
準強制わいせつ罪(じゅんきょうせいわいせつざい)とは、人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をすることで成立する犯罪です(刑法第178条1項)。
罰則は強制わいせつ罪と同じ、6ヶ月以上10年以下の懲役です。未遂も処罰されます(刑法第179条)。
なお、平成29年の刑法改正に伴い、改正前は親告罪(検察官が起訴をするにあたり被害者の告訴が必要な犯罪)であった準強制わいせつ罪が非親告罪となりました。これにより、被害者が告訴をしない場合でも、事件の目撃者などが警察に通報することで捜査が開始され逮捕される可能性もあります。
以下では、性犯罪に強い弁護士が、準強制わいせつ罪の成立要件について詳しく解説していきます。
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準強制わいせつの成立要件
準強制わいせつ罪の成立要件(構成要件)は、「人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じて、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をすること」です。
では、準強制わいせつの構成要件に出てくる、
- ① 心神喪失
- ② 抗拒不能
- ③ ~乗じて、~にさせて
- ④ わいせつな行為
という言葉はどういった意味なのでしょうか。以下で詳しく解説します。
心身喪失
心神喪失とは、精神又は意識の障害によって正常な判断能力を失っている状態をいいます。
相手が熟睡している状態、泥酔している状態、失神している状態、高度な精神病を患っている状態などがこれに当たります。
なお、加害者を罪に問うために必要な刑事責任能力における心神喪失とは、物事の善し悪しを判断できる能力、その能力にしたって行動を制御できる能力が完全に欠けていることをいいますが、そこまでに至っている必要はありません。
抗拒不能
抗拒不能とは、心神喪失以外の理由によって、心理的・物理的に加害者に抵抗することが不可能か、あるいは著しく困難な状態にあることをいいます。
たとえば、長年に渡り、一緒に同居している加害者から暴力や脅迫を受け続けていたことによる恐怖から抵抗することが不可能だった状態、塾講師の担任が友人から紹介され、かつ、信頼を寄せていた人であったため、心理的に抵抗することが著しく困難な状態だった場合などが抗拒不能の典型です。
また、モデルになるには全裸になることも必要であり、断るとモデル等として売り出してもらえなくなると誤認して錯誤に陥った状態も抗拒不能にあたるとした裁判例もあります。詳しくは、準強制わいせつ罪の判例を弁護士が解説を参考にしてください。
~に乗じて、~にさせて
~に乗じとは、すでに作出された心神喪失の状態、あるいは抗拒不能の状態を利用して、という意味です。
たとえば、居酒屋で、お開きになった後、被害者が個室に一人で泥酔していたため、「誰も見ていないからわいせつなことをしてやろう」と思い、わいせつな行為をした、というのが「心神喪失に乗じてわいせつな行為をした」場合の典型です。
~にさせてとは、自ら相手を心神喪失若しくは抗拒不能の状態にして、という意味です。
こうした状態にさせる手段に制限はありません。飲み物の中に睡眠薬を投与する、お酒を大量に摂取させる、医師が患者に必要な行為だと誤信させるなどが典型です。
なお、暴行又は脅迫を用いて相手を心神喪失、抗拒不能の状態に陥らせてわいせつな行為をした場合は、準強制わいせつ罪ではなく強制わいせつ罪に問われるでしょう。
わいせつな行為
わいせつな行為とは、徒に性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反するような行為と定義されています(最高裁昭和26年5月10日)。
無理やりキスをする行為、陰部を触る行為、股間に指を挿入する行為、乳房を揉む行為、服を脱がす行為などがわいせつな行為の典型です。
例えば、「整体師の男性が、施術中に、女性客にマッサージを受けるものと誤信させて抗拒不能の状態に陥らせ、女性客の性器に指を入れた上、胸をなめるなどをした行為」「整形外科医が、手術後の患者に対して、「麻酔の効き目を確認する。」などと言って、衣服の上から、あるいは直接に患者の胸や陰部を触る行為」がわいせつな行為にあたると判示した判例があります(前者の行為について東京地裁平成29年6月6日、後者の行為について最高裁平成30年2月9日)。
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