強制わいせつの判例変更|罪の成立に性的意図は不要とした新判例

過去の最高裁判例では、強制わいせつ罪の成立には加害者の性的意図が必要とされていました。しかし、平成29年の最高裁判決で、強制わいせつの成立に「性的意図を必要としない」とする判例変更が行われました

この記事では、この2つの判例を弁護士が解説していきます。

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強制わいせつとは?

「強制わいせつ」とは、

  • 「13歳以上の者」に対し、「暴行または脅迫」を用いて「わいせつな行為」をした場合
  • 「13歳未満の者」に対し、「わいせつな行為」をした場合

に成立する犯罪です(刑法第176条参照)。

強制わいせつ罪が成立した場合には、「6月以上10年以下の懲役」が科されることになります。

強制わいせつとは?どんな行為が該当する?逮捕後の流れを弁護士が解説

強制わいせつの成立に性的意図が必要とする古い判例

事案の概要

この事案は被告人Xが内妻が、本件の被害者女性Aの手引きにより逃げたと思い、Aをアパートの自室に呼び出し約2時間にわたりAを脅迫して、Aの裸体写真を撮影して仕返しをしようと考え畏怖しているAを裸にして写真撮影したというものです。

この事案ではXは、Aに対する報復の意図を抱き行為を行っており、性的意図を有していなかったと反論したため強制わいせつ罪の成立要件について判断がなされました。

判決文抜粋

「いわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し、婦女を脅迫し裸にして撮影する行為であったも、これが専らその婦女に報復し、または、これを侮辱し、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪は成立しないものというべきである」と判示しています(最高裁判所昭和45年1月29日判決)。

そのうえで本判決は、第二審において「報復侮辱の手段とはいえAの裸体写真の撮影を行ったXにその性欲を刺激興奮させる意図がまったくなかったとはにわかに断定し難い」と判断しているものの何ら証拠を示していないし性的意図の存在を認める理由も示されていないとして、その点を審理させるために原判決を破棄し、原裁判所に差し戻すこととしました。

弁護士の解説

この最高裁判決では強制わいせつが成立するためには、刑法の構成要件として記載されていない「犯人の性欲を刺戟興奮させまたは満足させるという性的意図」という主観的意図が必要であると判示しています。

強制わいせつが犯罪とされるのは、個人のプライバシーに属する性的自由を保護するためだと考えられています。

そこで本判決に対しては、犯人がいかなる目的・意図で行為に出たか(犯人が自身の性欲をいたずらに興奮・刺激させたか否か/行為者自身・第三者の性的羞恥心を害したか否か)にかかわらず性的自由を侵害した客観的事実があれば本罪が成立すると考えるべきではないのか、という有力な反対意見がありました。

強制わいせつの成立に性的意図を要しないとした新しい判例

次に紹介する事案により、最高裁判所大法廷の裁判官全員一致の意見で、前期昭和45年判例を変更するという判決が出されました。

事案の概要

この事案は被告人Xが、児童ポルノを製造・送信する対価として融資を得る目的で、当時7歳の被害女子Aに対しXの陰茎を口にくわえさせるなどのわいせつな行為をしてその様子を撮影するなどした事例です。

これに対してXは前記昭和45年判例が要求している「性的意図」がないと反論しました。

判例文抜粋

「強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては、被害者の受けた性的な被害の有無やその内容、程度にこそ目を向けるべきであって、行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は、その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず、もはや維持し難い」と判示し判例変更をしました。

そのうえで「わいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには、行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、その行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって、そのような個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし、そのような場合があるとしても、故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく、昭和45年判例の解釈は変更されるべきである」と示しています(最高裁判所平成29年11月29日大法廷判決)。

弁護士の解説

本判決は、昭和45年判例について以下のような理由を述べて解釈の変更を示しました。

  • 性的意図があれば強制わいせつが成立し、性的意図がなければ強要罪が成立するという理由が不明である
  • 強制わいせつ罪の加重類型である強姦罪には故意以外に性的意図が要求されていないこととバランスがとれていない
  • 性的な被害に係る犯罪規定の解釈は、社会の受け止め方の変化に応じて変化していかざる得ない

そして、昭和45年判例で示された「性的意図」は強制わいせつ罪の成立要件ではないと判断されています。

それでは、強制わいせつの成立要件である「わいせつな行為」の該当性についてはどのように判断する必要があるのでしょうか。行為者の主観は一切考慮してはならないのでしょうか。以下で解説します。

わいせつ行為の判断で性的意図の考慮は必要

これについて「いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる」と判断基準を明らかにしています。

そのうえで「個別具体的な事情の一つとして、行為者の目的など主観的事情を判断要素として考慮すべき」場合があることを示しています。

ここで「行為者の目的等の主観的事情」とされていることから考慮対象とされるべき主観的事情としては、「行為者自身の性欲を満たす性的意図」に限られず、「被害者に対して性的屈辱を感じさせることによって復讐を果たす目的」や、「第三者らの性欲を満たすための性産業に提供する目的」などもその判断要素になりうるといえるでしょう。

以上より、性的意図がない場合には、客観的に性的意味が希薄になり「わいせつな行為」に該当せず処罰に値しないと判断される可能性もありえますので、性的意図がなかったのであれば同罪について否認するべきでしょう。

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