目次
①誤振り込みの預金の払戻請求が詐欺罪にあたるとされた判例
事案の概要
この事案は、通帳の記載から入金される予定のない誤った振り込みがあったことを知ったうえで、被告人が自分の借金の返済に充てようと考えて、預金の払い戻しの請求をして即時に現金の交付を受けたというものです。
この事例の被告人は、窓口係員に対して誤振り込みであることを黙っていたのみで、積極的に嘘を述べて窓口係員に接しているわけではないので、これでも欺罔行為に当たるのかが問題となりました。
詐欺罪とは?成立要件・欺罔行為の意味・罰則・詐欺の種類を解説
判例分抜粋
この事例で裁判所は、「受取人においても、銀行との間で普通預金取引契約に基づき継続的な預金取引を行っている者として、自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には、銀行に上記の措置を講じさせるため、誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があると解される。社会生活上の条理からしても、誤った振込みについては、受取人において、これを振込依頼人等に返還しなければならず、誤った振込金額相当分を最終的に自己のものとすべき実質的な権利はないのであるから、上記の告知義務があることは当然というべきである。そうすると、誤った振込みがあることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求することは、詐欺罪の欺罔行為に当たり、また、誤った振込みの有無に関する錯誤は同罪の錯誤に当たるというべきであるから、錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には、詐欺罪が成立する」と判断しました(最高裁判所平成15年3月12日決定)。
弁護士の解説
詐欺の実行行為である欺罔行為とは、「交付の判断の基礎となる重要な事項について被害者を錯誤に陥れるような表示を行うこと」と定義できます。
そして銀行にとって、払い戻し請求を受けた預金が誤った振り込みによるものか否かは、直ちにその支払いに応じるか否かを決定するうえで重要な事柄であると判断しています。
さらに誤振り込みの場合には、銀行側が組戻しや照会の措置を講じるために、受取人が「自己の口座に誤った振り込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務」があると判示しています。
このように認定してうえで、誤振り込みであるとを知っている受取人が、「その情を秘して預金の払い戻しを請求する」行為が、詐欺罪の欺罔行為に該当することになると結論付けています。
②他人に譲渡する意図で口座開設を申し込むことが欺罔行為にあたるとされた判例
事案の概要
この事例は、預金通帳・キャッシュカードを他人に譲渡する意図であるのに、これを秘して銀行の行員に自分名義の預金口座の開設等を申し込み、預金通帳・キャッシュカードの交付を受けたケースです。
上記のような態様で銀行窓口で申込みをすることも詐欺罪にいう欺罔行為にあたるのかが問題となりました。
判例分抜粋
この事案に対して、裁判所は「銀行支店の行員に対し預金口座の開設等を申し込むこと自体、申し込んだ本人がこれを自分自身で利用する意思であることを表しているというべきであるから、預金通帳及びキャッシュカードを第三者に譲渡する意図であるのにこれを秘して上記申込みを行う行為は、詐欺罪にいう人を欺く行為にほかならず、これにより預金通帳及びキャッシュカードの交付を受けた行為が刑法246条1項の詐欺罪を構成することは明らかである」として詐欺罪の成立を肯定しました(最高裁判所平成19年7月17日決定)。
弁護士の解説
この判例では、各預金口座開設等の申込み当時、契約者に対して、総合口座取引規定ないし普通預金規定、キャッシュカード規定などにより、預金契約に関する一切の権利、通帳、キャッシュカードを名義人以外の第三者に譲渡、質入れ又は利用させるなどすることを禁止していたという事実が重視されています。
そして被告人に応対した各行員は、第三者に譲渡する目的で預金口座の開設や預金通帳、キャッシュカードの交付を申し込んでいることが分かれば、預金口座の開設や、預金通帳及びキャッシュカードの交付に応じることはなかったことを認定しています。
したがって、第三者に譲渡する意図を秘して申込みをする行為が、詐欺罪の欺罔行為に該当することになるのです。
③名義人から許可されていても他人名義のクレカを利用すれば詐欺罪にあるとした判例
事案の概要
この事例は、クレジットカードの規約上、会員である名義人のみがクレジットカードを利用できるものとされ、加盟店に対しクレジットカードの利用者が会員本人であることの確認義務が課されているなどの事案で、クレジットカードの名義人に成り済まし同カードを利用して商品を購入する行為が詐欺罪の欺罔行為に該当するとされたケースです。
この事例で被告人は、名義人から同カードの使用を許されており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたことから犯罪とならないのではないかという点が問題となりました。
判例分抜粋
この事例で判例は、「被告人は、本件クレジットカードの名義人本人に成り済まし、同カードの正当な利用権限がないのにこれがあるように装い、その旨従業員を誤信させてガソリンの交付を受けたことが認められるから、被告人の行為は詐欺罪を構成する。仮に、被告人が、本件クレジットカードの名義人から同カードの使用を許されており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたという事情があったとしても、本件詐欺罪の成立は左右されない。したがって、被告人に対し本件詐欺罪の成立を認めた原判断は、正当である」と判示しています(最高裁判所平成16年2月9日決定)。
弁護士の解説
裁判所は下記のような事実関係を認定したうえで、正当な利用権限がないのにこれがあるように装い、ガソリンスタンドの従業員にクレジットカードを提示してガソリンの交付を受けた被告人の行為は、詐欺罪が成立すると認定しています。
- クレジットカードの会員規約には、名義人のみが使用でき他人にカードを譲渡・貸与・質入れなどをすることが禁じられていた
- 加盟店規約には、加盟店はクレジットカードの利用者が名義人本人であることを善良な管理者の注意義務をもって確認することになっていた
- 被告人は加盟店であるガソリンスタンドで名義人に成り済ましてクレジットカードを使用して給油を受けた
- ガソリンスタンドでは、名義人以外の者によるクレジットカードの利用行為には応じないことになっていた
④価格相当の商品を提供していても詐欺罪が肯定された判例
事案の概要
この事案は、普通の電気あんま器で中風、小児麻痺その他の痼疾に特効がないのに拘らず、あたかも医師や県知事の指定を受けた電気医療器販売業者であるかのように告げ、未だ一般には入手困難な中風や小児麻痺に特効のある新しい特殊治療器で、高価なものであると騙して被害者から現金に交付を受けた事例です。
判例分抜粋
「たとえ相当価格の商品を提供したとしても、事実を告知するときは相手方が金員を交付しないような場合において、ことさら商品の効能などにつき真実に反する誇大な事実を告知して相手方を誤信させ、金員の交付を受けた場合は、詐欺罪が成立する」と判示しました(最高裁判所昭和34年9月28日決定)。
弁護士の解説
最高裁判所は、被害者が事実を知れば金銭を交付しないような場合には、商品について事実に反する誇大な事実を告知して相手方を誤信させて金員の交付を受ければ、詐欺罪が成立すると判断しています。
ここで価格相当の商品を提供していたという事実は、詐欺罪の成否に影響を与えないという点を明らかにしています。
この事例では知識に乏しい消費者に対して、被告人が電気機器の特効について誇大に宣伝しているほか、自分が医師や県指定の電気医療器具取扱者のように身分を詐称していたため、詐欺罪の成立が肯定されています。
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