自己破産する際、一定以上の財産を持っている場合には、財産が差押えや没収などを受けることがあります。
自己破産の手続き上、退職金は立派な財産として扱われるため、会社員などが自己破産する場合には退職金が問題となることがあります。
しかし、自己破産するからといって退職金の全額が差押えや没収されるわけではありません。
それでは自己破産した場合、いったいどれくらいの退職金が没収などの対象となるのでしょうか?
今回は、自己破産する場合に没収などの対象となる退職金の額などについて解説させていただきます。
- 「どんな場合に退職金が没収の対象となるのか?」
- 「没収される退職金は、いくらくらいになるのか?」
以上のような疑問にお答えしますので、ぜひ最後までお読みください。
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1.一定以上の財産は没収・差押えされる
自己破産する人が一定以上の財産を持っている場合、一定額を上回る財産に関しては基本的に没収や差押えの対象とされることになります。
この「一定額」については自己破産手続きを行う地方裁判所によって基準が異なりますが、だいたい20万円以上の財産を持っていると管財事件となり、財産が没収などを受けることになります。
破産手続きには、大まかに言って「同時廃止事件」と「管財事件」の2つの処理方法があり、自己破産する人に20万円以上など一定以上の財産がある場合には「管財事件」として処理されるため財産が没収や差押えされることになるのです。
自己破産の処理方法が管財事件とされた場合、一定以上の財産が処分されるだけでなく職業の制限(「資格制限」)や日常生活上各種の制限を受けることになります。
なお、同時廃止事件や管財事件について詳細を知りたい場合には、以下の各記事を参照してください。
どうして財産が没収などを受けるのか?
自己破産という手続きは、返済しきれないほど多額の借金などの債務を免除してもらえる非常にありがたい制度です(ただし、「非免責債権」は免除されません)。
しかし債務の免除を受けるためには、その前提として破産申立人が所有する一定以上の財産をすべて投げ打ち、債務の返済に最大限尽力することが必要です。
債務者として精いっぱいの返済努力を行ったにもかかわらず、それでも返しきれない債務に関しては、その返済義務が免除される……それが自己破産という手続きなのです。
そして破産申立人が所有する一定以上の財産は破産財団に没収され、破産財団に属する財産を換価することによって債権者が配当を受けることになります。
なお、自己破産申立人において、免責不許可事由に該当する行為などがある場合には債務が免除されない可能性があるので注意が必要です。
破産財団とは?|破産債権者への配当の原資となる財産
「破産財団(はさんざいだん)」とは、自己破産手続きが管財事件で処理される場合において、破産債権者への配当(債務の返済)の原資とされる財産のことを言います。
法律上、破産手続き開始決定がなされた時点で自己破産申立人が所有している一定以上の財産に関しては、強制的に差し押さえまたは没収することによって破産財団が形成されます。
ただし、破産申立人の所有するすべての財産が破産財団に没収などされるわけではなく、破産財団から除外される財産も存在します。
そのような財産のことを「自由財産」といいます。
自由財産とは?|自己破産しても処分されない財産
自己破産は、人間だけが行うものではありません。
会社などの法人も債務超過状態になってしまえば、自己破産をすることがあります。
しかし、法人が破産する場合には、破産によって法人は解散することになるため、その後の法人の存続について配慮してあげる必要はありません。
これに対して人間が自己破産する場合には、破産後の生活を配慮してあげる必要があります。
自己破産が認められて借金が帳消しになったとしても、手持ちの資金や生活道具がなくなり、破産後生活ができなくなっては意味がないからです。
このため人間が自己破産する場合には、破産後も生活が成り立つように最低限の財産は手元に残され、破産財団による没収の対象外とされることになっています。
このように自己破産しても破産財団から除外され、破産申立人の手元に残される財産が「自由財産」なのです。
どんな財産が自由財産となるか?
法律上、つぎのような財産は自由財産とされます。
- ①99万円以下の現金
- ②差押え禁止財産
- ③破産財団から放棄された財産
- ④自由財産の拡張が認められた財産
- ⑤新得財産
それぞれについて、確認していきましょう。
①99万円以下の現金
法律上、99万円以下の現金は自由財産とされます。
このため、自己破産の処理方法が管財事件となった場合でも、99万円までの現金であれば破産財団に没収・差押えされることはありません。
なお、この場合の「現金」の中には預貯金も含まれます。
このため、実際には所有している現金と預貯金の合計額が99万円以下の場合には、破産財団による没収の対象外ということになります。
②差押え禁止財産
法律上、差し押さえが禁止される財産があります。
主に債務者の生活などのために、一定の債権や動産などについては差し押さえることが禁止されているのです。
このため自己破産申立人が、このような差押え禁止財産を所有している場合には、その財産はすべて自由財産とされます。
③破産財団から放棄された財産
自己破産の処理方法が管財事件とされた場合、裁判所によって破産管財人が選任されることになります。
破産管財人は、破産申立人の財産調査などを行い、破産財団を充実させます。
しかし破産管財人は、破産財団に没収しても価値が低いと思われる財産に関しては、破産財団から放棄することが認められています。
このように破産管財人によって破産財団から放棄された財産は、自由財産として破産申立人の手元に残ることになります。
④自由財産の拡張が認められた財産
上記①~③までのどれにも該当しない場合、自己破産申立人の所有する財産はすべて破産財団に属することになるのが原則です。
しかし、どうしても手元に残さないと生活するうえで支障をきたしてしまうような財産がある場合もあります。
そのような場合には、裁判所に「自由財産の拡張(じゆうざいさんのかくちょう)」を申立てることによって、その対象財産を自由財産として認めてもらうことができる場合があります。
たとえば病気のために定期的に通院する必要があり、そのためには自動車がどうしても必要であるようなケースでは、自己破産後の生活のために自動車が自由財産として認められる可能性があります。
このように本来であれば破産財団に属するべきものであったとしても自由財産の拡張が認められた財産は、自己破産後も手元に残すことが可能となります。
⑤新得財産
法律上、正確には自由財産ではありませんが、便宜上こちらで説明させていただきます。
「新得財産(しんとくざいさん)」とは、破産手続き開始決定後に新しく得た財産のことを言います。
破産財団の対象となる財産は、あくまでも破産手続き開始決定時点において自己破産申立人が所有していた財産です。
このため、破産手続きが終了していなかったとしても破産手続き開始決定時点以降に新たに取得した財産は、破産手続きによる処分の対象とはなりません。
新得財産の典型例は、破産手続き開始決定後に支給される給料などが該当します。
しかし退職金は、基本的に破産開始決定後に受け取るものではありますが、破産財団による差押え・没収の対象となります。
なぜなら、退職金は法律的に見た場合、給料の後払いとしての性質としてとらえられるからです。
破産財団に没収等される財産は、破産手続き開始決定時点において破産申立人が持っている財産が対象となります。
破産開始決定時点において破産申立人に退職金を受け取る権利がある以上、まだもらっていなかったとしても退職金は破産手続き上差し押さえなどの対象となるのです。
2.没収される退職金の額とは?
上記のように、退職金は破産手続きによる没収などの対象となる財産です。
しかし、だからといって退職金の全額が持っていかれてしまうわけではありません。
具体的に言えば、没収などの対象となる退職金は、総支給額の一部にしかすぎないので、過度の心配は不要です。
それでは実際、退職金のうちどれくらいが没収などの対象となるのでしょうか?
退職金の総額中、没収等の対象となる割合には、つぎのように退職金を受け取る時期(退職する時期)によって3つのパターンがあります。
- (1)退職金をすでに受け取っている場合
- (2)退職金を近々受け取る場合
- (3)退職時期がまだ先である場合
これら3つのパターンに関して、それぞれ具体的に見ていきましょう。
(1)退職金をすでに受け取っている場合
退職金をすでに受け取ってしまっている場合、退職金全額が没収などの対象となります。
後述するように、まだ退職金を受け取っていない場合には、没収の対象となるのは退職金総額中、4分の1または8分の1で済むことになります。
退職後の自己破産が、いかに損をするかということは、この没収の割合を見ても明らかです。
このため、自己破産するのであれば退職前、つまり会社などに在職中に手続きを行うことが大切です。
退職後に自己破産すると、退職金の大半が没収などの対象となり、その分損をする可能性があるからです。
退職後の自己破産は損!
在職中に自己破産などをすると会社や同僚にバレて恥をかくのではないかなどと考え、退職後の自己破産を検討するケースがあります。
しかし通常の場合、そのような心配はまず無用です。
自己破産した場合には、官報に住所・氏名などが掲載されることにはなりますが、それが原因で身近な人にバレるというケースはまずありません。
そのような心配をするよりも、在職しながら自己破産手続きすることをおすすめします。
世の中には会社を退職後、自己破産をしようとする方がいらっしゃいますが、そのような方法は明らかに不利なのです。
なお、すでに受け取っている退職金は、その全額が破産手続きによる処分の対象となりますが、すでにご覧いただいたように自由財産の範囲内の金銭(99万円以下)については対象外となります。
(2)退職金を近々受け取る場合
破産手続きをする時点では、まだ退職金を受け取ってはいないけれど、近々受け取る予定がある場合、没収の対象となる退職金の割合はすでに退職しているケースと比較すると、ずっと少なくなります。
退職時期が迫っていて、退職金の額が確定している場合、支給される総額の4分の1が破産手続きによる没収などの対象とされます。
ただし、退職金の4分の1が20万円以下である場合には、自己破産しても没収等の対象外となるのが現在の裁判所の運用です。
このため、退職金の総支給額が80万円以下である場合には、自己破産してもいっさい退職金は処分されません。
(3)退職時期がまだ先である場合
まだ会社などに勤務を続けるため、退職時期が未定である場合、没収等の対象となる退職金の割合は8分の1となります。
この場合、退職金の額は現時点で会社等を退職した場合に支払われるはずの「退職金支給見込み額」が基準となります。
これは、退職金を受け取る時期がまだまだ先である場合には、会社の倒産などによって退職金を受け取ることができない可能性もあることなどを考慮しての扱いです。
また、「(2)退職金を近々受け取る場合」のケースと同様、退職金の8分の1が20万円以下である場合には、退職金は全額自分の手元に残すことが可能です。
つまり、退職金総額が160万円以下である場合、自己破産しても退職金はいっさい没収の対象となりません。
このため、入社後それほど年数の経過していない方の場合には、自己破産しても退職金にはまったく影響がない可能性も高いのです。
この点からして、自己破産するのであればまだ在職していて勤続を続ける状態の時がもっとも損失が少ないことが分かります。
3.退職金が破産財団に組み入れられる3つのパターン
退職金が破産財団に組み入れられる場合、その方法はつぎの3つのパターンのうちのどれかになります。
- (1)破産申立人がすでに受け取った退職金から支払う
- (2)破産申立人が没収相当額を新得財産などから支払う
- (3)破産管財人が勤務先の会社等から没収相当額の前払いを受ける
この3つのパターンのうち、もっとも困るのは「(3)破産管財人が勤務先の会社等から没収相当額の前払いを受ける」パターンでしょう。
こんなことをされてしまえば、勤務先に自己破産したことがバレてしまい、最悪のケースとしては退職を余儀なくされてしまう可能性も否定できません。
このため実務上では、「(2)破産申立人が没収相当額を新得財産などから支払う」という方法によって破産財団に対して支払いをすることが一般的です。
つまり、破産手続き開始決定後に新たに取得した財産(給料など)や自由財産を換金するなどして破産財団への没収額を支払うことになります。
なお、没収相当額に関しては、分割して積み立てることも可能です。
自由財産の拡張で負担はさらに軽くなる
すでにご紹介させていただいたように、99万円以下の現金・預貯金に関しては自由財産として破産財団に没収されることがありません。
このため、現金と預貯金の合計額が99万円未満である場合には、99万円に達するまでは退職金を充当することが可能です。
没収額の具体例|退職金800万円の人のケース
それではここで、自己破産後も会社勤めを続ける人が退職金としていくら負担する必要があるのかを具体例でみてみることにしましょう。
たとえば、現時点における退職金の見込み額が800万円の人が自己破産をするケースで考えてみます。
この人は自己破産後も退社せず同じ会社で働き続けるので、破産財団による退職金の没収額は100万円(退職金支給見込み額の8分の1)となります。
この事例において、自己破産申立人に現金と預貯金の合計として40万円がある場合、どうなるでしょうか?
現金や預貯金は合計99万円まで自由財産として認められるので、まだ59万円余裕があることになります。
このため、このケースでは、退職金没収相当額である100万円中59万円を自由財産に組み入れることができる可能性があるのです。
自由財産への組み入れが認められた場合、退職金の没収相当額はわずか41万円となります。
つまり、800万円もの退職金がもらえる状態であったとしても、この事例では41万円支払えば自己破産における退職金の問題は解決できるということになるのです。
このように、自己破産する場合の退職金問題は、実際にはそれほど重大でないことが多いものなのです。
必要以上に心配することはありません。
ただし、退職金の没収相当額を自由財産に組み込むためには裁判所に対して自由財産の拡張の申立てをして、裁判所の許可を受ける必要があります。
自由財産の拡張が認められるかどうかに関しては、自己破産手続きを行う裁判所ごとに定められている運用基準によって判断されます。
そのため、どのようなケースで自由財産の拡張が認められるのかについては、地元の弁護士など法律の専門家に相談することをおすすめします。
4.自己破産前には専門家へ相談を!
借金問題を解決するために自己破産を検討する方は、世間にたくさんいらっしゃいます。
その大半の方々は、弁護士や司法書士など債務整理の専門家に依頼して手続きを行っています。
しかし、中には専門家に頼らず、自分だけで手続きを行おうとする方もいらっしゃいます。
もちろん、自己破産手続きは専門家に依頼せず、独力で行うことも可能です。
しかし、そのような方法は、あまりお勧めできません。
なぜなら、借金問題を解決するための方法には自己破産以外にも選択肢があるからです。
自分では「自己破産するしかない!」と考えていたとしても、実際にはそれ以外の方法が適切である可能性もあるのです。
借金問題は、人によって千差万別です。
このため、同じ借金額でも自己破産が向いている人もいれば、自己破産ではなく、そのほかの債務整理法のほうが適していることもあるのです。
自己破産以外の方法が適している可能性も
実際、自分にとってどの債務整理方法が適しているのかを知るためには、高度に法律的な知識や経験が必要です。
このため、債務整理の専門家に相談することが不可欠なのです。
相談の結果、自己破産ではなく個人再生などほかの方法による債務整理(借金問題の解決法)が適切であることも判明する事例もあります。
極端な例ではありますが、自己破産の相談に来られた方が債務整理した結果、多額の過払い金が戻ってきたため自己破産する必要がなくなったという事例も驚くほどたくさん存在するのです。
自己破産を検討する場合には、なるべく早い段階で弁護士や司法書士など債務整理の専門家に相談することをおすすめします。
5.まとめ
今回は、自己破産した場合の退職金の扱いに関してご紹介させていただきました。
自己破産を検討する方の中には、退職金を失うまいとして自己破産を避けようとされる方がいらっしゃいます。
また、その反面、会社などを辞めて退職金で借金問題を解決しようと考える方もいらっしゃいます。
しかし、今回の記事をお読みいただくことで、自己破産しても退職金を失う恐れは少なく、破産のために退職する必要もないということがお分かりいただけたと思います。
借金問題の解決を検討しているのであれば、退職金問題にとらわれず、前向きに手続きを進める必要があります。
もし借金問題でお悩みの場合には、ぜひ当事務所へご相談ください。
自己破産に限らず、あなたにとってベストな債務整理方法をアドバイスさせていただきます。
借金問題は、なるべく早く解決のために行動することが非常に大切です。
当事務所では全国どちらからのご相談でも24時間、いつでも承っております。
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