このようにお考えではないでしょうか。
2023年7月13日に施行された改正刑法により、従来、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪として処罰されていた行為が、新設された「不同意わいせつ罪」として処罰されるようになりました。
日本では起訴されると99%以上の確率で有罪判決が下ります。さらに、不同意わいせつ罪には罰金刑がありませんので、実刑が科されると長期間の刑務所生活を余儀なくされますし、執行猶予でも前科がついてしまいます。お仕事や学校などへの影響も大きいでしょう。そのため、不同意わいせつ事件を起こしてしまった場合は、不起訴処分の獲得が非常に重要となってくるのです。
この記事では、不同意わいせつ(旧強制わいせつ)事件に強い弁護士が、
- 不同意わいせつで不起訴となるケース
- 不同意わいせつで不起訴を獲得するためにすべきこと
などについて解説していきます。
なお、不同意わいせつ罪に該当する行為を行ってしまった方や、逮捕されたご家族の方で、不起訴獲得に向けた早急な対応を望まれる場合は、全国無料相談の弁護士までご相談ください。
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目次
不同意わいせつ罪とは?
成立要件は?
一定の行為・事由のもとで、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした」場合には、不同意わいせつ罪が成立します(刑法第176条1項)。
刑法第176条1項では、次の8つの一定の行為・事由を規定しています。
- ①暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
→殴る・蹴るなどの有形力の行使や、「殺すぞ・殴るぞ」などの害悪を告知してわいせつな行為をした場合 - ②心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
→統合失調症などの精神病に乗じて被害者にわいせつな行為をした場合 - ③アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
→被害者が、飲酒により酩酊状態や、睡眠薬や覚せい剤などの影響で意思決定が困難な状態でわいせつな行為をした場合 - ④睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
→被害者が眠っている間や、重度の疲労や病気で意識がぼんやりしている時にわいせつな行為をした場合 - ⑤同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
→被害者が他のことに意識を集中していたり、気をそらしたりしている際に、不意打ち的にわいせつ行為をした場合 - ⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
→予想外の出来事にショックを受けてフリーズしている被害者にわいせつ行為をした場合 - ⑦虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
→虐待による無力感や恐怖心を利用して被害者にわいせつ行為をした場合 - ⑧経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
→祖父母と孫、上司と部下、教師と生徒などの人間関係や地位・影響力、拒絶すると不利益が生じると思って拒絶できない状態を利用してわいせつな行為をした場合
なお、わいせつな行為の例としては、以下のような行為が典型例です。
- 被害者の胸や性器などに触れる
- 自己の性器を被害者に触れさせる
- 被害者にキスする・抱きつく・衣服を脱がす など
また、「行為がわいせつなものではないと誤信をさせ」また、「行為をする者について人違いをさせ」、あるいは「誤信・人違いをしていることに乗じて」わいせつな行為をした場合にも、同様に不同意わいせつ罪が成立します。
さらに、被害者が「13歳未満の子どもである場合」や、「13歳以上16歳未満の子どもで、行為者が5歳以上年長である場合」にも不同意わいせつ罪が成立します(刑法第176条2項、3項)。
罰則は?
不同意わいせつ罪が成立した場合には、婚姻の有無に関わらず、「6月以上10年以下の拘禁刑」が科されることになります(刑法第176条1項)。
このように、不同意わいせつ罪には罰金刑が法定されていないため、執行猶予のつかない有罪判決を受けた場合には刑務所に収監されることになります。
なお、拘禁刑とは、これまでの懲役・禁固を一本化した新たな刑罰です。ただし、2025年に予定されている改正刑法が施行されるまでは、不同意わいせつ罪には「懲役刑」が科されます。
法改正による強制わいせつ罪からの変更点は?
令和5年の改正により、強制わいせつ罪と準強制わいせつ罪が統合され、新たに「不同意わいせつ罪」が設けられました。この改正は2023年7月13日より施行されています。
改正前の「強制わいせつ罪」では、「暴行又は脅迫」を手段としてわいせつ行為を行う必要がありました。また、「準強制わいせつ罪」は、「心神喪失または抗拒不能の状態に乗じる」ことが求められていました。
しかし、不同意わいせつ罪の新設により、要件が変更されました。現在は、被害者が「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」に陥ることが要件とされています。
これにより、暴行や脅迫、心神喪失や抗拒不能といった要件が認定できない場合でも、前述した8つの具体的な原因・事由に該当すれば、性犯罪として処罰されることが可能となりました。
このように、不同意わいせつ罪は、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪と比較して、より明確で判断のばらつきが少ない要件に変更されています。
不同意わいせつで不起訴になるメリットは?
不起訴とは検察官が下す刑事処分の一種です。同じ刑事処分である起訴は刑事裁判にかけられることを意味しますが、不起訴はその反対で刑事裁判にかけられないことを意味します。
つまり、不同意わいせつで不起訴になるメリットは、刑事裁判にかけられることはないという点です。刑事裁判にかけられないということは、裁判に出頭する手間や負担が軽減します。
また、懲役をはじめとする刑罰は必ず刑事裁判を経ないと科されませんから、刑事裁判にかけられないということは刑罰を科されないということを意味しています。すなわち、不起訴となれば、実刑になって刑務所に服役しなければならないのか、懲役の期間はどのくらいかといった心配をせずに済みます。
さらに、刑罰を科されなければ前科はつきませんから、不起訴となれば前科はつきません。
前科とは?前歴との違いや前科がつく5つのデメリットを弁護士が解説
不同意わいせつ罪が不起訴になる3つのケース
不同意わいせつの嫌疑をかけられていたにも拘わらず不起訴となる主なケースは以下の3つです。
- ①嫌疑なし
- ②嫌疑不十分
- ③起訴猶予
以下、それぞれのケースにつき解説していきます。
①嫌疑なし
「嫌疑なし」とは、捜査の結果、被疑者が犯人でないことが明らかになった場合や犯罪を認定するための証拠がないと判断された場合に不起訴となることです。
不同意わいせつの被疑者のアリバイが立証された結果、真犯人がいる、または真犯人がいる可能性を払拭できない場合や、被疑者の行った行為に可罰的な違法性がないと検察官が判断した場合にも「嫌疑なし」と判断されることになります。
②嫌疑不十分
「嫌疑不十分」とは、被疑者が特定の犯罪行為を行った犯人である疑いがあるものの、犯罪事実や犯人性を証明するための証拠が不十分であるため起訴しても有罪まで持ち込めないと検察官が判断した場合に不起訴となることです。
捜査機関が、不同意わいせつの被疑者が犯人であることが完全に否定されたと考えているわけではありませんが、被疑者が犯罪を行ったことについては裁判に耐えられないと検察官が判断した場合には嫌疑不十分となります。なぜなら刑事手続きでは、犯罪事実は個々の証拠能力を備えた証拠に基づき厳格な証明により認定されなければならないという建前(証拠裁判主義)が採用されているからです。
③起訴猶予
「起訴猶予」とは、犯罪事実の証明も被疑者の犯人性の証明も十分にできる証拠があるものの、諸般の事情を考慮して検察官が刑事罰を科す必要がないと判断した場合に不起訴となることです。
検察官は不同意わいせつの被疑者を起訴するか否かについて裁量をもっているため、起訴しないという判断をすることもできるのです。
具体的には被疑者の年齢、犯罪の軽重、被害回復の程度などを考慮して、本来起訴できるにもかかわらず不起訴が適切であると検察官が判断したことになります。情状事実としては、犯罪動機や手段方法、結果の程度など犯罪事実に属する情状と、前科・前歴、生育・生活環境、改悛の情など犯罪事実から独立した情状にわけて考えることができます。
不同意わいせつで不起訴になる確率は?
不同意わいせつ罪については、上述のとおり2023年(令和5年)7月13日から施行されたばかりであるため、現時点では不同意わいせつ事件の不起訴率に関する十分な統計データはありません。
そこで、不同意わいせつ事件に加え、従来の強制わいせつ事件などを含む、検察統計調査のデータをご紹介します(以下、「不同意わいせつ事件」)。不同意わいせつ事件の令和5年における起訴総数は1400件であるのに対して、不起訴総数は2749件です。起訴総数を起訴・不起訴総数の合計で割ると起訴されている割合は33.7%であることが分かります。
つまり、およそ7割の不同意わいせつ事件は不起訴となり刑事裁判にかけられていない実情がお分かりいただけると思います。
不同意わいせつ事件で不起訴を獲得するには何をすべき?
最後に、不同意わいせつ罪で不起訴を獲得するためにやるべきことを解説します。
①示談交渉
まずは、不同意わいせつ事件の被害者との示談交渉です。
被害者と示談を成立させることができれば、示談金の支払いと条件に被害者に被害届を取り下げてもらうことができます。加えて被害者の処罰感情が大幅に緩和されていれば、不起訴となる可能性は飛躍的に高まります。不同意わいせつ罪は被害者の告訴がなくても検察官が起訴することができる「非親告罪」ですが、示談の成立や被害者の加害者に対する処罰感情の低下は、起訴・不起訴の判断でも重視されます。
もっとも、被害者が示談交渉に応じるか否か、被疑者側が提示した示談条件に応じるか否かは被害者の意思次第です。被害者が示談に応じるタイミングも大切です。不起訴を獲得するためには起訴される前に示談を成立させなければいけませんが、必ずしも起訴前に示談に応じていただけるとは限りません。
また、不同意わいせつ罪をはじめとした性犯罪においては、被害者は加害者に強い恐怖心を抱いており、加害者との直接の示談交渉に応じる被害者はまずいません。そこで、後述するように、示談交渉するには弁護士に刑事弁護を依頼しましょう。被害者の連絡先等の個人情報を知らない場合は、捜査機関から被害者の個人情報を取得する必要がありますが、捜査機関が加害者に被害者の個人情報を教えることはありませんから、その意味でも弁護士の力が必要です。
②自首する
自首をした場合には、被疑者に有利な事情として考慮される可能性があります。
刑法第42条1項には「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」と規定しています。
「発覚前」とは犯罪の発覚前または犯人が誰であるかが判明する前を意味し、この双方が捜査機関に判明したあとでは「自首した」と認められない可能性があります。
また自首することで被疑者として逮捕・勾留され身体拘束を受ける可能性も高いです。そのため自首するにしても自己判断で行うのではなく必ず弁護士に相談してから行動すべきでしょう。
③専門機関に通院する
性依存の傾向が強い場合は、継続的に専門機関に通院して治療を受けることが重要です。
不同意わいせつ罪をはじめとする性犯罪は再犯率が高く、検察官は刑事処分(起訴または不起訴)を決定する際、社会復帰後に再び犯行を繰り返すのではないかと疑念を抱くことがあります。そのため、再犯の恐れがないことを示すためにも、専門機関での継続的な治療が必要です。
また、更生には本人の意志だけでは限界があり、周囲のサポートも不可欠です。加害者の中には、自分が性依存者である自覚がない人もおり、一度通院しても途中で諦めてしまうことがあります。本人が治療を最後まで続けるためには、周囲の人々の理解と支えが重要です。
このような再犯防止の取り組みを行った上で、弁護士がその努力を検察官に適切に伝えることで、検察官は被疑者の再犯リスクが低く、社会に対する危険性が減少したと判断し、不起訴処分となる可能性が高まります。
④弁護士に相談、依頼する
最後に弁護士に相談、依頼することです。
前述のとおり、不同意わいせつの被害者との示談交渉は弁護士しかできないといっても過言ではありません(身柄拘束されている場合は必然的に弁護士に任せることになります)。また、弁護士であれば、本人の更生のため、不起訴獲得のために今何をやるべきなのか、個別の事情に応じて具体的にアドバイスしてくれます。
弊所では、強制わいせつ事件での示談交渉、不起訴処分の獲得を得意としており実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、ご本人やご家族が強制わいせつ事件を起こしてしまいお困りの場合はお気軽にご相談ください。相談する勇気が解決へと繋がります。
不同意わいせつ(強制わいせつ)事件で不起訴を獲得した事例
最後に、不同意わいせつ(強制わいせつ)事件で当事務所が不起訴を獲得した事例を一部紹介します。
路上痴漢で逮捕された後早期釈放、不起訴(起訴猶予)を獲得した例
被疑者は、仕事の帰り道、前方を歩いていた女性に背後から近づき、両手で女性の胸を鷲掴みしたとして、強制わいせつ罪で逮捕されました。
弁護士は、警察から逮捕の通知を受けた母親からの依頼を受けて被疑者と接見し、その後、母親から正式な依頼を受けたため、被疑者の意向を受けて捜査機関に対して示談意向があること、示談交渉のために被害者の個人情報を教えていただけないか申し入れを行いました。
そして、その日に、弁護士は捜査機関から被害者の個人情報を入手し、被害者に対して謝罪したいこと、示談意向があることを伝えて示談交渉を始めました。
それと同時に、裁判所に対して示談交渉中であること、逃亡、罪証隠滅のおそれがないことを、意見書を通じて主張した結果、検察官の勾留請求は却下され被疑者は釈放されました。
釈放後、引き続き示談交渉を継続した結果、示談金50万円で示談を成立させることができましたので、被害者と取り交わした示談書(写し)を検察庁へ提出した結果、不起訴(起訴猶予)を獲得することができました。
電車内痴漢の強制わいせつで不起訴(嫌疑不十分)を獲得した例
被疑者は、通勤途中の電車の中で、前方に立っていた女性のスカートの中に手を入れ、下着の上から女性の陰部を撫でまわすなどしたとして、強制わいせつ罪で逮捕されたという事案です。
弁護士は、被疑者のご家族から依頼を受けて被疑者と接見したところ、被疑者は「痴漢はしていない」、「自分は犯人ではない」と主張していました。
そのため、弁護士は被疑者から、被疑者と被害者の立ち位置・距離、当時の電車内の状況、被害者と交わした会話のやりとりなど詳細に聴取した上で、検察官に対して被疑者が痴漢を行うことは客観的に不可能だったことを主張しました。
そして、検察官も被害者の供述の信用性に疑義を感じ始めたため、嫌疑不十分による不起訴を獲得することができました。
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