかし、平成29年7月13日に施行された新刑法により、強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪は非親告罪に改正されました。その他、この改正に伴い、強制性交等罪(旧強姦罪)、準強制性交等罪(準強姦罪)など他の性犯罪も、親告罪から非親告罪へとあらためられています。
かつては公訴提起(起訴)によって性犯罪被害者の名誉・プライバシーなどが害されるおそれがあったことから、公訴の提起ついて被害者の意思を尊重するために「親告罪」とされていました。しかし性被害によって肉体的・精神的に多大な被害を負った被害者にとって告訴するか否かの選択を迫られるように感じられることが、逆に被害者に負担を負わせることになっていると考えられるようになったため「非親告罪」とあらためられました。
その後、強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪に法改正されましたが、非親告罪としての扱いはそのまま継続しています。これにより、不同意わいせつ罪においても、被害者の告訴がなくても検察官が公訴を提起できる体制が維持されているのです。
非親告罪である不同意わいせつ罪における示談の重要性
繰り返しとなりますが、不同意わいせつ罪は非親告罪のため、被害者の告訴がなかったとしても検察官は公訴を提起(起訴)することができます。
そのため、不同意わいせつ事件に関して被害者との間で示談を成立させる必要性・重要性は低いのではないかという疑問が生じてきます。
しかし、過去に強制わいせつ罪や強姦罪などの性犯罪が親告罪から非親告罪へと法改正される際、法務省は検察に対し次のような依命通達を出しています。
1 強姦罪等の非親告罪化について
性犯罪については, もとより,被害者のプライバシー等の保護が特に重要であり,事件の処分等に当たっても被害者の心情に配慮することが必要であることは,強姦罪等を非親告罪化した後も変わるものではない。
したがって,本法施行後においても, 引き続き,事件の処分に当たって被害者の意思を丁寧に確認するなど被害者の心情に適切に配慮する必要があることに留意されたい。
このことから、被害者の意思を無視して起訴がされることは考えにくいため、不同意わいせつ罪をはじめとした性犯罪においては、非親告罪であったとしても示談は重要であるといえます。早期に示談を成立させることができれば、逮捕を回避できたり、逮捕された場合でも早期に釈放されたり、不起訴処分で終結したりする可能性が高まります。
したがって、不同意わいせつ罪においても、被害者と示談を進めることは非常に意義があります。
まとめ
不同意わいせつ罪は親告罪ではありませんが、被害者との示談が成立した場合、その事実は警察や検察が逮捕や刑事処分(起訴または不起訴)を判断する際に有利に働きます。このため、不同意わいせつ事件を起こした場合は、できるだけ早く被害者と示談を成立させることが重要です。
しかし、通常性犯罪の被害者は被疑者に対して恐怖心や強い嫌悪感を抱いており、その精神的な状態に配慮して、検察も警察も加害者との直接的なやり取りをさせないようにしています。そのため被害者の連絡先が分からない場合には捜査機関に教えてもらう必要がありますが、被疑者が直接依頼しても教えてくれることはないでしょう。
一方、弁護士が「示談交渉のために連絡先を知りたい」と要望した場合には、捜査機関が被害者に確認をとってくれます。そして弁護士であれば連絡先を教えても良いと被害者が考えるケースも多く、そのような場合には示談交渉を進められる可能性が高いです。被害者も法律の専門家である弁護人と話し合うことで、示談内容について冷静に検討して応じてくれることが期待できます。
また、逮捕されて身体拘束を受けている場合には被疑者自身が直接被害者と示談交渉することはできませんので、弁護人を選任して代わりに示談の手続きを進めてもらう必要があります。
当事務所では、不同意わいせつ事件の被害者との示談交渉、早期釈放、不起訴処分の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、逮捕の不安を抱えている方や、既に逮捕された方のご家族は、まずは弁護士にご相談ください。相談する勇気が解決への第一歩です。
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