離婚協議や裁判で面会交流について取り決めたのに、相手に拒否された、慰謝料請求したい、と考える方も多いのではないでしょうか?
しかし、慰謝料は面会交流を拒否されただけで直ちに支払いを請求できるわけではありません。
以下では、面会交流を拒否された場合に、
- 慰謝料の支払いを請求できる条件
- 慰謝料の支払いを請求した裁判例
- 慰謝料の相場
- 慰謝料が高額となりえるケース
などについて弁護士が詳しく解説します。
ぜひ最後までご一読いただき、面会交流を拒否された際の参考としていただければ幸いです。
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目次
面会交流を拒否された場合に慰謝料の支払いを請求できる条件
面会交流を拒否された場合に慰謝料の支払いを請求できる条件は次の2点です。
1.協議や裁判で面会交流の条件について詳細に取り決めていること
夫婦が離婚する際は子との面会交流について協議又は裁判(調停、審判、訴訟)で定めなければなりません。そして、協議又は裁判で面会交流の条件について詳細に取り決めた場合、あなたは相手に面会交流を求める権利を有し、相手はあなたに面会交流をさせる義務を負います。
この場合、相手が面会交流を拒否するという行為は損害賠償請求(慰謝料請求)について規定した民法709、710条の「不法行為」にあたります。相手の不法行為によって精神的苦痛(損害)を被ったあなたは、相手に慰謝料を請求できるというわけです。
2.不法行為が強度の違法性を帯びていること
もっとも、一概に「不法行為」といっても、その内容によっては軽微なものから強度なものまで様々です。
このうち不法行為が軽微である場合は、そもそも不法行為と精神的苦痛(損害)との因果関係を認めることができず、慰謝料請求できない場合が多いでしょう。
他方で、不法行為が強度であればあるほど精神的苦痛との因果関係を認めることができ、相手に慰謝料請求することができると考えられます。
そこで、いかなる面会交流の拒否が強度な不法行為といえるのかが問題となりますが、以下の場合には、面会交流の拒否が強度な不法行為にあたるといえます。
①相手が「面会交流を拒否すべき特段の事情」がないのに面会交流を拒否する
たとえば、あなたが、
- 過去に子(あるいは相手)に虐待を加えていた
- 子に対して暴力を振るう、暴言を吐く、子を連れ去るおそれがある
- (アルコール、薬物などの影響で)精神的に不安定である
という場合は、相手が「面会交流を拒否すべき特段の事情」がある、といえ、相手の面会交流の拒否は正当化されるでしょう。また、あなたが相手に取り決めた条件とは異なる条件を示して無理な面会交流を要求した場合も同様です。
しかし、そうした事情がないにもかかわらず、相手が面会交流を拒否することは不法行為にあたる可能性があります。
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②面会交流を繰り返し(長年に渡り)拒否された
さらに、相手に面会交流拒否を正当化する理由がないのに加えて、不法行為の強度な違法性を基礎づけるには、相手から面会交流を繰り返し(長年に渡り)拒否された、という事情が必要でしょう。つまり、一度や二度、面会交流を拒否されただけで相手に慰謝料を請求することは難しいといえます。
はじめのうちは、面会交流調停を申し立てて、面会交流の条件について話し合いを進めていく方が賢明でしょう。
面会交流を拒否されて慰謝料請求した裁判例
面会交流を拒否されて慰謝料請求し裁判にまで発展したケースもございます。以下ではその裁判例をご紹介します。
①熊本地裁平成28年11月27日
前夫が前妻とその再婚相手に対して慰謝料請求した事案です。
前夫と前妻は調停で、再婚相手が面会交流の連絡役となる約束をしていました。
ところが、前妻やその再婚相手が調停で取り決めた条件を反故にしていました。
そのため、裁判所は、前妻に対して70万円、再婚相手に対して30万円(母親との連帯債務)の慰謝料の支払いを命じています。
②静岡地裁平成11年11月21日
これも前夫が前妻に対して慰謝料請求した事案です。
前夫と前妻は面会交流に関する調停で、2か月に1回、2時間程度子との面会交流をさせる約束を取り決めていました。
しかし、その後、前妻が約束を反故にして面会交流を拒否し、裁判所が前妻に対して面会交流の履行勧告を行ってもこれに応じなかったため、前夫が前妻に対して慰謝料請求したというものです。
前妻は、前夫が婚姻中から自己本位でわがままな態度だったことを面会交流拒否の理由としていたようですが、裁判所はこれを認めず、「面会交流を制限すべき特段の事情がないこと、面会交流の拒否の期間が長かったこと、前妻の子の監護養育を深く考えないわがままな態度であること」を理由に、前妻に対して500万円の慰謝料の支払いを命じています。
面会交流を拒否された場合の請求できる慰謝料の相場
面会交流を拒否された場合に請求できる慰謝料の相場は数十万円~100万円程度が基本となります。
もっとも、不法行為の違法性が強度や場合やその不法行為によって受けた精神的苦痛の程度が大きいと認められる場合には上記の金額よりも高額となる場合もあります。
実際に、上で紹介した静岡地裁平成11年11月21日の事案では500万円の慰謝料の支払いが命じられています。
面会交流が拒否された場合に慰謝料が高額となる5つのケース
では、慰謝料が高額となる可能性がある、不法行為の違法性が強度や場合やその不法行為によって受けた精神的苦痛の程度が大きいと認められる場合、とはどんな場合なのか以下で具体的にみていきましょう。
⑴ 面会交流の協議に応じる態度が一切ない
相手が面会交流を拒否するのであれば、面会交流に関して改めて協議すればよいのです。
それにもかかわらず、相手がその協議にすら応じないということは、その分、あなたの面会交流する権利が侵害されたということになります。
したがって、権利侵害の分、慰謝料は高額となりやすいといえます。
⑵ 面会交流を拒否された期間が長い
面会交流を拒否された期間が長いと、その分、子に会えない、会えない期間も長くなるということです。
したがって、子に会えなくなる期間が長くなればなるほど、精神的苦痛は大きくなると考えられますから、その分慰謝料は高額となりやすいといえます。
⑶ 面会交流拒否の理由が不合理
特に親自身の気持ち、感情、都合のみで面会交流を拒否した場合は面会交流拒否の理由が不合理と判断されやすく、その分、慰謝料も高額となりやすいでしょう。
前述の静岡地裁平成11年11月21日の裁判では、前妻が面会交流を拒否したのは「前夫の婚姻中の自己本位な態度」という理由でした。
⑷ 嘘をつかれて面会交流を拒否された
子どもが嫌がっていないのに「子どもが嫌がっている」と言われる、子どもが病気していないのに「病気した」と言われるなど、嘘をつかれて面会交流を拒否された場合は悪質ですから慰謝料は高額となりやすいといえます。
⑸ 一度も面会交流をさせてもらえなかった
面会交流については、面会交流を制限すべき特段の事情がない限り、協議や裁判で、面会交流をさせるように取り決めが行われているはずです。
それにもかかわらず、面会交流を一度もさせないことは悪質ですから、当然、慰謝料は高額となりやすいといえます。
相手(親権者、監護者)の同意なく子どもを連れ去る行為は犯罪行為!?
相手が面会交流を拒否しているからといって、相手の同意なく子どもを連れ去る行為は未成年者略取罪、未成年者誘拐罪(刑法224条)にあたる可能性がありますので注意しましょう。
(未成年者略取及び誘拐)
第224条
未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
たとえ、あなたが子から見た「親」だとしても罪に問われる可能性があります。
相手に同意なく連れ去られたと言われることがないよう、まずは協議や裁判で取り決めた条件を守り、それでも相手が拒否する場合は慰謝料請求や再度の面会交流の調停・審判の申し立て等の手段を検討しましょう。
慰謝料請求するためには証拠をそろえる
相手に慰謝料請求するためにまずやるべきことは、慰謝料請求のための証拠をそろえておくことです。たとえば、次のような証拠が考えられます。
⑴ 面会交流の条件を証明するための証拠
⑵ 面会交流を拒否されたことを証明するための証拠
- ボイスレコーダー
- 日記、メモ帳 など
まとめ
あなたに、子どもとの面会交流を制限される特段の事情がない、にもかかわらず、繰り返し面会交流を拒否された、というような場合は面会交流を拒否した相手に慰謝料請求できる可能性があります。また、相手の拒否の理由や態度によっては高額な慰謝料の支払いを請求できる可能性があります。
もっとも、相手に慰謝料の支払いを請求し、これを受け取ることができたとしても、子どもと面会交流できることになったわけではありません。あなたが慰謝料請求したことで、相手の態度が軟化し面会交流できるケースもあれば、その逆のケースもあります。
面会交流を拒否されてからすぐに慰謝料請求、ではなく、まずは再度の面会交流に関する調停を申立てて、面会交流できる条件を整えていくことも一つの方法です。
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