私人逮捕とは?逮捕できる要件と事例、取り押さえはどこまで許されるか解説

私人逮捕(しじんたいほ)とは、警察官や検察官ではない一般人が現行犯人を逮捕することをいいます。刑事訴訟法で認められた制度ですが、要件は厳格に定められており、要件を満たさない逮捕や行き過ぎた取り押さえは、逮捕した側が逮捕監禁罪や暴行罪に問われることもあります

「目の前で犯罪が起きたけれど、一般人が犯人を捕まえても大丈夫なのだろうか」「取り押さえはどこまで許されるのか」と疑問に感じた方もいるのではないでしょうか。

この記事では、刑事事件に強い弁護士が、

  • 私人逮捕が適法となる現行犯・準現行犯の要件
  • 私人逮捕が違法になるケースと問われる罪
  • 取り押さえ行為の限度と誤認逮捕の法的責任

などについてわかりやすく解説します。

なお、私人逮捕に関するトラブルで早急に対応したいとお考えの方は、この記事をお読みいただいた後、全国どこからでもご利用いただける当事務所の無料相談をご利用ください。

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私人逮捕の要件

冒頭で述べた通り、私人逮捕のやり方を一歩間違えると、たとえ社会正義のために行った行為でも、逆に罪に問われてしまうこともあります。

以下では、私人逮捕が適法となる2つの要件について解説していきます。

  • (1)現行犯逮捕・準現行犯逮捕の要件を充たすこと
  • (2)軽微犯罪の逮捕の要件を充たすこと

(1)現行犯逮捕・準現行犯逮捕の要件を充たすこと

刑事訴訟法第213条では「現行犯人は、何人でも(誰でもという意味)、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と規定されており、現行犯(準現行犯も含む)であれば私人逮捕が法律上認められていることがわかります。そこで以下では、現行犯逮捕・準現行犯逮捕それぞれの要件を確認します。

現行犯逮捕の要件

現行犯逮捕の要件は、現場の状況などから、逮捕された者が「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者(現行犯人)」であることが私人である逮捕者にとって明らかであること、すなわち、「犯罪と犯人の明白性」と「犯罪の現行性・時間的接着性の明白性」があることです。

「現に罪を行い」とは、逮捕者の目の前において、犯人が特定の行為を行っている場合をいいます。

「現に罪を行い終わった者」とは、特定の犯罪の行為を終了した直後の者、あるいはそれに極めて近接した段階の者であって、そのことが逮捕者にとって明らかである場合をいいます。

現に罪を行い終わった者であるかどうかは、時間的接着性だけでなく、場所的近接性、犯行発覚の経緯、犯行現場の状況、追跡継続の有無などの事情を総合的に勘案して判断されます。

準現行犯逮捕の要件

準現行犯人とは、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者であって、次のいずれかにあたる者をいいます。

  • ①犯人として追呼されているとき
  • ②贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき
  • ③身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき
  • ④誰何されて逃走しようとするとき

すなわち、準現行犯逮捕の要件は、「犯罪と犯人の明白性」、「犯罪の時間的接着性の明白性」、「①から④のいずれかの存在」、「逮捕者の①から④のいずれかの認識」があることです。

「罪を行い終わってから間がない」とは、犯行終了時から時間的に近接した時点をいいます。

「追呼」とは犯人として追跡、又は呼称されていること、「贓物」とは窃盗や強盗などの財産犯によって得られた物のことです。

現行犯人かどうか、準現行犯人かどうかは、逮捕者による犯行の現認に限らず、逮捕者が覚知した諸般の事情から合理的に判断されます。判断材料としては、逮捕者が直接見聞きした犯人や被疑者・目撃者の挙動や犯行状況のほか、被害者の供述や犯人の自白も客観的状況を補充するものとして用いることができます。

(2)軽微犯罪の逮捕の要件を充たすこと

軽微犯罪とは、法定刑が30万円以下の罰金、拘留、科料にあたる罪(過失傷害罪・軽犯罪法違反など)のことです。軽微犯罪の犯人を現行犯(準現行犯)逮捕するための要件については刑事訴訟法第217条に規定されており、以下の要件を充たす場合に限り逮捕できます。

  • 犯人の住所、氏名が明らかでない場合
  • または犯人が逃走するおそれがある場合

したがって、例えば、歩きスマホをしていて誤って他の歩行者に怪我をさせた人がいた場合、その人の氏名や住所を知っている、あるいは、求めに応じて身分証を見せてきたようなケースでは私人逮捕することができません。逃げ出すおそれがない場合も同様です。

私人逮捕が違法になる可能性のあるケース

以下のようなケースでは私人逮捕が違法になる可能性があります。

要件を充たさない逮捕をした場合

まず、前述の現行犯、準現行犯、軽微犯罪の要件を満たさない場合です。

たとえば、街中で掲載されている指名手配犯を私人逮捕することは違法です。なぜなら、指名手配犯は犯行から時間が経過しており「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」には該当しないため、現行犯逮捕の要件を満たさないからです。

また、ひき逃げ、当て逃げなどの交通違反も私人逮捕が可能ですが、違反を目撃し、犯人を見失うことなく追跡できた場合を除いて私人逮捕することは違法です。この場合は犯罪と犯人が逮捕者にとって明白とは言い難いからです。さらに、同じ交通違反でも、罰則の上限が罰金30万円以下の違反については軽微犯罪に該当するため、犯人の住所・氏名が判明しており、かつ逃亡のおそれもない場合には私人逮捕することはできません。

行き過ぎた取り押さえ行為をした場合

私人逮捕の際に行き過ぎた取り押さえ行為をした場合も違法となり得ます。

私人逮捕する際は、犯人が暴れたり、逃走を図ったりすることが想定されますから、逮捕の状況に鑑みて、社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度内で実力を行使することは認められています。どこまでの実力行使が認められるかどうかは、逮捕するときの状況によります。

もっとも、犯人が抵抗の姿勢を示していない、素直に逮捕に従う意思表示をしているのにもかかわらず、暴力を振るったり、数人で羽交い絞めにして取り押さえるなどした場合は、社会通念上逮捕のために必要かつ相当であると認められる限度を超えた実力行使だと判断され、私人逮捕が違法となってしまう可能性があります

具体的には、私人逮捕の際の行き過ぎた取り押さえ行為により犯人が怪我をしなかった場合には暴行罪(刑法第208条)、怪我をした場合には傷害罪(刑法第204条)に問われる可能性があります

なお、傷害罪の傷害とは、人の生理的機能に障害を与えることと解されています。そのため、私人逮捕の行き過ぎた取り押さえ行為により犯人が怪我をしなかったとしても、精神的なショックにより心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したり睡眠障害が生じた場合にも傷害罪が成立します。暴行罪と傷害罪の成立要件や違いについては「暴行罪と傷害罪の違いは?成立要件とどちらが重いかを解説」をご参照ください。

直ちに身柄を引き渡さない場合

私人逮捕した後、直ちに犯人の身柄を警察官などに引き渡さない場合も問題となります。

法律(刑事訴訟法第214条)では、私人逮捕した場合は、直ちに犯人の身柄を検察官又は司法警察職員(警察官)に引き渡すことが義務づけられています。私人には一度私人逮捕した犯人を釈放する権限が認められていないため、直ちに犯人の身柄を権限のある人に引き渡して釈放すべきか否かの判断をする必要があるためです。

正当な理由なく、直ちに犯人の身柄を司法警察職員に引き渡さないと、逮捕監禁罪(刑法第220条)に問われる可能性があります。また、逮捕の際に犯人が怪我をした場合は逮捕監禁致傷罪、死亡した場合は逮捕監禁致死罪に問われる可能性があります。

私人逮捕が誤認で冤罪だった場合の刑事責任・賠償責任

私人逮捕したものの、その後に冤罪(無実の罪)であったことが判明した場合、私人逮捕した人に法的な責任は生じるのでしょうか。

痴漢加害者の男性(A)の腕をつかみながら、痴漢被害者の女性(B)から「この男性(A)に痴漢されました」と言われた男性(C)がAを私人逮捕したところ、本当の痴漢の犯人は別の男性(D)で、Aは無実だったというケースで考えてみましょう。

まず、Cは、BがAの腕をつかみ「この男性に痴漢されました」と訴えているという客観的な状況から、Aが犯人だと合理的に考えてAを逮捕しているわけですから、Cの私人逮捕は適法です。したがって、仮に、真犯人がDだったとしても、Cに法的責任を追及することはできません。

このケースで、仮に私人逮捕した人が刑事責任を負うとすれば、逮捕監禁罪の適用が考えられますが、同罪は過失を処罰する規定がありません。そのため、本当に犯人であると信じて私人逮捕をしたのであれば、結果的には誤認逮捕であった場合でも罪に問われる可能性は低いでしょう

一方、民事責任では、過失がある場合も不法行為(民法第709条)による損害賠償責任を負いますので、誤認で私人逮捕した人は慰謝料などの金銭的な負担を負う可能性はあります。痴漢冤罪を疑われた場合の具体的な対処法については「痴漢冤罪の4つの対処法と5つのNG行動|逃げるのが厳禁な理由」もあわせてご確認ください。

よくある質問

私人逮捕は相手が拒否した場合でも行える?

私人逮捕ができる場合、すなわち私人逮捕の要件をいずれも満たしている場合であれば、相手方が拒否しても強制的に身体を拘束できる可能性があります

身体拘束を適法に行える以上、相手方がこれに抵抗したとしても、本来的な処分に付随して行われる妨害排除行為も許容されています。

すなわち、相手方の抵抗に対抗するために、相手の身体を取り押さえたり、羽交い絞めにすることも「社会通念上、必要かつ相当な範囲」といえる限り許されます。

したがって、行き過ぎた有形力を行使したり過剰な苦痛を与えたりする場合には、適法な私人逮捕の範囲を超えた違法な身体拘束と評価されるリスクがあります。

私人逮捕の際に手錠をかける行為は違法?

原則として、一般人が相手方の同意なく手錠をかけることは、逮捕罪として犯罪になります。

しかし、現行犯逮捕の場合には、必要最小限の実力を行使することが認められています。これは一般人による私人逮捕の場合も同様です。

前述のように「社会通念上、必要かつ相当な範囲」であれば、相手方に手錠をかけることも可能です

相手が暴れたり逃走を図ったりしようとしている場合には、妨害を排除するために手錠を用いることも相当といえるでしょう。一方で相手が素直に犯行を認め自らの処遇を委ねている場合であれば、手錠による拘束をする必要性は低いと評価される可能性があります。

客引きを私人逮捕することはできる?

客引き行為に遭った際に、相手を私人逮捕するのは犯罪に該当するおそれがあります。

まず客引き行為は、軽犯罪法などに違反する犯罪となる可能性があります。

しかし、それらは軽微な犯罪であり、前述の通り、軽微犯罪に対する現行犯逮捕には一定の制限があります。

繰り返しとなりますが、30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、「犯人の住所若しくは氏名が明らかでない場合」「犯人が逃亡するおそれがある場合」のいずれかに該当しない場合には逮捕することができません(刑事訴訟法第217条)。

したがって、客引きを私人逮捕すると逮捕罪等に問われる可能性があります。

信号無視や煽り運転などの交通違反も私人逮捕できる?

道路交通法に違反した者を私人逮捕することは許されるのでしょうか。

酒気帯び運転(3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)や酒酔い運転(5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)、煽り運転(妨害運転罪。3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)を一般人が目撃した場合には、現に犯罪を行った、または罪を行い終わった者と言えます。煽り運転(妨害運転罪)の詳細については「あおり運転に暴行罪は適用される?妨害運転罪の新設により厳罰化へ」で解説しています。

※拘禁刑とは、2025年6月1日に施行された改正刑法により、従来の懲役刑と禁錮刑が一本化された刑罰のことです。

したがって、一般人であっても煽り運転等の一定の交通違反について私人逮捕することが認められます。

これに対して、軽微なスピード違反や信号無視、警察官の現場における指示違反などの場合には、軽微犯罪として現行犯逮捕に一定の制限が設けられています。

すなわちこれらの軽微犯罪については、犯人の住所・氏名が判明しており、かつ逃亡のおそれもない場合には私人逮捕することはできません

私人逮捕でお困りの方は弁護士にご相談ください

私人逮捕は現行犯・準現行犯の要件を満たす場合にのみ認められる例外的な制度であり、要件を満たさない逮捕や行き過ぎた取り押さえは逮捕監禁罪や暴行罪・傷害罪に問われるおそれがあります。

私人逮捕をされた側にとっては、身柄拘束の長期化が仕事や家庭生活に深刻な影響を及ぼします。一方、私人逮捕をした側も、要件の判断を誤れば刑事責任や損害賠償責任を負いかねません。いずれの立場であっても、早い段階で弁護士に相談することで、適切な対応策を講じ、不利益を最小限に抑えることが可能です

「私人逮捕されて警察に身柄を引き渡された」「取り押さえの際に相手を怪我させてしまった」「誤認逮捕で損害賠償を請求されている」など、私人逮捕に関するお悩みを抱えている方は、一人で抱え込まず弁護士にご相談ください。

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この記事の監修者

若井亮 弁護士

若井 亮

代表弁護士

弁護士法人若井綜合法律事務所
東京弁護士会所属(登録番号:47827)

弁護士紹介ページ

刑事事件の弁護に注力する法律事務所の代表弁護士。逮捕回避・早期釈放・不起訴獲得・示談交渉など、被疑者・被告人の権利を守るための迅速な弁護活動に豊富な実績を持つ。痴漢・盗撮・暴行傷害・薬物事件・性犯罪など幅広い刑事事件に対応し、24時間体制で依頼者とそのご家族を全力でサポートしている。

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