ある人の相続人となった場合、その人が生前所有していた相続財産を取得することがあります。この際、相続人などが複数存在する場合、遺産分割協議を行う必要が出てきます。遺産分割協議によって、各相続人が取得する具体的な相続財産が決まるのです。
しかし遺産分割協議などというと、堅苦しいイメージから……
- 「遺産分割協議とは、いったいどんなものなのか?」
- 「どんなふうに手続きを進めたらいいのか?」
- 「協議には誰が参加する必要があるのか?」
- 「いつまでに協議すればいいのか?」
などなど、たくさんの疑問をお持ちのことだと思います。
今回は、この遺産分割協議に関して見てみることにしましょう。上記のような疑問点にお答えしますので、ぜひ最後までお読みください。
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目次
遺産分割協議とは
遺産分割協議とは、ある相続に関して相続人が複数存在する場合における、相続人などの間の話し合いのことを言います。
この話し合いによって、各相続人が取得することになる具体的な相続財産が決まるのです。
遺産分割協議が不要となる場合
ある人の相続人となったからといって、必ずしも遺産分割協議が必要になるというわけではありません。つぎのような一定の場合には、遺産分割協議は不要です。
①相続人が一人だけの場合
遺産分割協議とは、その相続において複数の相続人がいる場合に必要となる行為です。このため、相続人が一人しか存在しない相続の場合では、分割協議を行うことは不要となります。
②遺言によって相続分の指定がなされている場合
被相続人の意向によっては、遺言によって各相続人の相続分の指定がなされることがあります。
被相続人が遺言をもって、各相続人が相続すべき財産を具体的に指定している場合、基本的には遺産分割協議をする必要はありません。ただし、相続分の指定が割合をもってなされている場合には、遺産分割協議が必要となりますので注意が必要です。
具体的財産が指定されている場合の具体例
遺言をもって、各相続人の相続すべき財産がつぎのように具体的に定められている場合、遺産分割協議をする必要はありません。
相続財産:不動産(2000万円)、預金1000万円
相続人:被相続人の配偶者乙、子供A
上記の事例において、被相続人によってつぎのような遺言がなされているとしましょう。
遺言書:「自宅不動産は乙に、預金はAに相続させる。」
このような遺言がある場合、相続人間で遺産分割協議をする必要はありません。
ちなみに、この相続分の指定は法定相続分と異なりAさんにとって不利益とはなっています。しかし、遺言による相続分の指定は法定相続分よりも優先されますので、この相続分の指定は法律上有効ということになります。
なお、上記のような相続分の指定がある場合でも、相続人全員の同意がある場合には、遺言の内容と異なった遺産分割をすることが法律上認められています。
割合をもって相続分が指定されている場合の具体例
遺言により、各相続人の相続すべき財産がつぎのように割合をもって定められている場合、相続人間において遺産分割協議をする必要があります。
上記と同様の事例において、被相続人によってつぎのような遺言がなされているとしましょう。
遺言書:「相続財産中、乙には3分の2、Aには3分の1を相続させる。」
このように被相続人が遺言によって、各相続人の相続分を割合をもって指定している場合には、相続開始後遺産分割協議をする必要があります。
③相続すべき財産がない場合
相続が発生したとしても、相続すべき財産がない以上、当然ながら遺産分割協議をする必要はありません。
相続財産がないケースとしては、つぎの2つのパターンが考えられます。
遺贈などにより相続財産がないパターン
被相続人が遺言によって、相続財産すべてを相続人以外に贈与してしまうことがあります。遺言による贈与ということから、これを「遺贈」といいます。
相続財産すべてが相続人以外に遺贈されてしまった場合、相続人にとって相続すべき財産はなくなります。この場合、遺産分割協議をする必要はありません。
ただし、その遺贈が相続人の遺留分を侵害している場合には、その返還などを求めることが可能とされています。
本当に財産がない場合
これは、本当に被相続人に相続財産がないパターンです。相続財産がない以上、遺産分割も何もありません。
ただしこの場合、相続財産とはプラスの財産ばかりではない、ということを理解しておくことが重要です。つまり、借金などマイナスのものも相続財産として、相続の対象となるということです。相続財産の中にマイナスの財産があった場合、それに気づかず、うっかり相続してしまうと借金の返済義務などを負うことになってしまいます。
そのため、自分が相続人となった場合には、プラスの財産だけでなくマイナスの財産に関しても充分な調査を行うことが必要です。もしプラスの財産がないにもかかわらず、マイナスの財産が見つかった場合には、相続の放棄を検討する必要があります。
④相続放棄する場合
もし自分のために相続が開始したとしても、相続を放棄すれば遺産分割協議に参加する必要はありません。相続放棄することによって、その相続においては最初から相続人でなかったことになるからです。
ただし、相続財産の中に多額の借金があることを理由として相続放棄する場合には、その他の共同相続人と一緒に行うほうがよいでしょう。そうしないと、その借金はほかの相続人が相続することとなり、のちの親族間トラブルの原因ともなりかねないからです。
上記以外のパターンで相続する場合には、基本的に遺産分割協議が必要となると考えておきましょう。
分割協議すべき期限について
上記のような状況以外での相続においては、相続人などによって遺産分割協議を行うことが必要となります。
それでは分割協議に関して法律上、時間的な制限はあるのでしょうか?
実は法律上、遺産分割協議には、それを行うための時間的制限は設けられていません。つまり、分割協議はいつまでにしなければならない、という法律上の制限はないのです。
しかし、このことが原因となり、遺産分割が長期にわたり放置されてしまうことから種々のトラブルが発生しています。
遺産分割協議は、相続開始後なるべく早い段階に行うことが大切です。
遺産分割協議の法律上の要件
遺産分割協議が法律上有効とされるためには、つぎのような条件を満たす必要があります。
利害関係人全員が参加すること
法律上、遺産分割協議が有効とされるためには、その相続に関するすべての利害関係人が協議に参加することが必要です。
このため、もしたった一人でも相続人などが欠けた場合には、その協議は法律上無効。また初めからやり直し、ということになってしまうのです。
遺産分割協議が法律上有効となるためには、この「相続に関する利害関係人全員が参加すること」という条件、ただひとつを満たせばよいことになります。
協議に参加すべき当事者について
遺産分割協議が法律上有効となるためには、その相続における相続人など利害関係人が全員参加する必要があります。
では、この「相続に関する利害関係人」とは、いったいどのような人たちなのでしょうか?
具体的には、つぎのような人が、この「利害関係人」となります。
①相続人
相続人は、その全員が遺産分割協議に参加する必要があります。
ある人が死亡した場合、その人の一定の範囲の親族が相続人となります。民法では、相続権の与えられる親族の範囲に順位を定めています。相続権が認められる親族を第一順位から第三順位までに区分し、先順位の相続人がいる場合には、劣後する順位の親族にはいっさい相続権が認められないというルールになっています。
この順位に基づき相続人となったものが複数存在する場合には、それら相続人は全員が遺産分割協議に参加する必要があるのです。
ただし、相続人の中につぎのような人がいる場合には、それぞれつぎのような方法で協議をすることになるので注意が必要です。
相続人が未成年者の場合
相続人の中に未成年者がいる場合、基本的にはその法定代理人が未成年者に代わって遺産分割協議に参加することになります。
ただしこの場合において、その法定代理人も同一の相続に関する相続人であるときは、家庭裁判所に申請し「特別代理人」の選任を受ける必要があります。なぜなら、法定代理人(親)がその子供を代理して同一の相続に関して遺産分割協議をすることは、法律上利益相反行為と見なされるからです。
このような場合には、家庭裁判所によって選任された特別代理人が、未成年者の代理人として分割協議に参加することになります。
相続人に意思の疎通ができない人などがいる場合
相続人の中には老齢や病気などの理由によって、十分な遺産分割協議が行えない人が存在する可能性もあります。そのような場合、当事者だけでは遺産分割協議をすることができません。
たとえば相続人の中に認知症が進み、判断力がなくなっている人がいることがあります。
このようなケースでは、家庭裁判所に申請し成年後見人の選任を受けるなど、遺産分割の前提として各種の手続きを行う必要があります。
相続人でありながら遺産分割協議に参加できない人
本来であれば法律上相続権が認められる立場にありながら、何らかの理由により相続権が認められない場合があります。このような場合には、その人は遺産分割協議に参加することはできません。
具体的には、つぎのような場合がこれに該当します。
相続の欠格者
被相続人を殺害し刑に処せられたなど一定の場合には、法律上相続権を失うことがあります。これを相続の欠格といいます。民法では一定の行為を相続の欠格事由と定め、これに該当した場合には、その人は法律上当然に相続権を失うことになります。
このため、相続人の中に相続の欠格事由に該当する人がいる場合には、その人は遺産分割協議に参加することができないことになります。
相続人から排除された人
生前に被相続人を虐待するなど、一定の事実がある場合、被相続人の意思によって相続人から排除されることがあります。相続人から排除された場合、その人は相続権を失うことになります。
相続人から排除された人は、遺産分割協議に参加することはできません。
②包括受遺者
被相続人が遺言をもって、相続財産中一定の割合を特定の人に遺贈することがあります。これを「包括遺贈」といいます。
法律上、包括遺贈を受けた人は相続人と同様の扱いを受けることになるため、その人は遺産分割協議に参加する必要があります。
この場合には、親族以外の第三者が遺産分割協議に参加する可能性があるのです。
③相続分を譲り受けた者
相続人から、その相続分を譲り受けた人も、遺産分割協議に参加すべき権利が認められます。相続分とは、相続財産に対するその相続人の権利の割合のことを言います。この相続分は、ほかの相続人や第三者に譲渡することができるのです。
相続人から相続分を取得した人がいる場合には、その人も分割協議に参加する必要があります。
全員が集まる必要はない
上記のように、遺産分割協議が法律上有効となるためには、相続人など相続に関する利害関係人全員が遺産分割に関する話し合いに参加する必要があります。
しかし、「相続人全員が話し合いに参加する」というと、全員が一度に同じ場所に集まり話し合いをしなければならないと思われる方も多いかもしれません。
しかし実際には、そこまでする必要はありません。遺産分割協議書など書面の「持ち回り」をし、結果として相続人など全員が協議内容に同意してさえいれば、遺産分割協議は法律上有効となるのです。
具体的な分割の割合について
それでは、いざ相続人たちが集まり具体的に相続すべき財産を決める場合、その割合はどう決めたらいいのでしょうか?
つまり分割協議の結果、それぞれの相続人が具体的にどのような財産を相続することにすればいいのか、という問題です。
結論から先に述べますと、当事者全員の合意がありさえすれば、法律上内容はどのようなものであっても構わないことになっています。
①法定相続分での相続の場合
遺言による相続分の指定がない場合、民法の規定に基づく法定相続分の割り合いによって相続をすることになります。
たとえば第一順位の相続人である被相続人の配偶者と子供(1人)が相続する場合、相続分はそれぞれ2分の1ずつとなります。つまり、この場合には、相続人は相続財産を半分ずつ分け合うということですね。しかし、実際問題として相続財産を「きっちり半分」に分けることができるでしょうか?
相続財産が現金や預貯金だった場合には、そのようなことも可能かもしれません。しかし、これが不動産や株式、その他の動産だった場合どうでしょう?完全に半分ずつ分割するということは極めて難しいのが現実なのです。
それでは上記の事例において分割協議の結果、実際に相続することとなった財産の割合が2分の1ずつではなかった場合、その協議は法律上有効となるのでしょうか?
民法では、この場合における相続分を2分の1ずつと定めています(民法900条)。これと異なった割合での相続となってしまう場合、その法的な有効性が問題となりそうです。
法定相続分とは違う内容の分割協議も有効
遺産分割協議の結果、法定相続分とは異なる割合で相続をすることになることがよくあります。この場合、法律の定める割合と異なる相続である以上、法律的に問題があるのではという疑問を抱く方もいらっしゃるでしょう。
しかし実際には、このような内容の遺産分割協議も法律上有効なのです。
当事者の合意が最優先される!
上記のように、法定相続分と異なった割合での遺産分割も法律上有効とされています。これはなぜかと言いますと、遺産分割協議に関しては、当事者の意思を尊重するのが法律の趣旨だからです。相続人など全員の同意がある場合、遺産分割の協議内容は、どのようなものであっても構いません。
②遺言によって相続分などが指定されている場合
上記のように、相続人など全員の合意がある場合には、遺産分割協議の内容は法定相続分と異なるものであっても有効です。これは、遺言で相続分の指定などがなされている場合でも同様となります。
遺言による相続分の指定に関しては、割合で指定される場合と具体的な財産をもって指定される場合の2つのパターンがあります。相続分の指定がどちらのパターンでなされた場合であっても、遺産分割協議においてすべての関係者の同意があれば、協議の内容がたとえ被相続人の遺言に反するものでも法律上有効となります。
相続分は譲渡も可能!
被相続人によって相続分が指定されていない場合、それぞれの相続人の権利は民法という法律の規定によって決まることになります。これが法定相続分です(民法900条)。
しかし、この法定相続分が認められる相続人であっても、その権利をほかの相続人や相続人以外の第三者に譲渡することも法律上可能とされています。譲渡には、無償の譲渡と有償の譲渡があります。
たとえば、同じ相続人である母親に子供が相続分を無償で譲渡するなど、比較的多くの事例において相続分の譲渡は行われています。
相続分は放棄することも可能
法律によって認められている相続分は、これを放棄することも可能です。これは相続を放棄することではなく、あくまでも相続分を放棄するということです。
自分に相続権が認められるからといって、必ずしも何らかの相続財産を受け取らなくてはいけないという法律上の義務はありません。
自分の相続分を放棄すると、その分遺産分割によってほかの相続人の取得する財産を増加させることができます。
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遺産分割をスムーズに行うための4つのポイント
遺産分割協議を上手に行うためには、押さえておくべきいくつかのポイントが存在します。
具体的には、つぎのような点に気を付けて行うとスムーズに話し合いをすることができるでしょう。
①協議に参加すべき人を確定する
遺産分割協議を行うためには、まずその主体となる相続人など利害関係人を確定する必要があります。この利害関係人は、すでにご説明させていただいたように、相続人だけとは限りません。被相続人が包括遺贈をしている場合には、包括受遺者も参加する必要があります。相続分の譲渡を相続人以外の第三者が受けている場合には、その第三者も参加しなければいけません。
繰り返しになりますが、遺産分割協議は参加すべき人が、ひとりでもかけた場合にはすべてが無効とされてしまいます。参加者すべき人が、ひとりも欠けることの無いように、まずは参加すべき人たちの確定をしっかり行うことが大切です。
②相続財産を確定する
遺産分割協議をするためには、その前提として、協議の対象となる相続財産を確定しておくことが大切です。
相続財産に含まれる財産は、プラスのものだけとは限りません。「借金」などマイナスの財産が含まれることもよくある事例です。
相続財産中、プラスのものとマイナスのものを見極めることは非常に大切です。場合によっては、相続放棄を検討する必要があるかもしれません。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も詳細に調査し、分割協議の前提として財産目録を作成しておくとよいでしょう。
③相続開始後なるべく早く行う
遺産分割協議は相続開始後、なるべく早く行うことが大切です。
慣れない行為であるため、面倒な作業だとは思いますが、放置しておくとどんどん時間が経ってしまいます。遺産分割を迅速に行わず放置しておくと、各種の重大な問題が発生することになります(後述)。
「49日」を目安に!
遺産分割協議は相続開始後、早く行うのに越したことはありません。しかしだからといって、被相続人が死亡した直後に話し合いするのも考え物です。
それではこのような場合、いったいいつくらいに話し合いをしたらスマートに遺産分割できるのでしょうか?
一般的には、被相続人の死亡後「49日」の法要が終わった時、というのが大きな目安とされています。この日であれば、遺産分割協議に参加すべき多くの当事者も一堂に集まることになるでしょう。その場を利用して協議をすると、話し合いがスムーズにできることが多いようです。
④お互い譲歩し合う
相続人が多くなればなるほど、遺産分割での話し合いはまとまりにくくなるものです。それぞれが些細なことにこだわっていては、まとまる話もまとまらなくなってしまうでしょう。いったん感情をこじらせてしまうと、とことん話がこじれてしまう可能性があります。
遺産分割に関する話し合いをスムーズに行うためには、相手の立場を考え、お互い譲歩しながら交渉を行うことが大切です。
協議が成立したら遺産分割協議書を作る
当事者全員が参加し、具体的に相続する財産に関して話し合いがまとまった場合、きちんと「遺産分割協議書」を作成することも大きなポイントです。
遺産分割協議書を作ることによって、各相続人が相続する財産が明確になります。各相続人の取得することになった財産に関して明確にしておけば、将来における当事者間のトラブルを防ぐことに役立ちます。
参考:「上手に作る5つのポイント!遺産分割協議書の書き方を解説」
相続財産の中に登記・登録可能な財産がある場合
めでたく遺産分割協議が成立した場合、協議内容によっては登記や登録が可能な財産を取得することがあります。その代表的な財産としては、不動産や自動車が挙げられます。
そのような財産を相続した場合には、できるだけ登記・登録を受けるようにしてください。登記・登録をせず放置してしまった場合、最悪のケースとして、それらについて取得したはずの権利を失う可能性もあるからです。
遺産分割協議で自動車を相続した場合
遺産分割協議の結果、自動車を相続することになることがあります。言うまでもなく、自動車は所有者の登録を受けることのできる財産です。
自動車を相続した場合には、住所地を管轄する陸運局に行き、必要な手続きをしましょう。車検証上の所有者を相続人に変更する必要があります。
不動産登記では遺産分割協議証明書を使うことも!
分割協議により不動産を相続した場合には、相続登記をすることをお勧めします。
この場合、登記手続き上、遺産分割が成立したことを証明するため遺産分割協議書が必要となります。ただし、これに代えて「遺産分割協議証明書」を利用することもできます。遺産分割協議証明書とは、相続登記の際に利用されることのある、対象不動産に関して分割協議がなされたことを証明する書類となります。
参考:「相続登記で使う遺産分割協議証明書とは?具体的な書き方を解説」
遺産分割は、やり直しもできる!
遺産分割協議をし、話し合いが成立した後に、何らかの事情によって協議のやり直しが必要となる場合があります。
しかし、分割協議がすでに成立してしまった以上、もはや遺産分割のやり直しは法律上認められないのでは?と思われる方もたくさんいらっしゃるでしょう。
しかし、そのようなことはありません。法律上、相続に関する利害関係人全員の同意がある場合には、協議のやり直しをすることは可能とされています。
遺産分割協議を放置すると各種の問題が!
すでにご説明させていただいたように、遺産分割協議は相続開始後なるべく早い時期に行うことが望ましいとされています。
ではいったい遺産分割を放置しておくと、どのような問題が発生することになるのでしょうか?
実際によくある事例として、つぎのような重大な問題が発生することが多いのです。
①相続に関する手続きができない
相続人によって遺産分割協議が行われない場合、当然ですが相続に関する手続きに大きな支障が出ることになります。
相続財産の中に預貯金がある場合
たとえば、被相続人の預貯金について考えてみましょう。
被相続人の死亡によって、その生前利用していた預貯金口座は凍結されることになります。この場合、口座からお金を引き出すためには遺産分割をするか、相続人全員の同意が必要となるのが金融機関における一般的な扱いです。お金を引き出すために、いちいち相続人全員の同意が必要となった場合、被相続人死亡後の各種費用の支払いなどに支障が出ることになってしまいます。
相続財産の中に不動産が含まれている場合
相続財産の中に不動産がある場合、遺産分割が行われないと、いつまでも相続登記ができないことになります。
正確に言えば、遺産分割がなくても相続登記をすることは法律上可能ですが、この場合には相続人全員による共有の登記となってしまうのです。しかしそれでは不動産に関する権利関係が複雑となってしまうため、法律的に見た場合、共有による登記は好ましい状態ではありません。
相続法の改正で登記が必要となった
2019年7月から施行される相続法の改正によって、法定相続分を超えて権利を取得した者は、その旨の登記をする必要が出てきます。
なお、この登記は法律上の義務ではなく、法定相続分を超えて取得した部分の権利に関して登記がないと権利を失う可能性があるということです。権利を失いたくないのであれば、相続登記をすべきでしょう。
この点に関して詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
2020年以降、相続登記が義務化?
遺産分割がなされず、相続登記がされていないことから、現在では各種の社会問題まで発生しています。所有者不明の土地・建物が増加し、再開発の妨げになるなど、近年問題となることが多いのです。
この問題の解決を図るため、政府では早ければ2020年から相続登記の義務化に向けて動いているようです。
このような社会問題をなくすためにも、相続開始後には遺産分割し、相続登記する必要があるのです。
預貯金に関しては払い戻し制度が新設された
2019年7月からの施行とはなりますが、相続財産である預貯金の払い戻し制度が新設されました。
このため相続人は、遺産分割前でも一定の限度はありますが、金融機関から預貯金の払い戻しを受けることができるようになります。
②当事者の権利関係が複雑に!
相続人が複数いる場合、相続財産は相続人全員での共有財産とされます。
法律的に見た場合、共有という状態は非常に複雑な権利関係ということができます。つまり相続人が複数存在する場合には、相続開始時点で、すでに当事者の権利関係は複雑なのです。
遺産分割協議をしない状態で長期間が経過した場合、元から複雑な権利関係が、さらに複雑となることが一般的です。
これはなぜかと言いますと、遺産分割が長期間放置されている間には、その相続人の中に死亡する人が出てくるからです。相続人中のひとりが死亡し、その人に相続が開始した場合、その人の相続人としてまた複数の人が最初の相続の関係者として増えることになるのです。
相続人が多数になると、当然ですが当事者間の意見調整は難航します。このようなことを極力避けるためには、遺産分割はなるべく早く行う必要があるのです。
遺産分割協議ができない場合の対処法
世の中には、当事者間で話し合いがまとまらないなど、どうしても遺産分割協議が成立しない場合もあります。
このような場合には、つぎのような方法を検討する必要があります。
弁護士に相談する
当事者だけで協議が調わない場合、弁護士など法律の専門家に相談するのも非常に有効な方法です。
相続問題に詳しい専門家であれば、数多くの事例を通して相続トラブルを解決するためのノウハウを持っているからです。世間では、分割協議における些細なコツを実践することで、それまで難航していた話し合いがまとまったということもよくあることなのです。
もし、遺産分割でお悩みであれば、どんな些細なことでも弁護士などに相談することをお勧めします。
家庭裁判所を利用する
当事者間で遺産分割協議が成立しない場合、最終的には家庭裁判所を利用することになります。
家庭裁判所で遺産分割に関する手続きを行う場合には、相続に関する利害関係人全員が参加する必要があります。
家庭裁判所では、つぎのような手続きを行うことになります。
①遺産分割調停
当事者間で遺産分割に関する協議が成立しない場合、まずは調停を行う必要があります。
遺産分割調停とは、家庭裁判所が当事者間の意見調整を行い、当事者の合意が成立するようにするための手続きです。
この手続きには、上記のとおり利害関係人全員が参加する必要があります。
当事者間に合意が成立した場合
家庭裁判所では、ます遺産分割調停を行い、当事者間の合意が成立するよう促します。
手続きの結果、当事者間に合意が成立した場合には「調停調書」が作成されることになります。
調停調書には当事者の合意内容が記載され、それぞれの相続する財産などが明記されることになります。そのため相続登記などをする場合には、この調停調書が登記の必要書類の一部となります。
当事者間に合意が成立しなかった場合
当事者間に合意が成立しなかった場合、「調停不成立」となります。調停は、あくまでも当事者が家庭裁判所という場所で話し合いをする手続きであるため、かならず合意しなければならないという義務はありません。
調停不成立となった場合には、手続きが自動的に「審判」に移行することになっています。つまり、調停が成立しなかった場合、遺産分割は審判によって決定されることになるのです。
②遺産分割審判
遺産分割に関する調停が不成立に終わった場合、家庭裁判所では遺産分割審判が開始されることになります。
家庭裁判所では当事者の意見や事情などを総合的に判断し、当事者にとってもっとも適していると判断した内容で審判によって遺産分割内容を決定することになります。審判とは、裁判における判決のようなものです。そのため審判が下された場合には、これをもって当事者間の紛争は一応解決が図られることになります。
審判内容に対して異議がある場合
審判内容に関して当事者に異議がない場合、審判は一定期間の経過をもって確定判決と同一の法的効果を持つことになります。このため、のちになってから、これに反する主張をすることができなくなります。
ただし、家庭裁判所による遺産分割審判について、不満がある場合には異議の申し立てをすることが可能です。具体的には、「即時抗告」などを申請することにより、審判内容の変更を求めることになります。
なお、遺産分割に関しては審判以外に別途訴訟を提起することはできない扱いとなっています。
まとめ
今回は、遺産分割協議を行う際のポイントについてご紹介しました。
ある相続において相続人が複数存在する場合には、その相続財産に関して、基本的に遺産分割協議を行うことが必要になります。遺産分割協議をしない限り、相続財産はいつまでも相続人全員で共有している状態が継続することになります。この状態において、さらに相続人の中に死亡する人が出ると、相続財産に関する権利関係はますます複雑化してしまうことになります。この場合、さまざまな重大な問題が生じることになってしまいます。
そのようなことを避けるために、分割協議は相続開始後、なるべく早く行うことが大きなポイントとなります。
しかし一般的に考えた場合、遺産分割協議は法律の知識が必要となるなど、法律の素人にはハードルの高い行為です。なにか不備があるため、せっかくの分割協議が無効になっては大変です。また、些細な不手際などが当事者の相続トラブルを招いてしまうこともあり得ます。
そのようなことを防止するためにも、遺産分割や相続などに関して疑問がおありの場合には、お気軽に当事務所にご相談下さい。
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