準強制わいせつの有名判例を弁護士が解説

※2023年(令和5年)7月13日に、性犯罪に関する規定を見直した改正刑法が施行され、わいせつ行為の処罰規定であった「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」が統合され、新たに「不同意わいせつ罪」が新設されました。詳しくは、不同意わいせつ罪とは?旧強制わいせつ罪との違いをわかりやすく解説をご覧になってください。

①被害者の誤信が「抗拒不能」にあたるとした準強制わいせつの判例

事案の概要

被告人はモデルなどの職業紹介をする会社を経営している人物でした。

この被告人は、複数の被害者に対してわいせつの故意で被害女性たちを全裸にさせたうえさまざまなポーズをとらせて写真撮影をし、さらに彼女らが抗拒不能であるのに乗じてわいせつな行為をしたとして、準強制わいせつ罪に問われた事例です。

判決文の抜粋

「「モデルになるための度胸だめしだ。写真を撮るから裸になれ。この部屋には誰も入って来ないのだ。恥ずかしいことはない。」などと申し向けて全裸になることを要求し、同女をして、全裸になつて写真撮影されることもモデル等になるため必要なことであり、これを拒否すればモデル等として売り出して貰えなくなるものと誤信させて抗拒不能に陥らせ、・・・その場で同女を全裸にさせたうえ、さまざまなポーズをとらせて写真撮影をし、更にその際、同女が全裸で被告人と二人きりの部屋にいるため抗拒不能であるのに乗じ、乳首の格好を良くすると称して同女の両乳首を吸うなどし」たこと等が準強制わいせつ罪に該当すると判断されています(東京高等裁判昭和56年1月27日判決)。

弁護士の解説

「抗拒不能」に乗じてわいせつな行為をした場合、準強制わいせつ罪が成立します(刑法第178条1項参照)。

「抗拒不能」とは、物理的・心理的にわいせつ行為または姦淫に対して抵抗することが著しく困難な状態をいいます

本件で被告人は、当時の労働大臣の許可を受けてモデル等の職業紹介事業をしていた経営者でした。そして被害者らは全裸で写真撮影されることもモデルになるために必要なことで、拒否すればモデルとして売り出してもらえなくなるものと誤信していました。

このような状況においては、被告人の執拗な言動に対する諦めの気持ちから全裸になったものと考えられるので「抗拒不能」に該当すると認定されています。

②欺罔行為による被害者の錯誤で準強制わいせつが有罪となった判例

事案の概要

この事例は、採用面接を受けに来ていた当時21歳の被害女性に対して、被告人が人事担当者であると装い、唇に接吻をして口腔内に舌を入れた上、その着衣の中に手を差し入れてその乳房をもみ、さらに、着衣の上から陰部を触るなどした行為が準強制わいせつに当たると判断された事例です。

社会常識を身につけた者であれば、被害者が就職活動の過程において被告人によるわいせつ行為を受忍する必要があるとの考えを持ったこと自体が不可解であるとも考えられるため、問題となりました。

判決文の抜粋

「準強姦罪ないし準強制わいせつ罪における抗拒不能は正常な判断に基づく意思決定ができない状態をいうものと考えられるところ、相手方に対して自己の身分等について虚偽の事実を告げるなどした結果、相手方が具体的な事実関係について誤認を生じ、その結果として、性交渉やわいせつ行為を受忍する意思決定をした場合等においては、こうした判断の前提となるべき事実に誤認があるのであるから、その判断は正常な判断とは言えず、したがって、このような欺罔行為によって被害者が錯誤に陥る場合も、準強制わいせつ罪における抗拒不能に該当しうるものと考えられる」と判示されています(東京地方裁判所平成20年2月8日判決)。

弁護士の解説

本件において、被害者が就職活動というその後の人生・生活のあり方に重大な影響を及ぼすような場面に立っていた点や、被告人は本件各被害者が現実に就職を希望していた企業の人事担当者であることを装いわいせつ行為をはたらきかけていた点が重視されています。

被害者は被告人の意向を受け入れることで自己の就職という希望が叶えられるという具体的な事実関係につき誤認を生じていたのであり、被告人の言動は当初からこうした誤認を生じさせるために虚偽の事実を語っていたと考えられます。

本判決では、このように事実を誤認した結果として、準強制わいせつ罪の「抗拒不能な状態」に陥ったものと判断されています

また犯行現場が漫画喫茶やカラオケ店の個室であり、ドアと壁によって外部から遮断された機密性のある区間であったことも「抗拒不能」の考慮要素とされています。

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