様々な問題により性交渉ができない場合や、性に関する価値観が一致しない「性の不一致」により、離婚を検討されている方も少なからずいます。
ここで、
- 性の不一致で離婚することはできるのだろうか?
- 性の不一致で離婚するにあたり慰謝料は請求できるのだろうか?
このようにお考えの方もいるかと思われます。
結論から言いますと、性の不一致のケースでも、相手から離婚についての合意が得られた場合や、性の不一致が「法定離婚事由」に該当する場合には離婚することができます。また、性の不一致が民法の不法行為に該当する場合には、精神的苦痛を補償するための慰謝料を請求することもできます。
この記事は、離婚問題に強い弁護士が、
- 性の不一致とは
- 性の不一致で離婚はできるのか
- 性の不一致による離婚率
- 性の不一致で離婚する際に慰謝料請求をすることはできるのか
などについてわかりやすく解説していきます。
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目次
性の不一致とは?
「性の不一致」について、特に法律が定めた定義があるわけではありませんが、精神的・身体的問題によって性交渉ができない場合や、性に関する価値観が一致しないために夫婦生活に支障をきたしている場合を総称して「姓の不一致」と表現することが多いです。
性の不一致によってトラブルが発生する場合には、単純に性的な満足が得られないという個人の問題にとどまらず、将来的に夫婦の間に子どもをもうけるか否かという問題にも繋がるため夫婦関係に大きな影響を与えることになります。
具体的には以下のようなケースを、姓の不一致ということが多いでしょう。
- 相手方配偶者が性交渉を拒否するケース(セックスレス)
- 性機能不全などの原因によって性交渉ができないケース
- SMプレイや過激な性交渉を強要する異常性癖があるケース など
性の不一致で離婚はできる?
同意が得られれば可能
それでは、正の不一致を理由に離婚することはできるのでしょうか。
民法は、「夫婦は、その協議で、離婚することができる」と規定しています(民法第763条参照)。したがって、夫婦双方が話し合いをして納得した場合には、離婚することができます(協議離婚)。協議離婚の場合には、両当事者が納得したうえで離婚することになるので、どのような離婚理由であっても離婚が可能です。
したがって、性の不一致を理由に協議離婚することができます。
ここで、どうしても2人だけの話し合いでは離婚に至らないという場合には、家庭裁判所を利用して離婚調停・審判を申し立てるという方法もあります。
離婚調停手続では、家庭裁判所の調停委員が立会人として当事者の間に入って合意の道を一緒に探ることになります。そのため、専門的な客観的視点を取り入れて話し合いをすることが期待できます。
同意が得られない場合は法定離婚事由に該当する必要がある
協議離婚や調停離婚などでも離婚が成立しない場合には、裁判所に訴訟を提起して「裁判上の離婚」を進めていく必要があります(裁判離婚)。
裁判離婚をする場合には、離婚できる理由は、民法に規定されている以下の5つの事由に限定されています(民法第770条1項参照)。
- ①配偶者に不貞な行為があったとき
- ②配偶者から悪意で遺棄されたとき
- ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- ④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
このように裁判離婚できる5つの理由を、「法定離婚事由」といいます。
「不貞な行為」とは、配偶者のあるものが自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性行為または性交類似行為をすることを指します。したがって、性の不一致により夫婦生活がうまくいかないため、一方が配偶者以外の者と性的関係を持てば、他方は離婚請求が可能となります。
また、「悪意の遺棄」とは、正当な理由なく夫婦間の同居義務や協力義務などを履行しないことをいいます。したがって、性の不一致などを理由に夫婦の一方が勝手に別居を始めたり家出してしまった場合などは、大砲は離婚請求をすることができます。
もっとも、不貞行為にしても悪意の遺棄にしても、性の不一致のみを理由とした法定離婚事由ではありません。性の不一致のみを理由に離婚請求をするには、性の不一致が、「⑤その他婚姻を継続し難い重大な自由」に該当する必要があります。以下で解説します。
法定離婚事由とは|相手が離婚を拒否しても離婚できる5つの条件
性の不一致で離婚が認められやすいケース
上記の通り、性の不一致を理由に離婚するためには、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるか否かがポイントとなります。これは一般的な離婚原因として他の離婚事由に該当しないケースをすくい上げるものです。
そのため、性の不一致が原因で実質的に婚姻関係が破綻するに至っていると判断されるケースでは離婚が認められやすくなります。
具体的には、以下のような事案では、性の不一致によって実質的に婚姻関係が破綻していると認定される可能性が高いです。
- 少なくとも夫婦の一方が、子どもを作る強い希望を持っているにも関わらず、性行為の拒絶、性交渉の不能など相当長期にわたって性交渉が行われていないケース
- 性交渉の拒絶や異常性癖などを理由に、他方の配偶者が深刻な精神的なダメージを受けてしまっているケース
- 性の不一致を原因として夫婦間に不和が発生し、長らく家庭内別居状態が続いているケース
逆に以下のようなケースの場合には、未だ夫婦関係が破綻しているとは判断されない可能性が高いです。
- 年齢やストレスなどに応じて性的能力が衰えた結果、性交渉が遂げられず回数や頻度が減少した場合
- 性の不一致などを原因として夫婦の関係が悪化したものの、その期間が比較的短期間である場合
- 性の不一致により夫婦喧嘩が頻出するようになっているものの、普通に性行為もできているような場合
性の不一致による離婚率
令和3年度(2021年)の司法統計によると、同年度中に裁判所に申し立てられた婚姻関係事件のうち、夫側から離婚の申し立てがなされた事件の総数は17160件で、そのうち「性的不調和」を申し立ての動機とするものは1919件でした。そのため夫申立て事件の11.1%が性的不調和を理由としたものでした。
これに対して、妻側から離婚の申し立てがなされた事件の総数は47725件で、そのうち「性的不調和」を申し立ての動機とするものは3021件でした。そのため妻申立て事件の6.3%が性的不調和を理由としたものです(「令和3年度司法統計 19 婚姻関係事件数 申し立ての動機別申立人別 全家庭裁判所」参照)。
性の不一致で離婚する場合に慰謝料請求はできる?
不法行為に該当すれば慰謝料請求が可能
相手方配偶者との間に性の不一致がある場合、離婚ではなく慰謝料の支払いを請求したいと考えている方もいると思います。
慰謝料とは、相手方配偶者の「不法行為(民法第709条)によってあなたが受けた精神的な苦痛」を補償するために支払われる損害賠償金のことです。
性の不一致がある場合でも、不法行為に該当する事情がある場合には、相手に慰謝料を請求することが可能になるのです。
そして相手の行為が不法行為に該当するためには、相手の故意または過失によって被害者の権利や法的に保護された利益を侵害する必要があります。
慰謝料請求が認められやすいケース・認められにくいケース
それではどのような場合に権利侵害が発生しているといえるでしょうか。
性の不一致がある場合に、不法行為に基づく慰謝料請求が認められる可能性があるのは以下のようなケースです。
- 相手方配偶者が、合理的な理由なく一方的に性交渉を拒絶し長期間性交渉がない場合
- 相手方配偶者が、執拗に性行為を強要し、強引に性交渉に応じさせられている場合
- 相手方配偶者が、異常な性交渉(過激な行為や屋外での行為など)を求め、こちらが拒否の態度を示しているにもかかわらず、強制的に応じさせらている場合 など
逆の以下のような事情がある場合には、相手方の行為は権利侵害行為とはいえず、慰謝料請求は認められない可能性が高いでしょう。
- 性交の不能が、病気や精神的な理由により引き起こされている場合
- 性交渉が減少・無くなった理由に喧嘩など他の原因があり、必ずしも他方による権利侵害があるとは言い難い場合
慰謝料が高額になる要因
性の不一致があるのみでは、法定離婚事由に該当する可能性は低いため、高額な慰謝料を請求できる可能性も低くなります。
しかし、性の不一致に関連してその他一定の事情があったり、性の不一致により完全に夫婦関係が毀損されている場合には、その原因を作った当事者の慰謝料支払義務は高額化する傾向があります。
したがって、以下のような事情がある場合には、慰謝料が比較的高額化する可能性があります。
- 婚姻期間が長期に及ぶ場合
- 夫婦間に未成熟の子どもがいる場合
- 性の不一致により性交渉のない期間が相当長期に及ぶ場合
- 相手方配偶者に不貞行為や悪意の遺棄、DV・モラハラがある場合 など
性の不一致で離婚や慰謝料請求する場合のポイント
離婚や慰謝料を請求するには証拠が必要
性の不一致を理由に離婚や慰謝料請求する場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたると判断するに足りる証拠を収集・提出する必要があります。
具体的に、以下のような事実を立証することができる証拠を収集することがポイントになります。
- 性の不一致により性行為がない期間が相当長期に及んでいる事実
- 性の不一致について、夫婦関係の修復・改善が困難である事実
- 性の不一致によって、当事者が負っている精神的負担が甚大である事実
- 性の不一致が、出産適齢期や子育て期間など年齢的な問題や人生設計に大きな影響を与えている事実
性の不一致の証拠となるもの
それでは、性の不一致を立証するための証拠としてはどのようなものがあるのでしょうか。
具体的な証拠としては以下のようなものです。
- 異常性癖の場合:本人が望んでいない態様での性行為や、どのような求められ方をしたかの記録
- セックスレスの場合:性行為を行った日時や、求めたのに拒否された日時を記録した日記や備忘録
- 性交渉に関するやり取りをしたLINE、メール、ボイスレコーダーの記録
- 性交不能について、病院での治療や診断書
他の離婚原因の証拠も収集しておくべき
性の不一致によって「婚姻関係が破綻している」ことを立証することは容易ではありません。
そのため、不貞行為やDV・モラハラなどの悪意の遺棄など他の法定離婚事由にあたりうる事情がある場合には、その証拠もしっかりと収集しておきましょう。
- 他の異性と関係を持っていることを立証するためのLINEやメールのやり取り
- ラブホテルや相手方の自宅に出入りしていることが分かる写真や動画
- 暴力や精神的虐待によって、治療を受けた際の診療記録や診断書
- 家計口座に一切生活費が振り込まれていないこと など
性の不一致で離婚をお考えの方は弁護士に相談
この記事では、性の不一致によって離婚や慰謝料の請求ができる場合があることを、詳しく解説してきました。
しかし、性の不一致での離婚・慰謝料請求には、法的に複雑なハードルが存在していることも事実です。したがって、性の不一致でお悩みの方は、信頼できる弁護士にまずは相談することがおすすめです。
当事務所では、性の不一致を理由とした離婚・慰謝料請求の実績があります。性の不一致に関して夫婦関係にトラブルを抱えている方は、是非離婚問題に精通している当事務所の弁護士に一度ご相談ください。お力になれると思います。
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