
最高裁判所が公開している令和3年司法統計年報によると、令和3年中に全国の地方裁判所においてわいせつ事件(強制わいせつ罪、強制性交等罪などの事件)で審理された人員は1369人で、うち無罪の言い渡しを受けた人員は8名でした。率にして約0.5%と極めて低く、数値のみみると強制わいせつで無罪を獲得することは非常に難しいといえます。
この記事では、性犯罪に強い弁護士が、以下の項目につき解説していきます。
- 強制わいせつで無罪となったケース
- 強制わいせつで無罪主張する場合にすべきこと
- 無罪判決と同じ効果がある不起訴処分について
強制わいせつ事件を起こしてしまいいつ逮捕されるかご不安な方、既に逮捕されてしまった方のご家族の方で、この記事を最後まで読んでも問題解決しない場合は弁護士までご相談ください。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|
目次
強制わいせつとは
強制わいせつは刑法第176条に規定されている罪で、相手が13歳以上の場合と13歳未満の場合で成立要件が異なります。相手が13歳以上の場合は暴行又は脅迫を手段としてわいせつな行為を行ったこと、13歳未満の場合は相手が13歳未満であると認識しながらわいせつな行為を行ったことが成立要件です。相手が13歳未満の場合は暴行又は脅迫を行っていなくても強制わいせつに問われる可能性があります。
わいせつな行為とは、徒に性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反するような行為と解されています。具体的には、衣服の上からか直接かを問わず、胸・腿・脚・尻などの身体を触る行為、下着の中に手を差し入れ陰部に触れる、触る行為などがわいせつな行為の典型例です。また、状況よってはキスもわいせつな行為にあたると判断されることがあります。
罰則は6月以上10年以下の懲役で、罰金刑は設けられていません。強制わいせつは、以前は検察官が起訴するにあたり告訴を必要とする親告罪でしたが、平成29年刑法改正により、平成29年7月13日から非親告罪となっている点にも注意が必要です。
強制わいせつとは?どんな行為が該当する?逮捕後の流れを弁護士が解説
強制わいせつで無罪判決となったケース
判例①:満員電車での痴漢行為について無罪判決が出された事件
この事案は、被告人Xが満員電車で乗客A(当時17歳)の下着内に手を入れ臀部や肛門を触り、乳房を着衣の上から揉んだという、強制わいせつ罪の容疑で起訴された事案です。
この事例では被害少女Aの供述の信用性に疑義があると判断されました。
- 公判供述内でも質問者ごとに供述を変遷させていた
- 自分に気に入らない質問を受けたときには「気分が悪い」と言い出したり、証言台に突っ伏し不快な感情をあらわにするなど、やや無責任かつ投げやりな供述態度であった
- 犯人として面識のないXを駅員に突き出したことから自分の判断を正当化するために、曖昧な記憶があたかも明確な記憶に基づくかのような供述をしていった可能性があった
- Aは、被害になっている際に明確に犯人の特徴を知覚できておらず、被害直後から特に犯人の特徴に関しては、明確な記憶がなかった
- 痴漢されているときにAが見たというXが着用していたコートについて捜査官の誘導や暗示などの影響もあって、見ていないものを見たもののように供述した可能性がある
以上のような事情を考慮して、Aの供述により、被告人Xが本件強制わいせつの犯人であるが蓋然性があることは認定できるが、X以外の者が犯人である可能性を排斥することができないためXを犯人であるとは認められないとして無罪が言い渡されています。
この判決は確定しています。(大阪地方裁判所平成12年10月19日判決)
判例②:路上で痴漢・逃走の強制わいせつ容疑が無罪となった事例
この事例は、路上でA(当時23歳)に対し背後から着用していたワンピースの裾をまくり上げ、手を下着の中に入れて陰部を触るなどして逃走したという、強制わいせつの疑いで被告人Xが起訴された事例です。
この事例では犯人とXとの同一性について、Aの供述をもとにXが犯人と断定するには合理的な疑いが残ると判断されました。
- Aの視力は左右0.6で乱視もありその時間も約1秒くらいで、路上にいた犯人の容貌を詳細に認識できたとはいえない
- Aは犯人を「やせ型」・「配達人風」と供述していたが、Xは身長175㎝、体重74㎏でがっちり型・茶髪・口ひげとあごひげの美容室勤務であったため一致しない
- Aは一貫して犯人はピンク色の長袖シャツを着用していたと供述してるが、X宅から同様の衣服は発見されておらず、処分した形跡もない
以上のような点を考慮して裁判所は、被告人Xが犯人であると認定するにはAの供述の信用性に疑問があるとして、Xに無罪が言い渡されました。
この判決は確定しています。(東京高等裁判所平成12年8月2日判決)
無罪になるとどうなる?
身柄拘束(勾留)されている場合は無罪判決を受けると同時に釈放されます。もっとも、無罪判決を受けても無罪が「確定」したわけではありません。
判決後は、検察官にも不服を申し立てる(控訴、上告する)権利が認められています。そして、検察官が不服を申し立てると無罪判決は確定せず、審理は上級審へ引き継がれます。不服申立ての期間は判決日の翌日から起算して14日以内で、この期間内に検察官が不服申立てしなければ無罪判決が確定します。
無罪判決が確定すると刑罰(懲役実刑)を受けることはない、すなわち、刑務所に服役する必要がなくなります。また、前科がつきません。さらに、身柄拘束されていた場合は、身柄拘束されていた日数に応じて補償金を支払うよう、国に対して請求することができます。
強制わいせつで無罪主張する場合にすべきこと
強制わいせつで無罪主張する場合にやるべきことは次のとおりです。
弁護士に相談する
警察官や検察官に無実を主張してもなかなか信用してくれません。信用してくれるどころかむしろ、取調べでの追及が厳しくなる一方で、追及に耐えられなくなって虚偽の自白をしてしまう可能性もあります。こうした捜査機関からの厳しい追及に一人で対抗するには限界があり、必ず、弁護士の力が必要となります。
弁護士に相談すれば取調べのアドバイスを受けることができ、取調べでどう対応すればよいかがわかります。また、実際に依頼すれば、違法・不当な取調べを受けづらくなります。弁護士に違法・不当な取調べを行った疑いをもたれると、弁護士から異議の申し入れや場合によっては法的措置をとられる可能性があることは警察官や検察官もわかっているからです。
身柄拘束を受けていない場合は一刻もはやく弁護士に相談し、身柄拘束を受けた(受けている)場合は一刻もはやく弁護士との接見を要請することからはじめましょう。
取調べでの権利を適切に行使する
無罪主張する場合は取調べでの対応も非常に重要です。虚偽の自白をすると冤罪につながる可能性がありますし、警察官や検察官にむやみやたらに対応すると揚げ足を取られて追及の隙を与えることにもつながりかねません。
そこで、できる限り、事前に取調べで認められている権利の内容(※)を把握しておき、取調べでは適切に行使することが大切です。もっとも、実際の取調べではパニックに陥り、権利を適切に行使できないことも想定されますから、その意味でもはやめに弁護士に相談し、取調べのアドバイスを受けておくことが必要です。
※黙秘権、供述拒否権、署名・押印拒否権 など
絶対に罪を認めない
無罪主張すると決めたら、絶対に認めないことが大切です。当初から一貫して無罪主張し続けていれば、無罪主張を信用してもらいやすくなります。一方、一度罪を認めてしまうと、あとで無罪主張してもなかなか認めてもらえません。本当にやっていないのなら、最初から無罪主張するはずだと思われてしまうからです。警察官や検察官は取調べであの手この手を使って罪を認めさせようとしますが、ご自分が無実だと考える限り罪を認めてはいけません。
無罪が期待できない場合は示談による不起訴処分を目指す
残念なことに、現在の我が国の司法制度の下では、一度起訴されると刑事裁判において無罪を獲得することが非常に困難なのが実情です。にもかかわらず、いたずらに無罪主張を貫くと身柄拘束期間や刑事裁判の長期化、ひいては量刑の厳罰化を招き、将来の社会復帰を大幅に遅らせてしまうことにもつながりかねません。そのため、まずははやい段階で弁護士に相談し、起訴され刑事裁判を受けることになっても無罪主張して無罪獲得を目指すべきかどうかじっくり検討することが大切です。
相談の結果、このまま無罪主張しても無罪獲得が難しいという判断になった場合は、罪を認めて被害者との示談交渉を進め、示談を成立させることも一つの方法です。起訴される前に示談を成立させることができれば起訴猶予による不起訴を獲得できる可能性があります。不起訴を獲得できれば無罪判決と同じ効果を得ることが可能です。すなわち、刑務所に服役する必要はなくなりますし、前科もつきません(補償金は請求できません)。
逮捕・勾留された場合は、逮捕から起訴か不起訴かの判断までに最大でも3週間(短くて10日)程度しかありません。仮に、起訴猶予による不起訴獲得を目指す場合は、それまでに示談を成立させ、その結果を検察官に提出する必要があります。身柄拘束された場合は時間的余裕がありませんから、はやめに弁護士に相談(接見)することが大切です。
弊所では、強制わいせつ事件の否認事件(罪を認めない場合)の弁護活動はもちろん、被害者との示談交渉、早期釈放、不起訴処分の獲得を得意としております。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、いつ逮捕されるか不安な日々を送られている方、既に逮捕された方のご家族の方はまずは弁護士までご相談ください。相談する勇気が解決への第一歩です。
気軽に弁護士に相談しましょう |
|