強制わいせつの有名判例・無罪判例を弁護士が解説

※2023年(令和5年)7月13日に、性犯罪に関する規定を見直した改正刑法が施行され、わいせつ行為の処罰規定であった「強制わいせつ罪」と「準強制わいせつ罪」が統合され、新たに「不同意わいせつ罪」が新設されました。詳しくは、不同意わいせつ罪とは?旧強制わいせつ罪との違いをわかりやすく解説をご覧になってください。

強制わいせつの成立と性的意図に関する判例

強制わいせつの成立に性的意図が必要とする古い判例

事案の概要

この事案は被告人Xが内妻が、本件の被害者女性Aの手引きにより逃げたと思い、Aをアパートの自室に呼び出し約2時間にわたりAを脅迫して、Aの裸体写真を撮影して仕返しをしようと考え畏怖しているAを裸にして写真撮影したというものです。

この事案ではXは、Aに対する報復の意図を抱き行為を行っており、性的意図を有していなかったと反論したため強制わいせつ罪の成立要件について判断がなされました。

判決文抜粋

「いわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であったも、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」と判示しています(最高裁判所昭和45年1月29日判決)。

そのうえで本判決は、第二審において「報復侮辱の手段とはいえAの裸体写真の撮影を行ったXにその性欲を刺激興奮させる意図がまったくなかったとはにわかに断定し難い」と判断しているものの何ら証拠を示していないし性的意図の存在を認める理由も示されていないとして、その点を審理させるために原判決を破棄し、原裁判所に差し戻すこととしました。

弁護士の解説

この最高裁判決では強制わいせつが成立するためには、刑法の構成要件として記載されていない「犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図」という主観的意図が必要であると判示しています。

強制わいせつが犯罪とされるのは、個人のプライバシーに属する性的自由を保護するためだと考えられています。

そこで本判決に対しては、犯人がいかなる目的・意図で行為に出たか(犯人が自身の性欲をいたずらに興奮・刺激させたか否か/行為者自身・第三者の性的羞恥心を害したか否か)にかかわらず性的自由を侵害した客観的事実があれば本罪が成立すると考えるべきではないのか、という有力な反対意見がありました。

強制わいせつの成立に性的意図を要しないとした新しい判例

次に紹介する事案により、最高裁判所大法廷の裁判官全員一致の意見で、前期昭和45年判例を変更するという判決が出されました。

事案の概要

この事案は被告人Xが、児童ポルノを製造・送信する対価として融資を得る目的で、当時7歳の被害女子Aに対しXの陰茎を口にくわえさせるなどのわいせつな行為をしてその様子を撮影するなどした事例です。

これに対してXは前記昭和45年判例が要求している「性的意図」がないと反論しました。

判例文抜粋

「強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては、被害者の受けた性的な被害の有無やその内容、程度にこそ目を向けるべきであって、行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は、その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず、もはや維持し難い」と判示し判例変更をしました。

そのうえで「わいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、その行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって、そのような個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし、そのような場合があるとしても、故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく、昭和45年判例の解釈は変更されるべきである」と示しています(最高裁判所平成29年11月29日大法廷判決)。

弁護士の解説

本判決は、昭和45年判例について以下のような理由を述べて解釈の変更を示しました。

  • 性的意図があれば強制わいせつが成立し、性的意図がなければ強要罪が成立するという理由が不明である
  • 強制わいせつ罪の加重類型である強姦罪には故意以外に性的意図が要求されていないこととバランスがとれていない
  • 性的な被害に係る犯罪規定の解釈は、社会の受け止め方の変化に応じて変化していかざる得ない

そして、昭和45年判例で示された「性的意図」は強制わいせつ罪の成立要件ではないと判断されています。

それでは、強制わいせつの成立要件である「わいせつな行為」の該当性についてはどのように判断する必要があるのでしょうか。行為者の主観は一切考慮してはならないのでしょうか。

これについて「いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる」と判断基準を明らかにしています。

そのうえで「個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的など主観的事情を判断要素として考慮すべき」場合があることを示しています。

ここで「行為者の目的等の主観的事情」とされていることから考慮対象とされるべき主観的事情としては、「行為者自身の性欲を満たす性的意図」に限られず、「被害者に対して性的屈辱を感じさせることによって復讐を果たす目的」や、「第三者らの性欲を満たすための性産業に提供する目的」などもその判断要素になりうるといえるでしょう。

以上より、性的意図がない場合には、客観的に性的意味が希薄になり「わいせつな行為」に該当せず処罰に値しないと判断される可能性もありえますので、性的意図がなかったのであれば同罪について否認するべきでしょう。

通勤電車内の痴漢行為が否定され無罪となった判例

事案の概要

この事案は、被告人が、通勤電車内において乗客である女性A(事件当時17歳)に対し、下着内に手を差し入れ陰部を触ったとして、強制わいせつ罪に問われた事案です。

判例文抜粋

「被告人は、捜査段階から一貫して犯行を否認しており、本件公訴事実を基礎付ける証拠としては、Aの供述があるのみであって、物的証拠等の客観的証拠は存しない・・・。被告人は、本件当時60歳であったが、前科、前歴はなく、この種の犯行を行うような性向をうかがわせる事情も記録上は見当たらない。したがって、Aの供述の信用性判断は特に慎重に行う必要があるのであるが、(1) Aが述べる痴漢被害は、相当に執ようかつ強度なものであるにもかかわらず、Aは、車内で積極的な回避行動を執っていないこと、(2) そのことと~Aのした被告人に対する積極的な糾弾行為とは必ずしもそぐわないように思われること、また、(3) Aが、成城学園前駅でいったん下車しながら、車両を替えることなく、再び被告人のそばに乗車しているのは不自然であること(原判決も「いささか不自然」とは述べている。)などを勘案すると、同駅までにAが受けたという痴漢被害に関する供述の信用性にはなお疑いをいれる余地がある。・・・ Aの供述の信用性を全面的に肯定した第1審判決及び原判決の判断は、必要とされる慎重さを欠くものというべきであり、これを是認することができない。被告人が公訴事実記載の犯行を行ったと断定するについては、なお合理的な疑いが残るというべきである。」と判示して被告人に無罪を言い渡しています(最高裁判所平成21年4月14日判決)。

弁護士の解説

本判例では、以下のような事実が認定されたうえで被害者Aの供述の信用性に問題があると判断されています。

  • 被告人に同種犯行を行った前科・前歴がないこと
  • Aは被告人のネクタイを掴み「電車降りましょう」「あなた今痴漢をしたでしょう」と言い、下車駅の駅長に「この人痴漢です」と言ったこと
  • 痴漢行為が相当執拗・強度なものであったはずなのにAが回避行動をしていない
  • 回避行動をしていないことと糾弾行為とがそぐわないこと
  • Aが一旦別の駅で下車しながら車両をかえることなく再度被告人のそばに乗車したこと

これらの事実を考慮して「Aが受けたという痴漢被害に関する供述の信用性にはなお疑いをいれる余地がある」と判示しています。

ドライブ中のわいせつ行為が否定され無罪となった判例

事案の概要

この事案は、被告人が2回にわたり、第1現場に駐車中の自動車内と、第2現場に駐車中の自動車内において、告訴人である被害者女性Aに対し、その意思に反して、ブラジャー内に手を差し入れてその乳房をもみ、下着の上から陰部に手指を押し当てたり、首筋に接吻したりしたとして、強制わいせつ罪に問われた事案です。

判例文抜粋

「被告人と告訴人は、キャバクラの客とホステスという関係であり、本件当日、告訴人は、被告人からの誘いに応じ、二人きりで夜間のドライブに同行しているのであるから、被告人が、告訴人と性的な関係を結べるかもしれないと期待したとしても無理からぬところがある。そのような事情の下では、被告人が、告訴人に対して、太ももを触ったり、陰部付近に手を伸ばそうとしたりしたことがあったとしても、拒絶されてそれ以上の行為に及んでいない限りは、未だ「暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした」ということはできず、強制わいせつ罪は成立しないというべきである。拒絶したのになかなかやめてくれなかったとする告訴人の公判供述の信用性に重大な疑問がある」として、「本件公訴事実については犯罪の証明がないから、刑事訴訟法336条により被告人に対し無罪の言渡しをする」と判示しています(東京地方裁判所平成21年10月8日判決)。

弁護士の解説

  • 事件があったとされる時刻の前にAは交際男性Kにメールを送っている
  • AはKからの返信メールを見た後にわいせつ被害にあったと供述している
  • しかし、犯行時刻には自動車で走行中であったためわいせつ行為がなされた可能性はない
  • Aは第1現場で10分~20分間、わいせつ被害にあっていたと供述している
  • しかし、第1現場に駐車していた時間や約8分未満であることが分かっている

以上のような事実を認定したうえで、「告訴人が供述しているような深刻なわいせつ行為が行われた可能性は極めて低いというべきである」として被害者の供述の信用性が否定されています。

客観的な証拠から認定できる事実と、被害者が供述している事実に大きな食い違いがある場合には、被害者の供述の信用性には問題があるといえることになります。

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