電子計算機使用詐欺罪とは、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報もしくは不正な指令を与えて財産権の得喪もしくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、または財産権の得喪もしくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させる犯罪です(刑法第246条の2)。
簡単に言えば、人を騙すのではなく、コンピューターを騙して(誤った情報を与えて)財産上の不法な利益を得る犯罪です。
罰則は詐欺罪と同様、10年以下の懲役です。
電子計算機使用詐欺罪の条文は以下の通りです。
(電子計算機使用詐欺)
第二百四十六条の二 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。刑法 | e-Gov法令検索
この記事では、詐欺事件に強い弁護士が、電子計算機使用詐欺罪の構成要件(成立要件)、未遂罪の有無などについてわかりやすく解説していきます。
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目次
電子計算機使用詐欺罪が設けられた経緯
電子計算機使用詐欺罪は昭和62年の刑法の一部改正により設けられた罪です。
昭和50年代後半に電子ライターを分解して取り出した圧電素子を用いて、アーケードゲーム機にクレジットがあったものとして誤カウントさせて無料でゲームをする手口が子どもたちの間で拡がりました。昭和60年頃には、使用済みテレホンカードに新たに磁気情報を加えて再使用可能となった変造テレホンカードが外国人によって街中で安く売られるようになり、社会問題化しました。
これらの行為に対して適用する犯罪として窃盗罪や詐欺罪を思いつくことろですが、行為者が得られるものは、「ゲームができる・電話ができる」ことであり、財物ではないことから窃盗罪を適用することはできませんでした。また、詐欺罪(刑法246条)は「人」に対する詐欺行為を処罰する犯罪ですから、上記のような人ではないものに対する詐欺行為を詐欺罪で処罰することはできませんでした。
その他にも、他人名義のキャッシュカードを使用してATMで勝手に預金を引き出すことは窃盗罪になるところ、預金を引き出さずに自分の口座に振り込む行為は、窃盗罪にも詐欺罪にも問えないという問題も存在していました。
そこで、上記のような刑法上犯罪とならないスキマを埋めるために電機計算機使用詐欺罪が設けられたのです。
電子計算機使用詐欺罪の構成要件
電子計算機使用詐欺罪の構成要件は、以下となります。
- ① 不実の電磁的記録の作出
- ② または虚偽の電磁的記録の供用
- ③ ①または②により財産上不法な利益を得たこと
①不実の電磁的記録の作出
不実の電磁的記録の作出とは、人の事務処理に使用する電子計算機(コンピュータなど)に、虚偽の情報若しくは不正の指令を与えて、財産の得喪、変更にかかる不実の電磁的記録を作り出すことです。
判例によると、「虚偽の情報」とは、電子計算機を使用する当該事務処理システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報のことをいいます(東京高裁平成5年6月29日)。「不正の指令」とは、事務処理の目的に照らし本来与えられるべきものではない指令のことをいいます。
「虚偽の情報もしくは不正の指令を与える」とは、虚偽の情報もしくは不正の指令を人の事務処理に使用する電子計算機に入力することをいいます。
「財産の得喪、変更にかかる電磁的記録」とは、オンライン化した銀行の元帳ファイル・磁気ディスクになされた預金残高の記録や、電子マネーの残高、プリペイドカードの残度数などのように、財産権の得喪・変更の事実又はその得喪・変更を生じさせるべき事実を記録した電磁的記録であって、一定の取引場面において、その作出等により事実上財産権の得喪・変更が生じるようなものをいいます。
他方で、クレジットーカードやキャッシュカードの磁気ストライプの記録は、カード会員番号や有効期限などの一定の事実を証明する記録に過ぎないため本罪の対象外です。
不実の電磁的記録の作出の例としては以下のようなものがあります。
- 銀行員がオンラインシステムの端末を操作して、自分の預金口座に振り込みがあったとする虚偽の情報を与え、預金口座の残高を増やした行為(大阪地判昭和63年10月7日)
- 自己名義の預金口座に臨時特別給付金が誤振り込みされたことを利用して、正当な権限がないのに、銀行の電子計算機に対して正当な権限があるような虚偽の情報を与え、オンラインカジノサービスの決済代行業者に利用料金の支払いをした行為(山口地判令和5年2月28日)(山口県阿武町誤振込事件)。
なお、他人のネットバンキングのIDやパスワードを盗用して、その他人の口座から自分(または第三者)の口座に送金をすることは、電子計算機使用詐欺罪のほか、不正アクセス罪も成立します。
②虚偽の電磁的記録の供用
虚偽の電磁的記録の供用とは、行為者が真実に反する財産権の得喪、変更係る電磁的記録を他人の事務処理に使用される電子計算機において用い得る状態に置くこと、すなわち、自己の手中にある真実に反する内容の電磁的記録を他人の事務処理に用いるコンピューターに読み込ませることです。
虚偽の電磁的記録の供用の例としては以下のようなものがあります。
- 通話可能度数を改ざんした変造テレホンカードを公衆電話に挿入しQ2ダイヤルに電話をかけた行為(岡山地裁平成4年8月4日)
- キセル乗車(連続しない区間の2枚以上の乗車券・定期券を利用して、乗車券を持っていない区間を移動してその間の運賃の支払いを免れる行為)で自動改札機に虚偽の情報を読み込ませた行為(平成24年10月30日)
③財産上不法な利益を得たこと
上記①または②の結果として財産上不法な利益を得たことが同罪の成立要件として必要です。
財産上の不法の利益を得とは、財物以外の財産上の利益を不法に得ることをいいます。利益が不法なものである必要はなく、利益が適法でも、利益を得る手段が不法であれば財産上不法の利益を得たことになります。
たとえば、拾ったクレジットカードでネットショッピングをして、本来自分が支払うべきショッピングの費用の支払いを免れた場合や、偽造・変造されたテレホンカードで本来支払わなくてはならない通話料の支払いを免れた場合などが該当します。
電子計算機使用詐欺罪は未遂も罰せられる?
電子計算機使用詐欺罪の未遂も罰せられます(刑法250条参照)。未遂罪が成立するには、ある罪の実行に着手したことが必要であるところ、電子計算機使用詐欺罪の実行の着手時期は、財産権の得喪、変更にかかる電磁的記録の作出にかかる人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正の指示を与える行為、又は財産権の得喪、変更にかかる虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供する行為に着手した時点です。
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