もしご自身が逮捕されたら…、あるいは、ご家族など大切な人が逮捕されたら…、すぐにでも弁護士に接見に来てもらい、不利な状況にならないよう適切なアドヴァイスが欲しいところです。しかしながら、知り合いに弁護士もいない、弁護士選びに時間をかけている余裕がない、という方もいることでしょう。
そういった方のために存在するのが、「当番弁護士」です。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 当番弁護士とは?どうやって呼べばいいの?
- 国選弁護人とはどう違うの?
- 当番弁護士はなにをしてくれるの?
- 私選弁護人と違ってできないことはあるの?
といった疑問を解消していこうと思います。
記事を最後まで読んでも問題解決できない場合は、弁護士までお気軽にご相談ください。
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当番弁護士とは
当番弁護士とは、罪を犯したとして疑いをかけられ捜査機関(警察・検察)に逮捕された場合に、1回に限り無料で接見してくれる制度、または、その制度により派遣されてくる弁護士のことです。この制度は、起訴前でも被疑者が弁護活動を受けられるよう日本弁護士連合会が設置しました。
当番弁護士は弁護士が所属している弁護士会から派遣されます。また、派遣される弁護士は、弁護士会に所属する弁護士のうち「当番弁護士」として登録している弁護士です。
そして、依頼を受けた日に待機しており、かつ、都合がつく弁護士が派遣されます。弁護士会から派遣要請を受けた弁護士が、原則として要請を受けてから24時間以内に逮捕されている方(被疑者)が収容されている留置施設等の収容施設に赴き、接見室で被疑者(被疑者)と面会します。
弁護士との接見では時間制限がありませんし、立会人がつきません。そのため、事件に関するものから事件以外のことまで、疑問や不安があることは何でも弁護士に尋ねることができます。
逮捕された直後は、事件の行方はもちろん、仕事・学校、家族のことなどで不安が募り、精神的に不安定な状態となっています。しかし、それでも捜査機関による厳しい取調べを受けます。そして、思ってもみなかった供述調書が作成され、それが裁判の証拠として提出されることもあるのです。弁護士との接見は、抱えている不安を取り除き、捜査機関に都合のよい供述調書を作成させないという意味でも大変重要な機会なのです。
当番弁護士と国選弁護人との違いは?
国選弁護人は裁判所が選任する弁護士です。費用が掛からない点では当番弁護士と共通しています。
当番弁護士と国選弁護人の違いは大きくわけて三つあります。
一つは、弁護活動の内容です。前述のとおり、当番弁護士の弁護活動は1回限りの接見のみです。これに対して、国選弁護人の弁護活動には接見はもちろん、釈放に向けた活動、被害者との示談交渉、無罪・執行猶予に向けた裁判での訴訟活動などあらゆる活動が含まれます。国選弁護人の弁護活動と自費で選任する私選弁護人との弁護活動の内容に違いはありません。
二つ目は、呼ぶ(選任される)タイミングです。前述のとおり、当番弁護士は逮捕直後から呼ぶことが可能です。これに対して、国選弁護人は、身柄事件の場合に選任される被疑者国選弁護人と在宅事件の場合に選任される被告人国選弁護人とで異なります。被疑者国選弁護人の場合は、逮捕から勾留決定までの約3日間は選任されず、勾留決定を受けてはじめて選任されます。一方、在宅事件の場合に選任される被告人国選弁護人の場合は、起訴されてはじめて選任されます。
三つ目は、条件(要件)の有無です。当番弁護士は無条件に(誰でも)呼ぶことができます。これに対して、被疑者国選弁護人の場合は資力が50万円未満であること、被告人国選弁護人の場合は資力要件に加えて、起訴された事件が「死刑又は無期若しくは長期3年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件」であることなどの要件をクリアしなければ選任されません。つまり、誰でも国選弁護人を選任することはできないということです。
当番弁護士の呼び方
続いて、万が一、逮捕されたときのことを考えて、当番弁護士の呼び方について確認しておきましょう。
以下では、
- いつ:当番弁護士を呼ぶタイミング
- 誰が:当番弁護士を呼べる人
- 誰に:当番弁護士との接見の申出先
当番弁護士を呼ぶのか、というようにわけて解説します。
当番弁護士を呼ぶタイミング
逮捕直後からです。
当番弁護士は逮捕されてから起訴が決定されるまでの間に呼べますが、逮捕されたら速やかに弁護士と接見すべきです。しかし、前述の通り、弁護士会から要請を受けた当番弁護士が来るのは要請を受けてから24時間以内です。当番弁護士を呼んだからといってすぐに接見に来てくれるわけではありません。呼んでから接見に来るまでのタイムラグを考えると、逮捕後、速やかに当番弁護士を呼んだ方がよいです。なお、逮捕されること、起訴前であること、が当番弁護士を呼ぶ条件ですから、次の状況下では当番弁護士を呼ぶことはできません。
- 捜査機関から出頭要請を受けている
- 捜査機関から任意同行を求められた
- 在宅被疑者として取調べなどの捜査を受けている
- 既に起訴された
当番弁護士を呼べる人
当番弁護士を呼べるのは逮捕された方(被疑者)はもちろん、
- 被疑者のご家族
- 被疑者の友人・知人
- 被疑者と関係を有する人(身元引受人、保護司、ソーシャルワーカー、福祉関係者、医療関係者など)
であれば呼ぶことができます。
ただし、被疑者を逮捕したことを警察官から教えてもらうこと、何らかの形で被疑者が逮捕されたことを知ることが呼ぶ前提となることはいうまでもありません。また、被疑者が逮捕されてから知るまでの間にタイムラグがありますので、繰り返しになりますが、まずは逮捕された本人が当番弁護士を呼ぶことが理想です。
なお、当番弁護士の接見は1回限りのため、すでに被疑者やその他の方が当番弁護士を呼んでいる場合は呼ぶことができません。
当番弁護士との接見の申出先
警察に逮捕された場合、被疑者は警察官に申出ましょう。申し出た後は、警察官が弁護士会に連絡を入れてくれます。その後は、弁護士会がその日登録されている弁護士に要請をかけ、都合がつく弁護士が接見に派遣されます。
ご家族などは、被疑者が収容される留置場がある都道府県の弁護士会(日本弁護士連合会:当番弁護士連絡先一覧)に電話をし、申出する人の氏名、連絡先電話番号、逮捕された人の氏名、生年月日、性別、逮捕されている警察署を伝えることで当番弁護士を手配してもらえます。
当番弁護士の呼び方に関するよくある質問
24時間いつでも呼べますか?
弁護士会は24時間、接見の申出を受け付けています。弁護士会の対応時間外(午前9時頃から午後5時頃以外の時間)や休日の場合は留守電で受け付けていますから、留守電に必要事項を入電してください。ただし、申出が対応時間外や休日となった場合、弁護士が接見に来るのが翌日の遅い時間や休日明けとなってしまう可能性もあります。その間、取調べを受けた場合は、「弁護士と接見するまでは話さない」と言って、黙秘権を行使するのも一つの方法です(ただし、却って身柄拘束が継続してしまうおそれもありますから、ご自身の認否によって正しく行使することが必要です)。
当番弁護士を呼ぶのに費用は一切かからない?
当番弁護士制度は費用がかからないことが大前提の制度です。
中には当番弁護士として接見した弁護士から費用を請求されたというケースがあるようです。たしかに私選弁護人としてその弁護士に刑事弁護を依頼した場合には費用がかかることになりますが、そのような依頼をした覚えがないという場合には、必ず弁護士会に相談しましょう。
2回目も呼ぶことはできますか?
前述の通り、当番弁護士に無料で接見できるのは1回だけです。そのため当番弁護士に2回目の接見をお願いすることはできません。
ただし当番弁護士として派遣された弁護士に2回目以降も接見をお願いして弁護活動をお願いしたい場合には、その弁護士を刑事弁護人(国選弁護人または私選弁護人)として正式に選任する必要があります。
当番弁護士との接見でできること
当番弁護士を呼んだら弁護士が接見に来てくれるわけですが、接見では具体的にどのようなことができるのでしょうか?以下で詳しくみていきましょう。
取調べのアドバイスを受けることができる
逮捕されると、あなたを待ち受けているのが捜査官の取調べです。
そのため、
- 取調べでどんなことを聴かれるんだろう?
- なんて答えればいいんだろう?
- どんな対応をすればいいのだろう?
と迷われる方も多いです。
当番弁護士との接見では、弁護士から取調べに関するアドバイスを受けることができますので、上記のような不安を少しでも軽減させることができます。刑事事件では、逮捕直後の話を重要視されることがありますので、この段階で弁護士と接見して弁護士からアドバイスをもらうことは極めて重要です。
今後の見通しを尋ねることができる
また、取調べと同様かそれ以上に不安なのが、
- そもそも釈放されるのか?
- いつ釈放される(社会復帰できる)のか?
- 刑事手続きはどのような流れで進んでいくのか?
- 刑事処分はどうなるか?
など、事件の見通しについてはもちろん、仕事、学校、家族、などの事件以外のことも不安になる方は多いと思います。
当番弁護士との接見ではこうした疑問を弁護士にぶつけて説明やアドバイスを受けることが可能です。前述のとおり、弁護士との接見は時間制限がありませんし、立会人がつきません。時間や周りの目を気にすることなく不安や疑問点を尋ねることが可能です。
家族などからの伝言を伝えてもらえる
ご家族など被疑者以外の方が当番弁護士を呼んだ場合は、弁護士に被疑者への伝言を預けることができます。そして、当番弁護士は接見で、ご家族などから預かった伝言を被疑者に伝えます。
弁護士以外の方(ご家族など)は、逮捕直後は、被疑者と接見することができません。ご家族などにとっては、弁護士との接見が被疑者に伝言を伝える唯一の手段です。また、逮捕され落ち込んでいる被疑者にとって、ご家族などからの伝言は大きな励みとなります。
ただ、当番弁護士との接見は1回限りですから、すでに他の人が呼んでいた場合は呼べませんし、追加の伝言を当番弁護士に頼むこともできません。
家族などへ接見の報告をしてもらえる
被疑者がご家族などへの伝言を希望した場合は、当番弁護士からご家族へ伝えてもらうことができます。ご家族などは逮捕直後から勾留決定の約3日間は接見できません。そのため、この約3日間を待てない方は、当番弁護士を通じてご家族などに伝言してもらうとよいでしょう。ご家族などへ伝言することで、被疑者のことを心配しているご家族などを安心させることができます。
ただし、ご家族などへの伝言は当番弁護士の義務ではありません。当番弁護士へ希望しなければ当然には伝言してくれない点に注意が必要です。
当番弁護士を呼ぶにあたっての注意点
当番弁護士を呼ぶにあたっての注意点は、
- 接見は1回限り
- 弁護士を選べない
- 在宅事件では弁護活動してくれない
という点です。
接見は1回限り
繰り返しとなりますが、当番弁護士が行ってくれるのは1回限りの接見という点です。つまり、当番弁護士は、接見が終わった後、釈放に向けた活動や被害者との示談交渉などの弁護活動を行ってくれない点に注意が必要です。
後述しますが、接見を通じて直ちに弁護活動が必要だと感じた場合は私選弁護人を選任する必要があります。また、私選弁護人を選任しない場合で、資力が50万円未満の場合は、勾留決定後に国選弁護人が選任されます。
弁護士を選べない
被疑者は当番弁護士を呼ぶことはできますが、選ぶことはできません。
前述のとおり、当番弁護士として選ばれるのは、要請を受けた日に登録されている弁護士の中から都合のつく弁護士です。弁護士とはいえ、すべての弁護士が刑事事件に精通しているとは限りません。また、弁護士にも特徴があるため、接見で当番弁護士とうまくコミュニケーションを取れるかどうかは接見してみなければわかりません。
つまり、接見で、「この弁護士と相性が合わないな」と感じたら、充実した接見とはならない可能性もあるということです。
在宅事件では弁護活動してくれない
当番弁護士を呼べるのは逮捕された後、すなわち、身柄事件の場合です。そのため、被疑者が自宅にいたまま捜査が進められる「在宅事件」の場合には当番弁護士を呼ぶことはできません。
在宅事件は身柄拘束されないため、これまで通りの生活を送れるメリットがある一方、デメリットもあります。逮捕される身柄事件の場合は、逮捕・勾留の手続きに時間的制約があるため、その時間内に検察官が起訴しなければ身柄を釈放しなくてはなりません。他方で在宅事件の場合にはそのような時間的制約がないため、公訴時効(刑事事件の時効)が完成するまでの間、いつ来るかわからない逮捕に怯えて暮らさなくてはならないのです。
そのため、在宅事件として扱われた場合には、早急に被害者と示談を成立させ、事件化したり逮捕されることを回避する弁護活動が必要となります。
しかし、上記の通り、在宅事件では当番弁護士を呼ぶことはできないため、私選弁護人を選任するほかないのです。
在宅事件とは|身柄事件との違い、種類・メリット・注意点を解説
当番弁護士と接見後はどうすればいい?
家族に勤務先や学校に連絡してもらう
逮捕された場合、被疑者は原則として3日間外部と連絡をとることができません。
そのため被疑者が会社員や学生の場合には会社・学校を休まなければなりません。無断欠勤・無断欠席の場合には解雇・退学など不利益を被る可能性があるため、家族に頼んで連絡してもらうことが重要です。
その際、家族に休みの連絡をしてもらう際には「逮捕された」と伝えることが適切ではない場合があります。なぜならその後、会社や学校から不利益な処分を言い渡されるリスクがあるからです。そして軽微な犯罪や弁護活動の帰趨によっては早期釈放、在宅事件になる場合もあります。そのため「体調不良」や「私用のため」など適切な理由で休むことが得策です。ここで当番弁護士に頼んで家族に連絡したい事項を伝えてもらうことも可能です。
家族に頼んで私選弁護人にも相談してもらう
当番弁護士が刑事事件に精通しており、被疑者とコミュニケーションが円滑にとれるようなタイプであればそのまま刑事弁護人として選任するという選択肢もあります。
ただし当番弁護士は必ずしも刑事事件を専門的に行っている弁護士であるとは限らず、また刑事裁判の経験も不足している可能性もあります。つまり当番弁護士はあなたの意思で弁護士を指定することができないという点がデメリットだといえるかもしれません。
そこで、刑事弁護を得意とする「私選弁護人」を当番弁護士とは別に探して選任するという方法も検討しましょう。
日頃から刑事事件を専門的に担当し豊富な経験と解決実績のある弁護士に依頼した方が、起訴を回避できたり、刑事裁判で重い刑事処罰を受けたりするのを回避することができる可能性が高まります。
早期釈放に向けた弁護活動を進めてもらう
逮捕された場合には原則として3日間の身体拘束を受けることになります。そして逮捕に引き続き勾留された場合には最長20日間にわたり身体拘束が継続することになります。
しかし早期に弁護人が適切に弁護活動を行った場合、早期に釈放されたり不起訴処分となる場合もあり得ます。
被害者がいる事件では弁護士に示談交渉を進めてもらう
暴行や窃盗など被害者が存在する事件の場合には、被害者と示談を成立して許しを得ることが被疑者の今後の処遇を決定するうえで重要なポイントとなります。
示談が成立した場合には、被害者が負った被害が一定程度回復された、被害者の処罰感情が軽減されたと考えることができるため、早期釈放や不起訴処分が期待できます。
しかし被疑者が身体拘束を受けている場合には、自分で示談交渉することができませんので、弁護人に依頼して示談交渉を迅速にまとめてもらう必要があります。
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