ある人が死亡した場合、その人に関して相続が開始します。自分と一定の親族関係にある人が死亡した場合には、その人の遺産を相続することになります。相続とは、誰にでも起こりうる問題なのです。
相続に関する各種のルールは、民法のいわゆる「相続法」によって定められています。
その相続法が今回約40年ぶりに改正され、相続に関する制度が2019年から早くも大きく様変わりしようとしています。
今回は、この相続法の改正におけるポイントをご紹介します。
- 「相続法はいつから改正されるのか?」
- 「改正後に相続する場合、手続きや制度がどう変わるのか?」
などについてご説明させていただきます。
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目次
相続法が約40年ぶりに改正!
2018年7月、相続に関する法律の改正案が可決され、約40年ぶりに相続法が改正されることになりました。この法改正は、相続制度に関する6つの分野にわたるもので、既存の制度の改善を図ったり、まったく新しい制度を新設したりするものとなっています。
改正相続法の概要について
今回改正された相続法では大まかに分類した場合、主につぎの6つの分野に関して新制度の創設、既存制度の改善が行われています。この改正により、相続に関する各手続きの効率化などが図られることになります。
こちらではまず、その6つの分野についてポイントとなる重要項目を簡単にご紹介します。
①配偶者保護のための制度の創設・拡充
改正された相続法では、これまで問題とされることの多かった被相続人の配偶者の保護をより厚いものとするため、各種の法整備を行っています。
具体的には、つぎのような制度の創設や既存制度の拡充が行われました。
配偶者居住権の新設
今回の改正によって、配偶者居住権という権利が創設されました。
被相続人の配偶者が相続人間の遺産分割協議などの結果、この居住権を取得した場合、基本的に一生無償で居住不動産に住むことが法律上認められることになります(民法1028条)。
従来の扱いでは、遺産分割協議の内容によっては、被相続人の死亡後にその配偶者の住む場所がなくなってしまう事例がありました。しかし、今回の改正により、このような問題の解決が図られることとなっています。
また、配偶者居住権に関しては登記もできることとなり、さらに権利の保護の強化が図られています(民法1031条)。
配偶者短期居住権の新設
被相続人の配偶者は、仮に上記「配偶者居住権」を取得できない場合であっても相続開始後一定の期間は、それまで住んでいた不動産への居住権が認められることになりました。この権利を「配偶者短期居住権」といいます(民法1037条)。
このため遺産分割により配偶者居住権を取得しなかった配偶者であっても、法律の条件を満たしている場合には、相続開始後または遺産分割協議後すぐに居住不動産からの退去を求められるなどの心配がなくなります。
「特別受益の持ち戻し免除の意思表示の推定」規定の新設
ある相続人が被相続人から生前贈与や遺贈などにより財産を受け取っていた場合、その相続人は特別受益者として扱われることになります。相続人の中に特別受益者がいる場合、遺産分割協議に際しては、その特別受益者がすでに受け取っている財産を考慮し相続財産を計算する必要があります。この計算を「特別受益の持ち戻し計算」といいます。
特別受益者は被相続人からすでに財産を受け取っているため、その分相続できる財産がほかの相続人より少なくされることになるのが民法におけるルールなのです。そうでないと特別受益者とその他の相続人との間に不公平が生じるからです。
この場合、特別受益者は遺産分割協議において相続財産を減らされることになるため、ある意味不利益を受けることになります。しかし、被相続人が特別受益の持ち戻し計算を免除した場合、遺産分割において特別受益者が上記のような不利益を受けることを避けることができるのです。
今回の改正では、配偶者が被相続人所有の居住用不動産をもらっているなど法律上の条件を満たしている場合に限り、遺産分割において持ち戻し計算をする必要がなくなりました。このような場合には、法律上反証などがない限り、被相続人において持ち戻し免除の意思表示があったと推定されることになります(民法903条4項)。そのため遺産分割に際して、被相続人の配偶者が特別受益者として相続財産の計算上不利益を受けることがなくなるのです。
②相続人の手続きへの配慮
被相続人が死亡した場合、被相続人が生前利用していた銀行などの口座は凍結されることになります。この場合、その口座から現金を引き出したり定期預金の解約などをするためには、遺産分割前においては相続人全員の同意が必要でした。
しかしそれでは、何かと出費の多い被相続人死亡後における手続きに支障が出ることがありました。特に相続人間の関係が良好でない場合などには、全相続人の同意を得られない可能性もあります。このような場合には、相続人でありながらいっさい預貯金を引き出すことができなくなってしまうことがあったのです。
このような問題を解決するため、今回の改正では、遺産分割前であっても相続人全員の同意なしに預貯金の仮払いを受けることができるようになりました(民法909条の2)。
③自筆証書遺言の利便性向上
通常時における遺言の作成方法には、法律上3つのパターンがあります。そのうちのひとつである自筆証書遺言に関しては、その利用促進などのため、つぎの2点に関して法律が改正・新法の創設がなされることになりました。
自筆証書遺言作成方式を簡便化
自筆証書遺言は、その名前のとおり、遺言の全文を遺言者が「自筆」する必要があります。つまり、遺言書全文を「手書き」する必要があるのです。
しかし遺言書は、その内容によっては財産などの内訳を非常に詳細に記載しなければならないケースがあります。特に相続財産が多く、それぞれの財産について各相続人の相続分の指定などをする場合には、全文を手書きすることは非常に困難な作業でした。実際問題として、遺言者の健康状態などによっては、このような行為は事実上不可能となる場合もあり得ます。このような問題があるため、自筆証書遺言はあまり利用されていないという現状があったのです。
この問題を解決するため、今回の改正においては、遺言書中の「財産目録」の部分に関しては手書きする必要がないこととされました(民法968条2項)。財産目録に関しては、パソコンからプリントアウトしたものを遺言書に一体のものとしてつづることにより、自筆証書遺言としての法的効力が認められることになったのです。
自筆証書遺言の公的保管制度の新設
相続関係における今回の法改正では、まったく新しい制度も作られることになりました。
自筆証書遺言に関して、それまでなかった公的な保管制度が新設されることになったのです(「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)。
せっかく作成した自筆証書遺言書であったとしても、遺言者自身が保管場所を忘れ紛失してしまったり、相続人によって変造・破棄などをされては困ります。公的な保管制度を利用すれば、これらの不都合を解決することができます。
この制度によって自筆証書遺言の利用が浸透すれば、将来における相続人間の相続トラブル防止に期待ができます。
なお、この制度による遺言書の具体的な保管場所は法務局とされ、今後保管するシステムが構築されることになります。
④遺留分制度の改善
今回の相続法の改正では、現行の遺留分制度に関しても改善策が講じられています。
一定の相続人には、法律上保護される最低限度の相続分が定められています。これを「遺留分」といいます。このため、それを侵害した贈与・遺贈などがあった場合には、遺留分を侵害された相続人は相続財産を取り戻すため「遺留分減殺請求権」の行使が認められました。
これまでは、遺留分減殺請求権を行使した場合、取戻しの対象となるのは相続財産の現物そのものというのが原則でした。しかしこの方法では、返還の対象となる財産の権利関係が複雑になるなど問題点が多かったのです。そのため、以前から改善が期待されていました。
今回の法改正によって、遺留分減殺による返還対象となる財産に関しては、その現物ではなく、それと同等の金銭「遺留分侵害額」の返還を要することとなりました。
⑤相続の利害関係人などについての法整備
今回の相続法の改正によって、旧法では問題とされることの多かった相続に関する利害関係人の諸問題について、つぎのような解決が図られることとなりました。
遺産分割などによって取得した権利の要登記化
遺言による相続分の指定または遺産分割によって、ある特定の相続人が相続財産に関して法定相続分以上の権利を取得することがあります。この場合、法定相続分を超えて権利を取得した財産が登記・登録が可能なものである時には、その旨の登記・登録を要することになりました。ただし、この登記・登録は法律上の義務とされたわけではありません。法定相続分を超えて取得した権利に関して、第三者にその旨の主張をする場合には登記・登録が必要となったということです。
一般的によくある事例として考えられるのは、相続財産の中に不動産が含まれているケースです。この不動産に関して法定相続分を超えて権利を取得した相続人は、その旨の登記をしなければ不動産に関する権利の取得を、同一の不動産に関して利害関係を持つ第三者に主張できないことが明確化されたのです。
相続債権者の法的地位の明確化
今回の法改正により、従来の法律では不明確であった相続財産に対する債権者の権利が、法律上明確化されました。
相続財産に対して債権を持つ人のことを「相続債権者」といいます。この相続債権者の相続財産や各相続人に対する権利の行使について旧法では明確に定められていなかったため問題とされることがありました。
この問題を解決するため、改正法では相続債権者の権利行使に関して明確に規定することとなったのです。このため相続債権者はもちろん、相続人にもそれぞれの債権・債務が明確となり、法律関係の処理が容易となることが期待されます。
⑥相続人以外の者への遺産分与制度の新設
相続において被相続人の財産を相続することができるのは、法律上相続権が認められる人たちに限定されています。これは、相続のルールにおける常識です。
そのため旧法では、被相続人の生前において介護で世話をするなど特別な貢献があった人でも、その人が相続人でない限り相続財産をもらうことができませんでした。法律上、そのような制度がなかったためです。
しかし現実的には、相続人でないにもかかわらず被相続人の身の回りの世話などをしている人もたくさんいます。それにもかかわらず、相続権が認められないという理由だけで、相続財産の分与が受けられないのは不公平だという考え方が根強くありました。
この問題の解決を図るため、今回の改正では相続権が認められない者であったとしても、被相続人に対して貢献のある一定の親族には「特別寄与料」を請求する権利が認められることになりました(民法1050条)。
各改正ポイントの施行時期について
以上のように、今回の相続関連法の改正では数多くの既存制度の改善・新制度の創設が図られています。これらの改正点に関しては、それぞれ施行時期に異なるものがあるため、注意が必要となります。
各改正・制度新設などの具体的な施行時期は、つぎのようになります。
①自筆証書遺言の利便性の向上
財産目録の記載に関して手書き不要とされる自筆証書遺言の利便性の向上に関する改正は、2019年1月13日から施行されています。
そのため、これから自筆証書遺言を作成する場合には、財産目録に関しては手書きしなくてもよいことになります。
②配偶者居住権
今回の改正により、まったく新しく認められることとなった配偶者居住権に関しては、2020年4月1日から施行されることとなります。
それまでに発生した相続では、配偶者居住権が認められませんので、十分な注意が必要です。
③自筆証書遺言保管制度
今回の法改正では、自筆証書遺言の公的保管制度が創設されました。この制度の施行は、2020年7月10日とされています。
④上記以外の改正点
上記以外の改正点などに関しては、基本的に2019年7月1日から施行されることになります。
まとめ
今回は、改正相続法のポイントについてご紹介しました。
生きている以上、相続は誰にでも訪れる大きな問題です。今回約40年ぶりに改正された相続法により、相続に関する制度が大きく変わることになりました。
今回の改正によって遺留分や自筆証書遺言など既存の制度が改善されたり、被相続人の配偶者に居住権が認められるなど、まったく新しい制度が創設されたりしています。このような点に関して知識を持っておくことは、相続を効率的に進めていくうえで非常に役に立つはずです。
相続は、いつ発生するか分かりません。いざ自分が相続人となった場合に、本記事の知識を活用し、相続問題をスムーズに解決していただければ幸いです。
相続に関してもっとも重大な問題となるのは、当事者間におけるトラブルです。相続問題は金銭が絡むだけに、些細な問題から関係がこじれてしまうことが世間には非常にたくさんあるのです。そして関係がこじれてしまった場合には、親族であるからこそ、逆にとことん関係が悪化してしまうものです。
そのような事態を避け、スムーズに相続問題を解決するためには、些細な問題でも放置することなく専門家のアドバイスなどを受けることが大切です。
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