執行猶予付き判決を言い渡されると「前科はつかない」と考えている方もいますがそれは誤りです。執行猶予でも前科はつきます。
この記事では、刑事事件に強い弁護士が、
- 執行猶予と前科との関係
- 執行猶予の期間が満了すると前科は消えるのか
- 前科があっても執行猶予はつくのか
- 前科がつくことによる日常生活への影響
などについてわかりやすく解説していきます。
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執行猶予と前科との関係
まず、執行猶予、前科の意味を解説した上で、最後に執行猶予でも前科がつく理由について解説します。
⑴ 執行猶予とは
執行猶予とは、被告人(ある罪について起訴され刑事裁判を受けた人)が「有罪」であることを前提に、被告人に酌むべき事情が認められるため、一定期間、刑の執行を猶予し(見送り)、その一定期間を無事に経過したときは、その刑の言渡しの効力(国家の刑罰権)が消滅する、つまりはじめから刑がなかったことにすることをいいます。
執行猶予が言い渡されるときは、裁判官から、たとえば「被告人を懲役3年に処する。その刑が確定した日から4年間、その刑の執行を猶予する。」など言われます。この意味するところは、「被告人は「有罪」であるが、酌むべき事情が認められるため、4年間は「懲役3年」という刑に服する(刑務所に服役する)ことを猶予しますよ(反対に4年間は「懲役3年」という刑に服する可能性がありますよ)」ということになります。
そして、4年間を無事に経過したときにはじめて、その刑の言渡しの効力が消滅する、つまりはじめから懲役3年という刑がなかったことにするというのが執行猶予です。
⑵ 前科とは
次に、前科とは、ある罪について起訴されて刑事裁判で「有罪」とされ、その裁判が確定した証のことをいいます。執行猶予で前科がつくと、前科調書に裁判所、判決の日などのほか、判決時に裁判官から言い渡された「懲役3年 4年間執行猶予」という内容が前科調書に記録されます。
⑶ 結論:執行猶予でも前科はつく
以上、執行猶予と前科に共通していえることは、双方とも「有罪」であることを前提としている点です。つまり、刑事裁判で「有罪」とされた以上、前科は実刑か執行猶予を問わずつきます。
執行猶予期間の経過で前科は消える?
次に疑問が生じるのは、執行猶予期間が経過したことで前科が消えるのか?ということではないでしょうか。その疑問について解説します。
執行猶予期間の経過で前科は消える?
執行猶予期間の経過とは、上の例でいえば、4年間、何事もなく無事経過したことをいいます。ただ、執行猶予期間を無事経過したとしても前科は消えません。また、経過から何年経過しようが同じです。
つまり、前科は人が生きている限りその人に一生ついてまわる、ということになります。
刑の言渡しの効力消滅とは?
もっとも、無事に執行猶予期間が経過すると以下の効果が発生します。
① 刑を科されることはない
つまり、上の例でいえば「懲役3年」という刑を科されることはない、ということです。刑を科すのは国家機関(裁判所、執行機関は検察庁)ですが、刑の言渡しの効力が消滅するとは、その国家の刑罰権が消滅することを意味します。
② 市区町村の犯罪人名簿から抹消される
執行猶予期間が経過すると市区町村が管理する犯罪人名簿から抹消されます。これにより選挙権・被選挙権が復活します。また、免許・資格を取得できるようになり、これらを必要とする職に就けるようにもなります。
③ 履歴書の賞罰欄に記載する必要がなくなる
①のとおり、執行猶予期間を経過すると刑の言渡しの効力がなくなりますから、履歴書に賞罰欄に記載する必要はありません。反対に、執行猶予期間中であれば記載する必要があります。
前科がつくことによる日常生活への支障
では、執行猶予で前科がつくことによって、日常生活にどんな支障が生じるのでしょうか?
⑴ 精神的プレッシャーを受ける
執行猶予は、刑が科されるのを猶予されただけで免除されたわけではありません。つまり、いつでも刑を科される(刑務所に収容され服役させられる)可能性が残されているわけです。そうした精神的プレッシャーを抱えながら生活しなければなりません。
⑵ 車を運転できない?
車は運転できます。執行猶予で前科がついたことが、車の運転免許に影響を与えるものではありません。
⑶ 就職が不利になる?
免許・資格を有する職業には、執行猶予期間が経過した後でなければ就職できない場合があります。また、面接で前科の有無を尋ねられた場合、執行猶予期間中で、履歴書に賞罰欄が設けられている場合は正直に回答する必要があります。
⑷ 執行猶予で前科がつくと海外旅行に行けない?
海外旅行に行くにはパスポートの発給を受ける必要がありますが、執行猶予付きの前科を有している場合は、パスポートの発給を受けることができない可能性があります。また、すでに受けている場合は返納を命じられることがあり、命じられた場合はパスポートの効力が失効しますからやはり海外旅行へ行くことができません。執行猶予期間が経過した後は、発給を受けることができます。
⑸ 執行猶予で前科がつくと戸籍にも残る?
残りません。戸籍はあくまで出生、結婚、離婚、死亡など人の身分にかかわる事項を記録するためのものです。前科は身分事項とは関係ありません。
前科があっても執行猶予はつく?
「前科持ちが罪を犯したら執行猶予はつかないのではないだろうか…」と思われる方もいるかもしれませんが、前科があっても執行猶予がつく場合があります。
ここでは、まずは執行猶予がつく条件を確認したうえで、前科があっても執行猶予がつくケースをみていきましょう。
執行猶予がつく条件
まず、以下の条件をすべて満たす場合は執行猶予がつく可能性があります。
- ①今回の判決で「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」の言い渡しを受けたこと
- ②次のいずれかにあたること
㋐今回の判決より前に禁錮以上の刑に処せられたことがない
㋑前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない - ③執行猶予をつけることが相当といえるような情状があること
前科があっても執行猶予がつくケース
前科があっても次のケースでは執行猶予がつく可能性があります。
前科が罰金、拘留、科料
罰金、拘留、科料は「禁錮以上の刑」にはあたりませんので、前科が罰金、拘留、科料の場合は執行猶予がつく可能性があります。これは、罰金、拘留、科料の刑を科された後、間もなくして今回の罪を犯した場合でも同じです。
前の前科の執行猶予期間が経過した
前の前科の執行猶予期間が経過すると刑の言い渡しの効力がなくなり、②㋐の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない」ことになります。したがって、その他の条件を満たせば執行猶予がつく可能性があります。
出所から5年が経過した
前の前科の刑で服役し、その刑務所を出所から日から今回の判決まで何の犯罪も犯さず5年間経過した、あるいは犯罪は犯したものの罰金以下の刑に済んだ、という場合は、②㋑の「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、執行を終わった日(略)から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない」ことになります。したがって、その他の条件を満たせば執行猶予がつく可能性があります。
再度の執行猶予がついた
再度の執行猶予とは、執行猶予中の前科がある者がその猶予期間中に新たに罪を犯し、その新たな罪の判決で再び執行猶予を受けることです。
再度の執行猶予を受けるためには、その刑について、以下の4つの要件をクリアする必要があります。
- ①今回の判決時に執行猶予中であること
- ②1年以内の懲役、禁錮の言い渡しを受けること
- ③情状に「特に」酌量すべき点があること
- ④前の罪の執行猶予中の刑に保護観察が付されていないこと
この4つの要件をクリアできれば、前の罪の執行猶予が取り消されることもなく、新たに犯した罪にも執行猶予が付きますので、実刑で刑務所に収監されることなくこれまで通り通常の生活を送ることができます。
ただし、執行猶予期間中の前科を持つ間に再犯した場合に再度の執行猶予を獲得することは非常に難しいです。再度の執行猶予とは?条文や要件、獲得確率を解説に書かれていますが、令和2年度では、新しい罪の判決時に執行猶予中の人の約5パーセントしか再度の執行猶予を受けることができていません。
再度の執行猶予が認められない場合には、前の執行猶予が取り消され、前の罪と新たに犯した罪の刑期を合わせて懲役・禁錮刑に服することになります。そのため、執行猶予期間中は再び罪を犯さぬよう注意して生活する必要があります。
前科をつけないためには何をすべき?
前科をつけないためには次のことをやる必要があります。
刑事事件化を回避する、不起訴処分を獲得する
まず、被害者から警察に被害届を提出されて事件のことが警察に認知されることを回避する、捜査機関に事件が認知された場合は不起訴処分を獲得することです。
前述のとおり、前科は裁判で有罪と認定され、その裁判が確定してはじめてつきます。そのため、刑事裁判にかけられないこと、すなわち、不起訴処分を獲得することが前科をつけないための対策といえます。
また、そもそもまだ事件が警察に認知されていない場合は、警察に認知されること自体を回避することも一つの対策です。事件が警察に認知されていない段階で認知を回避できれば、警察から検察に事件が送られることはなく、事件を裁判にかけられることはありません。
弁護士に相談、依頼する
次に、弁護士に相談、依頼することです。
刑事事件化を回避する、不起訴処分を獲得するために有効な方法は示談です。被害者と示談できれば、被害者に警察に被害届や告訴状を提出しないことに合意してもらうことができ、事件が警察に認知されることを回避できます。
また、検察官が起訴、不起訴の判断をするにあたっては示談成立の有無も考慮します。検察官が起訴、不起訴の判断をする前に示談できれば、被害者に有利な事情として考慮してもらい、不起訴処分を獲得できる可能性が高くなります。
もっとも、被害者と示談交渉するには弁護士の力が必要不可欠です。そもそも弁護士でなければ示談交渉に応じない被害者もおられます。刑事事件を回避するため、不起訴処分を獲得するためには示談交渉以外にもやることはありますので、困った場合ははやめに弁護士に相談、依頼しましょう。
弊所では、被害者との示談交渉、不起訴・執行猶予の獲得を得意としており豊富な実績があります。親身誠実に弁護士が依頼者を全力で守りますので、前科をつけたくない方、あるいは、前科があるが執行猶予を獲得したい方は、まずは弊所の弁護士までご相談ください。お力になれると思います。
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