離婚調停を申し立てても、その後、取り下げることは可能です。
もっとも、取り下げた後、残された道は離婚裁判を提起すること、という場合が多いでしょう。
では、取り下げた後、離婚裁判を提起することはできるのでしょうか?
本記事では、そうした疑問にお答えしてまいります。
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目次
離婚調停の取り下げとは
はじめに離婚調停の取り下げとは何か解説します。
離婚調停の取り下げとは
離婚調停の取り下げとは、離婚調停を申し立てた人(申立人)が申し立てそのものをやめ、離婚調停を終了させてしまうことをいいます。離婚調停の取り下げは離婚調停の終了事由の一つです。離婚調停を申し立てられた側が離婚調停を取り下げることはできません。
なお、離婚調停の終了事由には「取り下げ」のほか、離婚調停の「成立」、「不成立」などがあります。離婚調停の取り下げは申立人自ら離婚調停を終了させることですが、不成立は裁判官と調停委員で構成する調停委員会が、離婚調停が成立する見込みがないと判断したとき、あるいは成立した合意が相当でないと認めるときに離婚調停を終了させる点が、取り下げと大きく異なります。
取り下げるのに相手方の同意は必要?
離婚調停を取り下げるために相手の同意は不要です。相手の同意の有無に関係なく、離婚調停が終了するまで、いつでも離婚調停を取り下げることができます。
なお、裁判の場合、1回でも裁判が開かれた後や、相手が主張を書いた書面を裁判所に提出した後は、相手(被告)の同意がない限り、訴えを取り下げることができません。これは、相手が一度、あなた(原告)の訴えに応じる(応訴の)姿勢を見せた以上、相手の応訴の利益を守る必要があるからです。
一方、離婚調停はあくまで話し合いの場であって、最終的にはお互いの合意がなければ離婚調停は成立しないことになっていますので、相手の同意なく申し立てを取り下げても相手に不利益を及ぼすことは考えられないことから、相手の同意は不要とされています。
取り下げのやり方は?
離婚調停を取り下げるには、離婚調停の「取下書」を家庭裁判所に提出する必要があります。法律上、調停期日(調停が行われる日)では口頭でできることになっていますが、実務上は、取り下げの意思を明確にするために取下書の提出を求められます。
取下書には、
- 宛名(家庭裁判所名)
- タイトル(取下書)
- 日付
- 申立人の氏名
- 取り下げの趣旨(「申立人は、次の事件の申立てを取り下げます。」)
- 事件番号
- 事件名
- 取り下げの理由
を書きます。
裁判所のホームページに書式が掲載されていますので活用するとよいでしょう。
取り下げの効果は?
離婚調停を取り下げると離婚調停が終了し、はじめから家庭裁判所に離婚調停が申し立てられなかったものとみなされます。
もっとも、離婚調停後の裁判を起こすにあたって、離婚調停の手続きを踏んだか否か(調停を前置したかどうか)は、実質的に離婚調停での話し合いを経ていたかどうかによります。
すなわち、離婚調停を申し立てた後、1回目の期日が開かれる前に離婚調停を取り下げた場合は話し合いを経たとはいえませんから、離婚調停の手続きを踏んだとはいえず、その後に裁判を起こすことはできません。一方、離婚調停を長期間にわたり続けた結果、離婚調停を取り下げた場合は話し合いを経たといえ、その後に裁判を起こすことは可能です。
離婚調停を取り下げた方が良いケース
離婚調停を取り下げた方がいいケースは次のようなケースです。
不利な結果となりそうな場合
まず、このまま離婚調停を進めても不利な結果で合意せざるをえない場合です。
具体的には、
- 不貞やDVなど、相手の有責行為を証明する証拠が不十分なため、相手の責任を追及すること、慰謝料を請求するが難しい
- 相手の反論に対して有効な反論ができない
- 調停委員に与えた心証が悪く、調停委員が相手の味方についてしまった
などという場合です。
こうした場合はいったん離婚調停を取り下げ、再度戦略を練り直し、必要な対策をとった上で再度離婚調停を申し立てることが考えられます。なお、離婚調停の申立ての回数、離婚調停が終了してから申し立てまでの期間に制約はありません。
離婚調停が進展しない場合
次に、離婚調停がなかなか進展しない場合です。
離婚調停を成立させるには相手が調停に出席し、かつ、離婚と離婚条件について相手の合意を得ることが必要です。そのため、
- 相手が離婚調停に出席しない
- お互いに自分の主張を一歩も引かず、譲らない
などという場合は、離婚調停がなかなか進展せず離婚調停を成立させることは難しいといえます。
相手の態度などから離婚調停が成立しないことが明らかとなった段階で、はやめに離婚調停を取り下げ、裁判を起こした方が得策となる場合もあります。
復縁を考えた場合
次に、復縁を考えた場合です。
離婚を望んでいるから離婚調停を申し立てているわけですが、稀に離婚調停の中で復縁を考える夫婦もいます。
離婚調停では、調停委員という第三者が夫婦の間に入るため、調停前に比べて夫婦間のコミュニケーションがとりやすく、夫婦の「本音」を言いやすい、聞きやすい状況にあるといえます。
また、離婚調停が進展するにつれて離婚の現実味が帯びてくるわけです。そのため、特に、勢いで離婚調停を申し立てた場合は本当にこのまま離婚してよいのかと判断に迷いやすく、考えた結果、復縁を目指すというケースが稀にあります。
もっとも、離婚調停を申し立てた側が復縁を望んで調停の取り下げをしたとしても、相手方も復縁を望んでいるとは限りません。その場合でも復縁を望むのであれば、婚姻中に自分の至らなかった点につき反省し、相手に謝罪し、今後同じ過ちを繰り返さないことを固く誓うなど、相手が離婚の意思を覆すだけの誠意を見せることが必要となります。
離婚調停を取り下げた後に復縁できることはある?
令和2年度司法統計(家事事件編)の「第15表 婚姻関係事件数-終局区分別-申立人及び申立ての趣旨別-全家庭裁判所」によると、令和元年度の離婚調停の中で、離婚調停成立後に婚姻関係(同居)が継続した件数と離婚調停取り下げ後に円満同居となった件数は次のとおりです。
【離婚調停成立】
件数 | |
総数 | 17,478 |
調停離婚 | 16,356 |
協議離婚届出 | 161 |
婚姻継続(別居) | 748 |
婚姻継続(同居) | 213 |
【離婚調停取下げ】
件数 | |
総数 | 6,759 |
協議離婚成立 | 1,846 |
円満同居 | 412 |
金員の支払等の協議成立 | 76 |
話合いがつかない | 669 |
その他・不詳 | 3,756 |
離婚調停の申立て件数は36,399件ですので、婚姻継続(同居)は離婚調停全体の約0.5%、円満同居は約1%の割合となります。
いずれも復縁といえるまでに夫婦関係が修復されたかどうかは不明ですが、少なくとも、離婚調停を申し立てたからといって必ず離婚につながるわけではないということは知っておくとよいかと思います。
離婚調停を取り下げるデメリット
取り下げ後すぐに再度調停を申し立てることが好ましくない
離婚調停の取り下げ後に再度、離婚調停を申し立てることは可能です。
さらに、再度の離婚調停の申し立ては、取り下げから何日空ければよいなどという決まりはありません。すなわち、取り下げ後、すぐに離婚調停を申し立てることも不可能ではありません。
もっとも、取り下げ後すぐ、あるいは間を置かない離婚調停の申し立ては、調停委員会に「不当な目的でみだりに離婚調停を申し立てた」と判断され、離婚調停そのものを行わないという判断を下されてしまう可能性が高いです。
また、あなたが離婚調停を取り下げ、すぐに離婚調停を申し立てたのは、離婚調停で相手と合意形成を図ることができなかったからでしょう。
しかし、取り下げ後すぐに、相手の考え方や心が入れ替わるとは考え難く、再度の離婚調停で相手と合意形成を図ろうとしても、それは不可能といっても過言ではないでしょう。
さらに、裁判所にもよりますが、取り下げ後すぐ、あるいは間を置かずに離婚調停を申し立てても、前回と同じ調停委員が対応する可能性も否定できません。
そのため、結局は前回と同じ結論を示されるだけで、再度の離婚調停を申し立てる意味はあまりないことから、取り下げ後すぐ、あるいは間をおかない離婚調停の申し立てはあまりお勧めできません。
離婚裁判を提起しても調停に戻されることがある
離婚裁判を提起するには、まずは離婚調停を経なければなりません。これを調停前置主義といいます。
離婚のことは、「裁判所が一方的に決めるよりも、まずは夫婦で決めてくださいね」、「夫婦で決めることができなかったときにはじめて、離婚裁判を提起できますよ」というのが調停前置主義の趣旨です。
では、離婚調停を取り下げた場合、離婚調停を経たことになるのでしょか?
この点、離婚調停を取り下げると離婚調停を経たことにはならず、離婚裁判を提起することはできないようにも思えます。
しかし、離婚調停を取り下げた場合でも、離婚調停を取り下げた理由や離婚調停の中身によっては、離婚調停を経たと判断されることがあります。
たとえば、離婚調停を数回開いて話し合いを行ったものの折り合いが付かず、これ以上話し合いを続けても埒が明かないため離婚調停を取り下げたという場合は、離婚調停を経たと判断されることが多いでしょう。
また、相手が離婚調停の期日に一度も出席せず、離婚調停を取り下げた場合も離婚調停を経たと判断されることが多いです。
もっとも、この場合、実質的にみれば調停を経ていないわけですから、仮に、離婚裁判を提起した際、相手から「離婚調停で話し合いたいので、調停にしてもらいたい。」などという主張がなされた場合は、裁判官の判断によって、離婚裁判ではなく離婚調停での話し合いに手続きを戻される可能性もあります。
調停前置の要件を満たしていないと判断されることがある
仮に、前述した経過を経て離婚調停を取り下げた場合、それから数ヶ月、あるいは数年経っても、離婚裁判を提起することは可能なのでしょうか?
すなわち、離婚調停を経て調停前置を満たす場合、その調停前置に有効期限はあるのでしょうか?
この点、法律上は、離婚調停を取り下げてから何年以内に離婚裁判を提起しなければならないという決まりはありません。すなわち、調停前置には有効期限はありません。
もっとも、離婚調停の取り下げから数年も経過している場合は、夫婦が心変わりし、話し合いによる解決が可能となる場合もありますから、裁判所から離婚調停を申し立てることを促されたり、調停前置の要件を満たしていないと判断されて離婚裁判の提起が認められないおそれもあります。
離婚調停の取り下げについてよくある質問
最後に、離婚調停の取り下げについてよくある質問にお答えします。
取り下げた場合の弁護士費用は?
「着手金+報酬金」の料金体系で弁護士に離婚調停を依頼した場合、調停を取り下げても着手金は返金されません。なぜなら、着手金は業務処理の対価として支払われる性質のものであるからです。一方で、離婚成立を目指して弁護士に依頼した場合、調停を取り下げた場合には報酬金は発生しません。そのため、離婚調停を取り下げた場合の弁護士費用は、「着手金相場の20万円~30万円+日当と実費」となることになります。
取り下げたら通知が来る?
離婚調停を取り下げると、家庭裁判所から相手に取り下げがあった旨が通知されます。
取り下げはいつまでに行えばいいの?
離婚調停の取り下げは、離婚調停が終了するまでの間、いつでもできます。いつしなければならないという決まりはありません。
まとめ
離婚調停を取り下げた後、再度、申立をすることは可能です。
もっとも、不当な目的で申立したと判断されないよう、申立てのタイミング等には気を付ける必要があります。
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