
①住居侵入罪における「囲繞地」に該当しないとされた判例
事案の概要
この事例は、被告人が暴力団組長の自宅に自動車で突っ込み、門扉などを損壊したとして「住居侵入罪」などに問われた事件です。
犯行時、被告人の運転する自動車は、公道から数段の石段を上がったところで停車しました。この「石段部分」は、建物を囲む塀(障壁)が道路側に少しへこんだ場所に位置しており、石段を上りきった正面に、敷地の内部へと続く木製の門扉が設置されていました。
裁判では、この「門扉の外側にある石段部分」が、住居侵入罪の対象となる「囲繞地(いにょうち)」にあたるかどうかが最大の争点となりました。
判決文の抜粋
「住居侵入罪の客体には囲繞地も含まれていると解されるが,囲繞地であるためには,その土地が,建物に接してその周辺に存在し,かつ,管理者が外部との境界に門扉等の囲障を設置することにより,建物の附属地として,建物利用のために供されるものであることが明示されている必要がある・・・木製門扉等の構造からすると,本件居宅の管理者が事前に許諾していない者(例 ビラ投かんを目的とする者)であっても,木製門扉の手前までは立ち入りが許容されているとみるのが合理的で,本件石段部分が,本件居宅の利用のみに供される設備とは解されず,そのことが明示されているともいえない。」(大阪高等裁判所令和5年5月15日判決)
弁護士の解説
住居侵入罪は、家屋そのものだけでなく、その周囲にある「囲繞地」への侵入でも成立します。囲繞地とは、単なる敷地ではなく「塀や柵などで囲まれ、建物の附属地であることが明確な土地」を指します。「どこまでが『囲い』の内側(=侵入にあたる区域)か」という争点について、以下の点を考慮して囲繞地性が否定されました。
・門扉と塀が連なって「囲い」を形成している以上、その門扉の手前にある石段は「囲いの外」とみるべき
・石段を上がった場所にインターホンや郵便受けがある場合、配達員などの第三者が許可なく立ち入ることが通常想定されている
このように囲繞地の範囲は個別事案で判断が分かれます。庭への立入りが住居侵入罪となるかについては「庭に勝手に入ると不法侵入(住居侵入罪)で警察に逮捕される?」で具体例とともに解説しています。
②別居中の妻の自宅への立入りが住居侵入罪とされた判例
事案の概要
この事例は、夫(被告人)が別居中の妻が居住する家屋に、無断で立ち入ったことが「住居侵入罪」に問われた事件です。
家屋は夫の所有名義であり、夫は合鍵も所持していました。当時、夫婦は離婚訴訟中であり、夫は「妻の不貞行為(浮気)の証拠を掴む」という目的で、合鍵を使って深夜に玄関から侵入しました。
夫側は「自分の持ち家であり、まだ法律上の夫婦である以上、正当な理由がある」と主張しました。
判決文の抜粋
「離婚の訴を提起した・・・(妻)に対し被告人からの離婚の反訴が提起された・・・(中略)・・・頃には、両名共に離婚の意思は決定的となり、婚姻関係は破綻し、将来再び同居する可能性のない状態に立ち至っていた・・・被告人において・・・合鍵を使用し(妻)方玄関入口の施錠を開け、同女の意思に反してその住居内に立ち入ったものであって、被告人の所為が社会的相当性を欠くものであることは極めて明らかである。被告人において所論のような民事上の権利(所有権など)を有するからといって、被告人の本件所為が刑法的評価の面において適法視される理由はな(い)」(東京高等裁判所昭和58年1月20日判決)
弁護士の解説
たとえ夫名義の持ち家であっても、現在そこを管理・居住しているのは妻です。法律上、住居侵入罪が保護するのは「その場所に誰を立ち入らせるかを決める居住者の自由(管理権)」であるため、所有者であっても居住者の意思に反して入ることは許されません。
また、本件夫婦は既に離婚訴訟中であり、修復の可能性がないほど関係が破綻しており、夫婦としての「立ち入る権利」は認められにくくなります。さらに、「浮気の証拠を掴むため」という夫側の立入り目的についても、法的な手続き(証拠保全)によるものではなく社会的相当性を欠くと判断されています。
合鍵を使った別居中の配偶者・元交際相手などの自宅への立ち入りについては、「合鍵で元交際相手・元配偶者などの自宅に入ると不法侵入?」で具体的なケース別に解説しています。
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この記事の監修者
刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

